
雪はあたたかくなればとけるけれど
雪の季節が巡ってくるごとに
心の中で凝り固まっていくものがある。
いつまで経っても水にならない。
いつまで待っても流れない。
いくら考えたって
いくら泣き叫んだって
「その時」からは絶対に逃げられない。
生きていたことそのものよりも
生きようとしていたことの方が価値があるような気がして
それを自分自身に見せつけながら
僕はただ生きるしか
なくて。
「気がつけば生まれていました」から始まって
いつの間にか
「どうやって生きよう?」に変わる。
間に合わなかった と震えた声が
耳の中に残りつづけて
忙殺の日々を送っていても消えなくて
全く他人事じゃない位置に立つ自分が
そんな自分をどこか諦観してる。
今年は雪がうまくとけない。
いつまでもしがみつくように地面に張りついてて
なくなりそうになったら空から欠片が落ちてくる。
鼻の先が冷たい。

いつ爆発するのか
いつ決壊するのか
教えてくれよ
頼むから
いつ止まる?
頼りない鼓動
いつ消失する?
だんだん遠くなる音の世界
そんなことを
いつも頭のどこかで考えている自分がいる。
昨日 辛いことがあって
だけど目から水が流れてはこなくて
どうしてなんだろうと考えていた。
多分 もう
「いつ?」
という恐怖を彼は感じなくていいんだと思うからで
目に涙をいっぱい浮かべて怯えていたあの表情を思い出すと
この独特で言いようのない 「逃げられない恐怖」から
心がどんどん細くなっていた彼はもう解放されたんだという事に
少しだけ救われるみたいな気持ちが俺のどこかにあるんだなと
思ったりした。
俺も同じと言った時の
淋しげに頷いた顔が浮かんだ。
本当に同じだよと呟く今の自分の隣に彼はいなくて
それを体感したら急に目の前が水っぽく膨らんで
喉がひくついて止められなかった。
止める気も実はなかった。
部屋にひとりだったから。
もっとなにか
言ってあげられる他の言葉はなかったのかと思う。
それで何かが変えられるようなものではないんだけれど。
顔をあげたら朝になっていて
風呂に入って
仕事に行った。
職場では誰も知らない繋がりだから
普通に仕事をした。
溜まっているデスクワークを中心にぱたぱたぱたぱた片づけた。
なるべく他のことを考えないように
貼られたポストイットを引き剥がしてどんどんまるめて黙々と。
それが出来る自分が
感情を折りたたんでおくことに慣れている自分が
周囲に今いるみんなと違う世界にいる証拠みたいな気がして
同僚達がものすごく遠い世界の人達みたいに感じた。
昼を過ぎた頃 随分目眩がして
今日の分に区切りをつけて定時に帰宅した。
置きっぱなしで家を出た朝飲んだコーヒーの
マグが冷え切っている感触がすごく嫌だった。
「耳のかわりにはなれるのに
心臓のかわりにはなれない」 と
いつか泣きながら言っていた人には
昨日の事をどうしても悟られたくなくて
昨日が木曜で 今日が金曜でよかったと思う。
明日の土曜は仕事を入れた。
空はどこにも繋がってなんかいない。

無理と無茶をわざと無視している自分がいる。
それじゃ駄目だとわかっているけれど
そうしていないとどこか自分が自分を赦せない。
今日は昨日より確実に死んでいる。
宗教観も死生観も違うから
他人はどう思っているかわからないけれど
自分の人生は円周ではなく
直線のものじゃないかと思う。
その方がいいと どこか思ってもいる。
「万物は流転する」。
ヘラクレイトスさん
僕も自分の人生を除いてはそう思います。
一瞬前すら今この瞬間とは違う。
秒針に倣って物事は流れている。
物事は確かに何かで繋がっている気がするから。
全てに何かしらの意味があると信じたいから。
「お母様の躾がいいのね」。
年上の女の人に言われた言葉に
どういう意味なのかわからなくて首を傾げたら
「ありがとうとごめんなさいを素直に口に出せる大人は少ない。
男も女も関係なく。
でも他人にばかり言えても駄目。
人にありがとうって言える自分にありがとうを言えるようにならなくちゃ。
あなたみたいな男の子は特に。」
未だにその意味がわからないでいる。
その頃の僕は
自分の身の回りでばたばたと起こり続ける死に
半分麻痺したような気持ちで毎日を過ごしていて
だけど
そういう自分に慣れ始めていた頃でもあって
そしてその人は
僕のそんな環境や状況を知らなくて
もちろん
僕も何も話してはいなくて
夜と朝の境目を何度か一緒に過ごして体温は知っていても
好きな色と嫌いな食べ物ぐらいしか知らなくて。
他に知ろうとも特にしていなくて
意識の奥がただぼんやり霞んでいる毎日で。
昨日 友達と飲んでいたら
「他人に優しい奴が自分に優しいかっていうとそうじゃねぇのな。」
と 肩をばしばし叩かれた時に急に思い出した。
優しさってなんなんだろう。
支離滅裂な独り言を文字にする。
見えないですむ「声」にしないのは
阿呆さ加減を自分に知らしめたいのかもしれん。
俺 なんで酒に酔えないんだろ。
いくら飲んでも酔えない。
意識が朦朧として昨日の自分が思い出せないなんてのは
高熱が出た時と医者に薬飲まされた時ぐらいで
不公平だ。

人間に対する関心が基本的に薄いせいか
この人 やだなーと感じる事が少ない。
友達や身近な人間に言うには 「 極端に少ない 」。
でも 今日 久々にダイレクトに
うーわ苦手だと感じる人に遭遇。
噂には聞いていて 周囲の人間は皆一様に眉間に皺を寄せてその人を語っていて
僕自身は今日初めて本人に会ったんだけれど
・・・・・こーれーはー・・・・・・
心の中で呟く自分が消せなかった。
大抵 なんとかなるのに終始だめだった。
そういう自分が嫌だとも思った。
でもだめだった。
普通に話しているだけなのになんでだろと思いつつ
どうしても「嫌な感じ」が払拭できない。
別に普通に向かい合って話しているだけなのに
どういうわけか。
相手はそれが普通なんだろうし
友達だっているんだろうし
そうやってその年齢まで生きてきたんだし
様々な経験をしているに違いないんだし
自分自身が他人様の事をどうこう言えるほどの人間じゃないのは確かで
でも
だが
しかし
なんだかな。
「 話変わりますけど 響さん ○○の○○に似てるって言われません?」
・・・・・・・・またそれ?
あぁ えぇ と曖昧に受け流そうとしたら
「 相当ですね!驚きました!聞いてはいたんですけどこれほど?ですねえ。
唄えちゃったりします? 振り向かれたりしません?
てことは 親の顔も似てるんですかね?ご兄弟いますか?」
・・・・・・・ウガアァァァァァァァ。
どうなんでしょうと笑ってはぐらかして
仕事の話に無理矢理戻して
最後は何故か手を差し出されたので握手をするという
日本人相手にはあまりない挨拶をして
ではまた と別れた。
ではまた がないことを祈るけど
・・絶対ある 。
戻ると待ってましたとばかりに同僚に聞かれた。
うん と思わず素直に頷いた。
あー じゃ 仕方ないよなー お前がそうなら9割方みんなそうだ
そうですよね そうですよ やっぱりねぇ と
周囲一同が うんうんうんうんと
がくがくがくがく順番に首が折れたのかと思うドミノ倒しみたいな頷き様。
なんかそれもまた嫌だなと思ったけれど否定も出来ず。







