シェイドハンター 〜紅い十字架〜 第6部 

February 04 [Sat], 2006, 15:52
 序章 第6部
 痛い。そう考えるより先に体が動いた。渾身の力を込めて真正面の男に突進。
「すいません・・・スティア様・・・」
 男の左手にはそうてん装填済みの凶器。それは大きな爆音と共に火を吹く。
「・・・・・・」
 男まであと数歩というところで、胸部に新たな衝撃が走る。次に両膝、胸、頭の順に小さな衝撃。前のめりに崩れる少女は細い腕を男の細い足首に絡ませる。しかしそれは次第に力を失っていく。男はうつ伏せに倒れる少女を見、天井を見つめる。
「まだ・・・十四歳だぞ・・・なぜ、こんなにもけなげな少女を・・・。またほんの少し、人間が嫌いになった気がする・・・やよい弥代生・・・おまえの子だろ? どうにかしろよ・・・」
「バレてたか?」
「むろん」
 部屋の隅に視線をやると、そこには不自然に歪んだ空間があった。弥代生と呼ばれた女性は静かにその姿を現した。
「いいのか・・・生き返られちゃっても・・・わたしの娘だぞ・・・」
 肩を竦めながら謙虚に問い掛ける。
「おれはもう、依頼を達成した。確か・・・依頼は、ターゲットの殺害・・・つまりだな、もうおれはスティア様を殺したわけだ・・・分かった?」
 なるほど、と手の平に拳を乗せる弥代生を見ながら赤髪を春風に揺らされている男は目を閉じた。
「もうそろそろ返るとするよ・・・闇の狩人が闇のそうくつ巣窟にいたらおかしいだろ」
 そう言い残して黒いコートをひるがえ翻して窓に吸い込まれるように去って行った。残された少女を見つめながら弥代生は言う。
「おまえが・・・わたしを殺す・・・かぁ・・・ま、わたしは当然の事をしたんだ・・・殺されても悔いは無い」
 風が吹き込む窓を締めながら自らの黒髪を揺らす。
「おまえはわたしを殺す事が出来る・・・唯一無二の・・・この世の全てを変える事の出来る存在なのだから・・・」

シェイドハンター 〜紅い十字架〜 第5部 

February 04 [Sat], 2006, 15:50
 序章 第5部
 ・・・なんで、わたしは今ここで殺されようとしてるの?
「すいませんね、本来のスティア様であれば銃という凶器などには決して触れようとしませんでした・・・あなたは『ヒト』ではない・・・」
 ・・・ちがう、わたしは『ヒト』なの・・・わたしは・・・変異体・・・!
 記憶の底にしまい込んでいたものが鮮明に浮かぶ。四つの水槽、緑色の培養液、壁のスクリーン、自分の生みの親、ここ数ヶ月の人体改造。そして・・・重かったまぶた瞼・・・。
 自分はかつて造られた・・・存在する意味は分からないが、間違いなく自分は造られた・・・一人の女性によって。始めはこんなに美しい容姿ではなかった。この白い肌も、長い黒髪も、開くことの出来るまぶた瞼も、本当は自分の物ではない。スティアと呼ばれる、大富豪という金持ちの娘だと教わった。いや、それだけではない、戦闘の心得や戦傷を負った時の治癒方、暗殺術や射撃術・・・言語力を除いて全てを教わった。だがあの女は、やよい弥代生は教えると同時にわたしのすべて奪った。
 ・・・あの女、複雑・・・でも決めた・・・弥代生がすべてを奪っていったようにわたしもまた、弥代生のすべてを奪ってやる・・・。
「ぁ・・・・・・」
 少女は右手で胸元を抑える。そこから滲む赤い液体。気が付けば男の右手から放たれた弾丸が少女の胸を深く突いていた。至近距離からの発砲。

シェイドハンター 〜紅い十字架〜 第4部 

February 04 [Sat], 2006, 15:47
 序章 第4部
 わたしが・・・存在する理由。それは、とても簡単な事・・・だけど・・・思い出せない。
 男は少女の心境に気が付いている。気付いているからこそ、依然として笑みを崩さずに少女の様子をうかがっている。
「さぁ、どう行動を起こしますか・・・キミの行動によっては必然的に消滅して頂きますが・・・むろん、僕の手でね」
 二丁拳銃のロックを外し、スライドを引く。次の瞬間から男の顔から笑みは完全に消え失せ、真剣な隙の無い表情へと変化した。切れ長の猫を思わせるような瞳は少女に狙いを定める。
 しかしもう恐怖という感情はなかった。普段の自分ではおそらくこの視線は心に突き刺さっているだろう。だが今の自分には何の感情も出ない。
「あなた・・・ここのヒト・・・ちがう」
 少女が問い掛けると男は頷いて銃を下ろす。
「用があって潜入しました。もしもキミが本当に人体実験によって『ヒト』ではなくなっていたならば・・・僕は狩人として当然の職務に勤めなければなりません。ですがキミがまだ『ヒト』ならば今すぐ僕が自宅に送還します・・・が、もう選択肢は一つに絞られました・・・」
 男は無言で少女のひたい額に二つの銃口を向ける。

