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第1章

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第1章・第17話 恩人

November 18 [Wed], 2009, 10:38
喫茶店を出た一行は、サンについて歩いてゆく。
「それでサンさん、色々と調べるって約束しちゃいましたけど、
どうやって調べるんですか?」
レイナは、これからどうするのかサンに問いかける。
するとサンは、
「フフ、任せておけ」
そう答え、黙々と街中を歩き続ける。

サンは裏道に入って行く。
地元の人しか通らなそうな程、狭く、殺風景な道だ。
進んでいくと複雑に道が分かれていた。サンは、それを選びつつ進んでいく。
道を知っているようだ。

そして、突然大きな繁華街に出る。
道幅十メートルは有る道が延々と続いており、
様々な人種が入り混じっていて、とても賑わいが有る所だ。

サンはファルとレイナに「離れるなよ」と告げ、歩みを進める。
ファルやレイナは、物珍しそうに店の商品などを眺めつつ付いて行く。
すると、この繁華街の異様さに気づく。
店に露店が少なく、呼び込みが多い。しかも薬屋や情報屋や武器屋が多く、
とある店の看板には堂々と『人売ります』と。
ここは一体……。
その時左側からレイナに一人の呼び込みの男が話しかけてきた。
「よっ、お姉ちゃん。ちょっと寄ってかないか? 良い薬が有るんだけど」
「え、く…薬ですか?」
「そうよ、ちょっとこれ吸ってみ」
そう言って、レイナの片腕を掴んでストローを差し出す。
そこへサンは、男のストローを差し出した左腕を掴む。
「悪いが暇じゃないんでね。遠慮させてもらう」
「君には聞いてないよ」
男はそう笑いかけると、突如サンの後ろからサングラスを掛けた黒服の男が、
サンを押さえ込もうと襲い掛かってきた。

サンは、すぐさま上体を下げながら後ろの男の股間を蹴る。
すると黒服は後ろへ倒れる。
そこへ今度はファルに、後ろから別の黒服が押さえ込もうとする。
だがファルは、男の後ろから出てくる腕を掴み、そのまま一本背負いし、
倒れたところを腹目掛けて正拳突きする。
黒服は気を失う。

サンは剣を抜き、呼び込みの男に剣を向ける。
剣を突き付けられた男はレイナの後ろに隠れ、苦し紛れに言い放つ。
「お……お前、ここが何処だか分かっているのか?
天下の御膝元で殺しなんかやったらどうなるか、お前にも分かるだろ」
だがサンは無表情で男を見つめる。
「……それがどうした」
「く……」
男は食いしばる。するとその時、レイナはクルリと男を向くと、
いきなり顔を拳骨で殴り飛ばした。

男は吹っ飛んで伸びた。

「ヒュ〜、KO」
ファルは茶化す。
「うるさい」

レイナはサンに問い詰める。
「何なんですかここは!?」
するとファルも同意する。
「そうだぜ。こんな犯罪通りみたいな所に何で来たんだ?」
「……とりあえず、場所を移そう。野次馬が集まってきてる」
そう言って、剣を背中の鞘に収め、歩き出す。
レイナとファルは付いて行く。

サンは歩きながら説明する。
「ここは闇市だ」
「闇市!?」
「なんだって!?」
二人は驚く。
闇市といえば、大犯罪組織『黒龍』が取り仕切っている犯罪市場。
武器・薬物・人・情報と、合法な物から違法な物まで何でも取り扱っている。

「何で闇市に?」
レイナは聞くと、サンは淡々と答える。
「ここなら、ステイラーに関する情報も簡単に手に入ると思うからな。
闇市では場所によるが、手に入らない物は無い」
「それでこんな危険な所へ?」
「そんなに危険な所じゃない。
さっきのはお前がキョロキョロしてたから一般人だと思われて、
それで強引な呼び込みをしてきたんだ。
初めての奴が一番カモにされるからな」
「それで……」
レイナは少し恐ろしくなる。
サンが助けてくれなかったら、とんでもない事になっていた。
「堂々としてれば問題ない。呼びかけられても無視だ」
サンは二人に言い聞かせる。


その時、後方から銃声とガラスが割れる音がする。
三人は後ろを向くと、ガスマスクのようなヘルメットを被った人数名が、
さっき呼び込みをしてきた男の店を襲撃していた。

