着信音 

2005年04月20日(水) 4時13分
美雪は私の話をずっと黙ったまま聞いていた。
泣きすぎて頭がぼんやりしたまま、今までの経緯を話した。
話し終わると、たった一言「そっか。」とだけ言った。
ありきたりの言葉で慰めようとしない、その優しさが嬉しかった。
私のことをちゃんと分かってくれている美雪が傍にいてくれることが、何よりの励ましだった。

時間は夜中の12時。
何度も「大丈夫?」と聞きながら、美雪は帰っていった。
また、テレビの音しか響かない部屋に1人残った。
手持ち無沙汰になって、携帯を開いてみる。
もう、彼のメモリを残しておく必要は無い。
とても事務的に、でもどこか感情的に、彼のメモリを削除した。
送信メールも、受信メールも削除した。
こんな時、グループ別にしておいてよかったと思う。
いちいち選択しながら削除ボタンを押さなくて済む。

携帯に何一つ彼の痕跡を残さないよう、カメラ画像も消していく。
二人で笑いながら写っている画像が、とても無意味なものに見えた。
そういえば、彼からもらった着信音がある。
好きな曲が、どこの着メロサイトにも見つからないと嘆いていた私に、彼が見つけ出してプレゼントしてくれたのだ。
テレビを消して、携帯が奏でる音に集中する。
・・・・・・・・・・・やっぱり、この曲はいい。
彼のことをどうしても思い出してしまうけど、消してしまうにはあまりにも惜しく思えた。

ふと時計を見ると、もう2時をまわっていた。
明日は寝坊できない。
彼のくれた着信音は、目覚まし時計に設定した。
きっとびっくりして目が覚めるだろう。
そんな自虐的なことを考えながら、眠りにつくことにした。

翌朝、私は学校を休んだ。
具合が悪かったのでも、行きたくなかったのでもない。
起きることが出来なかったのだ。
携帯の目覚ましはちゃんと作動した。
あの曲も流れた。
目も覚めた。
でも、起き上がることが出来なかった。

テレビ 

2005年03月15日(火) 2時59分
「じゃあ・・・・・お互い、頑張ろうな。」
喫茶店を出た。
そう言って、スッキリしたかのように彼は私に背を向けた。
くるりと回れ右をして、私も彼に背を向けた。
少し前までは、すでに暗くなっていた時間なのに、今日はまだ明るい。
「春か・・・・・」
思わず声になってしまう。
すれ違った若いサラリーマンが、チラッと私に視線を向けた。
明るくても、まだまだ寒い。
黒いコートのポケットに手をつっこむ。
硬いものが指先に触れた。
それをポケットの中でもてあそびながら、地下鉄に乗った。

家についてから、どのくらいの時間が経ったのだろう。
買えってすぐ点けたテレビの明かりが、薄暗い部屋を照らしていた。
コートも脱いでいない。
指先には、まだ硬いものが触れている。
外では出せなかったもの。
見たら、泣き出してしまうと思った。
ポケットの中で握り締め、思い切って取り出した。
ゆっくり手をひらき、テレビの明かりで照らしてみた。
高価なものではない。
宝石が埋め込まれているわけでもない。
でも、私には大切なもの。
ペアリング。
ツタの様な模様が入っているこのリングは、私達が一目で気に入ったもの。
買ったとき、お店の店員さんに、「彼女さん」と呼ばれたことが、嬉しくも恥ずかしくもあった。
今日出かける時も、いつもの癖で右手の薬指に付けてしまった。
地下鉄に乗ってからそのことに気がついた。
そして、ポケットにしまいこんだ。

