50代のお祝い駄文151

March 31 [Sun], 2013, 18:42
「で、今日はどうしようか?」
「総司ん家で豪華パーティ!」
淳司が待っていたとばかりに勢いよく手をあげ、名乗りをあげる。
「……ええ〜……私は五人で遊べる所に行きたいんだけど……」
翔子が不服そうに呟く。
「そうだね。こんな日くらい、家から解放させてよ……」
総司はとほほ、と情けなさそうにぼやく。
「じゃあ、五人で遊べるところ、ネ……どこ、あるかナ?」
ジャックが思案し始めると、亜季がぱちりと指を鳴らす。
「そうだ。あそこに行かない?」
四人は首を傾げて、あそこって、と亜季に尋ねる。
「今日は何月何日?」
その問いで総司、翔子、ジャックは気付いたようで、はいはいと頷く。
「なんだよ。日にちが関係あるのか?」
それでも淳司だけは何の事かわからないようで、怪訝な表情だ。
「……本当に鈍いわね、あんた」
「だからどこだってんだよ?」
イライラしてきたのか、口調が不機嫌なものになっている。
「今日は、二月十三日、バレンタインデーの一日前よ?」
亜季が確認するように淳司に告げる。
「だから、日にちのどこが……」
言いかけて淳司はやっと気付いた、というように、
「学校行く気か?」
「行ったって問題ないでしょ。今日は土曜日で休みなんだし」
言うが否や、すでに亜季は歩き出している。
「……何が悲しくて休日に学校行かなきゃいけないんだよ」
白い吐息が盛大に吐き出される。
ただ、口調に不満は込められていない。
「じゃ、行こうか」
総司の声と共に、僅かに積もった雪を踏み締めながら五人は歩き出す。

都会の風は冷たく頬を打ち。
無情なまでに日々は通り過ぎていく。
何も出来ずに、泣いた日もあった。
何もわからずに、彷徨った日もあった。
傷つく事を恐れて、悔やんだ日もあった。
……それでも、今は笑いあっている……
青空の向こうはどこまでも広がっていて。
歩き出した道の先はまだ見えない。
先が見える日はまだ遠い未来のこと。
それでも。
五人はそれぞれの未来へと歩き出している。
時には支えられ。
時には支えながら。
歩き出している。
照らす太陽の光は暖かく。
降り注ぐ雪はどこまでもしろく、優しい。
両手一杯の幸せを噛み締めて。
笑顔を絶やさぬようにしていよう。
友が。
恋人が。
そして自分が描く。
未来のために。

50代のお祝い駄文150

March 30 [Sat], 2013, 18:41
住み込み、自給百円。
昼食はカロリーメイト。夜食にバナナが一本出る。
そんな生活スタイルだったので、去年四人にあった時、淳司は別人のように痩せ細って……いや、やつれきっていた。
ただ、その苦労実ってか、今年の春には彼が手がけたゲームが出るそうだ。
「そういえば、アキは? アツシ?」
「さあ……そろそろ来る頃だと思うが……」
腕時計に眼を落とし、周囲を見渡して見ると、
「あ、きたきた」
翔子が嬉しそうな声で呟く。
「お待たせ」
そう言うと亜季は四人に向かって微笑む。
亜季は高校の卒業と同時に、イギリスの大学に進学した。
両親、学校の担任には相当な反対があったそうだ。
他の四人にはそれとなく相談していたそうだが、決定打は淳司の、
『お前のやりたいことやるべきだよ』
と残る三人は言っている。
淳司も亜季も違うとムキになって否定するのだが、顔を赤くしながら否定しても説得力は皆無だ。
現在、彼女は大学で文学を専攻し、小説を書いているらしい。将来的には小説家になりたいのだそうだ。
いつか淳司が作るゲームの脚本を亜季が書くのでは、と三人は密かに期待している。
「さて、今年は淳司の馬鹿も体調が良さそうだから……」
「馬鹿ってなんだよ、馬鹿って」
「そのままの意味よ、大馬鹿さん」
「……イギリス行ってから、ますます毒舌に磨きをかけやがったな」
二人のやりとりを三人は腹を抱えて笑いあっている。
三年前もこんな感じでやり取りが始まったのだが、淳司が体調を崩した昨年は、亜季はらしくもなく露骨に動揺していたのだ。
そんな亜季を見て淳司もおろおろし……
結局、この罵倒は二人にとって挨拶代わりのものらしい。