「何アレ……」
「あれは黒龍の治安維持部隊だな。
多分さっきの事で治安を乱したと判断されたんだろう。
秩序を乱す奴は徹底排除するからな」
そう聞くとファルは嫌な予感がする。
「って事は、俺たちには?」
サンは笑みを浮かべて、キッパリ。
「もう遅い」

刹那、
「動くな!」
周りに治安維持部隊が囲んで、ライフルの銃口を向けられていた。

「手を上げろ」
サン達は言うとおりに手を上げる。
そして、治安維持部隊の一人がサンの剣を取り上げる。
身体を触り他に武器が持ってないかを調べていく。
ファルやレイナも調べられる。

他に武器は持っていないと判断されると、
「よし、連れて行け」
どこかへ連れて行かされるようだ。

レイナは思わず呟く。
「もぅ……、何でこんな事に……」

「……いや、これで面倒が省けた」
サンは笑いかける。
「面倒が省けたって……?」
「無駄口を叩くな」
レイナとサンに銃口を突き付けられる。

するとサンは、銃を突きつけている男に話しかける。
「統括長※の所に連れて行ってくれないか」
唐突に奇妙な事を言われて困惑する。
「は? 何言ってるんだお前。
お前なんかが、会える訳無いだろ」
「いいから、こう統括長に伝えろ。
『サンが会いたいと言っている』と」
「……よく分からんが、しょうがないなぁ……」
渋々、懐から携帯電話を取り出し、連絡する。

『プルルル……ガチャ、はい、こちらオースマト市(いち)統括長。ご用件は?』
「あ、統括長。三番隊です」
『何だ。何か問題でも有ったのか?』
「いえ、それがですね、騒ぎを起こした三人組を逮捕したのですが…、
その中のサンと申す者が統括長に会わせろと……」
『サンぅ? どっかで聞いた事がある名だなぁ……。
……とりあえず、今区長※が来てて忙しいから。
適当にあしらっておけ』
「分かりました」
電話を切ろうとすると、そこへ突然電話の向こうから女が呼びかけてきた。
『ちょっと待て』
「? ……誰だアンタ」
『無礼な。区長だ』
「あっ、くっ区長ですか! 失礼しました!」
『その三人組を第三会議室に連れて来てくれ』
「え? あ、はい。了解しました」
電話を切った。

男は一つ息を吐いた。
まさか区長が来ているとは思わなかった。

そこへサンが話しかけてきた。
「区長は女か?」
「え? それがどうした」
何故そんな事を聞いてくるのが分からない。

サンは男の答えっぷりから区長が女だと察する。
すると、
「いや……、なら良い」
そう言って、笑みを浮かべた。



サン達は黒龍の建物に入り、第三会議室に案内される。
男は「くれぐれも無礼の無い様にな」と言うと、会議室の扉を開ける。
中に入ると、部屋は細長い長方形をしており、
細長い円囲いの机の一番奥側に女性が背凭れに寄りかかって座っていた。
女性は、顔の口から上が隠れる白い仮面を被っており、
暗めの赤い長髪に、赤いドレスを着ている。
見た目は、アゴのラインは細く見え、手や腕、体型も細く、とても華奢に見えるが、
どっしりとした存在感がある。
その場に居るだけで、部屋の中の空気をズシリと重くしているようだった。

サン達は近づくと、女性が笑みを浮かべながらサンに話しかけてきた。
「久しぶり」
すると、サンは一礼をしながら、
「お久しぶりです」
と返す。

そして女性は立ち上がる。
結構の長身で、ファルより少し高いくらいの身長がある。
「そっちの二人は連れか」
「はい」
サンは畏まっている。
女性は、レイナとファルに自己紹介する。
「初めまして。私はメナーディー・フォートネル」
ファルとレイナも自己紹介する。
「俺は、ファル・エディオス・クラウディオ」
「私は、レイナ・クリストファー・メルセデスです」
メナーディーはレイナの苗字を聞いて、感心する。
「へぇ、メルセデスか。結構高貴なお家柄なんだね」
「いえ、義父の苗字を貰っただけなんですけどね。
そんな高貴な家のなんですか?」

「オーラン王国の貴族で、メルセデス家というのが有ったと思うんだけどなぁ……。
ね、サン?」
サンに聞くと、
「そうですね。オーラン王国にメルセデス家が有ったと思います。
確か王族と繋がりが深い家だった筈ですよ」
サンも同意する。

