、ここにいる人たちを見て欲しかった

November 14 [Thu], 2013, 15:07
くりと、筆で白い絵の具が塗られるように、根本から毛先へと白い筋が流れるのだ。

 その白が、毛先へと到達した頃。

 歌は。

 終わっていた。

 遠く遠くを見ていた瞳の焦点は、きちんと合っている。

 その目が、一度自身の両手を拳にする様を見て。

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 ハレの背筋に、ぞっと冷たいものが走った。

 言葉には──知識が含まれていなかったのだ。

 声が、出せないわけではない。

 それは、さっきの素晴らしい歌で証明済みである。

 だが、その声にはどこの国の言葉もなかった。

 歌以外の。

 歌以外の知恵を、この娘は与えられていないのだ。

 何て、ことを。

 ハレの胸に、悲しみと憤りの両方が強く渦巻いた。

 何て、無体なことを。

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 彼女の歌を追うように、少女の唇が微かに動き始めたのだ。

 ただ。

 唇が、自分のものとはずれていた。

 最初は、違う歌を歌おうとしているのかと思ったのだ。

 だが、そうではなかった。

 桃の歌う歌詞を、遅れて彼女の唇がなぞっているのだ。

 歌う唇や歌詞を、そのまま自分の唇に遅れて移しているかのように。

 次第に。

 唇の動きが、しっかりしてくる。

 音は生まれないが、明確な意思をもって桃の歌を追ってくる。

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 体温が戻りきっていない冷たい手を、ぎゅっと握りながら、歌い続ける。

 夜の終わりの歌。

 朝の始まりの歌。

 彼女は、目覚めるべきなのだ。

 しっかり目を覚まして、ここにいる人たちを見て欲しかった。

 歌が。

 終わる。

 少し遅れて、少女の唇も止まる。

 ええとええと。

 桃は、他の歌も思い出そうとした。

 せっかく、彼女が歌に反応してくれたのだ。

 もっと歌って、意識を取り戻して
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