「おはよう。」 

October 05 [Sun], 2008, 22:29
もう朝だよ、と言い終わる前に彼女はさあっとカーテンを開けた。文句の付け所もない快晴だ。

太陽光で照らされる皮膚を手のひらで遮って、僕はようやく薄目を開ける。

8畳の洋式部屋。フローリングは実際より部屋を明るく見せる。
でもそれを抜きにしても、彼女の笑顔はびっくりする程眩しかった。

「夏子さん、眩しい。」
余りにも当たり前の事を言ったからだと思う。彼女はころころけらけらと笑った。

「だって朝だもの、ねぼすけさん。」

僕はサイドテーブルの目覚まし時計に目線を移した。

針はちょうど4分の1を区切り差していた。
「、9時か」

口に出して初めて、自分が恐ろしい時間に起きてしまった事に気付く。

「ぎゃ、」

飛び起きた。さっきまでのうとうと瀬戸際のゆらゆら感はどこかに逃げていく。

さあ、と血の気が引いて、自分の汗が冷たくなるのが分かった。

「ちこく!!!ちこくだ!!!!」


そのままの勢いでベッドから降り、駆け出す筈だった僕の全身の力は あっけなく彼女の両手によって相殺された。

「待った。…君、今日は月曜日よ」

「だから学校に行くんだってば!まだ走ればぎりぎり一時間目に間に合うよ!!!」

押し返そうと躍起になって力を込めると、突然彼女は手の力を抜いた。
勿論僕は重力の関係でバランスを崩し、夏子さんのたわわな胸(…胸。)に顔から突っ込む事になる。
「そうね、でも月曜日といっても色んな月曜日が有るのよ。」

むぎゅ、という効果音が一番近いと思う。
彼女はあろうことか、そのまま僕の頭を抱え込んだ。
「ちょ、ちょっとちょっと!!見えない!!苦しい…ギブ!」
「あれれー、人に頼ってばかりで自分では考えない。君にはミジンコ並みの頭しか付いてないのかしら。」
茶化してくる、自分と同じくらいの背丈のお姉さんに少しムッとしながら 僕はやっと脳を回転させ始めた。


「…あ、そうか。今日は海の日だっけ。」

顔を埋めたその体制のままもごもごと答えると、今度は頭をくしゃくしゃにされた。
「ぴんぽんぴんぽん。正解でーす。ご褒美に、朔ちゃんには私と朝から晩まで遊べる権を贈呈しよう。」

「…え、」

「まあもう行くところも決まってるんだけど。さ、早く歯磨いて。顔洗って。かわいい顔が台無しよー」

僕が疑問を抱く余地もない。彼女はいつもこうだ。てきぱきと僕を立たせて、くるりと方向転換させる。軽くお尻を叩かれて ひっ、と声を上げたらまた笑われた。
でも彼女の、夏子さんの笑い顔はすきだ。

