24 葉、潜入(by あずみ) 

2008年05月06日(火) 23時50分
 レオンと別れて一人館内を探る葉だったが、すれ違う文武官から訝しげな視線を受けて思うように探索が進まない。
(ちっ……目立ちすぎる。レオンが時間稼ぎする前に俺がつまみ出されるぜ)
 そう思っていてもふてぶてしいまでに堂々としている葉を呼び止める者はいない。
 しばらくそうやってやり過ごしてきたが、廊下の角から誤魔化しが効かない相手の声が響いてきた。

「こんな時に一体何の用だ?」
「それが……総督に用がある、としか……」
 へリックはふと考えてみたが特に思い当たる節は無かった。
「俺は不在ということにして追い返せんか?」
「強引に入られまして……すでに応接室でお待ちです」
「ハイドフェルドめ……くそっ!」
 苦々しく呟いたへリックは悪態をつきながら歩き出した。
「ちょっと待て」
 2、3歩行ったところで足を止めたへリックは、扉が半開きの部屋を鋭く睨んだ。
 へリックは獲物に忍び寄る肉食獣のようにそっと扉に近づいて押し開く。
 中は警備兵らの仮眠室らしく、使い古された寝台やカードの散らばったテーブル、食べかけのパンと薄汚れたぶどう酒のビンがあった。
「……ふん。ちゃんと閉めておけ。目障りだ」
「は、はっ!」
 じろりと睨まれた兵は慌てて仮眠室の扉を閉めた。
「……もうすぐチャンの使いを名乗る者が来るはずだ。剣の間で待たせておけ」
「はっ!」
 荒々しい足音を響かせながらへリックは応接間へ向かった。

「嫌なおっさんだぜ……」
 へリックが覗いた部屋の隣からゆっくり顔を出した葉は、安全を確認すると一旦部屋の中に戻った。
 葉の飛び込んだ部屋も同じ大きさの仮眠室で幸いにも無人であった。
(どこから手を付けるか迷っているところにチャンの使いとは……偶然にしちゃあ出来すぎだ……と言っても他に当ても無いしな)
「面倒くせぇな」
 そう呟いて葉は脱ぎ捨てられていた軍服を手に取った。

 どうにか兵士らしい格好になった葉はチャンの使いを確認するためエントランスホールまで戻った。
 ホールには3人の警備兵がいた。2人は玄関付近で談笑しており、残り1人は応接室へ続く通路付近を歩いている。
 葉は警備している振りをしつつ他の警備兵の視界に入らないよう、柱の陰から玄関を見張った。
(心地のいい緊張感ではないな……先に俺が気づかれるか、チャンの使いが来るか……)
 小さく息を吐いて気を引き締めた葉。だが目標はそれ程待たずに現れた。


「ちょいと邪魔するぜ。ケラードはいるか?」
 その男は行きつけの酒場に入るような軽い口調でエントランスホールに現れた。

 男はすらりとした長身で、肩まであるブラウンの長髪を後ろに縛って垂らし、日に焼けた健康的な肌は港町にぴったりの男前である。だがそれ以上に目を引くのは男の格好だ。
 まるで鎖のような太い金銀の首飾りや両手の指に光る指輪、黒塗りの篭手、羽飾りをふんだんに使った衣装など、間違っても真似ようと思う格好ではない。

「なっ!?貴様――ま、まさか!ライドル・エスコバス!?」
 異様な訪問客を制止しようとした警備兵はその正体に気づき言葉を失った。
「うれしいねぇ、そんなに歓迎されると。だが今日はケラードに用事だ」
 わざとらしい仕草で喜ぶ男に、警備兵たちは嫌悪感たっぷりの表情であった。
「まさかあなたが来るとは……こちらへ」
 通路側にいた兵士があきらめたように近づいてきた
「よろしく頼むぜ兄弟」
 日に焼けた肌によく映える真っ白な歯を見せながら笑ったライドルは親しげに兵士の肩を叩いた。
 兵士は露骨に顔をしかめながら無言で先を歩いた。

(孔雀みたいなポニーテール男がチャンの使いか?……全くもってとんでもねぇ所だぜ)
 葉は残った2人の警備兵が持ち場に戻ったのを確認し、注意を引かぬよう自然な足取りでライドルを追った。


 剣の間は個人的な会談をするための総督私室で、名前の通り部屋には刀剣類が飾られている。
 シンボルである鍔に真紅の宝石がはめ込まれた二対の黄金の大剣、和刀と呼ばれる東国渡来の太刀など、どれも武器として容易く振り回すのをためらう代物である。
 
「ほほぉー!こりゃあたまげたね。これ全部ケラードのか?」
「総督は今来客中である。しばしお待ちを」
 案内した兵士はライドルの問いに答えることなく部屋を後にした。
「うーん……この和刀いいねぇ♪研ぎ澄まされた刃がなんともすばらしい!刀身に映る俺の顔がまるで別人のような輝きだぜ……よし、こんなにたくさんあるから帰りに一本頂いていこう」
 1人残されたライドルは興奮した様子で刀剣を手に取り、刀剣が言葉を解するなら表情を赤らめてしまう事をしゃべり続けていた。


 兵士がいなくなるのを確認して葉はドアの側まで忍び寄った。
 音を立てないようゆっくりとノブを回しすばやく中に体を滑り込ませる。
 ライドルは入ってきた葉に気づかず背中を向けたまま熱心に刀剣を眺めていた。
(力ずくってのは好きじゃねぇが時間もなさそうだし手っ取り早くやるか)
 隙だらけの背後を狙って葉は息を殺して近づく。
「おっと、誰だか知らねぇがそいつぁ止めといたほうがいいな。俺は手に危ない物を持ってる」
 ライドルは背中を向けたままだが、室内にあるすべての剣を向けられたような殺気に葉はおとなしく足を止めた。
「そりゃあご親切にどうも」
「いいって事よ。お?初めて見る顔だなぁ。若いがいい面構えだ」
 ライドルが振り返ったとたん殺気も鞘に収まったかのごとく消えうせた。
「よく言われるよ」
「がっははは!気に入ったぜ兄弟」
「……ずいぶんと兄弟が多いんだな。俺以外に後何人いるんだ?」
「あん?ぐっ……はっはっは!ますます気に入ったぜ兄弟!」 
 ライドルは豪快に笑い親しげに兄弟と呼んだが、そういった環境に慣れない葉は冷ややかな視線を向けていた。
「まぁ、挨拶はこの辺にしてだ。お前はここの人間じゃないだろう?俺の後を追っかけて何が目的だ?」
 穏やかな口調だが、返答によっては力づくでもという含みがあった。
 
(下手な嘘はつけねぇな……面倒くせぇ)
 葉は小さくため息をついて口を開いた。
「あんたの言うとおりだよ。俺はここの人間じゃねぇ。ある物を探そうとしている時、偶然にもチャンの使いの事を聞いてここまで来た」
「それで?その探し物とは何だ?」
「……鏡だ。つい最近ニルスから着いた荷のはずだ」
 興味深そうにライドルの目が細められた。
「なるほどな。お前はニルスの手の者か。正直で結構なことだ。代わりに1つだけ教えてやろう。これ以上かかわるな」
 そう言ってライドルは物騒な笑みを浮かべた。
 求めていた答えに程遠いが、彼我の差を読めない葉ではない。
「そうか。んじゃ、余り長居もできねぇから今日のところは帰るぜ」
「いいねぇ……その根性ますます気に入った。是非とも俺んとこで一緒にやりたいがどうだ?」
「遠慮しとくよ。親を泣かせたくないんでな」
「ハァッハハハ!いいだろう。だが次に会うときは笑う暇なんて無いからな」
 葉はライドルの言葉を背中で受けながら部屋を後にした。







えっ!レオンは?っていう事になってしまいました;;

