『Guardians‐宿命の者たち‐』第一話

November 28 [Sun], 2010, 10:18

 僕がこの家の血統を知る羽目になったのは、高校一年生の、梅雨も終わりのことだった。

一.時の魔術師

 外は雨だ。交通渋滞に巻き込まれ、のろのろとしか進まない車の中で、裕一は外を眺めていた。
 学校を出たのはほんの数十分前。
 普通に授業を受けていたら母さんが迎えに来て、祖父が死んで大変だからと、早退させられた。
 母さんは僕が訊いても、ただ、おじいさんが死んだとしか答えなかった。車に入ると、中二の裕史と小六の研二も乗っていた。家に向かっている途中に彼らにも聞いたが、ただ祖父が死んだということしか知っていなかった。
 家に着くと、普段は仕事で遅く帰ってくるはずの父さんがいた。母さんは、父さんとなにやら話すと、暗い顔をしてうなずき、部屋から出て行った。父さんは部屋にいる僕たちに向き直ると、どう説明すればいいのか、困っているようだった。
「母さんは、ある理由で自ら席をはずした。なに、気にするな。特に深い意味じゃない。それより、タイパーのじいちゃんが死んだことはもう聞いているな?」
 「タイパーのじいちゃん」とは、父さんの父親であるのだが、僕たちは、昔に数回会ったきりだった。自分で、“私はタイパーだ”と言っていたのを今でも覚えている。
 本名はジェイペス・アンブロジウス。
 父さんはハーフだが、なぜか日本人にしか見えない。やはり僕ら三人も、日本人にしか見えない。因みに僕の本名は、ユウイチ・アンブロジウスなのだが、面倒くさいので、学校では秋山裕一で通している。(ちなみに秋山は、母さんの前の苗字である)何故か母さんは、ジェイペスにあんまりいい印象を持っておらず、席をはずしたのもそのせいなのかもしれない。
 それにしても、父さんがジェイペスをタイパーと呼ぶなんて、これは一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
 両親は普段、ジェイペスをタイパーと呼ぶのを拒むのだ。
「ジェイペス・タイパーが死んだ今、おまえたちには、我が家系の秘密を説明しなければならない」
 重たい口を開けてるっぽい父親に向かって、裕史が声変わりしても尚高い声で噛み付く。
「ちょっと待ってよ。ジェイペス・タイパー? おじいちゃんの名前は、ジェイペス・アンブロジウスじゃなかったの?」
「ああ、もちろんそうだよ。ジェイペス・タイパーは裏用の名前だ」
「裏用?」
「裏用って何?」
 一方的に質問する裕史と僕に向かって、父さんは少し声を荒らげた。
「だから、今からちゃんと説明するから!」
 父さんは、はっとして僕らを見た。それから、声を落ち着かせると言った。
「“タイパー”の名は、“Guardian”に授けられる、証のようなものだ」
「“Guardian”? “守護者”ってこと?」
「ああ。急だから、おまえたちもすぐには信じられないと思うが、黙って聞いてくれ。……“魔法”や“魔法使い”は実際に存在する」
「……………」
 三人とも、見事に何も喋らない。
「それって……」
「もちろん、本当だ。“魔法”は存在し、“魔法使い”も世界中で生活している」
「それとじいちゃんと何の関係が……」
 そこまで言いかけ、僕ははっとした。
「まさか……」
「そう。じいちゃん、ジェイペス・アンブロジウスは魔術師で、“時守(タイパー)”の名を受け継いだ守護者(ガーディアン)だった」
「そう……だったんだ」
 そういえば、思い当たる節はいくらでもあった。祖父の書斎にあった異様な書物の数々や、温室にあった異様な植物。心当たりがありすぎて、全てを思い出す事もできない。
「裕一、裕史、研二。話はまだあってな、実は、魔術師アンブロジウス家の能力を、おまえたちは受け継いでいるんだよ。父さんは受け継がなかった能力をね。そして、おまえたちの中の一人が、じいちゃんの後任として“時守”にならなければいけないんだ」
「時守? ………結構かっこいいじゃん」
 最初に口を開いたのは裕史であった。
「父さん。俺、やってもいいよ」
「裕史、もっとちゃんと考えてから物言えよ」
 弟であったはずの研二が注意する。
「へん。いくら全国模試四位だからって、偉そうにすんなやい」
「偉そうになんかしてないよ。っていうか、学年順位が下から三番目の人に言われたくもねえよ」
「うわっ、いやらしい。人を鼻にかけてやがる」
「うるせえよ、愚兄。おまえなんか、犬ほどにも役にたたねえよ」
「んだとっ」
「なんだよっ」
 大喧嘩に発展しそうだったので、僕は止めに入った。
「二人とも止めろよ。ほら、父さんの話はまだ終わってない。ね、父さん?」
「ああ。裕史、その気持ちは嬉しいんだが、守護者になるにはまず、その精霊に認めてもらい、契約しなければいけないんだよ。
 それにね。………実はね、時守の後任は、とっくの昔に“契約する”という形で、時の精霊が自ら選んじゃってる」
「え、そうなの?」
 裕史が残念そうに俯く。
「で、その、時の精霊と契約したのって……」
「ああ。実は……裕一らしいんだよ」
「って、俺!?」
「裕一兄ちゃん、何か心当たりある?」
「え、ない……いや、微妙にある。たしか……じいちゃんの書斎の奥で………なんか、大きな目覚まし時計みたいなのがあったような……」
「裕一、きっとその記憶で合ってるはずだ。……ほらっ」
 そう言った父さんの腕の中には、一抱えもある、目覚まし時計のようなレトロなデザインの、白いアナログ時計が抱きかかえられていた。
「こ、これだ……」
 何故か針が動いていないその時計に手を触れた途端、時計から声が響いてきた。
『よう裕一。十年ぶりぐらいか? おまえが契約せし“時”の精霊、レイカーシャル・ナトリゲスだ』
 口ぶりは乱暴だったが、その声からして、レイカは女の子っぽかった。
「ひ、ひさしぶり。レイカ……」
 こうして、僕の魔術師としての生活、時守としての人生が幕を上げたのであった。
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    ・小説を書くこと-ひまな時に書いたのを、たまに投稿すると思います。
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