sayonara futarino Nagai Yoru Vol.1-a / 2005年11月01日(火)
 後ろからいきなり背中を指で突かれて、僕は「アッ!」と大きな声を出して目を覚まし、手にしていたボールペンを床に落とした。同時にいすを後ろに引いて大きな音を出したらしく、部屋中から視線が集まっていた。マイクを握った講師が、身体をホワイトボードに向けたまま顔だけで振り返り、僕を見て眉間にしわを寄せていた。
「すみません」
 僕は講師に向かって軽く頭を下げ、床に落としたボールペンを拾い上げた。
 講師は何事もなかったかのように再びホワイトボードに向かって何やら書き始めた。
「ごめんなさい」
 後ろの席からささやくような声が聞こえ、僕は、顔を前に向けたまま左手の親指と人差し指で丸を作って耳の横へ上げた。
 そろそろ寒くなってくる季節だが、窓の外からさわやかな日差しが入ってきている部屋の中は、暖房が効いていて適度にあたたかかった。
 いつの間にか居眠りしてしまっていた僕には、講師の話は全く理解できなかった。

 入社5年目を迎えている僕は、東京本社で行われる今回の研修に参加するため、朝5時半に京都の自宅を出ていたのだった。前日、取引先の社長に誘われて祇園で飲んでいて、家に帰ったのは2時を回っていた。シャワーを浴びて、ベッドに入ったのは確か3時過ぎだった。それから2時間ほど眠って5時に起きた。来る時の新幹線で寝るつもりだったのだが、なぜだか目が冴えていて眠れなかった。
 9時から研修に入って、午前中は何とか持ちこたえていたのだが、昼食をとったあとのこの時間、襲ってくる睡魔に耐えることができなかったのだ。
 デスクの上のミネラルウオーターを一口飲み、指でまぶたを軽くマッサージしてから、僕はかすんだ視線をホワイトボードに集中させた。


*この物語はフィクションです。登場する団体名、地名、個人名などはすべて架空のものであり、実在するものとは一切関係ありません。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.1-b / 2005年11月02日(水)
 今回の研修は、7月に公布された新会社法に関する勉強会で、入社3年目から5年目までの社員が全国から集められていた。朝9時から夕方6時まで、2日間みっちりと講義がある。
 この日は、6時に講義が終わったあと、本社7階のホールで懇親会が予定されていた。
 社長が挨拶して、研修を担当している営業教育部長の音頭で乾杯したあと、僕は早速部屋の中央に並べられた料理を取り集めに行った。
 皿いっぱいに料理を乗せて自分のテーブルに戻ろうとした時、講義で僕の後ろの席に座っていた女性とすれ違った。
「すごい量ですね」
 すれ違いざまに足を止めた彼女が、僕の皿を指差して笑っていた。
「だって、頭を使うとおなかが減るでしょう」
 言いながら僕も、彼女に笑顔を返した。
 彼女とは、休憩時間に一度会話を交わしていた。居眠りしていたところを起こしてもらったお礼を言ったのだったが、少し潤んだようなうつろな瞳が、僕の心に鮮烈な印象を残していた。入社3年目の彼女は、東京本社でエクイティートレードを担当しているということだった。
「あの。よろしければ、名刺交換をお願いできませんか?」
 僕が言うと、彼女は小さくうなずいて髪をかき上げてから、肩にかけていたポシェットの中から名刺入れを取り出した。
 僕はあわててテーブルに戻って皿を置き、彼女の前に引き返して、ジャケットの内ポケットから名刺入れを出した。
 僕に名刺を渡す時の彼女の手は透き通るように白く、指は驚くほどに細かった。
「美嘉さん、ですね」
 僕が彼女の名刺に視線を落としてから再び目を合わせると、彼女は、
「真彦さん、ですね」
 そう言って潤んだような瞳を僕に向け、にっこり笑った。
