2: 寂しい人 

December 26 [Wed], 2007, 15:29
彼女は、ふわふわとした足取りで、私に近付いた。

小鳥のように、小首をかしげ―…

尚且つ、それが可愛いと思われるのだということを、識っていた。

彼女は大きな目を誰にもわからぬように、狡猾に細め…囁くように、最初の言葉を紡いだ。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



『こんにちは。』

『ねぇ、すてきなことがあるのよ。』


『私と一緒に、行かない?ねぇ。』



こうやってね、私、人を呼ぶの。

…私?私は、−−。

まだ、17歳だよ。家?家なんかないよ。

お母さんはいつも怒ってるか、泣いてるか。お父さんも同じ。2人とも、私のことなんか、キライだから。
それなのに、戻ってこいばっかり言ってさ、家帰ったら怒鳴ったりするんだよ。

アタマおかしいんだよ。笑っちゃうでしょ?

私ね、美容師になりたいんだ。保母さんもいいかもね。

私、子供が好きなの。けっこう、可愛いじゃない?美容師とかも、かっこいいし。

まぁ、お金稼げれば、何でもいいのよ。

それでね、お金貯めたらこの街から出るの。ずっと遠く行って、私の、本当の人生を始めるんだ!

そこでステキな男のヒトみつけてさ、結婚して、子供産んで、幸せになるんだ。


そしたらもう、こんな街、帰ってこないよ。…海外とかもいいかもね。

そンなら英会話、覚えなきゃ。でもさ、ジェスチャーとかで何とかなんないかな?


あっ、もう行かなきゃ。私、がんばるね!話、聞いてくれてありがと!



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





彼女は、昂然と頭を上げ、どこか、誇らしげに、立って行った。


私は、返事をしなかった。…私は、悲しかった。



彼女は、どこへ行くのだろう。彼女は、何を見ているのだろう。



私は、思った。

ただ一度でいい。彼女になり、彼女の目から、彼女の感情、心で、世の中を見たい。



しかし…それは不可能な事だった。

彼女は今日も、どこかで泣いている。

1: 最初の人 

December 15 [Sat], 2007, 1:20
彼女は、少しだけ、逡巡したようだった。

私に語りかけること―…いや、恐らく、自分自身に。

自分自身の人生に、彼女は揺らいだのだろう。

しかし、彼女は、話した。とりとめもなく、訥々と、しかし真剣に。

そして、私は、それを静かに聞いた…。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



私は、−−。

この街で生まれて、父母、姉と一緒に、今まで、暮らしてきたの。

私、私は―…

家族は、優しい。
友達はいるけど、親友はいない。

…小学校と、中学校の時に、親友みたいな人たちは、いたような気がするけれど。


高校の時、…いいえ、もう少し、前に、強く、でもおぼろげに思ったのよ。

(親友なんて、この世には、いない いるものか!)

…親友って何だろう?とか、そんな議論で、時を潰す気なんて、ない。

とにかく、私には過ぎた家族がいて、友達はいるけど、親友はいない。

本が好きで、多分だけど、恐らくだけど、私は、他人よりよくものを考える性質をしている。

頭がいい、と思う…って、成績とかじゃなくて、よ?
考えるって、こと。解るかなぁ?


まぁ、わかっても、わからなくても、いいの。

私はね、とにかくそういう人間なの。
それが…伝わるっていうか…そのままね、私の言ったとおり、あなたの中にインプットされればいい。OK?

それで、…私は、生まれたのよね。この世に。地球の、日本のど真ん中の、東京で。

普通に、お母さんのお腹から生まれた。父は、出張中だったって聞いたけど。

それで、すぐ病気になったの。

カワサキ病って、いうらしいよ。どんな病気なのか、あんまり知らないけど…未だに原因不明なんだって。
だから、あんまり他人には言うなって、お母さんが言ってた。
不治の病って、あるじゃない?ああいうの、らしいから。

…私?私はね、うーん…何ていうのかな、治ったの。…話がメチャメチャだね、ごめん。

えーとね…とにかく、私はちいさーい赤ちゃんの時に病気になってね、その病気を見つけた、カワサキ先生って人に診てもらったの。

それで、カワサキ病だってことだったんだけど…何だかね、プロセスはよく知らないのよ。でも、『診断ミスかも知れません』っていうくらい、完璧に治ってしまったの。

たとえ症状が緩和しても、心臓に何らかの障害が残る、らしいのよ。でも、私はそれもなくて…あ、多少不整脈とかあったりするんだけど、お母さんが…まぁ、ないって言い張るからね。そうなんだって思うことにしてる。病は気から、なんて言うじゃない。

それでね、私は小さい頃大きな病気になったけど、治って、それでおうちに帰ったの。


次の記憶は、小学校。小学校の記憶はね…切れ切れだわ、大分。
あなたもそうでしょ?