日差し色の髪、白い肌によく映える、こげ茶色の目。
特別なパーツは何一つ無いのに、集まるとどうしてこんなにやさしくて暖かい顔になるんだろう。

すぐにつられて僕も笑ってしまった。



今日は彼女の名前にふさわしい夏の日だ。






――――――――――――



「うつくしいものになまえはいらないよ」の派生作品。

おはようからおやすみまで 

October 01 [Wed], 2008, 10:08
外のネオンが寒々しく感じてくるたびに
また冬の匂いを思い出して、
空気を咀嚼する。

鼻先を冷たくさせるのですね、

「母さん、」

―なあに?颯太

「母さんは魔法使いなんでしょう。」

私は二回程、はたはたと瞬きした。出来るだけゆっくり。驚きを無理矢理隠しているように見せる為だ。

―ふざけた事を言うじゃないの。

まるで悔し紛れに言った言葉。そう思わせる。

「ははは、母さんは嘘が下手だね」

そう、彼が笑ったので私は安心する。

と、その瞬間度肝を抜かれた。




「…とでも言って欲しかったんだろう。」

射抜かれる。魔女の血を引く彼の眼光は鋭かった。


私は思わず笑う。ああ、流石母さんの子。これは余裕からきた笑みではない。断じてない。

―おめでとう、あなたは魔女の子よ。颯太。

そっと彼の顎から頬を撫でると、耳に息を吹き掛ける。
身長差10cmは有る彼の体躯が、途端に膝から崩れ落ちた。

どさり



大丈夫。まだ大丈夫だ。颯太が忘れてくれている間は。

幾らその部分の記憶を消しても消しても
すぐに彼は思い出してしまう。もう意味の無い行為だと分かっていながらも、私は念入りに魔法をかけた。
起きた時には無邪気にあくびでもして、笑窪付きのかわいい顔で笑ってくれる。だから大丈夫。大丈夫大丈夫だいじ


「母さん、」




ぞ、

っとした。
彼はまだ眠っても忘れてもいなかった!



―颯太。


「お疲れ様。」

彼はそっと、私の唇を奪った。
その触れ合った皮膚越しから、魔力が吸われるのが辛うじてわかった。
辛うじて、と言うのも、もう私は魔女ではないからだ。

自分のこどもに唇を触れられる事によって、魔法は移る。(こどもだけだ。夫に影響はない)