 彼女の笑顔を見ながら、僕は照れ笑いを浮かべて後頭部をかいた。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.2-a / 2005年11月03日(木)
「ナニナニ、誰?今の。」
「居眠りしてた人でしょ?休み時間に話してたよね」
「何だよー、いつの間に!で、どうなの!」
 東京勤務の同期が集まっている席に戻ると、待ってましたとばかりに冷やかされて、あたしは苦笑した。
「どうなの、って・・・。や、別に何もないよ、名刺交換しただけ。」
 そう言って、今もらったばかりの名刺をヒラヒラさせて見せる。
「えー、『近藤真彦』?!マッチ?何コレ、ジョーク?」
「いやいや、名刺に冗談はないでしょ・・・」
「でも関西だし」
「だからって!」
 あたしの手から取り上げられた名刺は、隅々まで見られて、なぜか裏から透かしたりされながら、あっという間に同期中を駆け巡った。
 何だか取り残された気分で、グラスを傾けてみんなを眺めてみる。

 入社して3年、そろそろみんな、「出逢い」に敏感だったりする。中でもこの研修は、普段は会うことのない支社の人たちとの交流ができるというので、何気にずっと話題に上っていたのだった。「ちょっと私、気合い入れてるから!」とは、同期の中でも仲の良い友子のセリフ。
(だからって、ねぇ。)
 まだ名刺で盛り上がってる仲間をよそに、ため息をつく。だって、出逢いって、そんなんじゃない。
「ね、どの人?マッチ」
「あ、あの・・・」
 友子に声を掛けられて、彼の姿を探して見ると、ものすごい勢いで料理を口に運んでいるところだった。横から仲間らしい人が話し掛けてるのに相槌だけ打って、ひたすら食べ続けている姿に、思わず声を上げて笑ってしまった。すんごい食欲。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.2-b / 2005年11月04日(金)
「なーに見つめてんだよー?」
 と、あたしのお皿からツマミ食いしながら、兄さん(と呼ばれてる年齢は2コ上の同期)が頭をくしゃくしゃしてきた。まったく、また酔っ払ってる。酔うといつもこうなんだから。
「見つめてないってば、あーもう勝手に食べてるし!あたしまだソレ食べてなかったのにー!」
「俺がまた取ってくるって、何が食いたい?何か飲む?」
「あ、兄さん!やべぇぞー、美嘉うばわれっぞー、どうすんのー」
 すかさず友子がチャチャを入れる。お決まりのパターンだ。
「何だよソレ!何、付き合ってんの?」
「何でそうなるかな・・・何もないってば!ねぇ兄さん、あたしワイン飲みたい!白!」
 お皿とグラスを預けると、兄さんはフラフラと歩いて行った。悪い人じゃないんだけど、初めて同期会した時からあの調子で、困るワケじゃないんだけど、どうして良いのかわからない。
 何度となく、同期の仲間や先輩から「付き合ってるんでしょ?」と言われて、その度に大袈裟に否定してるけど、本当はこんな曖昧な関係を楽しんでいるのかもしれない。ずっと、このままでいたいと、どこかで思っている気がする。
「あーいいなー、私も誰かと名刺交換したーい。あ、あの人カッコ良くない?」
「え、すればいいじゃん。ドレ、誰?」
友子が指差したその先にいたのは、近藤さんに話し掛けてる、その人で。
「・・・行こうか?」
「え、マジで?うーわ、美嘉ちょっと今度おごるから!」
 友子は「景気付け!」と言いながらビールを一気に流し込んで、あたしの腕を取る。
 途中で擦れ違った兄さんが、軽く笑って手を振った。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.3-a / 2005年11月05日(土)
「なぁ、おい。どの子やねん、中島美嘉ちゃん。紹介せえよ。なぁなぁなぁ」
 同期の吉井春樹が、さっきからしつこく問い詰めてくる。せっかく取ってきた料理にほとんど手をつけず、緩んだ表情で周囲を見回しては女性の物色に余念がない。