23 動き出す計画 (BYあずさ) 

2008年04月14日(月) 23時43分
 レオンとメントス総督府を探ることになった葉は、再びその建築を目にして場違いにも感心していた。
 特に自身が風情を重んじているわけではないが、それでも見ただけで伝わってくるほどの荘厳さには舌を巻く。
 ただし自分にも、そしてこの城の主にもどうにも似合わないなと思った。
 ――思うだけで、あえて言葉にしようとも思わなかったが。

 レオンと葉が玄関へ立つと、一人の警備兵が表情を引きつらせた。恐らく先日のことを覚えているのだろう。顔色が悪い。

「これは……今回はどうされました?」

 尋ねてくる口調は、やや皮肉混じりだ。
 しかしレオンは気にした様子もなく、いつもの軽い調子で兵の肩を叩いた。そのままぐるりと肩に腕を回し、顔を近づける。若干身を引いた兵の意思など構わないかのように力を込めた。それでいて口調は雑談を始めてもおかしくないほどカラカラとしたものだ。

「ちょいと総督に用があってな。通してくれるか?」
「は……」

 警備兵は改めて二人を見やった。それから周りを確認する。どこかホッとしたように息を漏らしたのは恐らく気のせいではないだろう。大樹たちを置いてきたのは正解だった。

(ま、今度は俺が不審がられてるみてぇだけどな)

 確かな地位のあるレオンはともかく、ただの若造にしか見られないであろう葉が一体どういう立場でいるのか、一警備兵が疑問に思わない方が不思議かもしれない。
 それでも葉は特に気にすることもなく、促されて入っていくレオンの後に続いた。目を逸らすわけでもなく、かといって合わせるでもなく、ただただ歩く方へと眼を向ける。その態度があまりにも堂々していたからだろうか、警備兵も何も言えず、ただ目でこちらを見やるだけであった。
 ふと、応接間へ続く通路で静かに足を止める。

「なぁレオン」
「ん?」
「その辺をぶらついてきていいか?」

 今日の天気を聞くかのような口調にレオンが瞬いた。彼は笑う。それはどこか大袈裟な笑みであった。

「迷子になるなよ」
「チビ樹じゃあるまいし」

 んじゃ、と軽く手を振って辺りを物色し始めた葉に、レオンは「後でな」と告げる。
 それを見ていた警備兵が慌てたが、レオンが豪快に彼の肩を叩いて引き戻した。

「まあ、本題を持ってるのは俺の方だし。連れは落ち着きがなくて一箇所でじっとなんてしてられないんだよ。大目に見てやってくれ、万一物でも壊したらちゃんと弁償するから」
「そういう問題では……」
「まあまあ、ほら、案内してくれ」
「レオン様……」

 はあ、と呆れたため息が盛大にこぼれる。しかしレオンの飄々とした調子につられてか、肩をすくめて歩き出した。完全にペースはレオンのものだ。
 その離れていく話を聞きながら葉はわずかに顔をしかめた。――落ち着きがないなんて、それこそ大樹だ。とはいえ、そこにいちいち文句を言うほど野暮ではない。

(ま、精々時間稼ぎしてくれよ)

 胸中で呟き、葉はぐるりと辺りを見渡した。
 本題はもちろん、レオンが持ち掛けるであろう総督への話ではない。いわば彼はフェイクである。こちらの狙いは、彼が総督らの気を逸らしている間に葉が総督府内を探ることにあった。
 ――とはいえ、どこから探っていくか。

「面倒くせぇな」

 ポツリと感情のこもらない声で呟きつつ、葉はもう一度周りに眼を光らせ、足を進ませた。







 カリューナの仲間だという、リポ・カレデラ。彼は神父と名乗っておきながら、どこをどう見ても怪しい不良のお兄さんでしかなかった。少なくとも大樹にはそうとしか見えなかった。大樹のイメージでいえば、神父とはもっと厳かで、それでいて優しい十字架のおじさんである。そのイメージに彼はどれ一つとして当てはまっていない。むしろ大外れだ。

「し、新婦?」
「おい待て、盛大に何かを履き違えてるだろ?」

 聞き間違いかと思い言葉にしてみたが、逆に否定された。大樹は曖昧に首を傾げ、ユンとカリューナを見やる。ちなみにユンは興味深そうにその青年を眺めていた。

「お兄さんが仲間なの?」
「一応な」

 短く答えた彼は葡萄酒を呷り、「飲むか?」と告げてきた。ユンと大樹は同時に首を振る。

「やぁね、全く。子どもにお酒を飲ませようとするなんて」
「はっ……姐さん、随分白々しいな。得意の猫かぶりかい?」
「違うわよ。どうせ飲ませるなら夜にじっくりといかなくちゃ……♪」

 うっとりと呟くカリューナ。その瞳は奇妙なほど輝いている。

(怖ぇえ!)

 大樹がここで言葉にしなかったのは、彼の貴重な学習能力がわずかに働いたからだろう。
 一方、それを聞いた青年――リポは「それでこそ姐さんか」と肩をすくめた。カリューナの性格を知っているらしい。

「ところで、残念だけどあまり楽しみに浸かっている時間はないのよ」
「へえ?」
「探し物よ」

 短く告げたカリューナに、リポがスッと眼を細めた。その瞳に油断はない。それでいてどこか鈍い輝きがあった。それがどこか屈折した好奇心だと気づいたのはユンは、それを表情に出さないまま様子を眺めていた。ただ、大樹はこのような展開に慣れていないためオロオロしているばかりだ。ついでに少しトイレに行きたいかもしれない。でもやはりここのトイレに行くのは怖いような。



「――なるほど、ねぇ。姐さんも厄介なことが好きなもんだ」
「そのおかげで可愛い子たちが手に入ったのよ♪」
「やっぱり買ったんだろうが」
「失礼ね。上等な取引の結果よ」

 二人のやり取りを聞いて、少しずつ不安が大きくなってくる。

「なあユン……オレたち、帰れるのかなぁー……」
「まあ、なるようになるんじゃないかな?」
「うう……春兄ー」

 与えられた椅子に座っていた大樹は、ぱたりと上半身をテーブルに突っ伏させる。今の大機なら春樹のハリセンだって喜んで受け入れられる気がする。痛いのは嫌だけど。

「鏡、か……」
「チャンの組に狙いをつけてるんだけど」
「それなら闇市が怪しいな」

 闇市、とカリューナが呟いた。

「近い内に開かれる。闇市に潜り込んで参加することも可能さ。ま、姐さんほどの力があれば直接アジトに忍び込んでみるのも乙だろうがなぁ」

 話はどんどん進んでいく。難しいことはわからないが、何やら物騒なことになっている、とだけは大樹にも理解出来た。

「どうする?」
「へ?」

 突然笑顔で話を振られ、大樹は思い切り目を丸くした。まさかこのような大事な話し合いのときに意見を求められるとは思わなかったのだ。いつも邪険にされてばかりなので驚きは倍増である。
 上手く答えられないでいると、ユンが小さく唸った。

「うーん、単純にチャンスとして考えた場合は直接アジトに行った方がいいかも」
「あらそう?」
「闇市に出されて、誰かの手に渡って紛れたらまた探すのが大変になるよ。それなら早めに行動を起こしておいた方がいいかなって。もし忍び込むのに失敗しても、何とか逃げてくることが出来ればチャンスはまたあるよね。警戒はされちゃうだろうけど」
「おお、ユンすっげー!」

 よくわからないが、何となくすごい気がする!

「ふふ、そうね。貴重な意見ありがと」

 ぱちりと華麗にウインクを決め、カリューナは微笑んだ。それは男なら目眩がするほどの艶やかな微笑だった。



カッコイイお兄様がか、書けない……!くぅう、バトンタッチですー。変なところあったらすいません!ていうかお待たせしまくってすいませんでした!!

