《人生》
2007.08.04 [Sat] 21:51



ピカソの青の時代と呼ばれる時期の最高傑作。
縦長のフォーマットに、この時代を代表する青い色調で描かれた人物たち。
左には裸で抱き合う男女、右に幼子を抱きかかえる女。
中央には二枚の画布と思われるものがあり、上のものには怯えるように抱き合う二人、
下のものにはうずくまるひとりの人物が描かれる。
室内空間としての舞台は極めて簡素で、奥にはアーチ型の天井のラインが見える。

左の二人のうち、男性はかつて自殺したピカソの友人カサヘマスをモデルとしているが、
レントゲン写真によると、制作途中まではピカソ自身の顔であったとわかった。
彼は右の女性の方を虚ろに見つめ、左の手の指でそちらを指差している。

彼に寄りかかる若い女もまた虚ろな目であるが、
その体は若くて美しく、瞳には強さと倦怠を滲ませている。

右の女は左側をこちらに向けたプロフィールで描かれ、
マリアを思わせる衣装を着ているが、足下は素足である。

この対立的な構図は図像学的に「聖愛と俗愛」を下敷きにしている事を指摘出来る。
ティツィアーノに代表されるこの図像はキリスト教における2つの神の愛の表し方を示すが、
この作品においてはそれが相対す形になっており、
左の男女は右の厳格さから身を寄せ合って自らを守っているように見える。
 

《アヴィニョンの娘たち》1907
2007.03.11 [Sun] 21:42



243.4 × 233.7 cm カンバス 油彩

パブロ・ピカソにとってキュビスムへの道の第一歩となる作品。
「キュビスム」の名のつく前のこの時期の様式を「プロト・キュビスム」と呼ぶ事もある。

この画面に描かれる異様なまでに変容した身体などを特徴とする。
左の三者の顔は「イベリア風」とされている。
これはこの作品の制作にかかる少し前の1906年、ピカソは恋人フェルナンド・オリヴィエとスペインのゴゾルに滞在しており、そこではじめられたイベリア彫刻風の様式を受け継ぐものである。
右下の女に見られる解体はアフリカの彫刻や仮面にインスピレーションを得たとされる。
しかし、この作品についての黒人彫刻の影響をピカソ自身は否定しており、その事の真偽は未だ議論が分かれている。

現在はニューヨークの近代美術館に所蔵されているこの作品。
作品のタイトルともなっている「アヴィニョン」とはピカソが育ったバルセロナの街にある売春街のある通りの名前。

作品の舞台は売春宿の室内である。
習作デッサンには娼婦たちに囲まれた男の姿が描かれているが
本作では描かれていない。

この事をレオ・スタインバーグは「The Philosophical Brothel」(*)の中で
手前に描かれる果物が乗ったテーブルの隅が示すに
鑑賞者の立つ位置がこの絵における男(習作に描かれていた)に重ねられ、
鑑賞者をこの絵画空間の中に引きづりこんでゆく仕組みになっていると解いた。

すなわち、このテーブルが描かれることで鑑賞者は絵の外から眺めるだけの部外者の立場から
この絵画の中の登場人物のひとりとして参加させられるという形式ができあがる。

この仕組みは17世紀スペインの宮廷画家の代表作《ラス・メニーナス》から
19世紀、近代絵画の始祖とされるエドゥアール・マネの《フォリ・ベルジェールのバー》に見られる。
いずれも鏡と鑑賞者に向けられたまなざしが鑑賞者の立場を規定する。
この絵画においては5人の強烈なまなざしと手前のテーブルによってその仕掛けがかけられている。

*Leo Steinberg "The Philosophical Brothel" 1972年 (邦訳:岩原明子「哲学的な娼窟」『美術手帖』1977年12月号-1978年2月号に掲載)

<テスト>