そしてサンはレイナに問いかける。
「あのマスター、そんな高貴な出だったのか?」
「さあ……? あんまり過去の事は話さない人だったので……」

メナーディーやサンは考える。
「まあ、調べてみれば分かるでしょう。ちょっと気になるしね……」
メナーディーは引っかかる点があるようだ。
「……気になる?」
サンはメナーディーの気になる所が分からなかったが、
少し考えると、メナーディーの気になる所が分かった。
「……ああ! 確かに、時期的にね」
「そう。丁度ピッタシなんだよね」
「……という事は、レイナのことは調査済みですか……」
「もちろん。エレから報告受けてるからね」
レイナは二人の話を聞いて、やっぱり黒龍はとんでもない組織だと感じる。
ありとあらゆる物を調査する。
そしてメナーディーはレイナに聞く。
「一応、お義父さんの名前を聞こう」
「え…えーと、ガリア・ダム・テンパーラ・メルセデス……だったと思います」
「……有難う」
礼を言うと、メナーディーは元の席に座りながら、サン達に座るよう促す。
そしてサン達は座ると、サンがメナーディーに話し掛ける。
「それにしても、人前に姿を現すなんて珍しいですね。
私と二人きりならともかく、連れが居るのに」
「フフ、まあお前の連れなら少しは信用できると思ってね。
お前が死神だという事をバラさない人間でなければ、旅の連れにはしないだろう?
それより、お前に連れが居るのが驚きだよ。
一匹狼のお前が供を連れるなんて、シオン以来だと思うけど?」
「……ま、何と言うんでしょうか……。
色々と思う所がありまして……」

そこへレイナが、二人に聞く。
「サンさんとメナーディーさんは、どういった関係なんですか?
サンさんも、かしこまっちゃったりしてますけど……」

サンは一瞬メナーディーと顔を合わせると、レイナの方を向いてゆっくりと答える。
「……この人は、私にとって命の恩人とも言える人だ」
「命の恩人ですか……」
サンはうなずく。
「ああ……。メナーディーさんが居なければ、今の私は居ない。
あの革命戦争すら参加する事は無かっただろう」
「革命戦争って……ちょっと待って下さい。
メナーディーさんって、そんなに歳がいってるんですか?
見た目、全然若いですけど……。もしかしてエルフ?」
メナーディーは笑いながら答える。
「いや、そんな事はないよ。おもいっきし人間だ。
こう見えても結構な魔術師だから、見た目を若く見せる事がいくらでも出来るんだよ。
長生きだって出来る」
そこで一区切りを付けると、詳細を語りだす。
「サンとの付き合いは、サンが九つの時、光の一族が帝国軍に襲撃されて、
天龍鵬寺院にかくまって貰っている時からだ。
私が、サンの当時受けていた胸の傷を完全に治療させ、サタンスペルに関しての知識を与えた。
龍斗が、治癒術で治療していたけど、闇のサタンスペルに対して光の治癒術じゃあ
相性が悪すぎて一定以上治癒しなかった。そこで私が協力したんだ」
「そうなんですか。それで……」
「ただ、その時私はまだ若かったせいも有って、知識が至らず対処療法になってしまった。
今だったら、もう少しは、まともな治療が出来たと少々後悔が残るよ……」
メナーディーは、すこし暗い表情をする。
サタンスペルを負った直後なら、サタンスペル自体を取り除く事が出来たかもしれないと、
悔やんでいるのだ。
サンは明るく声を掛ける。
「気にする事はありません。
こうして生きていられるのも、メナーディーさんのお陰ですから。
メナーディーさんの治療とご教授が無ければ、あの後何年生きられた事か……」
重苦しい雰囲気になった所で、メナーディーが打ち消す。
「ま、昔の話はここら辺にして、本題に移ろう」
そしてサンに笑みを浮かべて問いかける。
「お前は闇市に何しに来たんだ?
蟲殺の子供の事なら、エレに聴けば良いと思うんだけど」
サンは答える。
「ステイラーについて教えて欲しい」
聞いたその時、メナーディーの顔から浮かべていた笑みが消える。

「………何故……知りたいんだ?」
メナーディーは机に頬杖を突く。
サンはゆっくりと慎重に言葉を選びながら言葉を返す。
「……最近…、ステイラー伝説に登場する魔物に良く似た魔物が、
オトマルガ地域南部に、出没すると聞きまして……」

