美苑5 

2004年07月22日(木) 17時51分
ああ、ここが自分の部屋でよかった。
変に冷静な自分がいて、そう思った。
ぼろぼろ締まりの悪い水道みたいに涙が漏れて止められない。
うっかりすると嗚咽まで零れそうで、静まり返った部屋の中で膝を抱えて堪えようとした。

どうして私はこんなに頑張っているの。誰に助けを求めたらいいの。
真剣にそんなことを考えて携帯のメモリを何周も見返した。けれど、詠子にもアユミにもメールや電話をする気になれない。時間が遅いせいだじゃないことも分かっていた。
怖いのだ。
彼女達に泣き付く事が。思うような慰めが返ってこないかもしれないことが。
これからの関係がほんの一通のメールで崩れてしまったらという疑念が。
時間が経って引いた涙とは違い、孤独は一向に消えない。
誰か、こんな私に気付いて心配して連絡をくれたりしないだろうかなんて勝手なことを望んでも、そんなテレパシーなんてありっこない。
やけに遅く感じる時間の進みを堪えても都合よく鳴ったりしない携帯が、より深い孤独へと落としていく。

誰でも良かった。私が一人でなくなれば、相手は誰で良かった。

美苑4 

2004年07月22日(木) 17時40分
「美苑って強いよね」
詠子が褒め言葉としてそう言った。
「あたし美苑が泣いてるとこ見たことないよ」
あたしだったら泣いているような場面だってあったのに。
美苑は強い。
「そうだね、美苑って凄いよね。自分でちゃんとやってけるって本当凄いよ。
未だに継子達のこと先生とかに言ってないでしょ?
美苑だったらそのうちあいつらも負かしちゃいそうだよね。」
頑張れ。
アユミに言われて、私は笑顔で頷いた。

その夜、私は孤独に苛まれた。

一人で平気なんて、
そんなことない。
私が強いなんて、上っ面だけの話。
本当は、皮膚の下は皆と同じくやわなもので満ちていることに、彼女達は気付かない。
最近気づいたことだけれど、そうしたイメージが彼女達との間に溝を感じる原因なのかもしれない。愚痴は愚痴でしかなく、彼女達はそれを聞いてくれる、それだけなのだ。
受け止めるのと助けるのは完全に一緒ではない。本当は励ましなんかより 慰めて欲しい時だってある。
そんな事実に気付いた瞬間不意打ちで孤独という靄に浸食された。

美苑3 

2004年07月22日(木) 17時27分
お父さんはいない。お金を寄越すだけの人をお父さんと呼ぶつもりは無い。
お母さんは悪くない。自分の恋人にすでに妻子があるなんて知らなかったんだから。
そして、私はお母さん一人に望まれ生を受けた。おばあちゃんとおじいちゃんはあまりいい顔をしなかったけれど、生まれてからはそれなりに認め可愛がってくれた。
母子家庭だろうとなんだろうと、私は結構恵まれていると思う。お金に不自由はしないし、お父さんを望むことも無い。それでもお母さんの苦労は子供ながらに見て育った。
お母さんにだけはこれ以上不安や悲しい思いをさせてはいけない。
それが私の自立心の糧だった。
小さい頃に家庭の事情をネタに何か言われたって泣いたりしなかったのもそのため。
そこから培われた気の強さや意志の固さは武器だった。

それが数年後に仇になるなんて、不可抗力としか言いようが無い。

毎朝の日課で椅子と机の中を確認してから席に着く。
私はロッカーなんて使わない。鍵がついているからと安心していたのに、知らない間に通気穴から水浸しにされていたからだ。
椅子に画鋲なんてことは無かったけれど、くちゃくちゃのガムが貼り付いていたことはある。
机に仕掛けられた罠なんか数え上げるまでも無い。
充分に警戒していれば最小限の被害で済む。
親に知れるのが怖くて教師に言えない以上、自分でなんとかするしかない。
私ならできない話じゃない。大丈夫。

大丈夫。
そういって自分を信じていなければ、今すぐにでも折れそうな自分を見ない振りしていた。

美苑2 

2004年07月22日(木) 17時08分
「そっか、また継子か。」
昼には別のクラスで食事をする。去年同じクラスだったアユミがフォークを咥えて眉間に皺を寄せた。
「あっちの友達にもちょっと止めてって言ったんだけどさ、やっぱりあいつ等怖いんだよねぇ」
中学から一緒の詠子がため息を吐いた変わりにから揚げを口に放り込む。
「継子ってあれでしょ?去年一人退学させたって言うじゃん。あの噂本当なの?」
「あたし去年継子のクラスと体育合同だったから知ってる。継子っていうか、継子達のグループにいた子なんだけど、内輪でモメて、何だかんだでかなり追い込まれて転校したんだよ。」
「うっわ、仲間同士でもそこまでやるわけ?」
最悪。アユミが吐き捨てるのを少しだけ忌々しく眺めた。
多分彼女達にとっては私の話など結局他人事なんだと感じる。親身に話を聞いてくれているのかもしれないけれど、私は本当にそうなのかと疑ってしまう。
人間不信もいいとこだ。彼女達に非がないのは分かっているし、大切な友達だと思っているのになんて嫌な子だろう。それでも私はたまに外側から見物している彼女達が恨めしくなる。

継子の仕打ちは親になど話せるわけが無い。
私はお母さんに遠慮している。困らせたくないと、黙り続けている節があった。

美苑1 

2004年07月22日(木) 16時54分
私がおかしかったわけじゃない。
私におかしなところなどなかったはず。
ただ、ちょっと気が強いくらいでそこまで目立った覚えもない。

私が何をした。

毎日欠かさず学校に行くのはお母さんの為。玄関に出来上がったお弁当が置いてあるのを見ると、どうしても休む気になれない。
学校にどれほど絶望が待っていようと、私は逃げ出せない。

高校に上がって一年半。
どういうわけか、私はクラスの女子内における弱者だった。
一年の頃は何の変哲も無い学校生活を送っていたはずなのに、二年になって、ちょっと知り合いの少ないクラスにきてしまったな位に思っていただけだったのに。
きっと運が悪かったのだ。
私の何かがクラス委員も務めている継子の癇に障ったらしい。
人気票でクラス委員に祭り上げられている継子が嫌いといえば私など容易くはぶにされる。
しかし当の継子は私を無視しない。いっそしてくれた方がどんなにマシだろう。

子供じみた古典的ないじめになど誰が屈するか。
そんな意思を持ちながら、けれど私は確実にダメージを受けていた。
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