やっちゃん。

September 28 [Wed], 2011, 3:24
私は一度だけ転校生になった事がある。小学校5年生まで生まれ育った兵庫県明石市で過ごし、6年生から同じ兵庫県内の加古川市に引っ越した。長年ここと働いて父がやっと念願のマイホームを建てたのが加古川だったのだ。私は子供の頃、異様に人見知りをするシャイな子供だった。小学校をずっと一緒に通い、共に育ってきた友達達と別れ、卒業間近の一年だけを他所の学校で過ごすと言うのはかなりキツかった。しかも同じ兵庫県内でそんなに距離的に離れた街ではなかったが、私が通った明石市の小学校はずっと私服通学だったのだが、新しい加古川の小学校は制服だった。初めて登校て新しいクラスに案内された転校生の私は浮きまくっていた。明石よりももう少し田舎だったせいなのか、全員が同じ制服を着ていたのに、私だけワンピースを着ていたせいなのか、何と言うのか私だけ完璧に他所の星から来た生物の様な疎外感がぱっと肌で感じられた。幸い担任の先生は、昔の森田健作の青春ドラマに出て来る様な若い熱血タイプの先生で、「皆仲良くしぃや」と言う感じでさらりとクラスに馴染ませてくれた。そして新学期真っ先にクラスで行われたのが、クラス内での席決めだった。数名のグループリーダー(班長)の様な存在を立候補なり推薦なりで決め、そのリーダーが自分の班に欲しい生徒を次々と指名して班分けするーと言う仕組みだった。規則や保護者団体の規制が厳しく、イジメなどの問題が深刻化している今のご時世では考えられない様なシステムだなーと今振り返っても笑える。5−6人の班長さんが和気あいあいと選ばれてゆき、さて今から指名が始まるーと言う時、私は内心とほほーーとなった。転入生、友人は誰一人居ない、しかも明るいとか面白いとか可愛いとか目立要素も一もなく、浮きまくって一人座っているこれは誰にも相手にされなく、ヘタすりゃ最後まで残るなと思った。班長の一人に皆に「やっちゃん」と呼ばれている八幡君と言う子がいた。(余談だが、関西弁だと「やっ『ちゃん』」と「ちゃん」の方にアクセントを置いて呼ぶ)とても変わった外見の子で、バサバサと男の子にしては長めの目にかかる位の髪をしていた。それが皆より少し赤茶色で、顔にはそばかす。面白い歯並びと言うのか、ハムスターの様な大きな前歯をしていて、小学生にあり得ない様なハスキーな声をしていた。どちらかと言うと、アメリカのマンガに出てくる様なガキ大将かやんちゃ坊主の様な風貌をしていた。ものすごいハイテンションで、ふざけた事ばかり言って皆の笑いを取っていて、先生に「もう八幡はうるさいいちびるなっ(ふざけるな)」と笑いながら怒鳴られてばかりいた。勉強が出来る風采ではなかったが、あぁこの子はリーダー的で皆の人気者なんだーと見ていて思った。班長達が一体どういう順番でドラフトをしたのか覚えていないがとにかくこのやっちゃんが真っ先に指名権を獲得したのだ。「ほな八幡、お前は誰を選ぶんや」と先生に聞かれて、やっちゃんはふざけもせずに一言だけ「はい、鳥居さん」と言った。クラス全員の中で、誰よりも私を真っ先に選んで彼のグループに呼んでくれたのだ。この小学校には6年生の一年間だけ居たのだが、本当に沢山の友達が出来て楽しい一年だった。何故かこの私のクラスにはやっちゃんを初めとするちょっと癖のあるやんちゃ坊主的な男子生徒が数名居たのだが、担任の先生が非常に熱い良い先生だったので、悪い事をしても、思いっきり叱られても、全部楽しい思い出になった。小学校卒業して数年経ち、中学か高校の頃、ふと偶然に駅前でやっちゃんを見かけた事があった。駅前にかなりの人数でたむろしていて、彼の姿はかなりヤバい雰囲気だった。