インセクト・ズーの後はいよいよ遥々パタヤから一緒に旅してきたキヂ君たちの出番になった。メーリムからチェンマイに帰る途中にある、何とか言う貯水池に寄ったのである。【名前忘れました】
実はこの貯水池、猿嫁が17年前に義母を連れて訪れたことがあって、そのときに釣りをしていた人がかなりいたし、当時の思い出があるから行って見たい、ということで、トクトクの運転手に案内を頼んだのだった。
で、着いてみると、なかなか雰囲気の良い場所だった。何でも泳げるビーチもあるらしく、周遊道路の向こう側からは、水音と子供達の歓声が聞こえていた。
私たちは、トクトクの案内で池の左岸に周り、その辺りに沢山並んでいる藁葺き屋根のテラスに入った。これはバンブーハウスのように水に浮いていて、中にはテーブルがあって茣蓙が敷いてあり、食事をしながら釣りが出来るという、タイならではの施設。天井は低いが池の上を伝わる風が通って涼しい。
座ると早速、私は仕掛けを準備した。コンパクトロッド二本には吸い込みを用意し、4・5メートルの振り出し渓流竿にはウキをつけてヤマベ釣りの仕掛けを付けた。
そこでいよいよキヂの登場。スチロールの箱を開けてみると、長旅と高温にも関わらず、彼らはとても元気である。その中からミドルサイズのヤツを手にとって、小さな袖針6号に通し刺しにした。
だが、針に刺してもタイのミミズからは、あのキヂ特有の臭いのある、黄色い汁が出てこない。針穴から出てくるのは黒い糞みたいなものばかり。やはりミミズの種類が違うようだ。
それでもミミズだから何か居れば釣れると思い、横でワクワクしながら見ていた息子に、テラスの目の前に振り込んでから竿を持たせてやった。すると、ものの数分で勢い良くウキが消しこんだ。オオッ! やったと思って息子に竿を上げるように言ったが、戻ってきたのはダラリと伸びたミミズ…。合わせ損ないだと思って、今度は私が竿を持つ。しかし、次に出たアタリも見事な空振り。それから約30分。私は真剣に魚を掛けてやろうとしたが、どうしても針に乗らない。どうやら浮きテラスの周りには、タナゴ針でないとフッキングしないような、とてつもなく小さな雑魚が群れているに違いなかった。
そのうちにあんまり釣れないので息子が飽きてしまい、結局ボウズ。投げ込んで置いた吸い込みのほうにも反応ナシ。どうもラオス以来、私はかなり重症な淡水魚釣りスランプのようである。
結局、遅めの昼ごはんを食べて、私たちは午後四時過ぎに貯水池を後にした。やはり、アジアの淡水釣りはいつもそうだが、数回通ってからでないと釣果はみこめないようだ。
そんな20日の夜はホテル近くのジャパニーズレストランへ。何となく居酒屋風の雰囲気があったし、またしても天麩羅やオデンが食べたいという息子のリクエストを尊重したのだった。
確か店名は【一休】だったはず。地元の人に人気があるのか、私達が入った午後七時近くには、かなりの席が埋まっていた。ここで久しぶりに掘り炬燵式の座敷に座り、思いつくまま適当にオーダー。およそ10品も頼んだろうか…そして運ばれてきてみると、どれもかなりのボリューム。これは食べきれない、と思ったが、日本食を見るとダイエットを忘れる猿嫁が、かなり平らげたので持ち帰りはナシになった。
この店で驚いたことは、店員さんが皆かなり日本語上手なこと。きっとお客さんとの会話で少しずつ覚えていったのだろうが、純粋日本人と暮らして六年、もう日本語ペラペラの息子が生まれて四年もたつというのに、未だに屁ほどの会話しかできない猿嫁に、私は爪の垢を煎じて飲ませてやりたくなった。
だが、それを鋭く指摘すると、「パパも六年もタイに居て、ちっともタイ語がダメじゃない」と反撃されるので、猿嫁が何か後ろめたいことをしでかした時にしか言えない。
一方、息子は日本語が通じるので不思議な顔をしている。また、料理の味も良かった。特にギョーザは、パタヤの「粽」さん以来、実に久しぶりに美味しい! と唸るものに出会えた。手作りなのはすぐに判る。しかも確か80バーツくらいだったはず。あんまり美味しいので、ギョーザだけはお代わりを頼んだ。
それにしてもチェンマイ…私は好きだ。何よりパタヤよりずっとタイ人たちの質が良い。穏やかで、落ち着いているし、【微笑みの国】などという在住者にとっては嘘としか思えないキャッチフレーズも、ここでは真実味を感じることが出来る。街も綺麗だし日本人のロングスティヤーに人気があるというのも頷ける。
加えて感じたことは、ドライバーの交通マナーが良いこと。パタヤのように脳味噌という器官を持たない連中が、ルール無視の無謀運転をするところを見かけなかった。
はっきりいって、海があって新鮮な魚さえ手に入るなら住みたいくらいだ。パタヤより涼しいし、オフクロ様にとってはこちらのほうが向いているような気がする。
話がまた逸れたけれど、結局この日本料理店では、肴が美味しかったのでビールの大瓶3本に冷酒二本など飲んで、私はちょっとほろ酔い気分にしてもらえた。その勢いで猿嫁と息子を先に帰し、ホテルの帰り道にあるビアー・バーの並んだソイに行こうとしたら、猿嫁が突然得意の醜い仏頂面に。私としてはホテルにいると毎夜聞こえてくるムエ・タイの歓声に惹かれて、ちょっと試合を見てみたかっただけなのに、若いお姉ちゃんにも声を掛ける、と勘ぐられたようだ。
いずれにしても酒を飲むのなら、猿嫁よりも若いお姉ちゃんの顔を見ながら飲むほうが、絶対に、確実に、美味しくなる。それは仕方のないことなのだ。新婚でも無い限り、世の亭主族は皆そうであるはずだ。で、なければ男としてどこかに機能障害があることだろう。
だが、私は諦めた。お姉ちゃんは一瞬だが猿嫁はこれからもずっと、というより少なくともすぐ後にはホテルの部屋で仏頂面をすることだろう。それは実に鬱陶しい。それで与えられるストレスと不愉快と怒りを天秤に掛けたら、馬鹿馬鹿しくなって息子の手をとった。
そうしてチェンマイ最後の夜は健全に、そして詰まらなく更けていった。けれど、息子にとっては忘れられない旅になったはず。今度は秋の休みに、何処に行こうかと、私は今から考えている。
【今回で長々と続けたチェンマイ旅行記は終しまいです】