50代のお祝い駄文149

March 29 [Fri], 2013, 18:39
今はもっか、帝王学の勉強中……らしい。
「暇はあるものじゃなくて、作るものだよ、総司君」
翔子は退院したあと、専門学校に通って料理の勉強をしている。この不況下では手に職を持っていた方が良いだろう、とは本人の言葉だ。
総司との付き合いは双方の両親公認のものだ。
最初は双方の両親とも難色を示したのだが、総司は、
『そこまで嫌だと言うのなら僕にも考えがある。家を出る。跡も継がない』
と両親を脅迫し、実際に行動に出たそうだ。
翔子もそんな総司について行き、結局は双方の両親が折れる形で事は収まったらしい。
「しかし……淳司君がゲームクリエイターになるとは、神様でも考えられなかっただろうね」
総司はしみじみと呟く。
「うるせえよ」
苦笑し、淳司は軽く総司の頭を小突く。
淳司は卒業後、何故かゲームクリエイターになっていた。
理由は簡単。
彼の父の知り合いが、ゲームクリエイターで、丁度人手不足だったからだ。
この不況時に就職できるのなら、まあ何でもいいかというのが一点。
そして何より、非日常を強く望み、しかし、実際に非日常を味わって実体験するのはこりごりだと感じていた淳司にとって、自らが物語を作れるゲームクリエイターは魅力的な職業だった。
そういう訳で淳司はゲームクリエイターになったのだが……
「でも真島君、今年は体調、大丈夫?」
淳司はおおよ、と元気よく自分の胸板を叩く。
業界の常識も知らず、右も左もわからないままにゲームクリエイターにはなった淳司は、低賃金でこき使われまくった。
それこそ、労働基準法に全く従っていないひどい内容である。
一日十六時間労働。

50代のお祝い駄文148

March 28 [Thu], 2013, 18:37
相棒の芸人は数奇な縁からか、淳司の知り合いである。
まだテレビ番組に出るようなメジャーどころではないが若手の注目株、だそうだ。
最初は色々と周りの先輩方にいい顔をされなかったようだが、ジャックは持ち前の明るさ、ひょうきんさ、そして忍耐強さで今の座を勝ち取ったのだ。
「ところで、他の三人ハ?」
「お待たせ〜」
元気一杯に声を張り上げ、彼女はこちらに向かって走ってくる。
その後ろを青い顔でヒイヒイ息を切らしながらついてくる青年が一人。
「翔子ちゃん、待って〜」
いざという時は、相当頼りになるのに、普段がこれだから総司は……と淳司は額に手を当てる。同じ男として、本当に情けない限りだ。
「はあ、はあ。ちゃんと集合時間には間に合ったね」
「はあ、はあ……うう、疲れた」
総司はぜえぜえと荒い息をついている。
「ソウジ、運動不足ネ。もっと運動しないト」
ジャックが総司の背中をバンバンと叩くと、
「……はっきり言って、運動する暇がないんだよ」
総司はぼやくように言う。
結局の所、総司は結城財閥の跡を継ぐことになった。後継者不在の為の消去法だよ、と総司はいうのだが、翔子の話では結城家の執事達が強力に後押ししたらしい。
あの日から総司はいざという時には、どことなく威厳のようなものを醸し出すようになった。淳司は何度か結城家の会議のようなものを見る機会があったのだが、この目の前でヒイヒイ言っている人物と、有無を言わさぬ指導力で部下を導く結城総司が、どうしても同一人物だとは思えない。

50代のお祝い駄文147

March 27 [Wed], 2013, 18:23

「……余計なお世話です」
亜季はもう消えてしまった漆黒の人物に向かって呟く。
恐らく、人に頼ったり甘えたりするのは自分の苦手な所なのだろう。
忠告されたからと言って、はいそうですか、と直せる訳がない。
それでも。
今自分の膝ですやすやと寝ている幼馴染には、礼の一つ位言っておくべきだろう。
「……ありがと、淳司」
夜の闇を彩る中、亜季は淳司に唇を押し付ける。
部室の白い壁は幻想的なシルエットを映し出す。
雪は、それを見守るかのように、静かに降り注いでいた。

