空白 

July 02 [Sun], 2006, 16:17
空白ープロローグー

「何の為に 人は 生まれてきたのでしょうか」
「死ぬ為です」

この解答をすると批判を受ける。
なぜか。
それは受け入れ難い事実だと思っていたから。







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空白.2 

July 02 [Sun], 2006, 16:31
空白ーなり子ー

今日は授業参観だ。
親達が競って、めかしこんでくる。
教室の後ろに立って、僕達を監視する。
僕は自分の親の居る前で先生に叱られた。
「真面目になさい。」
「死ぬ為だけならば早く死になさい。嫌でしょう。」
先生は真面目な顏で僕に言う。
僕の母親が今どんな顏をしているのか、は簡単に想像がつく。
だから教室の後ろなんて見なかった。
クラスメイト達はなんて暢気な答えを出すのだろう。
皆同じように「ゆめをかなえるためです。」と言う。
なり子は、自分の母親の方を振り返って手なんか振っていた。

(僕にとって、湿った)授業は終わった。
なり子がいつものように校門の前で待っている。
退屈そうにしゃがんで、影を作っていた。
「帰って良かったのに。」と僕。クラスメイトが校門を次々に通って行った。なり子は
「待・っ・て・た・の・!」と少し怒っている。
「あれ、荷物は?」なり子の上げた顏は赤くなっていた。
この暑い陽射しの中、この陽に焦げた校庭の端で待っていたのだから。
「親に預けてきた。」僕は親の車の方を指さした。
「ふぅん。私もそうしよっと。」なり子は校庭いっぱいに置かれた車の間をすり抜けて
下駄箱まで走っていった。と、振り返ると同じようにして戻って来た。
「どうしたの。」息の上がったなり子に言う。
「やっぱりやーめた。」なり子は肩までの髪を揺らして僕を見る。
「持って!」ピンク色のランドセルを僕に押しつけた。
「分かった。」僕はなり子に弱い。断っておく。
好きとか言う面倒臭そうな気持ちではない。
ただ僕は、なり子に弱かった。






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空白.3 

July 03 [Mon], 2006, 17:53
空白ーなり子の髪ー

女っていう生き物は、
暑いのによくもロングで居られるよな。

僕となり子が住むこの町は栄えてない。
田舎という表現が相応しかった。
帰り道は木陰が多く、僕もなり子も
学校よりは涼しいと思っている。
僕はなり子のセミロングの髪を見た。そして
目線を腰に向けた。ひらひら揺れるロングスカートがある。
蝉がジンジン鳴いて、耳に刺さりそうだ。
「なぁ、暑くねーの?」僕はなり子の横顔を見た。
「何が?」なり子はまだ頬が火照っている。
普段は透き通るように白かった。真っ黒な瞳がのった眼球は
鮮明で、鏡のように物を写した。今なり子は、
下の溝を見ているようだ。
「そのスカートだよ。」髪については敢えて添えなかった。
「別に・・・暑くないよ・・」強がっているように見えたが、
そこには深く触れないようにした。
「そっか。」スカートから目線をなり子の髪に移した。
なり子が歩くたびに、さらさらと髪から音が聞こえてきそうになる。
僕の脚は、夏の欝陶しい雑草をギシギシ踏み付けていた。


僕となり子が竹薮の小道を通り抜ける時に、どこかで竹がぶつかり合って
カツカツでもザザザでもない音が鳴り響いていた。そんな中、僕は
なり子に髪を切って欲しくない、と勝手に思ったりした。

学校からは、僕の家の方が近かった。
なり子は僕が家に着いた後でも、その先を歩いて家まで
帰らなければならない。そしてそれがとても可哀想に思う。
でもなり子は、僕に手を振りながらも笑い、
たくさんの影を踏みながら帰って行った。
その時にはもう火照りは無く、いつもの表情だった。
僕はなり子の髪が、影を踏む度に艶めき、流れるところを
思い浮かべながら、家に入った。






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空白.4 

July 04 [Tue], 2006, 0:36
空白-鈴悟(れいご)-


夏の朝、まだ爽やかな陽射しがあった。
鈴悟が朝食をとり、先に家をでた。
私も今日こそは一緒に行こうと、ご飯もろくに食べず、
家を飛び出した。
準備をせかせかと済ませ、それでいて、鈴悟に気が
付かれないように早く準備をしていた。
しかし、鈴悟はそんな気配を察したのか、鈴悟はいつもより早く、
家を出ていった。
私は走って、鈴悟に追い着こうと思った。