その瞬間、止まっていた時は流れ私の身体は朽ち果てる。
急激なスピードで老い、今度は自分が膝を折る番だった。

もう目もよく見えない。ぼんやりとした影。颯太が私を抱き締めていた。

「もう泣かなくていいんだ。」

―そうた、

「ひとりぼっちじゃない。人目をはばからなくていい。おびえなくていい。…疲れたでしょう。寂しかったでしょう。もういいんだ。」

私の子育ては間違っていなかった。彼はとても優しい子だった。
寂しかった。
怖かった。
辛かった。

でも悲しい事に、私は魔女だった。



目を閉じた。

もう未練は無い。

ゆっくりと息を吸い込むと、世界にお休みを告げた。


そうた、颯太。お休みなさい。












「僕が初めての魔法で、あなたを孵すよ」

お椀型に組んだ手の中で、僕の母親だった人の心臓がまた動きだした。


世界で一番愛していた。母親と分かっていながら、別の感情を抱いていた。
明らかに彼女は他と違っていた。いつまで経っても歳を取らない、いつ寝ているかもわからない。

きっと魔女だ。魔女なのだ。
それは曖昧な予測などではなく、確信だ。クイズの答を教えられたような。

魔女であり、母である彼女に恋をした。
それなら、母でも魔女でもなくなればいい。

僕はシンプルな回答にたどり着く。
卵に、彼女の心臓を収めた。
卵はどんどんと人の形をなして行き、小さな赤ん坊になった。

おぎゃあ、と元気よく泣き出した彼女の頬を撫でる。


「おはよう、友子」


僕は初めて母を名前で呼んだ。






―――――――――――――――

永遠に受け継がれる愛情と魔法なのです。

守れない約束なんてするくらいなら死んじまえ。 

September 28 [Sun], 2008, 9:27
飼い慣らしているのは
間違いなく私だった

でもそれは最初の話だから
これから飼い殺されるのは私なのかもしれない


7日目に来た手紙には
君の名前が埋められた婚姻届が入ってた。

ちぎって丸めて食べちゃったから
もう関係無いけど


新しい月曜日には
もう腹から芽が出ていた
膨らんだ蕾からは君の笑顔が割れんばかり

瞬間弾け飛んだ花は、
そのまま口から喉の奥に
滑り込んで


「 ぷつん 」、

心臓に根を張った



蔦が絡む、
巻き付く
はびこって

私の名前を呼ぶ


飼い慣らされたのは
間違いなく私だった


結婚なんてつまらない約束で私を縛りたがる彼は二月生まれ
愛されたこども

食い込んだ
飲み込んで
私さえ一部になる


飼い慣らしていたのは
間違いなく私
だったのに



嘘つきは私
十二月生まれ
愛されていたこども

愚痴はきらい、と愚痴る 

September 17 [Wed], 2008, 21:35
恥ずかしながら
人間ですので
泣くし
喚くし
笑います

君の言葉を思い返して
恥ずかしくなったり
死にたくなったりするのです
人間ですので


だけどいつの間にか
他人の心の狭さを許せたり
逆に懐の広さに気付いたり出来る
大人というものになっていて

髪の匂いにどきりとしたり
背中の広さを確かめたりする
女になっていた
人間ですので
成長するのです


あなただけが、ずっとスタートラインに立ち尽くしている
背を押されたり
怒鳴られたり
撫でられたりして
誰でも進むものなのに

あなただけが頑固に
こびりついた汚れのように
口を屁の字に曲げて
こどもで有り続けていた

羨ましかった。
彼にはまだピーターパンが見えるのだ。



「もうすぐ僕はしぬよ、」
「どうして?」
「二十歳になるんだ」

彼の視線はとてもとても遠くで、地球の裏側まで見えているようだった。私に追いきれる筈は無い。


「この年になって、初めて後悔した。僕は絶対の自信を持っていた。僕には全部、よく見えすぎた。」

彼はそっと、自分の両目を抉り出す。


ころん、




「とても悔しい。僕は言葉が足りない。知らない。見えるのに。全部見えているのに。伝わらなきゃ意味なんか無いんだ、だから」

そして私に差し出した。

「君にこどもの目をあげる。君はね、誰よりも早く大人になってしまった。ほんとの目を閉じたんだ。そして、開かなくなってしまった。」

私と彼には、目算10cm程のどうしようも無く深い隙間があった。
それはとても暗くてじめじめしている隙間で、見れたもんじゃない。
彼にはもう見えない。

「その代わり、君は知ってる。ただ見ていないだけで、全部。だから、世界で一番こどもの僕が、目をあげよう。君が見なくちゃいけない世界を見せてあげる。伝えて。君の言葉で世界中の人たちに。


聞こえるだろう?見えるだろう?」




確かにその目はよく見えた。


彼はとても満足そうに笑った。

「君は今から神様になるんだよ。もう一度大人になるのはそれからでも遅くない。」



彼は宣言通り、誕生日の一日前 車に轢かれて死んだ。




あの車は避けられる筈だった。知っているのは私だけだ。

「うつくしいものになまえはいらないよ。」 

August 25 [Mon], 2008, 20:43
と、僕をフレームに収めながらお姉さんは言った。
彼女は写真家だ。
頭が良いから、言っている事が時々よくわからない。

「さあ、わらって かわいこちゃん。」

言葉の意味が図り切れず、ぽかんとしていると
笑ってこう言う。
その時の彼女こそ、本当にうつくしい。
僕は写真も撮れないし絵も描けないから、彼女のうつくしさを残しておく術が見つからない。
だけどこの目は一瞬一瞬を覚えている。
彼女が笑う度、僕は心のシャッターを切る。

波のたゆたう海岸で、一眼レフを構えたお姉さんがお決まりの台詞を唱えたので、今日は僕もお返しに
指で枠を作る。片目でピントを合わせて
言った、

「ほんとにうつくしいものは、レンズに収まりきらないよ」


かしゃり


顔を上げた彼女は、笑った。笑って、笑い転げて、
砂浜にごろんと仰向けた。
そしてそのまま青空にシャッターを切る。
何度も、何度も。



僕より10も上のお姉さんが、まるで妹みたいに見えた。(僕に妹はいないけれど)


あんまり彼女が空ばかり相手にするから、僕は走り寄って
上からレンズを覗いてやった。
すると
今さっきまで、馬鹿みたいに連写を繰り返していたお姉さんは突然
嘘みたいにゆっくりとピントを合わせて、シャッターボタンを押した。