 三年後
 「……今日で三年、か」
 自動車の鳴らすクラクションを聞きながら、粉雪が花びらのように舞い落ちる。
それを見つつ、淳司は茫洋と呟く。
 白い公園を彩るのは、太陽の陽光。
そして、果てしなく広がる青空。
この日に限っては、積もった雪を踏み締める度に、あの日の事を思い出してしまう。月日が経つのは真に早いと痛感させられるひと時だ。
 あの事件からすでに三年が経っている。
 「ヤッホー、アツシ!」 
 こんな発音をするのは淳司の知り合いでは一人しかいない。
声の主を確認するまでもなく、その声が誰のものかはわかっている。
「おう、ジャック」
右手を挙げてにやりと淳司は笑う。
ジャックの服装は相変わらずだ。
半纏に袴、草履に扇子。
今、彼は日本で得た知識とその容姿を生かしてお笑い界に殴り込みをかけている。

50代のお祝い駄文146

March 26 [Tue], 2013, 18:22

 声に従い、亜季は窓に視線を向ける。
 「……あ」
 窓からは冷たい空気が流れてきている。
そして、
「……雪」
「珍しいね。この季節に東京で雪だなんて」
何時の間にか、雨は雪に変わっていたようだ。
夜の闇を雪明りが灯し、白いグラディエーションを創り上げている。
懐かしむように、ただ史記は雪を見つめている。
「……先輩?」
その様子をいぶかしみ、亜季は声を掛ける。
「さて、これで私はお役御免だね」
そう言うと史記は窓の敷居に乗る。
「これで、物語は一応お終い」
「一応?」
亜季は意味をつかみかねているように問う。
「まだ、君達自身の『人生』という物語があるでしょ」
敷居に乗って足をぶらぶらさせながら、満面の笑みで彼女は答える。
「皆には、亜季ちゃんからよろしく言っておいて」
小柄な漆黒が、雪の向こうに溶け込むように消えはじめる。
「あ、一つ言い忘れていた」
史記はそう言うと、人差し指を自らの顎に当てる。
「亜季ちゃんに足りないもののお話」
悪戯っぽくくすりと笑うと、
「たまには、人を頼りなさい。力を合わせなきゃ、今回のようにどうしようもないことだってあるんだから」
それだけを呟き、夜の闇に消えていった。

50代のお祝い駄文145

March 25 [Mon], 2013, 18:21
「まあね。でも亜季ちゃんが先に行って、翔子ちゃんの体が沈むのを食い止めてくれなければ、翔子ちゃんが死ぬのは眼に見えていたからね」
淳司君を誘導するのは、結構手間だったよ、史記は苦笑する。
結局は史記の手の中で事が運んだようで亜季には面白くない。
ただ、翔子が助かったのは純粋に喜ぶべきことなのだが。
「そうだ。まだ亜季ちゃんに聞いていなかったね」
史記は悪戯っ子が何か良い事を思いついた時のような意地の悪い笑みを浮かべる。
「何を、ですか」
確認するまでもない。史記が亜季に聞いていないこと。
「亜季ちゃん、暗号の意味はわかっていたのに、どうして一人で来たのかな?」
うん? と微笑みながら、史記は亜季の膝元で寝息を立てている淳司に眼を向ける。
 「翔子ちゃんの魂を助けるには、最低でも二人必要だってわかっていたでしょ?」
 「……何のことですか?」
 そっぽを向いて亜季はとぼける。
 しかし、顔を史記に向けない意図は明白だ。
 「何でもないなら、その真っ赤になっている顔をこっちにむけてくれないかな?」
 う、と小さくうめく声。
 「素直じゃないなぁ。淳司君を危険な目に合わせたくなかったから一人で来たって言えばいいのに」
「……そ、そんなこと……」
しかし、先の言葉は亜季の口の中にもごもごと消えていく。
史記はそんな亜季に視線を向けると、窓をがらりと開ける。
「亜季ちゃん、見てごらん」