 さっき名刺交換をした美嘉のことが気にならないわけではなかったが、僕にはそれよりもとにかく空腹を満たすことが先決だった。
「おい! もう食うのはそれくらいにして、挨拶回りに行こうぜ。なぁ」
 ひとりでは声をかける勇気がない吉井が、すがるような目を向けた。
「勝手に行ってこいよ」
 そう言いたかったが、声には出さずに目で伝え、最後のフライドポテトを口に放り込んでから空になった皿をテーブルに置いて、まだ料理がたくさん残っている吉井の皿を取り上げた。
「おっ! あの子、めっちゃかわいいぞ、ほら!」
 言われて吉井の視線の先を追うと、こっちに向かって歩いてくる美嘉と目が合った。彼女は何だかおかしそうに笑っていて、僕が見た瞬間に軽く頭を下げ、僕たちの前まで来て立ち止まった。
「お食事中すいません。あの、これ、同期の相沢さんです」
「はじめまして。経理部資金課の相沢友子です」
 美嘉と一緒に歩いてきたショートヘアの女性が、僕に名刺を差し出した。
 口に運びかけていたローストビーフを皿に戻してテーブルに乗せてから、名刺入れを取り出そうとすると、腰をかがめて手刀を切りながら急いで彼女たちと僕との間に割り込んできた吉井が、
「いやー、これはどうも、はじめまして。尼崎支店で営業やってる吉井春樹です」
 目尻を下げながら大きな声で言って友子に名刺を渡したあと、今度は美嘉に目を向けた。
「おたくは? もしかして、中島美嘉さん?」
 美嘉は、少しおびえたようなあっけにとられたような表情で「はい」と小さく答えて、一瞬僕の目を見てから吉井に顔を向けた。
「やっぱりそうでしたか! いやいや、そうちゃうかなぁー、と思ってさっきから気になってましてん。そうでっかそうでっか。どうぞよろしゅうお願いします」
 でまかせを言いながら名刺を渡し、半ば強制的に美嘉の手を取って握手した。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.3-b / 2005年11月06日(日)
「こんばんは! 横浜の泉忠司です」
 どこからやってきたのか、こういう場を察知する能力が人一倍優れている同期の泉がいつの間にか現れていて、いやらしそうな笑顔で美嘉に名刺を受け取らせたあと、美嘉の手を握ったままだった吉井の手を無理やり引き離した。そして、自由になった美嘉の手を軽く握ったあと、すかさず今度は友子に、
「横浜支店の泉忠司です。今夜ここでめぐり合えたのは、きっと運命のイタズラですね」
 こんなバカなことを真面目な顔で平然と言えるのもまた、泉の特徴である。
 ふたりに割り込まれて名刺を出すタイミングを逃してしまった僕は、名刺入れを内ポケットにしまい、再びテーブルから皿を取り上げた。
「眠気が去ったら今度は食い気か!?」
 丸めたペペロンチーノを口に入れた瞬間に急に背中から声をかけられて振り向くと、研修で講師をしていた大勝文仁という男性が、白い紙を巻きつけたグラスを持って立っていた。講義中は常に厳しい表情をくずさなかった大勝だが、酒が入って気分がよくなっているのだろうか、赤く染まった小判形の顔を限りなくほころばせて、充血した目を僕に向けた。経済関係などのビジネス書を何十冊も出している有名人なのだそうだが、僕は証券会社に勤めていながらそうした本は一切読まないので、名前を言われても知らなかった。かなりいい年なのだろう。短い髪には、いたるところに白髪が混じっていた。
 ペペロンチーノを飲み込んでから、僕は大勝に頭を下げた。
「先程は失礼しました」
「かまわんよ。僕の話なんか、おもしろくも何ともないだろうし、あれだけポカポカしてちゃ、眠くもなるよな」
 言ったかと思うと、僕の左で笑っている美嘉と友子のほうへ小太りの身体を向けた。
「やあ、お嬢ちゃんたち、今日はお疲れさまでした!」