22 年少組と大人組み (by あずみ) 

2007年11月19日(月) 0時17分
「大樹君、大丈夫?」
 カリューナに衣服を剥ぎ取られるように無理矢理着替えさせられてうなだれている大樹を側からユンがなだめていた。
 二人は町の子供達と疑われない格好になっている。
「おまたせ〜〜」
 すっかり上機嫌なカリューナも着替えを終えて奥の部屋から出てきた。
 先ほどの妖艶なドレスとは打って変わり、行動的な男装になっていた。それでいてもしなやかで抜群のスタイルは際立っている。

「二人とも準備はいいわね?」
「うん」
「いい返事ね。あれ?大樹くん、お返事は?」
 カリューナはにっこり笑いながら、ユンの後ろで身を強張らせている大樹の顔を覗き込んだ。
「は、はぃ!」
「あらあら、行く前からこんなに緊張しちゃって♪ま、そこがかわいいんだけど。……私が緊張解いてあげよっか?」
 大樹は後ずさりながらふるふると首を横に振った。
「そう。―――って、遠慮しちゃだめよ♪」
「むぎゅぅ〜〜や、やめろよっ!!」
 遠慮しないのはどっちなのか、カリューナは大樹が一瞬ほっとした隙を突いて抱きしめた。
 そのとき小屋の外から鳥のさえずりが聞こえた。
 そっと大樹を放したカリューナは、それに答えるように口笛を吹いた。まるで本物の鳥と錯覚してしまう程の音色である。
「さ、待っていた人が来たわ」
 カリューナは二人に出発を告げドアに手をかけた。

 おどけながらも目の奥には絶えず真剣な色が光り、仲間の合図と分かりながらもドアの外へ急に全身をさらさない。
 それでいてそんなそぶりを感じさせないさりげない動きにユンは一人関心していた。
 この姐さん、かなりやるなぁ。もしかして……兄さん並かも。
 ふとユンの脳裏にレオンの姿が浮かんだ。


「へっくしっ!!あー悪い悪い、続けてくれ」
 年少組が抜け、落ち着きが戻ったバジール邸では、バジールの用意した資料をもとに一同が説明を受ける所であった。
 間の悪いところでくしゃみが出たレオンは鼻を啜りながら先を促した。

「はい。えーっと、私はニルス領主という役の他にここロシュナ州内の不正を監視する任を承っております」
「ほぉ……州には州侯とやらもいるんだろ?そのトップを差し置いて一介の領主であるバジールさんが抜擢とは大したものだな」
 驚いた表情を見せた葉だったがその裏に、監視は密命でありその対象は誰だ、という含みがあった。
「……葉くんの察する通りです。私は陛下の密命によりメントスを監視しています」
 バジールは自分より十以上若い葉の洞察力に舌を巻いた。
 同席するキリア、レオンの表情にも驚きと感心の混じった色が浮かんでいた。

 春樹は他の四人に遅れを取らないよう懸命に頭の中で状況を整理していた。
 案外、葉兄が大樹を預けてきたのは正解かも……
 静かな部屋でスムーズに流れる言葉のやり取りに春樹はしみじみと思った。

「メントス、と言うことは――総督府関係も監視対象だな?」
「はい。密輸や密売、あらゆる汚れた金を洗浄するのに関わっていると私は見ています」
「しかしなかなか尻尾をださない。そうだろう?フォルナリー卿」
「はい……残念ながら」
 痛いところをキリアに突かれたバジールは力なく笑った。
「概要は分かった。それで俺達は具体的に何をする?」
「葉、やる気がでたな。少年義賊チームがチャンを探る間、俺と一緒に総督府をあたるぞ」
 無愛想な返事ながら葉は同意を示した。
「いいだろう。私は春樹とバジールとともにここで情報を整理しておこう。まぁ、バジールの手の者が探っても何もつかめなかったんだ。気取られて台無しにしないようにな」
 ふぅ、と息を吐いたキリアは軽い皮肉を加えてレオンの案に賛成した。


 カリューナの同士の案内で三人はメントス市内の教会にたどり着いた。
 入り組んだ路地にポツリと建つ教会は、外壁のいたるところに蔦が生え、くすんだガラスから見える中は不気味なほど静まり返っている。

「さ、しばらくはここが隠れ家よ」
 薄らとこけの生えた三段の石段をのぼり、扉に手をかけたところでカリューナはふと後ろを振り返った。
 不思議そう首を傾げるユンの後ろで大樹が何やらそわそわと落ち着かないでいた。
「大樹くん、どうしたの?」
「う……ん………」
「トイレなら中にあるわよ?」
 カリューナの問いかけにも曖昧にうなるだけだった。
 うーん……どこか具合でも悪いのかしら?

 大樹の頭の中にはいつの日か家で見てしまったホラー映画のワンシーンが浮かんでいた。
 うわぁ……どうしよう?もし……地下に棺桶なんかがあったら――
「大樹くん、行くよ?」
「う゛……うん」
 ユンに呼びかけられてビクっと体を震わせた大樹は歯切れの悪い返事をした。
 何びびってんだよっ!オレは!!
 ユンはともかく、あの姐さんに悟られてはならない。
 心を決めた大樹はごくりと唾を飲み込んで薄暗い教会の中へ足を踏み出した。

「大樹くーん♪怖がらなくても大丈夫よんv」
 その第一歩で転びそうになった。
「んなっ!?こ、怖がってない!!」
 強がってみたものの、上ずっていた声にカリューナはさらにくすくすと笑う。
「お化けなんて出ないわよ。あ、それでも心配なら私が一緒に寝てあげよっか?もちろんユン君もv」
「「……お断りします」」
 ユンと大樹の声が見事に重なった。

「相変わらずだなぁ、姐さんよぉ」
 薄明かりの灯る教会の奥から気だるそうな声が響いてきた。
「全く、教会の中でそんな事していいと思ってるの?」
「へっへっ……これも神からの贈り物さ」
「それで神父だなんて聞いてあきれるわ」
 カリューナの後に続いた二人の目には、神像をバックに祭壇で豪気に紫煙を吐きながら美味そうに葡萄酒を呷る若い男が映った。
 前の肌蹴た神官服にボサボサの茶髪、とろんとしたやる気のない目は神に仕えるものとしてあるまじき姿である。
「で、その子らは?また街で買ったのか?」
「ちょっとー人聞きの悪い事言わないでくれる?あたしが誤解されるじゃない、ねぇ?」
 突然同意を求められた二人は、あながち外れではないので曖昧に笑って返事を濁した。
「一応、紹介しとくわ。彼は私の仲間、リポ・カレデラよ」





最後に名前…誰!?
突然出てきた変なお兄さんですけど――お願いします(丸投げ!