50代のお祝い駄文144

March 24 [Sun], 2013, 18:20
その人物を見るべく、翔子は顔を横に倒す。
「……総司君」
結城総司は、翔子の手を握り締めたまま俯いていた。
彼の肩は小刻みに震えている。
俯く顔からは、ぽたぽたと雫が落ちている。
「……総司君」
翔子は彼の名を呼ぶ以外、どう声を掛けて良いのかわからなかった。
総司はただ震えながら俯いている。
「……良かった」
「…………」
翔子は無言で彼の言葉を待つ。
「生きていてくれて……本当に……良かった」
震える声で、総司は呟く。
だが翔子は総司の言葉はいらなかった。
握り締めている手から伝わる暖かさだけで、翔子には充分だったから。 

「淳司は……大丈夫なんですか?」
労わるような心配げな声。
床にぺたりと座り込む亜季の膝には青い顔の淳司。
場に佇む漆黒の少女はにこやかに頷く。
「大丈夫だよ。二、三日は体調を崩すだろうけど、命に別状はないよ」
史記の声を聞いて亜季は安心したようにほう、と息を吐き出した。
「でもよかったね。一か二が間に合って」
史記の声に亜季は憮然とした表情で問う。
「私一人じゃ、どうしようもないって、最初から知っていたんですか?」

50代のお祝い駄文143

March 23 [Sat], 2013, 18:19
その反動を使って、亜季と翔子共々、この世の境界に飛び込む。
「……ざまあ……みやがれ」
亡者達は悔しげに境界の狭間で立ち尽くしている。
そこで淳司の意識は疲労からか、急激に薄れていった。

遠いどこからか、声が聞こえてくる。
(……ちゃん……ショウ……)
視界は闇に閉ざされている。
聞こえてくるのは、誰かの声……聞き覚えはあるのだが、よく思い出せない。声の主は二人いるようだ。それから、ドクン、ドクン、と一定のリズムを刻む音と、ピ、ピ、と聞きなれない電子音。
手は誰かに握られているようで、ほのかに暖かい。
「……翔子ちゃん……翔子ちゃん!」
自分を呼ぶ声。
この声は、確か……
声に誘われるように、薄っすらと眼を開く。
闇の向こうから、強烈な光が差し込んでくる。
光の向こうには真っ白な天井。
チューブやら、何やらで自分の顔は埋め尽くされている。
視界が光に慣れてくると。
そこに立つ二つの影に眼を向ける。
「……ショウコ」
ジャックは感極まったというように翔子の名を呼ぶ。
周りの医者と看護婦達は何やら慌しく叫びあっている。
「……もう、駄目かと思ったヨ」
涙声で呟くジャックに対し、
「私……助かったの?」
信じられない、というように問い掛ける。
ジャックは無言で首を何度も縦に振るだけだ。
そこで自分の手が、誰かに握られている事に翔子はやっと気付いた。

50代のお祝い駄文142

March 22 [Fri], 2013, 18:18
翔子を背負いながら亜季は悲鳴をあげるが、
「……ちょっと、休んでいくから……先、行ってろ」
青い顔に無理矢理笑みを浮かべる。
「……馬鹿言ってんじゃないわよ、この大馬鹿が!」
翔子を背負いながら淳司に肩を貸して、よろよろと歩き出す。
「追い……つかれるぞ」
淳司の指摘は亜季にも承知済みであった。
亡者の群れは翔子を取り返そうとしているのか、しつこく追ってくる。ある者はもうすでに沼地からあがり、こちらに向かってきている。
史記が繋いだあの世とこの世境界まで、あとほんの十メートルだ。
しかし、翔子を背負い、淳司を支える亜季の歩みは遅く、亡者の尖兵はひたひたと迫って来る。
「……亜季……俺はおいてけ」
「喋る力があったら進むのに使って!」
淳司の言葉を遮って亜季は二人の体を支えながら叫ぶ。
必死に前進するが、中々前には進んでくれない。
「あと……もうちょっと……!」
亜季がそう言ったまさにその時。
亜季の体が何者かにつかまれた。
ぬる、とした、気色の悪い感触。
振り返ると、それこそ目と鼻の先に、亡者の顔があった。
あと数歩踏み出せば、この世に帰れるのだが、亜季の体は恐怖で完全に硬直していた。
だが、亡者が亜季の肩をつかんだ一瞬の隙を、淳司は見逃さなかった。
「……お前等は……大人しく……死んでろ!」
荒々しい咆哮と共に淳司が残された力を使い、亡者の腹に蹴りを入れる。
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