鈍く光るリングを見ても、涙は出なかった。

突然、カバンの中から振動音がした。
カバンをあさり、携帯を取り出す。
高校からの友達である美雪からの電話だった。
「・・・・・・・・・もしもし」
「由梨?今どこ?デート中?」
「家にいるよ。」
「そっか。・・・・どうしたの?何かあった?」
私のテンションの低さに気がついたんだろう。
美雪は急にトーンを下げて聞いてきた。
「・・・・あのね・・・・」
初めて、涙が出てきた。
美雪が困るのは分かっていたけど、涙を止めることが出来なかった。
「由梨・・・・?」
「達也に・・・振られちゃった・・・・・・」
消え入りそうな声で言うと、美雪は焦ったように今すぐ行くといって電話を切った。
それから、美雪が来るまで声をあげて泣いた。
手の中のリングは、鈍く光り続けていた。

冷たいコーヒー 

2005年03月11日(金) 3時57分
私は今、喫茶店にいる。
1人じゃなく、昨日のメールの差出人とだ。
私がコーヒーを注文して一口飲んだところで、彼は来た。
「遅れてごめん。メール見るの遅れてさ。」
「そっか。」
私たちの間には、まだこの言葉しか飛び交っていない。
隣の女子大生らしき人の甲高い声が耳に障る。
彼女も、彼氏と待ち合わせらしい。
「うん・・・・分かった。・・・うん・・・・・・あとどのくらい?・・・いいよ、待ってるから。」
イライラした。
あなたは大好きな人を失う心配なんて無いでしょう?
私は今まさに失おうとしてるのよ?
お願いだから早く電話を切って。
でないと・・・・・・・・

「あ、あのさぁ・・・。」
凶暴な考えが渦巻いてきた頭の中に、遠慮がちな声が届く。
「昨日はバイトで疲れてたのにあんなメールして悪かったな。」
そんな言葉が聞きたいんじゃない。
「でも、突然じゃないんだ。俺、ずっと考えてたんだよ。」
違う、私が聞きたいのはそんな言葉じゃない。
私が見たいのは、そんな困った顔じゃない。
「俺達、このまま付き合っててもお互いのマイナスにしかならないと思うんだ。」
電話を切った隣の女子大生が、聞き耳を立てているのが分かる。
だって、さっきからメールを打っていた手が止まってるもの。
それに気がついたら、店中の人が聞き耳を立てているように感じた。
みんな後で誰かに話すんだろうか。
こんな重い話をしている二人のことを。
「由梨?聞いてる?」
全てがうっとうしく思えた。
お互いのマイナスになる?
私にはプラスにしかならないのに。
きっと、彼が言ってるのは嘘。
言い訳。
他に好きな人が出来たとか、そんな理由だろう。
私に気を使って、こんなこと言ってるんだ。
うっとうしい。
こんなの、何の意味も持たない。

彼はすぐに帰るつもりだったのだろう。
何も注文していない。
テーブルには、量の減っていない水が二つと、冷たくなったコーヒーと、昨日私を眠らせない原因を作った携帯が置いてあった。

時間 

2005年03月03日(木) 3時19分
「ただいま」
誰もいない、ひんやりとした家の中に私の声が響き渡る。
いつからだろう。
こんな風に呟くようになったのは。
暗くてよく見えなくても、どこに丸いテーブルがあって、ピンクのベットがあるのが、手に取るように分かる。
教科書やバイトの制服が入ったカバンをベットに投げ出す。
バサッと派手な音がした。
きっとあの分厚い教科書がカバンからはみ出したんだろう。
ふと見ると、教科書らしきものの他にも、何かはみ出している。
それは、赤や青、黄色の光を放ちながら、自己主張していた。
使い古した携帯だ。
「・・・・メール?」
ピッとやや明るめの音を出しながら、送り主を確認する。
「・・・・・・・なんで・・・?」
誰もいない部屋で、思わず声を出してしまった。
しかも、自分でも意外なほど大きな声だった。

『由梨、俺達、このままじゃダメになる。別れてくれないか?』

笑えるほど、あっさりとした文。
明かりが点いていない蛍光灯を見上げた。
少し誇りがたまっている。
掃除しなきゃ、そう考えている自分が不思議だった。
そんなこと考えている場合じゃないのに。
すぐにメールを返すなり、電話をかけるなりしなきゃならないはずなのに、どうしても手は動かなかった。
やがて、携帯が音もなく、ベットに落ちた。

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