メナーディーは数秒沈黙する。
そして、グッと背凭れに寄りかかる。
「……大体予想がつく。地方長官がこの集落に来ているからね。
大方、長官に頼まれたんだろう」
「………」
サンは黙り込む。
「……ま、無理に言わなくても良い。
ステイラーなら、もうじきこの集落に来るだろう。
その時、傍に居る奴らに聞けば良い」
「もうじき来る!?」
三人は驚く。もうじき来るとは、どういう事なのか。



2009/11/20 誤字修正。


解説
『統括長』
統括長は、黒龍の組織の中の役職の一つで、闇市を管理・運営する管理職である。
全ての闇市に統括長が居る。

『区長』
区長は、黒龍の組織の中の役職の一つで、闇市や事務所など全ての組織を国単位で管理する管理職である。幹部職。

あとがき
大変お待たせいたしました。
第17話公開です。
なんか遅れるのが普通になってきてしまいました。
2日有れば書き上げられると思ったのに、書き上げられないんですねぇ。
まあ、今回はキリの良い所で終わらなかったのもあるんですけどね。

それにしても最近、セリフ主体の話が多いね。
展開的にそうならざるを得ないというのも有るんだろうけど、
もう少し説明文を増やしても良いと思うんだよね。

けど中々文句が見つからない……。
漫画出身の私にとっては、絵で済ませれば滅茶苦茶楽だと思う。
絵だったら形で伝えられるから、一々文字で説明しなくて良い……。
けど小説でそんなことを言っても、仕方ないですよねぇ。

ま、そういうのは置いといて……、
今回はメナーディーという新キャラが登場しました。
このキャラは最初から考えていたキャラですけど、
どのタイミングで登場させようか考えあぐねていました。
そこで、こういった闇市の場面でチラッと登場させようと決めました。
3日前に決めました。

とりあえず今回はチラッとだけ登場させますが、
物語の中盤以降は大活躍します。
太陽の暉を語る上で重要な人物ですから、今はちょこっとだけ登場です。
彼女が居なかったら、太陽の暉は成立しません。
余りバラすとネタバレになってしまうので秘密ですが、
彼女は又暫く登場しないので、とりあえず覚えといて下さい。

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第1章・第16話 歪

November 09 [Mon], 2009, 10:06
サン達は喫茶店で食事を取りつつ、クロードと会話をしていた。
喫茶店の中は兵士ばかりで、一般客は居なかった。

クロードはかつての革命戦争を振り返る。
「1132年のティムキタン・ラントルキ境界線防衛戦。
あの戦いで本部を防衛した事が、レジスタンス『イリス』を勢い付けたといっても
過言では無いでしょう。
当時イリスは、国内最大級の反政府組織と言っても、
まだ百人ほどで、帝国からしたら吹けば飛ぶような存在。
そこへ、帝国軍の大将軍ウルフェンがイリスに降り、その後数人が続いてイリスに降った。
この数人の内の一人が、サン殿、貴女だったと聞いております」
サンは静かにうなずく。
「……ああ」
「この後、様々な戦争に勝利し勢力を増したイリスに帝国は危機感を覚え、
徹底的に叩き潰すために、本部へおよそ二万人の兵で攻め込んだ。
ですが、結果は帝国軍の惨敗に終わり、わずか百十数人のイリスに対して
帝国軍は五千人もの死傷者を出した。
イリスは半数の約五十人の死傷者が出たが、帝国軍とは比べ物にならない程の少なさです。
これほど圧勝できたのは戦線の最前線に、大将軍ウルフェン殿とサン殿がいたからとか」
「……あの戦いでは、殆どがウルフェンのおかげと言っても良い。
私のカウンターを主とする戦い方では、多人数を相手にするのは、
余程実力差がなければ勝てないからな。
私は前線に出ながらもウルフェンの後方支援に回った」
サンはしみじみと語る。
「ウルフェン殿の武勇伝は多々聞いております。
三大剣流が一つ藍漸流の創始者。
その腰に差した蒼い剣から繰り出される剣技は、目にも留まらぬ神速の太刀筋で、
その素早く数多と繰り出される剣の残像の為、周りには蒼い川が流れているように見えるとか。
まさに天下無双の大剣豪。
ウルフ族最強とも謳われ、百二十年ほど前にオトマルガ地域に出現した第九等級の悪魔五体を
かすり傷一つ負わずに討ち取り、悪魔狩りとも呼ばれたそうです」