長過ぎた0秒の後、彼女は顔を上げる。


「見抜けるうつくしさだって、一つくらいはあるんだよ。」



視界に突き付けられた、デジタル画面に写る僕と太陽は
とてつもなく眩しかった。


でも、今僕の隣で
ひまわり色の髪の毛をしたお姉さんの笑顔に敵うものは
この先一生見れないだろうなあ、と
僕は生まれて初めて確信をした。

だから、頷いて
目を少し瞑って
瞼の裏にじりじりと、
お姉さんの笑った肌を焼き付ける。


それは、くらくらするような夏だった。

崖の上のポニョ 

August 22 [Fri], 2008, 8:19
すごかった。
今までの宮崎作品とは全然違った。

何度も書いてるけど、オープニングの絵だけで涙が出てきた。思い当たる理由は特に無い。
でも圧倒されたのです。
理由とかが必要じゃないくらい。
「なんかよくわかんないけどすごい」ってあるじゃない。


お母さんとのバイバイのシーンも、宮崎監督が殺さない事は分かっているのに泣いてしまった。
トンネルは薄気味悪くて、トキさんがおばあちゃんみたいだった。

今回の「ポニョ」っていう映画は、断片的な物を順序よく並べた作品集みたいなイメージでした。
きんたろあめ。
全てのシーンが重要だけど、カケラ一つでもおいしいみたいな。

まあ最初から最後まで泣いてただけなんだけど。(笑)

何にも考えずに見ていたから、いけないシーンがあるなんて全然気付かなかったぜ…
でも、そんな事考えなくて良かったんだよね。だって映画だもの。表現て自由なんだもの。

監督のオナニー映画だって言われようが、全ての表現は結局は自己満足だ。自分でやるって決めて守り通したものにいちいちケチ付けちゃいけないよね。
どう感じるかも自由だよね。
お金の無駄だったって思う人も居るよね。それは否定しない。だから

ことばあそび 

August 21 [Thu], 2008, 22:19
さかさまに歩く象が
私を踏みつぶしたんだ
だからこんなに胸の辺りが苦しいんだ。

ポンプも逆流したみたい、
噴水のような涙は暫く止まりそうにない

あなたがさよならなんていうから
私は声をあげるしか無かった

どうせなら処女をあげたかったなあ、

膜を引き千切って
冗談みたいな血まみれになって

夢を抱き過ぎるなとは言わないけれど
もう少し現実を見た方がいいよ
君はね。

メリケンサック 

July 12 [Sat], 2008, 21:06
苦しくて
吐き出せなくて
反射的に出た涙まで飲み込む

ほんとに言わなきゃいけない事だけ
あたしはいつだって言えない

甘い と笑って
弱い と怒って

嘘じゃない言葉さえ貰えたら
何だって構わない


心配そうなふりをする人間は
よく出来ていた。

10送ったって1返って来るか来ないかの世の中
いっそ0のが清々しいよ

期待するだけ疲れるし


信じたあたしがいつだって悪者
笑えばいいよ、正義は此所に無い

うそつきの舌 

July 12 [Sat], 2008, 20:59
何度も諦めた
何度でも騙された

それでもいつか報われるなら
幾らでも続けようと思った

不安だよ
一秒後が不安だよ

信じれるものなんか一つも無いよ。


うそつきはうそしか吐かない訳じゃないから

その舌を抜くのに戸惑ってしまう

うそつきはうそしか吐かない訳じゃないから

お前はうそつきだ!!
とずっと言えないでいる。



迷ってる私だって、正しい人間じゃない。



涙は無駄にならないように
ワイングラスに貯めてきたんだよ


うそつきのあんたに
頭からプレゼントしてやろうと思ってる


でも舌を抜かなきゃいけないのは一人だけじゃないから


私はまだ涙をとっておかなくちゃ。

















くやしい。

70 

July 10 [Thu], 2008, 10:55
人が口を揃えて言う

君は馬鹿だね、
歌をやめなさい


20人が口を揃えて言う

君は利口だよ、
歌を教えてあげよう


5人が口を揃えて言う

君は素敵だね、
でも世界は広いよ


4人は見てすらいない





1人が言った、


難しい事はよくわからないけど、
君の歌がすき。



私は100分の1を抱き締める。

あなたが居てくれる限り、うたうよ。うたうんだよ。





いつもありがとう。
P R
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