58.瓜田李下

July 22 [Sun], 2007, 22:38
おれはまた、その手を離しちまった…

今となっちゃガキの頭が金だろうが黒だろうが気になんてならねェ
だが、あのときは違った
喧嘩ばかりの毎日…蓮華がまだおれの隣に居たときは。


「だーから、浮気なんかしてねェって。お前のいうハレンチとかいうこともしてねェよ」
「おめェはそうでも、向こうが無理矢理…」
「そんなわけねェっつってんの!俺の言うことが信じられねェの?」

そんなはずがねェ。たった一人の嫁だ。誰よりも信頼しているに決まっている。
なのにどうも納得できねェ自分がいた。
「大体、なんだあの食欲は。おれもおめェもそんなに食う方じゃねェだろ」
おれたちの喧嘩も他所にエースは食卓に噛り付き、蓮華手製の料理を山ほど食っている。
さっきからずっとだ。夢中に食っているように見えるが時折頭が下がっている。食欲と睡眠欲を一度に満たそうとでもいうのだろうか。我が息子ながら感動を覚える。
「ガキは沢山食って大きくなるんだよ。あんなもんだろ」
果たして本当にそうなのか?エースはまだおれの膝にも満たない身長だ。その身長でおれより沢山食っているということは普通なのだろうか。育児本などはハレンチな行為だと一度も目を通したことがなかったし蓮華にも見せなかったが、やはり見ておくべきだったのかもしれないと今更ながらに思う。いや、まだ手遅れじゃないかもしれない。明日にでも仕事の帰りに買って帰るとしよう。

「お前は気にしすぎなんだよ。エースは健康そのもの。それでちゃんと俺たちの子だ。」
きっぱりと言い放った蓮華には母親の威厳というものがあった。母は強しとはこのことかとぼんやり思考を巡らせる。
「分かってるさ。疑ってはいねェ…だが…」
そこでエースの方へと視線をやった。テーブルの上に置いてあった料理を全て胃袋へ移し終えたエースはまだ足りないのか蓮華に纏わりついている。
蓮華に向ける視線が心なしかハレンチに見えるのはおれの気のせいだろうか。
蓮華が頭を撫でてやると、大袈裟だと云いたくなるほどに喜んでみせ蓮華の身体にぎゅっと抱きついた。
それを見ていて最近蓮華を思い切り抱きしめていなかったなと思い当たる。
エースが生まれてからというもの意図的かはたまた偶然にか蓮華から離れようとせず、おれが近付く隙すら与えなかった。
その点おれが触れると嫌がるので質が悪い。子供が父親を疎ましく思うのは極一般的だということぐらいは知識にあったが、いくらなんでも早すぎねェか?パパ大好きvという時期が少しぐらいはあったってイイだろう。
兎にも角にもエースは物凄いお母さんっ子だった。
大きくなったら蓮華と結婚するなどと言い出したらどうしようとエースが言葉も話せぬうちから悩んでしまうのはなかなか重症かもしれねェ。

そしてあまりにも悶々しすぎたのかとうとう蓮華の怒りも爆発し、頭を冷やして来い!と外へ蹴りだされた。
そんなことは初めてだったので、呆然と扉を見ていると不意に肩を叩かれた。

「お、おめェは…ッ!」
以前恋焦がれ一度は諦めた男の姿。屈託なく笑う表情は今でも眩しく健在で、おれは再び恋に落ちた。

「恋に落ちる…はァ、そうだよな。正に落ちるだぜ…畜生…蓮華…ッ」
「大丈夫かィ?お前さん…」
独り事に集中していたおれが余程不気味だったのか男が眉を寄せる。
「うるせェな、放っておいてくれ。おれは今忙しいンだよ」
いつまでも肩に乗っていた手を振り払い溜息をついて立ち上がる。男が笑う気配がした。
「なに笑ってンだ。」
「いや?特に意味はねェさ。元気になったみてェだな」
「まァな、こうしちゃいられねェ。行動あるのみだ」
云いながらまふっとしたものを相手に押し付ける。
「なんだィ?こりゃァ…」
受け取るか否か迷っている相手に痺れを切らし、手を離すと慌ててそれを手中に収め首を傾げていた。
「礼だ。何のかは云わねェがな」
「ふうん、そいつはありがとよ。」
「ハレンチなことに使うンじゃねェぞ」

一言言い残し、おれはその場を去った。
何も理解せずにまたのこのこ家に戻るわけにゃいかねェ。
再び惚れさせるぐれェできねェとな。

おれの元から恋が二つ消えた。
消えたならまた何度でも作ればイイ。おれはそんなことじゃ負けたりしねェよ
個々へは休業中(結局…)
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