アシタカせっき〜AFTER STORY3〜

June 09 [Thu], 2011, 15:55
「アシタカ。そなた、姫はいつ連れてくるのだ?」

いまやアシタカはエボシの代わりにタタラ場の指導者的立場になっていた。エボシと今後のタタラ場の生業の事で話しあっている最中、アシタカが考えている時にエボシが突然聞いてきた。

「妻は山を下る気はない。」

「そうか。姫が私を憎む気持ちは生涯変わらぬであろうが、私はそなたらには感謝している。そなたの館を別に建てた意図をくんでもらいたいのだ」

アシタカはしばらく黙りこんでしまった。彼とて身重の妻と離れて過ごすのはつらいに違いなかった。
「ありがとう。妻に話しておく。」アシタカは微笑んだ。
アシタカの住む家はタタラ場のやや離れた場所にある。タタラ場再建のおりあらたにたてられた。1人で暮らしているが村にいたころも成人してからは1人暮らしだったため特に困る事はなかった。
女たちもよく差し入れをくれたし、1日の作業のおわりに仲間と食べる事が多かったこともある。

今はエボシが助かったのは山犬が背負って運んだからという事実は知れわたっている。一連の戦に関しては師匠連や侍へと怒りの矛先が向いてあり、壊滅的打撃を受けたののけたちを悪くいうものはあまりいなかった。
アシタカはこれからの事を考えながら家へ向かった。「キャっ!」
曲がり角を曲がったところで何かぶつかった気配がした。「すまなかった。怪我はないか?」

「いえ、よそ見をしていた私が悪いのです、お怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫だ。そなた、初めてとお見受けしたが」
「はい。3日ほど前にこちらに越させていただきました。」少女は質素なみなりながらも礼儀正しく野に咲く花のように愛らしい顔だちをしていた。
少女は名をカヤと言った。「私の故郷にそなたと同じ名の娘がいたよ」アシタカは懐かしそうに微笑んだ。「まぁそうなんですか。嬉しい。」「カヤ。早く手伝って!」奥の家から女の呼ぶ声が聞こえた「あっはーい」わからない事だらけでご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします。」少女は丁寧にお辞儀をして黄昏の中をかけていった。

その夜アシタカは久しぶりに故郷の夢を見たー。夏でも雪の残っている美しい山々。気高く賢い熊やシカやキツネなどの動物たち。村の純朴で暖かい人々ー。そして旅立ちの日に村の掟まで破って見送ってくれた、3つ下の妹のような娘ー。
朝日が部屋の板間に差し込んで目が覚めた。

代々引き継がれる玉の小刀を渡し二度と帰れない私を思い泣いてくれた優しい娘。いつも思う、そう言って別れたが旅立ってからは意識的に故郷を思い出す事を封じていた。でなけれ一歩も進めないと思ったからー。
幸せでいてほしい。
心からそう思う。

「おはようございます、アシタカ様!」
「カヤ殿か。おはよう。」井戸で顔を洗っていたらきのう出逢った少女が隣にやってきた。アシタカは着物を脱ぎ下袴姿で顔を吹きながら 少女の方の方へ視線を向けた。
「大分空が高くなりましたね」

「そうだな。あと二月ほどすれば雪が見れる」

「私の郷は南なので雪はあまり見た事がないんです。楽しみです」

少女ははにかみながら言った。

「ここの暮らしは慣れたか?」
「はい。皆さんとても親切にして下さいます。」
「良かった」
アシタカは微笑んで脱いでいた着物を手にとり素早く羽織り去っていった。少女はその後ろ姿をそっと見つめていた。

その日は久しぶりの休暇がとれたのでサンの元を訪ねた。

いつもなら出迎えてくれるサンだがいくら呼んでも返事がない。アシタカは不審に思い洞窟の中へ入って行った。
「...サン?」

「アシタカか?すまぬ今、起きる。」サンは毛皮をかぶり寝ていた。顔色は血の気がひき青ざめている。見るからにつらそうだった。アシタカは思わずかけよった。
「そのままでいい。大事ないか?」とても心配そうにアシタカはサンの顔を見つめる。「大丈夫だ。少しめまいがしてお腹が少しはるので横になっていた。」アシタカは横に座りサンの髪をかきあげ頬に触れた。以前きた時よりさらにお腹は大きく膨らんでいる。郷にいたころは妊婦はこのくらいの腹になると忌み屋にこもっていたものだ。
アシタカはお腹を撫でた。ぽこぽこと返事を返すように動く。
この時にアシタカは決心した。サンを抱き上げ、ヤックルに乗せた。
「いきなり何を!」