当時はヤンキーとかっぱりとか全盛期で、そう言う類いの「ワル」的学生は加古川の様な田舎では沢山見かけたのだが、やっちゃんはちょっと違う空気を出していた。加古川は暴力団関係の方もかなり多く住んでいて、やっちゃんは明らかにそちら系の、ヤンキーなどと言うチョイ悪ではなく、何か本物の暗い世界の危なさを漂わせ、数名の仲間と駅前にいた。でもアホな私は、そんな彼のヤバさに気付かなかったのか、鈍いのか、懐かしいやっちゃんの姿を見かけると、何も考えずに「きゃやっちゃんじゃない」と叫んで喜んで駆け寄ってしまったのだ駅前人通りの多い場所で、「やっちゃん」などとちょっとヤバい呼び名を叫び、そのヤバさそのままを体でなしている男の元に駆け寄ってゆく、どこからどう見てもやっちゃんの対極に居る様な風貌の女今にして思うとかなりドン引きする図だったと思う。私はやっちゃんしか目に入っていなかったが、彼のお取り巻きと言うのか、一緒にたむろしていた仲間は、この光景に唖然としていたのか、私をからかう訳でもなく、誰一人何も言わないでじーっと我々を見ていた。それまでかなり斜に構えて睨みを聞かせていたやっちゃんだったが、私が目の前まで来ると「おっ鳥居ちゃんか元気」と6年生の時と同じ目をして笑った。その時、何を詳しく彼と話したのかもう全く覚えていないが、多分当たり障りのない会話をして「またね」「元気でな」と言う感じで別れたと思う。多感な子供の頃に体験した事で、特にこれと言って大きな事件とかではないのだが、何かずっと心に残る事と言うのがあるが、やっちゃんは私の中でそんな思いでの一だ。ここ数日、また連日イベント続きで朝早くから夜遅くまで仕事していた。家に夜中前に這う様に帰ってきて、何とかミッテルの餌をやり、彼のトイレを掃除して、彼にブラシをかけ、やっと着替えて顔を洗い、歯を磨き、すでに半分眠った状態でベッドになだれ込むーと言う日々が続いた。テレビも見ない、ネットを見る時間もない、友達とメールしたり電話したりする事もご無沙汰文字通り寝て起きて仕事してと言う機械的な繰り返しだった。今日疲労もフラストレーションも限界に達し、また今朝行われたのミーティングの朝食の準備をしながら「私って本当に何をしてるんだろう」とふと思った。その時、何故か急にやっちゃんの事が脳裏に浮かんだ。元気で居るんだろうか真っ当な生活に戻って、今では子供とか居て良いお父さんにでもなっているのかなそれとも忙しい忙しいと無駄に日々を過ごしているだけの私の生活をふと振り返る時間が出来た時に、何故かやっちゃんの身の上も考えてしまった。元気でいて欲しいなー切にそう思った。それにしても一体何故今日、やっちゃんの事なんか思い出したんだろうとまた帰路にく車の中で思い出して笑ってしまった。久しぶりにまだ夕暮れの時間に家に向かえた今日。珍しく湿度が高く、空には雲が浮かび、美しい夕焼けが見れた。やっちゃん、かなり照れながら、でも真っすぐに私を見て「鳥居さん」って私を選んでくれたなーあの時のあの状況、教室、机、黒板には「班」「班」とか書いてあって、その前に各班長が立っていたーそこで一番左端に立っていたやっちゃん乱雑でお世辞にも小綺麗とは言い難い風貌には似合わない、澄んだキラキラした目をしていたなーそんな事を思い出すと、何故か前方の景色がぼやっと霞んできた。全開にしている車の窓からの涼しい風を顔に受けながら、涙が頬を伝ってきた。心にかえていたものが目から溢れたーとでも言う様に、美しい夕暮れの中、久しぶりにボロボロ泣きながら車を走らせていた。スターclub
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