追い着いたのは、竹薮を抜けた、森の中だった。
息切れもなるべく抑えて、私は鈴悟の横を歩きながら、そっと
鈴悟の横顔を見た。新しい眼鏡のレンズが木漏れ日に反射していた。
「あ、まだおはよう言ってなかったよね。おはよう。」笑って見せたが
鈴悟は見ていなかった。
「ああ、おはよう。」鈴悟は少し機嫌が悪いように見えた。
今日からプールが始まるからだと思った。
「鈴悟くん・・・入るよね?」私は覗き込んで聞いてみた。
鈴悟の顔色が変わる。眼鏡の光の反射で鈴悟の目が見えなかった。
「ああ、入るよ。」鈴悟は首を持ち上げて、私を見て答えた。
持っているプールバックを上にあげて見せてくれた。
クリアバックの中に、ゴーグルを見つけた。
私達は夏の入口にいて、プールが始まるのと同時に誕生日を迎える。
鈴悟は私の兄で、双子の兄妹だ。
無口のくせに友達は多かった。
友達を作るときだけ明るいのだろうか、と疑ったこともあった。

私は鈴悟のことを「鈴悟くん」と呼んでいる。
そう呼ばないと鈴悟は怒るからだ。
私と双子と思われたくないらしい。
クラスも違う。こういう時と、家でしか双子だということを
私は感じられなかった。
下駄箱に入る前で分かれ、私達は言わないと双子だと
気づいてもらえなかった。名字もありきたりで、どのクラスにも
いそうだった。私達は双子に映っていない。
一緒に登校しても、双子だとは思われない。似てもいない顏の
私達は友達か何かに思われているのだろう。






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空白.5 

July 04 [Tue], 2006, 1:15
空白ー双子ー

休み時間に一階の保健室へ行った後、廊下で鈴悟とすれ違おうとしてた。
誰もいないようだから、私は話しかけた。廊下の窓の外には
まだ青い葉のイチョウが立っていた。
「鈴悟くん、プールはどうだった?涼しくなったよね、
私のクラスも早くプールの時間にならないかなぁ。」
私は見ていなかった。鈴悟の顏が、険しくなっていくのを。
少しの間、鈴悟は黙っていた。職員室から先生の笑い声が聞こえる。
「・・・学校内で僕に話しかけないでくれ!!僕はなり子が大嫌いだ!
分かってるようなこと言わないでくれよ!」
半ば泣きそうな顏の鈴悟の顏を見ながら思った。私達は悲しい、と。
どのくらい私達の時間は止まっていたのだろうか。
鈴悟は横を通り過ぎ、騒がしい職員室へ入っていった。
「失礼します。」
鈴悟はまた、時間を取り戻した。
立ち止まったまま涙を止められない私を残して。
外は暗くなっている。夕立ちがくるのだろう。
イチョウの葉がさっきよりも色濃く見え、青々としていた。
私は上履きで下駄箱から外に出て、家へ向かった。
学校から休み時間の終わりを知らせるチャイムが聞こえる。
私は先生には無断で、ランドセルも持たず、
青くしげる森の中へ入った。








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空白.6 

July 05 [Wed], 2006, 15:50
空白ー森ー


雨が降り始めた。
森は茂る葉で雨を止め、私をほとんど濡らさなかった。
小学校を出ると、右に曲がって神社の鳥居をくぐり、社の横を抜け、
そのまま森の中に入れる。森を過ぎると竹薮を通らなければならない。
竹薮も抜け、こじんまりとした住宅が並ぶ。アスファルトの道だ。
そこも通り過ぎ、左右に林がある砂利道を20分歩くと、私の家に着く。

同じ方面に帰るのは赤楠(あかぐす)小学校の中で五人もいない。
住宅や私の家に行くには、国道からも行けるのだが、学校から
国道までが遠いので、私達は近くて涼しい森の道を選ぶのだ。

今日は森の様子が少し違った。森の空気が何か違う物を
受け入れてしまったようだった。
私は毎日通るので、その雰囲気に気がついた。
地元の人も薄暗いこの森の道を滅多に使わなかった。それなのに
何故今日は違うのだろうか。地元の人が森に何かしたのか。
こんな何も無いところに誰かが観光に来たのか。違う!そう思って
立ち止まった私の横の脇道に、赤黒い大きな染みの付いたYシャツを
着た男がうつむいて立っていた。男の左側にその染みはあった。男の
足元にも赤いものが溜っていた。私と同じく、雨にはあまり
濡れていないようだった。私には殺人事件や物騒な事件のように
見えて、恐ろしくなった。その場から逃げるように立ち去った。
この時の私はまだ、その男のおかしな点に気が付いていなかった。

今見たものは何だったのだろう。森を駆けながら思っていた。鳥肌が
治まらない。血の気は引いたまま、走り続けた。
声をかけてみれば良かったかもしれない。そんな後悔もあった。
気づくと家の玄関のドアにしがみついて、ガタガタ震えていた。
雨音は激しくなっている。私は今日中にこの雨が止むことはないだろう、と思う。