21 行動開始!?(BYあずさ) 

2007年10月27日(土) 18時20分
 葉が戻ってくるのを見た春樹はとっさに立ち上がった。それに気づいた彼も、ふと顔を上げて「よお」などと言ってのける。あまりにも普段と変わらなく、その場にいた者は何となく拍子抜けしたほどだ。

「葉兄……大丈夫だった?」
「あー……ま、ボチボチ」

 曖昧に答えた彼はガリガリと頭を掻いた。それがいかにも面倒そうで、何か一悶着あったのだろうかと春樹は心配になる。だが無事に帰ってこれたのは何よりで、ホッと息を吐くに留めた。
 しかしただ安心などしていられない。時間は刻々と減っている。
 それを一番しっかりと把握し、かつ気にしてくれているのはキリアなのかもしれない。彼女は難しい顔をして葉を見た。

「どうだったんだ?」
「話によると怪しいのはチャンの組、らしい。そこを探ってもらえることになった。『2、3日後に私からバジールのところに行くから』だと」

 彼が伝えたのはひどく短いものの、端的な内容であった。それを聞いたキリア、レオンはふむと思案にふける。バジールは自分の名が出たことに少々驚いていたようだった。曖昧な表情で、しかししっかりと「わかりました」とうなずいた。
 ふと、レオンが顔を上げる。

「チャン……チャン・ミシク、か?」
「レオンさん、知ってるんですか?」
「いや、そう詳しいわけじゃないんだけどな。確か総督と繋がりがあったような気がしたんだが」
「こちらでも出来る限りは調べてみましょう。カリューナに及ぶとは思いませんが、何かしないと落ち着きません」

 苦笑気味にバジールが言い、マルケに指示を出す。マルケは厳かにうなずいて部屋を後にした。
 それを見送っていた春樹は不意に違和感に気づく。静かすぎる。そして真面目すぎる。普段だったらこうはいかない。

「あ、れ? 大樹は?」

 周りを見るが彼の姿はどこにもない。さらに言うならユンの姿も見当たらなかった。

「あいつらなら葉が戻ってくるまで近くで遊んでくるとか言ってたぜ?」
「――カリューナのとこにお泊りだよ」

 首を傾げたレオンの後に、ぼそりと呟かれた葉の言葉。それは一同の思考を停止させるのに充分な響きを持っていた。

「「「……は?」」」
「だから、お泊り」
「いや、待ってよ葉兄! どーゆうこと!?」

 何がどうなってそんな訳のわからない事態になっているのか。春樹は慌てて葉に詰め寄った。一方、キリアは額に手をつき、レオンは「やるなぁ」などと呟いている。バジールに至ってはポカンと口を開けたまま驚き固まっているようだ。
 葉は低く唸った。肩をすくめる。

「あいつら、俺のとこについてきててな」
「え゛っ」
「一緒にカリューナと話してたんだが、カリューナがあの二人を気に入っちまって」
「は!?」
「だから置いてきた」
「いや、『だから』じゃないでしょだからじゃ!」

 思わずハリセンで引っ叩く、――が片手で止められた。春樹は少々ムッとする。ただでさえとんでもないことになっているのだから、せめてツッコミくらいさせてほしい。そうでないとこちらもストレスが溜まる一方だ。

「何とかなるだろ、それにこっちはこっちで動くならその方がスムーズだ」
「……心配じゃないのか?」
「俺の弟はやたら運がいいからな」

 怪訝に尋ねたキリアに、葉はあっさりと答えてみせる。キリアもそれ以上聞くのは無駄だと思ったらしい。曖昧に口を閉ざした。

「ところで」

 向き直った彼は、やや真面目な表情をしていた。口調にもふざけたものがなくなる。

「チャンとやらの方はカリューナが調べてくれるだろ。その間は2、3日。こっちでやれることは何かねぇのか?」

 面倒だが時間は無駄にしたくねぇ、そう告げた葉にレオンが目を細めた。

「そう、だな……それくらいの時間だと――」





 一方、お泊りになってしまった二人組はというと。

「大樹くーん? 大丈夫?」

 ――何やら大樹が思い切りいじけていた。ムスっとした顔でふてくされている。ユンが話しかけてもむくれたまま「あー」だの「うー」だのしか返さない。よほどショックが大きかったらしい。
 それを見ていたカリューナはクスクスと笑う。ものすごく楽しげでご満悦のようだ。
 ユンは残っていたクッキーをつまみ、紅茶で流し込んでから彼女を見つめた。

「んーと、結局何で僕たちは残されたのかな?」
「あら、言ったでしょ? 可愛い子がほしかったのよ♪ お姉さんワクワクしちゃう」

 うふふ、と声を上げる彼女の表情は確かにワクワクしている。それを見た大樹は後退ったようだが、ユンは慣れているのでそう気にならなかった。可愛いって罪だなぁ、などと呑気に思う。

「でも、お姉さんは調べ物をするんだよね? その間、僕たちは何もすることがないと思うんだけど」
「暇は嫌い?」
「楽しいことが好きだよ」
「そう」

 やや見当違いな返事をしたというのに、カリューナは気にした様子がない。わかってはいたが一筋縄ではいかないようだ。ユンも少しばかり舌を巻いた。可愛がってあげると言っていたし自分たちには甘くしてくれるかもと思ったが、あまり油断はしない方がいいのかもしれない。

「そうね……なら、ワクワクすることは好き?」
「? うん、そうだね」
「大樹くんは?」
「…………」
「だ・い・きくんっ♪ 返事しないと食べちゃうわよぅ?」
「!!」

 にっこりした表情で言ったというのに、大樹は思い切りビビッたらしい。ずさっとユンの後ろまで逃げてきた。

「さ、ワクワクすることは好き?」
「す、好きだけどっ……」
「もう、そんなに怯えないでよ。まあいいわ。合格ね」

 軽く頬を膨らませながらも一人でうなずくカリューナ。その姿も何だかんだいって美しいのだが、ユンと大樹には「合格」の方が気になった。顔を見合わせる。

「合格って……」
「二人も一緒に偵察に行きましょ♪」
「ええ!?」
「え、本当?」

 思いがけない誘いだ。大樹はポカンとしている。だがユンはすでに半分乗り気であった。ただ待っているだけよりずっと楽しそうだ。それに自分で見た方が得られる情報も多い。

「後で私の部下を呼ぶから。一緒に行きましょう。きっとワクワクするわよ?」
「行く」
「あら、即決なんていい子♪ やっぱり好みだわー」

 うふふとカリューナはまたしても笑う。ユンは曖昧に笑った。首を傾げて大樹を見やる。

「大樹くんはどうする?」
「お、オレも行くっ」

 その返事は何だか慌てていておかしかった。ユンが笑えば、大樹は何だよとばかりに口を尖らせる。やはり反応がわかりやすい。

「決定ね! それじゃ……」

 笑ってにじり寄ってくるカリューナ。二人は嫌なものを感じ、互いに顔を見合わせた。目が「怖くねぇ?」「そうだねぇ」と語り合っている。
 じりじりと二人を壁際まで追いつめたカリューナはにっこりと綺麗な笑みを浮かべた。

「偵察に行くなら、変装は必要じゃない?」
「え……」
「何っ、ちょ、わぁああ脱がすなーっ!」



カリューナさんがどんどん変になっていく……?
すいません、バトンタッチですー。

20 あなたのお願いかなえます?(by あずみ 

2007年09月21日(金) 23時31分
「久しぶりの呼び出しでわくわくしてたのにそんな話なのね。
初めに断っておくけど私は盗ってないからね」
 ようやくユンを離したカリューナは、穏やかな口調ながら隙のない眼光で葉を見つめた。
「ああ。それは聞いた。貧乏人からは何も盗らないと」
「うふっ、それって何気にひどくない?一応バジールもここの領主なのよ」
 カリューナはまるで自分の弟のようにバジールと親しげに呼んだ。

「なぁなぁ!バジール兄ちゃんの家って姉ちゃんがプレゼントしたんだよな?」
 口を塞いでいた葉の手がゆるんだとたん大樹はするりと抜け出した。
 カリューナはええ、と微笑を浮かべながら答えた。
「バジールは嫌がったけど、一応ここの頭なんだから少しは見栄え良くしないとね」
「じゃあさ!その……お金とか高そうな金ピカな物はどっから――」
「うふふっ♪だーいき君、それはヒ・ミ・ツ♪」
 大樹の開きかけた口にそっと人差し指を当てながらカリューナはハートマークが飛び出しそうなウィンクを送った。
「ふわぁっ……!」
 大樹もその仕草にぽっと頬を赤くした。