 大勝は、僕の存在がなかったかのように、へらへらしている吉井と泉を押しのけて、スケベそうな小判形の顔でふたりの女性を交互にながめ回した。
 200人ほどが集まっているホールのざわめきをよそに、軽くため息をついてから僕は再び食事に専念して、ビールを軽く一口飲んでから、空になった皿を持って料理のテーブルへ向かった。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.3-c / 2005年11月07日(月)
「きゃー☆ マッチじゃない! 久しぶりねー!」
 8本目のソーセージを皿に乗せた時、二子玉川支店で事務をしている同期の生稲晃子が明るい声を投げてきた。
「おう! アッコじゃねぇか! なんだ。まだ会社にいたのか?」
「何よ、いきなり。私は辞めないって言ったでしょう」
 頬を大きく膨らませた晃子は僕に身体をすり寄せて、のぞき込むように僕が持っている皿を見た。
「相変わらずよく食べるのねー」
「せっかく出してもらってるんだから、しっかり食べないと悪いじゃないか。それより、体調はどうなんだ?」
「もういいの。最初はつわりがきつかったんだけど、今はたま〜に熱っぽくなったりだるかったりするだけで、ほとんど毎日明るく生活してるわ」
「そうなんだ。まっ、いずれにしてもよかったよな」
「そうねー。ありがとう。でも、なんだかまだ信じられないわ。このおなかの中に赤ちゃんがいるなんて」
 晃子は顔を伏せて自分の腹部を見た。それからすばやく顔を上げて、イタズラっぽい目を僕に向けた。
「ねぇねぇ、ちょっとさわってみる?」
 猫なで声の晃子が、僕の左手をとって彼女の腹に触れさせた。
「コラ! やめろよ、こんなところで」
 僕はあわてて手を引いた。
「いいじゃない、ちょっとくらい。それとも、こんなところじゃなかったらいいの?」
「こんなところじゃなくても、ダメだよ!」
「何よ。マッチって、ほーんとにクールなんだから!」
 入社した当時からこんな調子だ。
 晃子はふっと笑ってから、僕に腕をからめ、耳元に顔を寄せてささやいた。
「ねぇ、マッチ。これが終わったらさ、ふたりだけで軽く飲みに行かない?」
「行かないよ。早く帰らないと、旦那さんが待ってるんじゃないのか? それに、妊婦の夜遊びはよくないよ」
「いいじゃない、久しぶりに会ったんだからさ」
「ダメダメ。それにさ、俺は今日めっちゃ早起きだったから、眠くてしょうがないんだ。さっさとホテルに帰って寝なきゃ、明日もまた居眠りってわけにはいかないからね」
 僕の腕を抱え込んだままの晃子から視線をはずして、ソーセージをもう1本皿に乗せようかどうしようかと思いをめぐらせながら料理のテーブルに顔を向けた時、かすかな視線を感じて横を向くと、僕がいたテーブルのほうからこっちを見ていた美嘉と目が合った。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.4-a / 2005年11月08日(火)
「ね、イイよね、美嘉!」
 腕を引かれて振り向くと、ほんのり頬を染めた友子が満面の笑みでグラスを合わせてきた。甘えるように体をすり寄せてくる。仔猫みたいな上目遣い。意味深な瞳の奥。えぇっと、コレは友子得意のおねだりサインなんだけど・・・
「ゴ・ゴメン、聞いてなかった・・・ 何?」
「だからー! この後みんなで飲みね!せっかくだし、ねっ!」
「あぁ・・・」
 曖昧な返事をしつつも、この調子だとあたしが参加するコトはもう決まってるんだろう。何が「せっかく」なのか、よくわからないけれど。
 でも明日も朝から研修だよ?と、言いかけて、やめた。たまにはノってみるのも、悪くない。面白い人達だし、友子も楽しそうだし、どうせみんな明日も一緒なんだし。と、その瞬間、フと居眠りしてた近藤さんの後ろ頭が浮かんで、また笑ってしまう。明日はあたしも気を付けなくっちゃ。そういえば、近藤さんは来るのかな。というか、誰が来るんだろう?