家の前に咲く紫陽花は、雨と同じ色をしていた。







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空白.7 

July 09 [Sun], 2006, 16:41
空白ー男ー


私は怖くて、後から帰って来たお母さんにも森で見たもののことを
言えなかった。
「なり子ー、おかえりはー?」お母さんが玄関で二階に呼びかけている。
それは二階の部屋にいた私の耳にも聞こえた。
「帰ってるんでしょー?」私の靴を見て知っているくせに、この質問を
してきた。しばらく玄関で何かが返ってくるのを待っていたようだが、
私が何も答えないので、一階のリビングダイニングに入っていった。
私は森で見たあの男の姿を、もう一度思い出した。
左胸に血の染みがあった。人間の心臓は、左に付いているということを
理科で習ったことを思い出した。
「・・・死んでいるはずなのに・・・」静かに私は口にした。
でも本当に死んでいたのだろうか。死んでいる人間が立って
いられるのだろうか。しかも血が大きな染みになる間。結局私は、
あの男は死んでいなかったんだという考えに辿り着いた。そう考えると、
楽になり、力が抜け、くったり寝てしまった。




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空白.8 

July 09 [Sun], 2006, 16:54
空白ーお父さんー

「なりちゃん!朝になっちゃったよ。」朝早く起きるお父さんに
私の体を揺すられて、目が覚めた。窓の外を見ると、
雨は小雨になっている。
「・・あ、お父さんおはよう。」寝ぼけたまま、お父さんを見上げて
言った。お父さんはいつもの優しい笑顔になった。
「なりちゃんおはよう。お風呂入ってからご飯食べに降りておいで。」
「・・ふぁーい。」返事とあくびが一緒に出てしまった。
私の家のお風呂は二階の隅にあった。横にある洗面所で昨日のままの服を脱ぎ、お風呂の戸を開けた。お父さんがお風呂を沸かしてくれたようだ。
私はお父さんが大好きで、お母さんが次に好きだった。そして朝も
好きだ。お父さんお母さんと一緒に食事が出来るからである。
朝ご飯のことを考えながら、お風呂に入った。お風呂の外から、
「今日の服はお父さんが選んだんだぞ!置いておくよ。」と言って、
一階に降りていった。
お風呂から上がると、お父さんが選んでくれた服を着た。いつもは
お母さんと選ぶのだけど、今日はお父さんが選んでくれた。
鼻歌を歌いながら、階段を降りた。リビングに入ると、お母さんも
おはようと言ってくれた。お父さんは嬉しそうに私を見ていた。
食卓につくと、私は用意されたバタートーストをかじって、サラダのトマト
だけを食べた。

お母さんに、他の野菜も食べなさい、と言われた。お父さんは怒らない。お父さんも、真っ赤なトマトだけは、
大好きだから。




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空白.9 

October 05 [Thu], 2006, 3:22
空白-ピンクのランドセル-


僕は、自宅の前でなり子を待った。
今日は一緒に行く約束をしたのだ。
それにしても、なり子は遅い。
いつもなり子は学校に遅刻してくる。
今では先生も困り顔でおはようと言うだけなのだ。
以前はきつく叱ったりもしていた。

少し離れたところから、聞き慣れた鈴の音がする。
「ごめん、昨日宿題してなくて朝してたんだ。もう遅刻だね。」
なり子だ。
「おはよう。鈴悟とは一緒じゃないんだね。」
僕は口にしたことを後悔した。なり子は歩きだした。
「うん。私と行くと遅れちゃうからさ。この前は一緒に行ったんだけどね。」
そうだ。なり子は前に、遅刻しない日があった。おそらくその日に鈴悟と登校したのだろう。
陽射しはすっかり真夏だった。朝だというのに、すごく暑い。毎朝、お昼はこれ以上暑くなることを思うと、嫌気がさしていた。
「もうすぐ夏休みだね。毎日プールに行けるから嬉しいなぁ。」
なり子は黙って前の道を見つめて、僕の横で歩いていた。

「・・・・・私ね、見たの。」そしてなり子は真面目になってそう言った。
僕は突然の変わりように気後れしたものの、返事をした。
「何を見たの。」こんな僕をよそに、なり子は続けた。
「死んでいる人が立っているところを。だけどね、結局考えているうちに、見間違えだったのかなって気がしてきてるの。」
「どういうことだよ。話が分からないよ。」困惑している僕になり子は言った。
「この前、帰り道で見ちゃったの。左胸に血の染みがある男の人。立ってたの。」なり子も少し興奮している。僕は信じられなかった。ただの作り話か、寝ぼけているのだろうと思った。
「それがどうしたの。」僕もぼけることにした。
「私確かめたいの。あの場所に行って確かめたいの。今も立っているかも。」なり子は半分真面目に言った。そんな話信じられない。もし信じたとして、その男の人が胸に血染みをつけて立っていたと言うなら、死人がゾンビのように突っ立っていたことになる。馬鹿みたいな話だ。
「いいよ。帰りに行こうか。」僕はなり子の言う事を信じることにした。
なり子は重たそうなランドセルを背負い直した。
「うん。」僕の弱い、笑顔で返事をした。

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