「………おい、本題に戻していいか?」
 大樹の口を塞いでいた手を緩めてしまったことを後悔しつつ、蚊帳の外状態の葉は不機嫌そうに言った。
「あら!ごめんなさーい。あっ♪でもあなたの不機嫌そうな顔って意外とセクシーねっ」
「うぇっ!姉ちゃんソレってマジで言ってんー――むぐぐっ!!」 ますます酷くなる頭痛を堪え、再び話がそれないように大樹の口を塞いだ葉はきつとカリューナを睨みつけた。
 その表情はとても18の若者とは思えない凄味があった。
「ふふっ……あなた、ただガラの悪いお兄ちゃんってだけじゃないわね。
いいわ。話を聞くわ。それに……単にバジールの鏡ってわけでもなさそうだしね」
 そう言ってカリューナは興味深そうに微笑を浮かべた。


 自分達の事、鏡が消えた経緯、バジールとの関係などこれまでの事を一通り話し尽した葉は気だるそうに息を吐いた。
「……ふーん。あなた達他所の世界の人なんだ」
「姉ちゃん驚かないの?」
「あら?これくらいの事で驚いてちゃあこの世界で生きていけないわよ。
ま、この世には人知では計れない奇想天外な事があるってことね」
 ちょっと息抜きとばかりにカリューナは大樹に微笑んだ。
「でんちでははかれない何?」
「チビ樹」
 再び脱線の気配を察知した葉は大樹をひと睨みした。
 その光景を見ていたユンがクスリと笑った。
「で、私への用は?」
 この言葉を引き出すまでどんなにめんどくさかったか……
 葉はここからが重要だとさらに気を引き締めた。
「物を盗るからには探すのも得意と見込んで鏡を探すのに力を貸してほしい」
「その言い方、少し棘がない?」
「ほう、わかるか?」
 お互い微笑を浮かべているが、目は笑っていなかった。
「葉兄……!」
 高まりつつある不穏な空気に大樹はおろおろと落ち着かなくなり、ユンは相変わらずニコニコと眺めていた。

「いいわ。お姉さまが協力してあげる」
「それはよかった」
「でも、1つ条件があるわ」
 張りつめた空気が緩んだのも束の間、再び一同の注目がカリューナに集まった。
「ふっ……義賊ってのは困った人を助けるんじゃないのか?」
「そうだけど、それだけじゃあ仕事として成り立たないじゃない♪」
「まぁ、奇麗事だけでは生きていけないってわけだな」
 その通りと、カリューナと葉はここにきて意見の合致をみた。
「で、その条件は?」
「あのねぇ……」
 なにやら恥ずかしそうに口をもごもごさせたカリューナは頬をほのかに赤くしながらユンと大樹を見やった。
「ユン……なんかやーな感じしねぇ?」
「うん……」
 ハートたっぷりな熱い視線を向けられている少年2人は視線の方向をなるべく意識しないよう頷きあった。
「あの2人を私に―――」
「いいぜ」
 即答。
「へ?」
 カリューナだけでなく展開を気にしていた少年2人もあまりの即決に反応できないでいた。
「ちょ、ちょっと!葉兄〜〜」
「うーん、一応姉さんに伝えといたほうがいいのかなぁ?」
「ユン!違うだろ!―――むぎゅっ!」
「きゃ〜〜うれし〜♪こんなかわいい子2人ももらえるなんて!」
「ちょっ――うぷっ!姉ちゃん!はな―――」
 既に大樹の言葉も耳に入らない様子のカリューナは、両手にユンと大樹を抱きしめて飛び上がらんばかりに歓喜の声をあげた。

「さて、そっちの条件は飲んだぜ。仕事の話に戻ろう」
 決断を下した当人は全く責任を感じていないさばさばとした声で言った。
「そうね。じゃ、2人とも後でたっぷりかわいがってあげるから待っててね♪」
「葉兄!!!」
「チビ樹、静かにしてろ。で、どうする?」
 葉はちらっと大樹を一瞥しただけですぐさま視線を戻した。
「えーっと、確かメントスって言ったわよね?鏡がなくなったのは」
「ああ」
「だとしたらチャンの組が怪しいわね」
「じゃあそこを探ってくれるか?」
「いいわ。じゃあ2、3日後に私からバジールのところに行くから」
「頼む」
 後ろできゃんきゃんと声をあげる大樹がいないかのように2人の会話は淡々と進められた。
「ふっ……それにしてもあなたがこうも話が分かる兄さんとは思わなかったわ。今後ともいい関係でいたいわ」
「そっちは好きな物を、こっちは役立つ情報と厄介払いができたんだから文句ないさ。今後ともってのは遠慮しとくけどな」
 そう言って葉は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
 後ろから大樹が鬼、悪魔と叫んでいるのを全く無視して。
「じゃ、2人ともお行儀良くしてろよ」
 そう言って葉は本当に2人を置いて小屋の外へ消えていった。






大変遅くなりました…(汗
しかもまたやらかした感……

19.お茶会はこちら(BYあずさ) 

2007年08月11日(土) 14時06分
「……おまえら」

 すごすごと出てきた二人の姿を見、葉はギロリと目を細くした。
 カリューナに捕えられているせいで苦しいのはこちらのはずだが、大樹が思い切りビクリと後退る。隣に立つユンは退くことはなかったものの、参ったなぁとでも言いたげに苦笑いを浮かべていた。
 ――全く。参ったのはこっちだというのに。

「素直に出てきたのは良い子ね、坊やたち。……二人も私に何か用かしら」

 二人がきちんと出てきたせいか、カリューナの口調には再び甘いものが戻り始めていた。だが目つきは変わらない。
 ユンと大樹はどうしたものかと顔を見合わせている。

「正直に言わないと、この坊やが大変なことになるわよ?」

 鋭い目つきは、獲物を狩るソレ。
 葉は細く小さく息を吐いた。決して余裕のあるわけでない。だが吐かずにはいられなかったのだ。
 ユンの方はよくわからないが、大樹には彼女に勝てるほどの力などない。

(面倒くせぇ)

「言えないの?」

 何が面白いのか、口を歪めて笑う彼女。力が徐々に入る指先。

「葉にっ……!」

 不安そうに上げられた声に、葉はあえて反応しなかった。代わりに目の前の相手を見やる。

「なぁ、義賊さんよ」
「何かしら」

 喋ることに関しては許してくれるらしい。わざわざ指を緩めてくれたところからもそれは察することが出来た。単に攻撃的なのではない。警戒しているのはあちらも同じなのだ。
 だが――……やられっ放しでいいものか。
 葉は一度息をつき、ふいに口調を変えた。軽々しく、ふざけてさえいるように。

「子供の前でこんな体勢、教育的に良くないんじゃねぇか?」
「ふふ、子供だって大人になるのよ。いい機会じゃない」
「色々教えてくれるってか」
「でも私、どうせ教えるならもっと可愛い子がいいわね♪」
「可愛くなくて悪かったな。それを言うなら俺だって」

 一瞬身体の力を抜き、すぐさま勢いよく両手を上げた。右足で相手の足をロック、左膝を立てる。腰の力を利用し、相手と体勢を入れ替え――だが、自分が馬乗りになるまではいかなかった。
 カリューナは素早い身のこなしで抜け出し、距離を取る。表情にはまだ余裕。口元が笑みで歪んでいる。

「乗られるより、乗る方が好きってことかしら?」
「そうなるな」
「まあ、私はどちらでも良いんだけど」

 小さく笑った彼女は一気に距離を縮め、

「待ったぁ!!」

 突然の邪魔に、ふいに動きを止めた。

「あら……」
「チビ樹?」

 二人の間にすごい勢いで割り込んできたのは大樹だった。思い切り両手を広げ、懸命にカリューナを見上げている。葉からその表情は見えないが、声音からすると珍しく(いや、彼自身はいつでもそのつもりなのだろうが)真剣な表情なのだろう。

「あ……あのさ! 葉兄は悪くねぇんだ! オレとユンが勝手に黙ってついてきただけでっ……そんなに怒ると思わなかったし、その、興味あったから! だから、葉兄は悪くねぇから! 葉兄を怒んないでくれよっ! オレ、謝るし……!」

