無邪気な瞳に鋭い

February 14 [Mon], 2011, 15:24
ごわごわとした焦げ茶の毛並みを執拗になめて、仕上げに頬ずりを一つ貰う。うっとりするような黒い毛並みにぴんとしたひげ、全身の毛が逆立つほどの愛らしさがある、極上の美猫。
 ぞっとするほど無邪気な瞳に鋭い瞳孔をきらめかせて、牙のある口で器用に人の言葉をほろほろとこぼす。
「里に下りてはいけないのよ」


 とはいわれても、まあまだ血気盛んな年頃ではあるし、月に酔ってはふらりらと、里の方へと転がりだした。一番楽なやりかたで人に変ずる。自身の毛並みに合わせてごわごわとした頭髪はざんばらに粗く、服には土ぼこりがついていた。軽く身震いをして水溜りを覗く。目の周りの模様を両の手の平でぎゅうと押さえた。離すと、朴訥とした無害そうな青年の顔と、鼻の上にちょこんとのった丸い眼鏡。ようし、と水辺から立ち上がると視線の高さにくらりとした。いやはや。

 飲み友達の大将は、頭に葉っぱをつけたまま現れた俺を見てかかと笑った。「やあ、お前はいつも薄汚れているな」「そいつはどうも、今日も犬と喧嘩してきたもんで」「馬鹿め」
 大将と知り合ったのは夏の終わり、花火大会のころに転がっていたビールを舐めてしたたかに酔い、近所の飼い犬と大喧嘩していたところに水をかけられ、大いに説教されたのが始まりだ。とはいえかけられたのがコップ一杯の日本酒だったせいで説教の内容はとんと覚えていない。

 月の見える縁側に座って、差し出される干し肉を遠慮なくつまんだ。彼の趣味であるらしい手製の料理は、いつか連れていかれた店のものより塩気が薄くて丁度いい。
 手も洗わずに更に手を伸ばした自分をぴしゃりと箸で叩き、大将は鼻に皺を寄せてくしゃりと笑う。
「育ちがわるいもんで、どうも」
「相変わらずだよなあ。ところで、そいつはお前さんの娘っこか?」
 は、と口を開けた瞬間に、良く冷ました芋煮が一つ放り込まれる。膝の上の重みに、慣れ親しんだ温度。
 芋を飲み下すまでの間は喋らずとも不自然ではない。膝の上にかじりつくようにして眠っているツインテールの美少女を見下ろして、俺は一つため息をついた
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:万利子
読者になる
2011年02月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28
最新コメント
Yapme!一覧
読者になる
P R
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
http://yaplog.jp/sfdgfg14/index1_0.rdf