シェイドハンター  〜紅い十字架〜 第3部 

February 04 [Sat], 2006, 15:44
  序章  第3部
「それ・・・僕のなんですが、返して頂く事は出来ませんかねぇ・・・」
 彼は何のちゅうちょ躊躇も無く少女に歩み寄った。
「来ないで・・・わたし・・・撃つわよ・・・あなたを」
 人差し指に力を込め、引き金を引こうと試みた。しかしその引き金はキリリッ、と軋むだけ、立てた撃鉄は雷管を打ちつけることはなかった。
 トクンッ、トクンッ、トクンッ、トクンッ。
 男は少女の間合いに入ると自らに向けられた二丁分の銃口を右手で下げ、口を少女の耳に運び、囁く。
「キミは知らないと思うけど、僕は戦闘のプロだよ・・・使わない時はロックを掛ける・・・これ基本ね」
 男は言うや否や後ろに数歩下がりながら椅子のガンベルトを取って少女に振り返る。再び深く御辞儀をしてからほほえ微笑む。
「幸いにもキミはまだ若いのですからこんな物と関わっちゃいけませんよ」
 いつのまにか男の手に渡っていた二丁拳銃に気付いた少女は首をかしげる。
 ・・・こいつ・・・知ってる・・・見覚え・・・ある・・・。
 ここ数ヶ月間、忘れていたものが浮かぼうとしている。今まで心の底で潜んでいた感情が浮き彫りになり、それは先程の恐怖を打ち消す。そんな事をぼんやりと考えていた少女の全身の震えは止まっていた。

シェイドハンター  〜紅い十字架〜  第2部 

February 04 [Sat], 2006, 15:38
 序章 第2部
 あれから数ヶ月が過ぎた。春風が窓の隙間を通るたびに絹の垂れ幕が揺れる。
 それほど広くない部屋の中心には寝台が一つ。それを取り囲むように数種類の精密機器が小さな作動音を立てている。
 精密機器から伸びる半透明のビニールパイプは寝台に続き、赤色の液体をとめどなく送り込んでいる。
 流れる黒髪はさらさらと揺れる。黒い紐靴、同色の靴下、プリーツの掛かったキュロットスカート、灰色のミディブラウスを身にまと纏う。首に掛けられた赤色の十字架は日の光を反射する。窓際にたたずんで外の風景に恍惚として見惚れている十代前半の少女。
 初めて見る外の光景。初めて聴く小鳥のさえず囀り。全てが真新しく脳裏に刻まれていく。まるで産まれたての赤子のように。目を輝かせ、外を眺めている。
 ・・・きれい・・・明るいの・・・好き・・・でも・・・わたし、なぜ・・・ここに?
 外の景色に見惚れていると、ドアが音を立て、男の声が聴こえてくる。
「スティア様、椅子に掛けてあった服の方はお召しになりましたか?」
 断続的なノックによって我に返る。初めて聴く感情のこもった声。反射的に近くの椅子に掛けてあるガンベルトから二丁の拳銃を抜き、とっさに銃口をドアに向けて深呼吸。
 だれ・・・こわい・・・こわい・・・来ないで・・・お願い・・・!
 おそろしくて身震いがおさまらない、「来ないで」と声に出したくても喉が震えてままならず、二丁の拳銃はガタガタと震え、標準が定まらない。
「入りますね」
 ドアがゆっくりと外開きに引かれ、高鳴る心臓の鼓動はいつでも戦闘に入れるようにほどよいテンポを作り出す。
 トクンッ、トクンッ、トクンッ・・・・・・。
 現れた男は黒のロングコートを着衣し、短い赤髪をさらりと揺らしながら室内を見回し、次に切れ長の眼を少女に向けると、うやうや恭しく笑顔で御辞儀をして見せる。

シェイドハンター  〜紅い十字架〜  第1部 

February 04 [Sat], 2006, 15:32
     序 章  全てを変える者 第1部
 ・・・開け・・・わたし・・・外・・・見たい暗い・・・こわい・・・。
 視界はきつく閉じられたまぶた瞼によって何も見えない。開こうとしても思うようには動かない。どんなに命令しても、視界には何も入らない。ただ、暗いだけ。
 薄暗い大部屋の中に照明は無く、壁に組み込まれた大型スクリーンに映し出されたグラフと思われる映像がその役目を担っている。スクリーンの手前に並べられた機器から伸びる様々なコードは無造作に床を伝い張り巡らされている。
 部屋の中央には子供一人しか入ることのできない水槽のようなアクリルで出来た四角柱の箱が四つ並んでいる。その箱の中には緑色の怪しい液体で満たされている。
 どれも作動音が静かに音を立てる。一人の男が箱にそっと近寄る。
 まだ見た事の無い世界に耳を傾けると、聴こえるのはいつも決まった言葉。
「お、おい・・・見ろ、また試験体Sに反応がある・・・」
 白衣を纏った男の視線はその箱にくぎ付けになり、右手からペンを取り落とす。
「怪物だ・・・これは新種か・・・」
 上唇は無く、歯は剥き出しになり、肌の色は液体と同色と化している。
 ・・・わたし・・・怪物・・・ちがう・・・ヒト・・・なる・・・種族・・・。
 いつも恐怖から始まる。なんだか分からない液体に揺らされながら、目覚めても目は開かず、暗闇の中に独りでいるような孤独感。目覚めるたびに刺すような無数の視線を感じる。
 なぜ、おまえ達・・・見える・・・おまえ達、嫌い・・・わたし・・・見せろ・・・なぜ・・・おまえ達・・・わたし・・・ここに、封じる・・・出せ・・・ここから・・・出せ・・・滅びろ・・・皆・・・わたし・・・滅ぼす・・・。
 そこから意識は途切れたが、はっきりと聞こえた。
「試験体Sと参考体Rは体質が適合したそうだ・・・集中実験室にこいつを移せ・・・」
P R
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