 怖くないわけはない、はずだ。だが彼から感じるのは恐怖よりも焦り。
 焦る余り、自分でも何を言っているのかあまりわかっていないのだろう。それでも大樹はたどたどしく必死に言葉を紡いでいく。その後ろからユンもゆっくり歩み寄ってきた。彼はいつもの笑顔を、ほんの少しだけ苦笑に変えて。

「うん、大樹くんの言う通りだよ。僕たちが悪かったんだ。お姉さん、ごめんね」

 言い、ぺこりと頭を下げる。大樹も慌ててそれに倣った。
 拍子抜けした気分で葉はそれらを見やり、カリューナもまた興味深そうにじっと二人のことを見つめている。
 それから彼女は、クスクスと楽しげに笑い出した。その表情は先ほどまでとは一転して明るいものだ。

「まあ、いいわ」
「え!?」
「坊やたちに免じて許してあげる♪」

 にっこり笑ったカリューナに、顔を輝かせる二人。葉はますます複雑な気分で頭を掻いた。――やれやれ、だ。

(ガキには振り回されてばかりだな)

 結果的に彼らのおかげで助かったもののようだが、元を正せば彼らのせいでこうなったのだ。素直に礼を言う気にはなれなかった。仕方なく葉は、側にいた大樹の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと掻き乱してやる。

「ぅお!? いてっ、ででで!?」
「それで? 結局俺たちは三人で話をしてもいいのか?」
「そうね。せっかくだからお茶も淹れましょう♪ 可愛い子にはちゃんともてなしてあげなくちゃ」
「オレは可愛くな、い゛、痛いってば葉兄ー!?」
「えへへ、やったぁ♪」

 やはり「可愛い」に対し正反対の反応を見せる二人を見つつ、葉はカリューナのあからさまな態度の違いに肩をすくめるしかなかったのだった。


18 妖艶義賊とデート(by あずみ) 

2007年06月14日(木) 0時06分
「「デート!?」」
 ユンと大樹の声が同時に食堂内へ響いた。
「葉兄、それはちょっと要約しすぎ……」
 横から春樹が苦笑いを浮かべて言った。

「まぁ、葉の言うことも間違ってはいないな」
 読み終えた手紙をテーブルに置いたレオンが口を開いた。
「どういうこと?」
「うむ。向こうに会いたいという意は伝わった。手紙にはその条件が書いてあったのさ」
「つまり……1人で、武器を持たずに来いってことだね?」
 ユンは待ちきれずレオンの言葉を先読みした。
「そんなところだ」
「なぁ、なぁ!それで誰が行くんだ?」
 ユンの横から、大樹が今にも俺が行くと言い出しそうに目を輝かせて一同を見渡した。

「今日は察しがいいな、大樹」
 寝不足なのか、不機嫌そうにキリアがちらりと大樹を見やった。
 そんな事はお構いなしに大樹は嬉しそうにうんうんと頷いた。
「さて、誰が会いに行く?」
 レオンの声が合図のようにユンと大樹の手がすぐさま反応する。
「ユンと大樹以外でだ」
 ユン、大樹に劣らぬ速さでキリアが釘を刺した。
「えっ!?」
「ちょ、ちょっと!!キリア姉ぇ〜〜」
 半ば手をあげかけていたユンと大樹は同時に不満の声をあげた。
「兄さん!」
「レオ兄!」
「………すまんな」
 2人のすがるような視線を受けたレオンは気まずそうに顔をそらした。

「まぁ、俺とキリアのどっちかが行ってもいいんだが………身分がばれると余計な警戒を与えてしまうだろう。
となると――――春樹、葉のどちらかになる」
「はい……」
「………めんどくせぇ流れになってきたな」
 どちらかとは言ったがレオンの目は既に決まっていると言うように動かなかった。




「結局こうなっちまったか……めんどくせぇ」
 待ち合わせに指定された噴水のある小さな公園に着いた葉は、噴水の北にある木陰のかかったベンチへふてくされたように座った。
 公園は義賊とは全く縁の無いほどおそろしくのどかであった。
 涼しげな噴水の音や風で揺れる木の音を後ろに、大樹よりも小さな子供達がきゃっきゃと笑い声を上げながら駆け抜け、散歩途中の老人が遠慮なく葉の隣へ腰掛けてきた。
「今日もいい天気じゃのぉ」
「……あぁ」
「待ち人かね?」
「そうだ」
「そうかそうか。ではいい一日をな、若い者!」

 全く……ここには年寄りとガキしかいないのか!?
 姿は見れば分かると書いてあったが―――カリューナとか言う賊ももしかしたらばあさんなのかもしれんな。

 5人目の老婆がベンチを立ったところで葉は苛立たしげにのどかな公園を見渡した。
 と、そのとき風にのって甘い香が漂ってきた。それは周囲の草木の香とは違っていた。
 はっとして振り返るとその香の主は既に背後に立っていた。

「ごきげんよう。お隣よろしくて?」
 女性は茶目っ気たっぷりなウィンクを添えて誘いかけるように言った。
 血のような真っ赤なルージュをつけ、男女問わずすれ違う者が思わず振り返るほどの美貌だが、どこか妖艶な空気を纏っていた。
「……あ、あぁ」
「どうも♪カリューナ・ティロン、慈善事業してます」
 呆気に取られていた葉は唐突に差し出された手を慌てて握った。
 
 手紙に記されていた通り、カリューナの格好はどこに居ても一目瞭然な姿であった。
 今にもフラメンコの曲が流れてきそうな胸の開いた緋色のドレスで、スリットからは細くしなやかな脚をちらりと覗かせている。

「どうかしまして?」
「い、いや……」
「あら♪ちょっと若い子には刺激が強すぎる格好だったかしら?わたしはてっきりバジールが来ると思ってたのよ」
「俺の方が用件を説明しやすいんだ」
「そう。じゃ、いきましょうか坊や♪」
 断る事の出来ない魔術のようなウィンクに誘われるように葉はカリューナの後に続いた。

「すっげーー♪ちょー美人じゃん!」
「しーっ!声が大きいよ。気づかれないように追うよ」
「おぅ!」
 カリューナと葉が立ち去った後、ベンチ近くの茂みから2つの影が動いた。



 公園から出た後、葉とカリューナは市中の裏路地や表通りの同じ道をぐるぐる歩きつづけていた。
 3度目に市場の果物屋の前に差しかかった時、葉は我慢できずに足を止めた。
「どうしたの?」
「……どうしたの?じゃないだろう。一体どういうつもりだ?」
 いらだって凄む葉に対してカリューナは涼しげな顔でなにやら考えていたが、やがてふっと形のいい唇を緩めた。
「もうちょっとデートに付き合ってもらおうと思ったけど……そろそろいいわね。わかったわ、ちゃんと案内するわ」
 相変わらずつかみ所のない笑みを浮かべるカリューナだったが、ブルーの瞳の奥が鋭い光に変わった。

17.朝のひと時(BYあずさ) 

2007年05月30日(水) 20時39分
 朝、珍しく一人で目が覚めた。
 とはいえそれは決して爽やかなわけでもなく、ただただぼんやり眠りから引き離されてしまったようなもの。
 だから眠気は引き続き体中に残っていて、大樹はもぞもぞとベッドの中で寝返りを打った。
 頭が上手く働かない。心なし体が重い。

(うー……今何時、……ん?)

 違和感。
 何やらいつもとシーツの感覚が違うような。
 さらにいえばたくさん寝返りを打ったのに、壁に当たるのに時間がかかったような。

(あ、れ? うん?)