「悪魔を倒したりしてたのか」
サンは意外そうに聞く。
「ええ、そうですよ。とにかく滅茶苦茶強かったらしいです。
今何しているのでしょうかね。まだ亡くなってはいないでしょう。
ウルフ族は二百年は生きると言いますので……」

「……たしか、ミトラス教国※で神官になっていると聞いたぞ」
「そうですか。ウルフェン殿は信心深いお方と聞いておりますから、
神官になっていても不思議ではないでしょう」
「向こうでも結構な役職についているそうだ。たしか管区大司教※だったと思う」
「ほう……」
そこへクロードはサンがウルフェンに詳しいことに疑問を抱く。
何故これ程詳しいのだろう。いくら革命軍で共に戦った同志とはいえ、
アレからもう百年にもなる。
「……つかぬ事をお聞きしますが、サン殿はウルフェン殿と親しいご関係で?」
クロードの問いに、サンは静かに答える。
「……ウルフェンは私に剣術を教授してくれた師だ」
クロードは驚く。
「何とそうでしたか! それで色々と詳しいので。今も親交が?」
「いや、いま私は旅をしているしな」
「そうですか。……ウルフェン殿が共和国に入らなかったのは何故か聞いておりますか?
サン殿と一緒にイリスへ降った、ティキ殿は初代大統領、
マーク殿は初代行政官と政府に入りましたが、
ウルフェン殿は帝国では将軍として多くの師団を纏めていらしたお方。
実力や経験、リーダーシップは十分兼ね備えていると思うのですが……。
私はこれが不思議でなりません」
サンは少し考えると簡潔に答える。
「……それは、私の口からは何とも……」
「サン殿も存じないので?」
「理由は知っている。だが、師の邪魔はしたくないし名誉のためにも答えられない」
サンは教えたくないようだ。
クロードは少し視線を落とし、考える。
そして、
「……イリスが勝利できた事と関係が?」
そう問いかける。
「それは関係無いが……。もしかして、それで私の名が軍でさえ知られていないのか?
ペネムが私の名を聞いても、何とも動じなかった。
僅か百年足らずで全く知らないというのは不自然じゃないか?」
サンは話をすりかえる。
クロードはこれ以上言及する事を諦め、サンの問いに答える。
「……まあそうですね。サン殿の名と功績は、政府でも議員になれるほどの上部の者、
軍部内では大将以上でなければ全く知りません」
「秘密にしてるのか?」
「そうです。革命戦争が謎に包まれているのはそのせいです。
あの戦争は、とても表沙汰には出来ない事が多いですからね。
サン殿も心当たりがあるでしょう?」

サンは少し考えると理解する。
「……あの事か」
そう呟くように言うと、クロードは「そうです」と返事し、
ここでステイラーに話を持っていった。
「そして、実は今回のステイラーの事も関連があるのです」
ステイラーと関連があると一体どういう事なのか。
サンは聞き返す。
「ステイラーが?」
「はい。あの革命戦争では、とてつもなく巨大な組織が少なくとも二つ裏で関わってましたが、
今回のステイラー騒動ではそのうちの一つの組織が、関わっているのではないかと」

なにやら怪しげな方向に向かっている。
サンはクロードの言いたい事がいまいち分からない。
「そのステイラー騒動というのは具体的にどういったものなんだ?
ステイラーは架空の魔物の筈……」
そう聞くとクロードは同意する。
「その通りです。ステイラーは実在しません。
ですがここの所、奇妙な魔物が姿を現しているのです」
「奇妙な魔物……?」
奇妙な魔物とは。クロードは説明する。
「はい。普通にしている時はその姿は人と全く変わらないのですが、
何かの拍子に突如魔物に変化し周りの人に襲い掛かっていくのです。
これにより、いくつ街が壊滅したか計り知れません」

「それでステイラー…か……」
「そうなんです。しかもこの魔物は街の中に入っては、周りの人達を殺すのです。
いったいどういう目的で町に入るのか分かりませんが、かなり奇怪な魔物です」
非常にステイラー伝説と酷似している。
その上とある共通点をサンは見つける。
「……ソレイユと似てるな……」
サンの指摘に、クロードは話を繋げる。
「……そうですね。ソレイユも何故街を壊滅させるのか分かりません。
そしてこの事でソレイユとも関連して、
ステイラー騒動は国際問題にもなりかねない事態に発展する可能性もあります」

