マリリンと準之助と喫茶店ララバイの夏休み

September 03 [Mon], 2012, 7:38
短いお話、続き書きました。

絵も新作を描きました( ̄∀ ̄)



じゃ、読むのが2回目になってしまう方もいるかもしれませんが、一応スタートからです。





………………


午後2時23分。


外はカンカン照り、風もなし。


夏休み最終日の今日、太陽もそれを惜しむかのように実力を発揮していた。


椿山マンション1階の東側角にレンガ造りの喫茶店ララバイがある。


幹線道路に面した店のアーチ型の窓から、小学生くらいの女の子がドアに一番近い席に一人で座っているのが見えた。


女の子の名前はマリリン。


小学4年生、茶色のロングヘア、おとめ座。



友達からはマリ、とかリンちゃん、とか 呼ばれていた。


学校で隣の席の剛君からは「マリリンて名前、なんか蛇足だよね」とかって言われたけど「それって余計なお世話」って、マリリンは答えた。


名前なんか親がつけたんだし、わたしの名前だけど、わたしの意思とは関係ない、ってマリリンは思っていた。



喫茶店ララバイはマリリンの親が経営する喫茶店である。


夏休みの間、マリリンは手伝いにかり出されるのが恒例になっていた。


マリリンは夏休みが嫌いだった。


ララバイの手伝いが嫌と言うよりは、夏休みは自主性が求められるので、それが厄介だった。


普通に学校へ行っている時よりパワーと工夫が必要だった。


普通に学校へ行くなら、朝、なんとなく起きて、なんとなく勉強して、なんとなく給食食べて、なんとなく友達に誘われて、なんとなくいっしょに遊べば1日が終わった。


でも、夏休みは勉強時間の決定も友達との遊びの予約も能動的にされなければならない。


しかも、ララバイ手伝いという強制労働のオマケ付き…。


しかし、今日は夏休み最終日、少しホッとしていた。



ララバイに客はいなかった。


暑すぎて、だれも外出したくないのかもしれない。


お父さんは奥のキッチンでハンバーグの仕込みをしていた。


マリリンはドアに一番近い席に腰掛けて、環状7号線を走る車の往来を眺めた。


白の車、多いな、そう思った。


カラーン、入口のベルが音を立てた。


白い猫が立っている。


マンション6階、6051号室の山口さんちの準之助だ。


いつもは四つん這いで歩く準之助が今日は二本足で歩いているので、マリリンは不思議な感じがした



「暑いね…、アイスコーヒー」準之助は言った。


「はい、ただいま」


マリリンは、今日の準之助はしゃべったのでびっくりしたけど、なるべく動揺を見せないように、両手をテーブルについてそっと立った。


準之助はマリリンが座っていた席の向かい側にドカッと座ると、マリリンが運んできた氷の入った水を一気に飲んだ。


そのあと、よく冷えたタオルで顔中の汗をぬぐった。


「こう暑いとやってらんないね、マリリンはもうそろそろ学校が始まるのかい?」準之助は言った。


「はい、明日から」


マリリンはアイスコーヒーを準之助の前に置きながら答えた。


準之助はコーヒーミルクの小さいポットを真っ逆さまにして、アイスコーヒーに注いだ。


「苦いのはほんと嫌でね、マリリン、申し訳ないけどもう一杯もらえるかな」


マリリンは言われるままにポットを手に取ると、キッチンの奥に向かった。


マリリンもちょっと変わった子だった。


「うちの喫茶店はサービス満点よ」


そう言いながら、小さいミルクポットを4つもトレーに乗せてきた。


準之助は横目でそれを見て、ニンマリすると、ポケットからタバコを取り出し、プカプカと吸い始めた。


「マリリン、ところでこの夏、なにが一番おもしろかったかい?」準之助が聞いた。


「そうねえ、毎日がおもしろくなかったことが一番おもしろかったかしら」マリリンが答えた。


「ふ〜ん、そうかい。どこがおもしろくなかったのかな。わたしがマリリンくらいの頃の夏休みは、はじけてたがな…」


「はじける…?」


マリリンは、準之助の顔に似合わない単語に失笑した。


準之助は至って真顔で、はじけたらしき昔の夏を思い出しているようだった。


タバコの煙を右上に
吐き出しながら遠い目をした。


それがまたおかしくて、まりりんは小さく笑った。


しかし準之助、汗が未だ引かないようで、ゴソゴソポケットを探ると、派手な赤のレース付きハンカチを取り出した。


準之助はレースの四隅を丁寧に揃えると、少しいい匂いのハンカチにニンマリしてから顔をこすった。

「やけに派手なハンカチね!準之助のもの?」マリリンは聞いた。


「いやいや、これは山口さんの奥さんのものでね、出かける時は時々借りるんだ。たくさんあるし、気づいてないみたい。」準之助は言った。

マリリンは、自分のご主人様を「山口さんの奥さん」と言っている準之助がおもしろくて、くっくっと笑った。


また、赤のハンカチが準之助にはなんとも似合ってなくて、さらにくっくっと笑った。


一通り笑い終わると、マリリンは真顔で準之助に言った。


「で、今年の夏ははじけたの、準之助?」


「そりゃあそうさあ、はじけねぇ夏はねぇ」準之助はプカプカ煙を吐きながら言った。