 まだ眠い。けど、何かおかしい。
 大樹は目を開けようか開けまいか奇妙なことを悩みながら、今度は反対へ寝返った。
 と。

 ぎゅむ。

 …………。
 …………。

 何かに、ぶつかった。

「――って、ユン!」

 ようやく飛び起きた大樹が目にしたのは、一人の少年。
 それは昨日出会ったユンであり。
 今になって自分が異世界にいること、帰るためには鏡を見つけなければいけないことを思い出した。
 しかしなぜ彼が一緒に寝ているのか。ここは――ああ、そっか眠いからと部屋に連れてきてもらったんだっけ。

 一人でグルグル混乱していると、ふいにユンが身じろいだ。
 目を覚まし、こちらを見た彼はにこりと笑う。きっと女の子はこういう表情に騒ぐのだろう。寝起きだというのになかなかサービス精神が旺盛だ。
 ――大樹は訳のわからない感想ばかりを抱いたが、混乱したままなのだから仕方ない。
 そんな大樹をよそに、ユンはむくりと起き上がる。表情はあどけないのに、ふとした動作は気品が感じられた。

「大樹くん、おはよー」
「へっ? お、おう……はよ。何でユンがここにいるんだ?」
「一緒に寝たいなぁと思って♪」
「だってベッド、隣にあるのに」

 そう。ユンはなぜか、大樹の寝ていたベッドに潜り込んでいたのだ。大樹が驚くのも無理はなかった。
 しかしユンはあっさり笑う。当たり前だとでも言いたげに。

「だって少し寒かったから。二人で寝た方が温かいよ?」
「あ、そっか。それもそーだな!」

 ――これで納得してしまう大樹も大樹だ。
 ともかく、一度納得してしまえば特に気にすることでもない。それより今後の行動の方が気になった。
 大樹はベッドから一旦抜け出し、改めて掛け布団の上から座る。その方が動きやすいからだ。


「な、な。結局昨日はどーなったんだ?」
「そうだね。面白いことになりそうだよ」

 クスクスと笑うユン。それは興味を引くのに十分な効果で。
 焦れたように「教えてくれよ」と言えば、彼は「どうしようかなー?」などとはぐらかす。予想外の反応だ。

「そんなぁ!?」
「あはは、知りたい?」
「当たり前だろっ。いいじゃん、教えてくれってば!」
「うーん、でもなぁ」
「ユーンーっ」
「大事なことだしなぁ〜」
「う〜っ……んじゃ一回、何でもゆーこと聞くからさ! な!?」

 意気込むと、しばし迷った様子を見せていた彼は小さく吹き出した。堪え切れなかった笑い声がクスクスと零れ落ちていく。どうやら単にからかっていたらしい。

「……ユン」
「あは、ごめんごめん」

 低くジト目で見やった自分に彼は笑い、簡単に昨日の話をまとめてくれた。
 カリューナという義賊がいること。彼女に助けを頼むことになったこと。ついでに、この屋敷は彼女の資金により改装されたこと。そして赤羽の矢のこと。
 それらをしっかり聞き終えた大樹は、ほうと息をついた。
 朝からこんな話を聞くなんて。全く――うずうずしてくるではないか!

「すっげー、かっけぇ! いいな、オレもカリューナって奴に会いたい!」
「会えるんじゃないかな? バジール兄さんが矢を門の前に立てておくって言ってたし。約束通りに事が運ぶなら、きっと僕らも会えると思うよ」
「うっわードキドキするなっ」
「うん、そうだね」

二人は互いに顔を見合わせ、思わず笑い合った。








 意外と早く起きたのだが、準備にモタモタしていたからだろうか。
 例の食事場へ大樹とユンが向かった頃には、もうみんな集まっていた。
 おはよう、とユンが声をかければパラパラと返事が返ってくる。
 しかし少しだけその声たちには勢いがなかった。
 食事もきれいに並べられているが誰も手をつけていない。
 それは少しだけ異様な空気に感じられた。自然と二人の気持ちもはやる。

「どうしたの?」
「手紙が来てたんだ」

 首を傾げたユンに、レオンが簡潔に述べる。声はやや潜められているが、その表情はやけに楽しげだ。

「手紙、って」

 きょとんと目を丸くした大樹に、葉が肩をすくめる。
 彼は手紙へ集中しているみんなの代わりに口を開いた。
 まるで今日の天気を答えるかのようにあっさりと。

「女盗賊さんから、デートのお誘いだ」



ものっそい遅れて申し訳ありませんーっ!!
レポートやらに忙殺されておりました(げふり)
ようやく再開ですww
それにしても葉兄、デートって;;もう少し言い方があるであろうに!

あまり進展はなかったかもです……うぅ、こんなにお待たせしたのに;;
と、とりあえずバトンタッチですー!

16 夜の座談会(by あずみ) 

2007年05月01日(火) 11時05分
 大樹がベットに入った頃、一同も食堂から応接セットのある客間へ場所を移していた。
「で、これからどうする?とりあえずはまたメントスをあたってみるか?」
 葉の隣に座ったレオンがティーカップを置きながら口を開いた。
「そうなりますね……」
 バジールが硬い表情で答えた。
「そうか。だがどう転んでもあのおっさんが協力するとは思わないよな、葉?」
「ああ。とは言え、一つ一つ倉庫街をあたるのも時間はない……」
「そうだよねぇ。あんな広いとこ探すのって疲れるもん。そう言う世界の知り合いっていないの?」
 レオンの横に座るユンは足をぷらぷらさせながらビスケットをかじっていた。
「うーん……さすがにこの辺りまではなぁ。総督府関係なら多少はいるが……総督がアレだからなぁ………」
「私も同じだな。フォルナリー卿だけだなこの辺りで頼れるのは」
「えっ!?……あ、ありがとうございます!」
 突然のキリアの言葉にバジールは少し照れくさそうに笑みを浮かべた。

「皆さんに頼られてそれに応えられる、とは言い難いのですが……1つだけその手の者のあてがあります」
 5人に見つめられたバジールは遠慮がちに言った。
「それは助かる」
「いえ……」
 関心を寄せた葉にバジールは申し訳なさそうにただし、と付け加えた。
「そいつはカリューナ・ティロンという女で義賊を語っています……」
「へぇ、女性で義賊ってかっこいいじゃん!」
 早くも好奇心をそそられる匂いを感じ取ったユンが目を輝かせていた。
「それは………私に言わせれば義賊とは名ばかりの泥棒ですよ」
「ほぅ、女盗賊か。それはそれで興味深いな、葉」
「確かに」
「レオン様、葉くんまで……」
 本題からそれたところに食いつかれたバジールは困惑の色を浮かべた。

「フォルナリー卿、馬鹿はほっといて続きを頼む」
「は、はぁ……」
「えっと、バジールさん。その女性はどういう方なんですか?」
 夕食からキリアの側になっている春樹が言った。
「そうですね、私も会ったのは数えるほどですが、彼女は豪商や私腹を肥やす役人を狙って盗みを行っています。
弱い者からは決して盗らずに分け与え、決して人を殺めない。という掟を自らに課しているようです」
「なるほど。民衆から人気がありそうだな。盗賊ではあるがなかなかの者だな」
 キリアも少し関心したように頷いた。

「バジールさん、あまり良い思いは抱いてないようだな?」
 真剣な表情に戻った葉が聞いた。
「え!?もしかしてバジール兄さんも被害に遭ったとか?」
 早くもバジール兄さんと呼び始めたユンが驚いたようにバジールの顔を見た。
「……いえ。それが逆で――」
「逆?」
「はい……」
 首を傾げる一同を見渡し、バジールは一息吐いて続けた。
「この屋敷はカリューナからの義金で改装したのですよ。前の館があまりに粗末だったのでカリューナから、『これで良い家を建てろ貧乏貴族』という矢ぶみとともにお金が届けられまして」
 バジールは時折恥ずかしそうに目を伏せながら一同へ告げた。
「………」
「すげぇ……」
 ひと間置いて話の内容を飲み込んだ一同は驚きの声をもらした。