国際問題。サンはそう聞くと、表情が厳しくなる。
「……国際問題とは……?」
クロードはゆっくり話し始める。
「数日前、ココから東へ行った所にあるカンダラという街で、
アラレマス帝国の軍人が目撃されたんですよ」
「……別におかしい事は無いだろう。帝国と共和国は同盟国同士。
無断で入り込んできたというのなら問題だが、そんな事は有り得ないし、
暗部の人間だったとしても、軍事戦略上、一人二人居たところで不思議ではない。
共和国も送り込んでいるだろう?」
「確かにその通りなのですが……、
実は同じ時期にアルマイヤ地域のパタルキアという村にソレイユが出現した際、
そこにルナと名乗る女性がガンマ・アラルドルク・クリエイトと共に現れたと、
アルマイヤ地方政府から報告が入っています」

「何……!?」
サンは驚きの声を出す。ルナという人物を知っている。
「ルナといったら……」
「そうです。アラレマス帝国の暗部を代表する人物です。
彼女はとてつもなく人脈が広く、国のトップはもちろん、あのウルフェン殿や、
世界的に影響力の強いオーラン王国の重鎮、アルフォンヌ・クレナレーデ書記官。
更には大犯罪組織『黒龍』のボス、レイ・カンツォとまで交流があるとか。
しかも武芸も達者で、ウルフェン殿にも負けないほどの剣の使い手の上に、
スナイパーとしての一面もあり、超一流の狙撃の腕を持ちます」

サンは手元を見つめながら語る。
「……彼女には、何度か会った事がある。かなり独特のオーラを持つ人物だ。
傍に居るだけで、全てを見透かされているかのような感触を受ける」
そして視線をクロードに移す。
「……で、本当にパタルキアに現れた女はルナなのか?
ルナがソレイユの連中と接触する理由がよく分からないんだが。
しかもガンマと一緒というのが腑に落ちない」
「恐らく本人でしょう。銀髪のショートカットに白い皮製のブリガンダイン、
肘まである白い手袋、チェック柄のミニスカートに長いブーツ。
彼女が普段着ている服装そのままです」
クロードはそこで一呼吸を置くと、さらに続ける。
「それと、このルナが現れた時に黒龍のナンバー三、ルドルフが居たそうです」
「……ルドルフ………」
サンはそう呟くと、ステイラーの事に言及する。
「まあ色々と言いたい事はあるが、結局の所ステイラーと、どんな関係があるんだ?」

「カンダラで帝国の軍人が現れた後、ステイラーらしき魔物が現れたんですよ」
「………」
サンは腕組みをして顔を伏せ、考え込む。
「実は同じような事例はいくつもありまして、ステイラーで何度も街を滅ぼされていますが、
その際、必ず一ヶ月以内に帝国の軍人の姿が目撃されています。
これらを鑑みると、少なくとも何らかの形で帝国が関わっているのではないかと、
そう思わざるを得ません」
サンはそこまで聞くと、クロードにゆっくりと顔を向け、一言、
「………面白い」
意味深長な微笑みを向けた。
クロードはその微笑の意味する所を気にかけ、サンに問いかける。
「……面白いとは?」
「なかなか鋭い所を突いている。ステイラーの現れるところに必ず帝国の者が現れ、
更にソレイユや黒龍と接触をした。状況的に関係が有るとも言えるが、実証は無い。
この程度の事で国際問題にするのもどうかと思うな」
「確かにその通りです。疑いを掛ければ限(きり)がありません。
ですが、先ほども言いました様に前例があります」
「………革命戦争か………」
そうサンは呟くと、机に身を乗出してクロードに語りかける。
「お前は何処まで理解している」