 料理を取りに行ったまま戻ってきていない近藤さんの姿を探すと、少し大人っぽい女性と仲良さそうに喋っているところだった。腕を組んで、その女の人が顔を寄せたから、キスするのかと思ってびっくりしてあたしは固まってしまった。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.4-b / 2005年11月09日(水)
「何、近藤が気になるん? 美嘉ちゃん」
「あ、いえ・・・」
 思わずマジマジと見入ってしまっているあたしに苦笑しながら、吉井さんが声を掛けてきた。さっきまでしっかり隣をキープしてたハズの友子は、いつの間にか泉さんと話に花を咲かせている。
「あぁ、アイツなぁ、今コレやねん」
 そう言いながら、吉井さんは、両手でお腹の辺りに膨らみを作った。
「え、そうなんですか?」
「そうそう、もう13ヶ月。」
「はぁ・・・・・・・・・ えぇえっ? 大丈夫なんですか?!」
 と突然、あははははは、と大きな声で吉井さんは転げ回りながら笑って、あたしの手を取ると、なぜかブンブンと勢いよく握手をした。・・・えぇっと。
「おもろいなぁ美嘉ちゃん、新鮮な反応やわ」
 人懐っこい笑顔に、つられてあたしも笑ってしまう。
「え、冗談? ウソですか? え? 何が? どこから?」
「まぁええやん、あー、はよ飲み行きたいなぁ! ここらエエ店あるん?」
「あ、ちょっと歩くけど、行きつけの店あるんだよ、マスターに連絡入れとくよ」
 吉井さんの言葉が終わるか終わらないかの瞬間、あたしが答えに詰まる間もなく、泉さんが素早くポケットから携帯を取り出して、その場で電話を掛け始めた。友子が横から「すごーい、さすがー!」と手を叩いて大絶賛している。確かにすごい。良いお店も知らないし、行動力もないあたしは、こんな風に行き先や予定を決めてくれる人を心から尊敬する。無意識に、友子と一緒になって拍手してしまった。
「イイトコ持ってくなー泉! くっそ、地元やったらいくらでも」
「お前の場合はキャバクラばっかりだろ!」
 マスターさんとの談笑を終えた泉さんが、爽やかな笑顔で吉井さんを小突く。きゃはははは、と友子が笑って、再びあたしの腕を取った。「どうしよー、楽しいー!」小声であたしに耳打ちして、グラスを空ける。ちょっと酔ってるな、大丈夫かな、そんなに強くないハズなんだけど。
 
   
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sayonara futarino Nagai Yoru Vol.4-c / 2005年11月10日(木)
 と、その時、スピーカーから懇親会終了を告げるアナウンスが入った。ホールが一瞬だけ静かになって、それから増幅した騒めきが部屋中を飲み込んでゆく。遠くから兄さんの大きな笑い声が聞こえて、その方向を見ると、知らないオンナノコの髪の毛をくしゃくしゃしながらおぼつかない足取りで出口へ向かっている。兄さんもこれからどこかへ飲みに行くんだろう。どこか複雑な気持ちになる。
「おし! 行くか!」
 それが合図みたいに、あたしたちは荷物をまとめてゾロゾロと移動を始めた。
「お、近藤、行くぞ飲み!」
「え? これから?」
 まだまだ山盛りのお皿を抱えて、ようやく席に戻って来た近藤さんは、立ったままで相変わらず料理を食べ続けている。何度見ても気持ち良い食べっぷりで、あたしはまた笑った。
「まだ、おなか空いてるんですか?」
「え? うん・・・いや、そうでもないんですけど、もったいないじゃないですか、残すと」
 早く行こうよう、というように、友子があたしの腕を引っ張る。吉井さんと泉さんは、いろんな人に声を掛けながら、どんどん先へ進んでいる。
「・・・行きませんか? 飲み」
「・・・行くんですか? 飲み」
 近藤さんは、あたしと友子とを順番に見ながら、ちょっと困ったような顔をした。
「あ、そうですよね、ゴメンなさい」
「え?」
 きっと、さっきの奥さんらしいヒトと約束があるんだろう。そう気付いて、あたしは軽く会釈してから小走りでドアへと向かった。
「いいのー? マッチ」
 友子があたしの顔を覗き込む。
「や、だから、別にそんなんじゃないから」
 エレベーターで下へ降りると、人ごみから弾けるように外へ出た。冷たい風が吹いて、首をすくめる。吐き出した息が、ほんのりと白く空を舞った。
 
   
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