左乃助の鬼腕 第9話

August 15 [Wed], 2012, 23:36
 第一章

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 桶狭間編 1

   左乃助の鬼腕 第9
話 「今川義元」


 ヤマタイの戦国の世に生きる武将たちの夢も「天下統一」というところでは変わりはない。
 しかしスルガオウミを納め、オワリ近隣の豪族も手中に収めている今川義元。この男の描く天下は他の武将とは異なっていた。
 今川義元が思う天下とは王族に取り入り、王族の中で出来るだけ位の高い官位を賜り、いずれは王族を牛耳る立場になる。それが今川義元の抱くプランであった。
 そのためにはこの乱世に乗じて京にのぼり、この数百年で弱体化した王族の武力を今川家が担わなければならないのだ。
「そのためには早くオワリを叩かなければなりませぬ」
 勺経は僧衣のまま義元の前にドカリと座り、織田攻めの公算を語った。
 京までの道を確保するにはオワリを踏みつぶすしかない、それは義元も承知の上のこと、だが義元が思うほど織田の当主信長は「うつけ」ではないと勺経は踏んでいる。
 噂に聞く奇行の数々には、演出めいた物を感じずにはいられないのだ。その信長を叩くには戦力が貧弱な今、力業で還付無きまでに踏みつぶすしかない。
 それには御偽(オンギ)を使うのが手っ取り早い。
「いやじゃ・・・」
「何がイヤなのです?」
「堀田が持ってきよった化け物を使うといいたいのじゃろう。ワシが知らぬと思っていたか勺経。二年前からコソコソと堀田の軍師と密会しておること、ワシの耳に入らぬとおもうたか」
 勺経も義元がそれほど無能だとは思っていない。この二年間道幻との繋がりも義元の耳にどのように入るのかを見極めて居たところもあったのだ。
「いえ、殿にはいずれこの勺経からお伝えいたそうと思っておりました」
「それが今日か、二年もヌケヌケとようそのような事がいえたものじゃ、とにかくワシは今川の手勢だけで織田を倒すぞ、あのような鬼を使って京に上ったとあっては王族の方々がこの今川義元を受け入れてくれまい。それではワシはなんの為に京へ上るのかわからんではないか」
 義元はいち早く王族の雅な世界に入り込みたいのだ。イヤ、勺経は義元の心の奥底に仕舞い込んである淀んだ野望を知っている。というより、そう思っていたのだと思いこますことが出来る。
「殿はそれだけで満足なのですか、わたくしは殿こそが王になるべきだと思っております」
「なにをバカな!そのような戯言。二度と口にするでないぞ、いまどれほど恐ろしいことを口にしたかわかっておろう勺経」
「戯言ではございませぬ、わたくしは殿の本心をこの口に乗せたまでのこと。殿は王になって当然の器、王族とも遠縁の間柄であり、何度も縁戚関係を結んでおります。京に上るのであればそこまでのご覚悟をお示しなさらねば」
 今川義元の白粉顔に薄らと脂汗が滲んだ。
 
「もうよい。勺経。とにかく織田攻めには堀田は同行させるでないぞ。信長の首は今川の者がとらねばならぬ。そうせねば京に旗を立てた後、豊田にいいように操られるぞ」
 勺経は言葉に詰まった。まさかこの昼行灯のような殿から芯を突かれる言葉が出ようとは。

(まさに殿のおっしゃる通りだ、私は堀田道幻の幻術に踊らされていたとでも言うのか・・・イヤ・・・今の状況に御偽が必要なのは確かな事。殿は御偽の本当の力を知らないからただ恐れているだけなのだ)
 勺経の中にはこの二年間、実際に見、報告を聞き、御偽の力に傾倒しているところがあり、そこから離れることは難しくなっていた。
 しかし、義元の言うように織田は今川の手で滅ぼさねばならない。それは分かっている。だから堀田の率いる軍は遙か後方につけるようにいってある。
「私が居る限り、堀田の好きにはさせませぬ」
 そう我が胸に語るような独言を吐くと、勺経は大広間を後にした。
 それが今川隊が上洛に向けスルガの城を発つ二日前。
 時は決壊を待つ水だまりのように激しい濁流を待っているかのようであった。

 一方信長。
 信長は今川隊が動き出したとの情報とほぼ同時に全軍を移動させた。
「今川義元の軍勢一万」
 藤吉郎の間者からの報告。
「今川の軍その数八千弱」
 これは藤兵衛の間者の報告。
 おそらく藤兵衛の間者からの報告の方が正確であろう事は分かっているが、信長は藤吉郎側の情報に織り込まれる臨場感のある生の情報に目を見張った。
「一万の兵のうち、義元を信頼し命を懸ける者は半数もおりますまい。半数以上は大原勺経の支持者で御座います」
 大袈裟に報告しがちな藤吉郎の報告ではあったが、捨てがたい情報である。
 大原勺経を討てば自然と今川軍。いや、今川家は崩壊するだろう。
 
 それは前々から分かっていた事だ。が、しかしいままで強大な今川に押されているだけで、今川家の中枢を討とうなど空想の世界でしかなかったのだが、今川義元本体が攻めて来る戦闘となればどうとでも手はうてる。

「今川から大原勺経を引き剥がす最大の好機がやってきたぞ」
 信長は東へ向かう馬上で何度もつぶやいた。


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