サンは驚き降りようともがいたがアシタカは全く動じない。
「私の館に連れていく。」
「タタラ場にか?嫌だ!離せ!」「ダメだ。」アシタカは冷静に行った。

洞窟を出たところで山犬にはちあった。「すまぬ。サンを借りていく」『何があった?』
「一度お産に詳しい者に診てもらわなければ気がすまない」『山犬は皆自分で産むぞ』「サンは山犬ではない。人の子だ!」
あいかわずサンはもがいているがアシタカは構わずヤックルに乗せて自分も後ろからがっちりサンを抱き抱えた。男と女では力の差は歴然としている。「ヤックル、ゆっくり頼む」ヤックルは鼻をならして返事をした。「サン!今はタタラ場でそなたを憎む者は誰もいない。エボシも山犬に助けられた恩を返したがっている。」
「礼なんかいらぬ」
サンは憮然とした面持ちで言った。「そなた1人なら私はそなたの意思を尊重するがそなたと私の赤子を今は第一に考えて欲しい。」
そう言ったらサンは強く反発していた手をゆるめた。
「ありがとう。関係ないものが立ち入らないようにするから。」アシタカは安心させるように穏やかに話しかけた。
アシタカがサンを連れて帰ってきたのは夕日が沈む頃だった。

アシタカが女性を連れて帰ってきたのはあっという間に広まった。「アシタカ様、嫁さん連れて帰ってきたんだって?」

「しかも身重らしいわよ〜。ここではまったく女っ気がなかったから驚いたわ」皆、口々に噂をしていた。

アシタカの行動は素早かった。エボシに伝えほどなく、サンの寝床をこしらえ、お産に詳しい婆を連れてきて診てもらった。

「少し腹がはっとるのが気になるな。しばらくは安静にな。赤子が埋れるのはもう少し先だろう」「ありがとう。」

アシタカは玄関まで婆を見送ってサンの元に戻った。
アシタカは玄関のすぐ横にたっている人影に気がついた。

「カヤ殿ではないか」

「アシタカ様。あのこれおトキさんから差し入れをもってきました。粥と薬湯です。あの、奥方様に。」
「ありがとう。おトキさんにもよろしく伝えておくれ。」
「奥方様はみごもっておられるのですか?」

「あぁ。もう産み月に入る」
サンは頭から布団をかぶりふてくされている。その様子がとても愛らしかった。「さきほど煎じた薬湯だ。ゆっくり飲みなさい」

アシタカはサンに湯飲みを差し出した。
「..サン?」
サンはまだ怒っているのか、と思い覗きこんだらいつの間にかすやすや眠っていた。その寝顔を優しく見つめるアシタカ。そっと頬にふれた。

「アシタカ様。あのこれおトキさんから差し入れをもってきました」

「ありがとう。助かるよ」
アシタカは受け取った。
「奥方様はみごもっておられるのですか?」

「あぁ。もうすぐ産み月に入る。」
「そうですか。無事にお生まれになるとよいですね。」少女は少しか細い声だった。「無理に連れてきたから 起きたら喧嘩だな」アシタカは苦笑した。だがその表情は明るかった。

「それでは、私は帰ります。」
「ありがとう。おトキさんにもよろしく伝えておくれ」少女は丁寧に一礼して駆け出していった。

サンは目を覚ましていて、二人のやり取りを聞いていた。少女の表情はわからないがアシタカに好意をもっていたのは、確かだろう。アイツには人を惹き付ける力がある。山犬の言った言葉を思いだした。サンはアシタカが戻らないうちに布団をかぶりたぬき寝入りをこころみた。そして誰にでも優しいアシタカを思い少女に対して複雑な気持ちになった。
プロフィール
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  • アイコン画像 ニックネーム:唐人
  • アイコン画像 誕生日:1月24日
  • アイコン画像 職業:専門職
  • アイコン画像 趣味:
    ・登山-山登りはまってます!この夏初めて日本最高峰富士山登りました!御殿場コースはトイレ少なく途中何度もくじけそうになりましたがやはり登山は最高(^o^)v登らなくては見えない景色があります☆
    ・スウィングダンス-1920〜30年代にアメリカやヨーロッパでブレイクしたペアダンス。音楽とリーダーとの一体感を一度味わうともう..Sing sing sing!やIn the moodなどが流れると自然に身体がリズムをとってしまいます♪
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