マリリンはゴクリと唾を飲んで準之助に言った。


「ねぇ、はじけ損ねた私を、はじけた場所へ連れて行ってよ」


準之助は、ニンマリしてから「いいよ」と言った。


3時でお手伝い終了のマリリンは、3時になると勢いよく外に飛び出し、マンション入口階段、準之助が待つ場所に合流した。


「お待たせ、準之助!そこはここから遠い?遅くなるならパパに言わなきゃ」


マリリンが聞くと、準之助はニンマリしてから答えた。


「近い近い、近いよ〜」


「あら、そう…。ちょっとつまんない…」


マリリンが独り言のように言ったのが聞こえたのか、聞こえなかったのかわからないが、準之助はのそのそとエレベーターに向かった。


「えっ、マンションの中?」マリリンは正直がっかりした。


多少はおもしろい、猫しか知らないような所へ行けると思ったのに、よりによって、マンション内とは…。


「準之助〜、いくら私がこの夏はじけなかったとはいえ、ディズニーランドにも、スカイツリーっていう新しくできた所にも行ったのよ…」マリリンは上昇するエレベーターの中で準之助のでっかい背中に向かってぶつぶつ言った。


チーンと音が鳴り、扉が開くと最上階だった。


準之助は先に降りると、端っこの細い階段を上がり、屋上に出た。


「ここなんだ、この夏のはじけスポット」準之助は言った。


「えらくしけたスポットだわ」マリリンは小声で言ったが、そうつまらなくもない気がした。


準之助はどこから持って来たのか、大きなサーカスみたいな12色のパラソルを広げ、割合快適そうな小さな椅子に腰掛けるように勧めた。


「わぁ〜」

マリリンは、視界に広がった、青く、どこまでも続く青に、気持ちいいなあ、と思った。


白くてでっかいモクモク雲は、モクモクモクモク、天体をうねっていた。


準之助はそんなマリリンを見てニンマリすると、深くため息をついた。


大きなパラソルの下、スーッと風がすり抜け、喫茶店ララバイと同じ位快適で、多少びっくりした。


準之助がポケットをゴソゴソ探り、結構高級なオーストリアのクッキーの缶を出して広げてくれた。


マリリンはポケットからそんなものが出てきて吹き出したが、手を伸ばしてラングドシャクッキーをつまむと、口に入れた。


バターの香りがムンムン、サクサク歯触り、おいしい。


マリリンも準之助みたいにニンマリした。


「なかなかおいしいだろう。山口さんちはしょちゅう海外に行くんでね」


アラベスク模様が施され金色に縁取りされた、おしゃれな缶をポンポンと軽く叩きながら、準之助はたのしそうだった。


そうだろう、とは思いながらも、山口さんちのクッキーだと思うと、笑えた。



気がつけば太陽は遠くに傾き、オレンジ色と紫色が混じった空に白い月がぼんやりしていた。


クッキーを食べながらの準之助との時間はあっという間で、時間が経ったことにも気づかなかった。


「もう帰ろうか」準之助が言った。


「うん、そうね」マリリンは答えた。


マリリンは準之助に、なにかお礼みたいなことが言いたかったけど、なんて言ったらいいか、わからなかった。


マリリンは気持ちの整理がつかないまま、口を開いた。


「準之助、なんかね、今日会えて良かった」


準之助は、にこ〜っとした。


そして立ち上がると、あっという間にパラソルを畳み、エレベーターへ向かった。


下りエレベーターを6階で降りる準之助を、4階の住人であるマリリンは見送った。


「またね」


準之助はニンマリしてから、大きな体でのっそのっそと廊下を歩き始めた。


エレベーターの扉は閉まり、4階に向かった。


もし今度、準之助に会った時、やっぱり普通の猫に戻っていて、お話できないかもしれない。


マリリンはそんな心配を少ししたけど、準之助のおかげで夏休み最終日は、夏休みで一番楽しい日になった。


4階でエレベーターを降りると、廊下を走った。


家の扉を勢いよく開けると、自分の部屋に駆け込み、急いで画用紙を一枚出した。


一つだけ残っていた宿題、「楽しかった夏休みの思い出」を描き始めた。






おわり



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ソプラノ歌手

国立音楽大学声楽科卒業
二期会オペラ研修所42期マスタークラス修了






歌は人の心をつなぐものだと思います。

ずっとずっと昔から。









自分の力は些細なものですが、音楽で受けた感動を少しでもほかの誰かに伝えることができたらいいな、と思っております。


企業情報管理士、個人情報保護士、文書情報管理士でもあります。

企業情報管理士(2010年取得)

個人情報保護士(2010年取得)

文書情報管理士2級 (2011年取得)

マイナンバー実務検定1級(2016年取得)

マイナンバー実務検定2級(2016年取得)



趣味は、短いお話を書くことと、絵を描くことです。

絵は、アクリルでキャンバスに描いたり、PCで描いているものがあります。


ブログの更新はまちまちですが、よろしくおねがいします。



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