入学式…お姉ちゃんと同じ学校だ!って嬉しかった。6年生のお姉さんと一緒に遠足かなんか行って、ペアになったお姉さんに『可愛くないよね』ってヒソヒソ話されてるの聞いちゃったこと。

友達のグループから外されて寂しい思いしたり、一人の子を取り合ってみたり。


中学に入ったら、私ね、私立行ったんだけど、みんなお化粧してて、彼氏とか作っちゃったりして、正直ついていけなかった。
私、そういうのについていきたくて、…バカみたいでしょ?でも、子供だったのね、まだ。

あ、もちろん彼氏ーとかそういう面ではなくね。そんな事軽々しく出来るような子供には、育ってなかったからね。

ネット上で友達作ったりね、黙って遊びに行ったり…バカみたいなこと、たくさんしたのよ。


あのね、そういう思い出ね、私、全部バカみたいって思うのよ。
バカみたいなことしか考えてなくて、幼くて、ちいさ〜い私。友達。先生。

でもね、それでも私なの。今の私も、私なの。

もちろんね、忘れたいこともたくさんあるよ。子供だからだけど、今考えるとすごく恥ずかしいこととか…あるじゃない?

もう絶対忘れたい!ってくらいの失敗とか…さ。
それも、今考えても絶対他人には笑えるような失敗じゃないワケよ!

解る?みんなあるよね?そういうの。


でもね、忘れちゃいけないって私思うのね。

あ、それ思ったの、中学の後半なんだけど、何ていうかな…成長してる自分?っていうのかな。

私、私。私…私。

色んな私が見えてきてね、そういう風に思ったの。


悟った!とまでは言わないけど、神様とか…信じて…っていうか、感じたの。

そういうものを感じたのよ。


風…人、匂い。愛とか…他人、動物、草木…花。



私、まだ21歳だけど…でも、今の私は、人を愛せると思う。


本当の意味でよ。


最近ね、みんながやってるような、先の見えない、恋とは違うの。


愛、よ。私には、多分解ったの。

年をとっても、それを知らない人が多い今、私は幸せだと思う。愛を知って、人を愛すことが出来る。

多分ね、これは人にはわからない。

私の話を聞いて、ああ解るよそれ…って言ってる人も、きっとほんとうはわからない。



本当に愛を知る人は、誰も憎まない。さげすまない。全てを、本当に全てを愛せる。

そんな人なんているわけがないって、私、思ってた。

でも違った。私、私がそうなりたいと思ってる。

思ってるってことは、そこに一人でも、いるってことでしょ?そういう人が、よ。



…それは、きっと、私だけじゃない。


愛を知ってる人は、死を知ってる。寂しさを、いたわりを、全てを知ってる。…知ろうとしている。



私、そうなんだって、それがそうなんだって解ったの。







…長話して、ごめんね。聞いてくれて、ありがとう。


もう、行くね。私、もう行かなきゃ。


まとまった話じゃ、全然なかったけど。話が出来て、よかった。



じゃあ、さようなら。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





足取り軽く、去っていく彼女の後姿は、ごく普通の、女子大生だった。


…彼女は、本当の意味で、【愛】を知った。

それを知った自分は、幸せだと言った。



それを聞いた、私は満足だった。


彼女が残した、風は…


すぐに、雑踏へと飲み込まれた。

序: 私。 

December 01 [Sat], 2007, 0:44
私は、−−−−。

私は私であり、私以外の何でもない。


私は雑踏にあり、争いにあり、海にあり、風にあり、人にある。

災害にあり、喜びにあり、草木にあり、花にあり、空にある。


動物は私を愛で、草木は私を愛す。

人は私を憎み、裏切り、愛し、無視する。


生きとし生ける全ての存在は、私に語りかけてくる。


あるものは心で語りかけ、またあるものは言語を駆使して語りかけ…。



結局、どちらでも等しいことなのであるが。





全存在が私に語りかけたこと、あなたが語ったこと。



私は、それを記憶する。









雑踏を縫って、草木を掻き分けて…また、誰か、何かが、私に語りかけようと、している。
P R
2007年12月
« 前の月  |  次の月 »
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31