「……何処まで……とは?」
「あの戦争を理解するには戦争に関わった全てのものを知り、理解する必要がある。
お前はそれらの何処までを理解している」
クロードは少し黙り込むと、答える。
「……名はココでは出せませんが、二つの組織がイリスに対して
軍事兵器や資金を提供をしていたと……。
それ以上深い事は一端の地方の長では教えてはくれません」
サンは背凭(もた)れに凭(もた)れ掛かる。
「……その程度の知識なら、今回のことは目を瞑るべきだ。
お前は何も知らないに等しい。余り深追いすると知らなくても良い事を知ることになる。
したらば、お前の身に不幸が訪れるやもしれない」
「という事は、サン殿は全てをご承知で?」
サンはクロードを鋭く見つめる。
「当然、私はイリスに属していたのだからな。
それに、戦後闇の世界を生きてきて戦争の真実も知った。
だからこそお前に忠告する。知らない方が良い。知れば抹殺される。
私が今まで殺されないでいたのも、黒龍と繋がりが有るからこそ。
無ければとっくに消されてる」
サンの忠告に、クロードは問いかける。
「では私の推測は事実なのですね?」
「事実だが真実ではない。これは国云々の問題ではなく、非常に狭く深い問題だ」
サンは机に肘を突く。
「もうここで止めろ。地方長官如きが口出しできる問題ではない。
せめて中央政府に申し付けろ」
クロードは厳しい顔つきで答える。
「もうしてます。ですが中央政府は動きません。
サン殿が言う事は、つまりこのまま放置しろという事ですか?
ステイラーによって多くの人民の命が奪われているというのに!」
後半、クロードは思わず口調がきつくなる。
サンはクロードの意見も分かる。確かに放置して置く訳にはいかない。
そこで色々と思考を巡らし、鑑み、サンは答える。
「……なら私が対処する。これで文句無いだろ」

クロードは問いかける。
「どのように対処するのですか?」
「ステイラーがどんな魔物なのか分からないから何とも言い様が無いが、
とりあえずステイラーを退治、そして背景を調べる。
断っておくが、調べて判明した事の全ては教えられない。
もしもの事があった時に責任は取れないからね」

「それは構いません」
クロードは了承する。
そこへサンは注文をつける。
「だが、私も暇じゃない。
私は今、共和国各地を渡る旅をしている。
だから退治や調査をしていると、徒歩で旅をしている為、旅の予定が大幅に遅れてしまう。
そこで注文なんだが、何か旅の足となる物を譲ってはくれないか。
そうすれば、今後のたびもスムーズに進められる」
そのサンの注文にクロードは、少し考えて、迷いながらも承諾する。
「……分かりました、用意させます」
クロードは厳しい顔で答える。
するとサンは、
「それじゃ早速準備に取り掛かるか」
そう言って立ち上がる。
そしてレイナとファルに話しかける。
「食べて済んだか?」
レイナとファルは言葉を返す。
「ハイ、済みました」
「あ〜食った食った」
ファルの緊張感の無い返事にレイナが噛み付く。
「アンタねぇ、もうちょっと真艫(まとも)な返事は出来ないの?
あんなに真剣な話しをしてたのに、緊張感無さ過ぎ」
「まあまあ、良いじゃねえか。マイペース、マイペース」
「フフ、じゃ出よう」

そしてサン達は外に出る――

――外に出ると、サンはファルとレイナに向かって腕を突き出し、親指を立てる。
「これで足が出来たな」
そう笑みを浮かべて言った。

なんと、サンは最初から旅を迅速に勧める為、足を確保出来るように話しを進めていたのだ。
ファルとレイナは、サンのその巧みな話術に驚嘆する。
「今までの件はその為か!?」
「凄い話術……」


解説
『ミトラス教国』
ミトラス教国は、マントゥア半島にあるミトラス教を国教とする宗教国家である。マントゥア半島は、この世で最初に生まれた人間アリドスが生れ落ちた地とされている。また、主要国議会が開かれる地でも有る。その為、中小国家の中では発言力が大きい。元首の名称は教皇。
教皇は、主要国議会において議長の役を任ずる。これは主要国議会の中立性を保つ為と開催地を提供するミトラス教国への配慮の為である。ただし議長の為、議論には参加できない。

『管区大司教』
管区大司教は教会管区の裁治権を持つ司教である。ミトラス教国において、知事に匹敵する重要なポストである。


あとがき
大変遅れまして、申し訳ありません!
個人的に忙しかったものですから。
その上、ステイラーに関しては本当に複雑で、キチンと理解するのに結構頭を使うんですよ。
基本的に利害関係ですけど、その関係が理由と共に複雑なんです。
組織だけでなく人物も関わってきますからね……。

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