「バジール、それでその女盗賊さんとは連絡つくのか?」
「はい……ここで以前カリューナとあったときに彼女が、また会いたければ赤羽の矢を門の前に立て掛けて置けと……」
「それだけですか?」
 あっさりしすぎた答えに春樹はあっけにとられていた。
「んじゃ、試すしかないな」
 レオンは同意を求めるように一同を見渡した。
 誰からも反対の声はあがらず最後にバジールへ視線が向けられた。
「よ、よろしいのですか?相手は盗賊ですよ?そのような者に皆様をお会いさせてもしも………」
「いや、心配無用だフォルナリー卿。そのようなリスクを計算してもこちらには使える手はそれ以外無いだろう?」
「………分かりました。今夜中に赤羽の矢を門の前に立てておきましょう」
 キリアの言葉で決心したバジールは力強く頷いた。

「ま、ということで今夜はそろそろお開きだな。バジール、俺らの部屋まであるのか?」
「ええ。マルケさん、皆さんを部屋まで案内してください」
「かしこまりました。さ、こちらです」
 一同の長話の最中も寝ずに隣室で待機していたマルケは一礼して先を歩いた。

「申し訳ありませんが、1人部屋はキリア様がお使いになりますので男性3人は相部屋になりますがよろしゅうございますか?」
 キリアを案内した後マルケが深ぶかと頭をさげた。
「あぁ。別に気にしないぜ?なぁ、ユン、葉」
「かまわん」
「うん!」
 3人が快く頷くとマルケはほっとしたように穏やかな笑みを浮かべた。
「ではこちら――」
「あ♪ちょっと待って!大樹君のお部屋はどこ?」
「は?――あぁ、あの少年ですね。はい、お隣になります」
 部屋の扉を開けかけたところで声をかけられたマルケは一瞬考えたが、すぐさま丁寧に隣の部屋を示して応えた。
「わーい♪僕、大樹君と寝るね。おやすみぃ〜」
 嬉しそうな笑顔を残して隣の部屋の扉が閉まった。

「……俺らも入ろう」
「あぁ」
「ど、どうぞ」
 呆気にとられていたマルケは慌てて2人を部屋に通した。

「バジール様も変わったお客様をお通ししたものです。……またカリューナさんの義金が必要な事にならなければいいのですが。ふぅ……明日も忙しくなりそうだ」
 静かになった廊下を歩きながら人知れずぼやくマルケだった。




余り進んでない;; みんな寝ちゃってww

15.束の間の休憩?そして…(BYあずさ) 

2007年04月21日(土) 11時50分

 部屋に案内された一同の目の前に、食事はほどなくして運ばれた。
 色とりどりなソレは見た目だけで食欲をそそる。
 先ほどから「腹へった」とうるさい大樹はキラキラと瞳を輝かせんばかりだ。

「うっわー……見たことないものがいっぱいあるぜ!」
「そりゃ世界が違うんだからな」
「何だよ葉兄、じょーちょないぞっ」
「あ? やかましいのはその口か」
「ふぎゃ!? っ、う、〜〜!! ――詰めるなよっ、殺す気かーっ!」
「でも大樹くん、飲み込むの早かったね」
「へへー、頑張ったからな!」
「もっと入るんじゃないか?」
「ちょっ、レオ兄まで何持ってんだよー!?」

 ――食事中は静かに、なんてマナーがこのメンバーで適用されるはずもなく。
 相変わらず兄弟漫才のようなものを繰り広げる大樹と葉。
 それに便乗するかのように笑うユンとレオン。
 対し、冷たい視線を送るものの、呆れて食事に専念する春樹。
 その隣ではキリアも春樹と同じ策をとっていた。
 せっかくだからと共に席についたバジールは、呆気にとられたように目を丸くしている。
 食事は賑やかな方が良いだろうと思っていた彼も、まさかここまで賑やか――否、騒々しくなるとは予想していなかったに違いない。

「皆さん、お元気ですね……」

 大樹たちの方に入る勇気はなかったのか、彼は春樹とキリアの方へ話しかけてきた。
 キリアは「すまない」と肩を落としたい気分で詫びておく。だがバジールは気分を害したわけではないのか、「いいえ」と緩く笑った。

「ただ驚いてしまって。元の世界に戻れないかもしれないというのに、あの元気の良さはすごいものです」
「あ、はは……。多分何も考えていないだけだと思います」

 葉はわからないが、大樹に関してはそうだろう。彼は未来を心配して憂えるよりは、今をひたすら突っ走る奴である。
 それがわかっているのかいないのか、バジールはクスクスと笑いをこぼした。

「けど、暗くなるよりはいいんじゃないですか?」
「そうでしょうか?」
「私も鏡が消えたときは、どうしようか途方に暮れていました。けど……少し、前向きになれそうですから」
「……別の意味で気が重くなることは度々あるけどな」
「う、すいません」

 息を吐いたキリアに、春樹が慌てて頭を下げる。
 彼女は小さく笑った。

「大丈夫だ、……慣れている」
「……慣れて、ですか」

 苦笑気味に繰り返し、ちらりと騒がしい四人へ目をやる。

「お? チビ樹、これ牛乳じゃねーか?」
「んな!? な、何だよっ。飲まねーぞ! ちょ、来るなってば!?」
「? 美味しいから飲んでごらんよ」
「ゆ、ユン……でもオレはちょっと……!」
「好き嫌いは良くないよ?」
「うっ」
「そうそう、好き嫌いしてちゃ背も伸びないしな?」
「レオ兄までー!? ――ひ!? 放せよ葉兄っ!」
「ささ、ぐいっと」
「ぎゃー!?」

 …………。
 …………。

「慣れていいんでしょうかねぇ……」
「……どうだろうな」

 しみじみと呟きあう春樹とキリアに、バジールは苦笑を一つ浮かべておいた。







 こうして賑やかに終わった食事会。
 何はともあれ、料理に文句はなく、また量もしっかり食べ。
 食事が済み食器が片づけられていくと、一同はようやく落ち着くことが出来た。
 ――と、いうのも……。

「……大樹?」

 春樹はちらりと隣の彼へ視線を送った。
 今までで一番「騒音」の原因だった彼が妙に静かだったからだ。
 当の彼はやたら目をこすっている。
 その目はどこかトロンとしていて、先ほどまでの元気強さがない。
 そして。

「……ふあ」

 ――欠伸。
 要するに、大樹は今ものすごく眠いのだ。
 それも仕方ないのだろう。いきなり見知らぬ世界に来てしまい、気の休まる暇もなくあちこちへと移動した。いくら元気が取りえな彼といえども、疲れが溜まらないわけがない。さらに美味しい料理を満腹になるまで食べたのだ。空腹が満たされたなら、次に身体が睡眠を求めるのは自然の原理である。しかも外がもう暗い時間であることが拍車をかける。
 バジールは笑い、後ろへ佇むマルケを見やった。

「部屋を用意しますね。マルケさん、彼を案内してあげてください」
「かしこまりました。――さ、どうぞ」
「んー……」

 マルケに軽く引っ張られるようにして大樹が部屋を出て行く。彼らが出て行くと、部屋はぐっと静かになったような気がした。
 それだけ大樹が騒がしかったということだ。

「さて」

 一息つき、葉がぐるりと周りを見渡す。その瞳は食事のときと違い、やや真剣であった。

「静かになったことだし、落ち着いて話せるわけだが……」
「――そうだな。今後、どう動いていくか決めておく必要がある」
「期限は長くても二週間しかないもんね」

 緊張感があるのかないのか、ユンがニコリと笑う。
 バジールは難しい顔でそれにうなずいた。



た、ただ騒いだだけで終わってしまったよーな!?(汗)
う、はは……けど、そろそろ本格的に彼らも始動ですかねっ?(わくわく
P R
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