○月○日 

February 01 [Thu], 2007, 19:59


二人の殺気はただならぬもので、シャマルの無言が空気を更に重くさせた。
この無言は、俺に席を外せということなのだろう。
シャマルは俺に一瞥をくれてから、視線をボスに戻した。これで完全に俺の存在はなくなった。
俺はこの二人が後にどんな話をするのか気になったが、そんな無粋な真似、いや、そんな恐ろしいことは出来るはずもなくそこから出て行った。


どのくらい時間が経ったことだろう。部屋の外でずっと同じ体勢でどこを見ることも無く、ただただ昔を思い出していた。
ハヤトの父、先代のボスが亡くなってから俺は何をするか分からずに気持ちが宙ぶらりんになったことを思い出す。先代のボスが亡くなってからの事後処理が忙しく、それと同時にキャバッローネの重役としてのポストへの引き抜きもあったのだ。その引き抜きはかなり手回しがきいており、俺が断ればボス亡き今の脆弱なファミリーはあっという間に潰されることになっただろう。ファミリーを守るという約束と引き換えに、俺は人生の半分以上を捧げた敬愛するこの屋敷を離れて、キャバッローネに移らなくてはいけないのだ。
ぼうっとしながら、手に持った膨大な書類をだらしなく机に押し付け、頭を抱えていた。
いつの間にか、俺の執務室に入ってきたハヤトが「ロマーリオ、忙しい?」と聞いてきたのだ。「ああ、忙しいな」俺の声は弱々しかった。
すると、ハヤトがそんな俺に無垢な目を向けて言ったのだ。

「ロマーリオ。俺が、ついてる、だから、だいじょうぶだ!」

まさかこんな小さな子供に、それも自分の実の父が亡くなった直後だというのに、ハヤトは気丈に振る舞い、しかも俺のことを気遣ってくれたのだ。
自分も辛いはずなのに、それなのにハヤトは俺の手をぎゅ、と握り締めてくれた。
俺も、ハヤトの手も、どちらも冷たかった。
なのに、俺はそのハヤトの心の温かさが何よりも嬉しくて、始めて嗚咽を出して泣いてしまったのだ。
俺は、何としてでもハヤトを幸せにしたい。俺がハヤトを幸せにすることなんて、荷が重いかもしれない、なら俺はハヤトが幸せになるところを見守ろう。
ハヤトがいつでも笑っていられるよう、ずっと近くに居て見守っていよう。
俺はどうなっても構わない。いくつ敵を作っても構わないんだ。
あの日、冷たい手を握ったその日に、俺は固く決めたのだ。




木製のドアが開かれた。そこからシャマルがただ一人出てきたのを確認した。
シャマルは足早にこちらに向かい「面倒なこと、お前には随分押し付けて悪いねえ」と笑ってから、肩を叩く。
恐る恐る部屋に入ると、ボスは革張りのソファにだらりと体を預け、腕で顔を覆っていた。
俺は、声をかけられるはずもなく、この部屋に入らなければよかったと後悔した。

「…ちくしょう」

ボスの口から、そんな言葉が漏れた。

「ちくしょう!俺はいつもそうだ。何も知らずに生きて、ハヤトのことも何も分かっちゃいないんだ!くそ!」
「…ボス!」
俺は慌ててその言葉を遮った。マフィアのボスたるもの、そんな不安定な姿を見たくなかったのだ。
「うるさい!くそ、俺はどうすりゃいいんだ、俺は何も分からない、お前も、ロメオも、シャマルもずっと前からのハヤトを知っている。なら、俺はどうだ!?何も分からないじゃないか!ハヤトは本当のことを何も言わない、少しでも言ったとしたら別れよう、だ。そして、今シャマルになんて言われたか…!」

ボスは怒りで手をわなわなと震わせていた。
こんな怒りを露にしたボスははじめてみた。嫉妬で狂ったボス。

『本当は、嫉妬で狂いそうなんだ』

いつかのボスの言葉が脳裏に過ぎった。

「昨日、ハヤトが何て言ったか分かるか!?ロマーリオも、ロメオも家族のように思っていたんだ。大切な人なんだ。だと、じゃあ俺は何なんだよ、俺はハヤトにとって俺は何なんだよ!俺はあいつの口から、そんなこと一度だって真剣な顔で言われたことがないんだ、不安なんだよ、俺だって!」

一気にまくしたててから、勢い余って立ち上がったボスは、力なくソファに崩れ落ちた。

「…一人に、してくれ」





俺は、どうしようも出来なかった。





◇月□日 

October 24 [Tue], 2006, 15:30







さて、続きを書こうとしようか。
まだまだ長い話しになる、が。








ハヤトが俺の視界に入ってからすぐに、俺は
手を伸ばして、その細い腕を掴んでいた


(多分、行かないほうがいい)

そう脳裏が動いた。
ハヤトは即座にこっちを向いて俺の顔を見たが
静かに俺は首を振るだけ、で


「っ、!ビビッた、…ロマーリオかよ……。
 何してんだこんなところで? …って聞かなくてもわかる、か」


そう言ってハヤトは苦笑いをした



俺はまた言葉が出てこず、俺も釣られて苦笑い。
(情けないったらありゃしねぇ)



「ディーノ…いるんだろ、?」

「…あぁ」

「んじゃ、いいや。戻るな、俺」

「あ、」

「?」

「…いや、いい。頑張れよ」

「あたりめーだ」




ハヤトと普通に話しているつもりなのに
普通じゃない程に稼動している 俺の心の臓は
何に対して不安なのか

この扉一枚隔てて奥にいるボスに会わせたくないのか
それとも会わせたくて言葉で引きとめているのか


このときが怖くて
大人気ないが、怖くて






その俺の予感は当たってしまった















扉が開き、ヤバイと思った瞬間出てきたのは
もちろんボスで ハヤトの目が一瞬悲しく光った後に
「じゃあな、ロマーリオ」と小声で呟いて階段を
降りていこうとした、その時







「ハヤっ・・・」


















ボスが、名を呼びかけた。
だがそれは下から現れたシャマルによって
かき消されたのだ。



久々に







ボスの口から久々に出た、その名に
俺は酷く悲しくなった







「…隼人、時間だ。いくぞ」









何も無かったかのように進められる。
ハヤトの耳にもきっと聞こえているのに、もちろん
それも無かったかのように


振り返れ、振り返れ、と心の中で願ったとしても
もう二人は終わってるのだ


そんな事はありえない







二人の後姿を、俺とボスはただ見送るしかなかった。







だか、そこでシャマルの足が止まり
こっちに振り返った。





「あぁ、そうだ。…隼人、先行ってろ」
「え、なん…」
「いいから、早く」







ハヤトを返し、シャマルはゆっくりと
俺とボスに近付いてきた。


その、目は
昔、最恐の暗殺者と言われたことを彷彿をさせた


顔が怒っているわけではない。
ただ、ただ殺気だけが 嫌というほど伝わってきた





確かに、おかしいと思ったんだ。
この男が



ハヤトを迎えにくる  ということ自体が







目的は、初めからハヤトじゃない








俺たち…いや、ボス         だったんだ








△月●日 

August 05 [Sat], 2006, 15:13





今、俺のベットでハヤトが眠っている
もちろんナニかあったわけじゃない。(あったら困る)




あれからヒバリの残した言葉は無視し、俺とボスはその足で
並盛中へと向かった
もちろん道中はたいした会話はしていない
俺もハヤトの話は出さないし、ボスも出してはこない
右腕につけている時計がやけに重く感じた
刻一刻と迫っているその状況に足取りも重くなる
できればこんな状態ではハヤトを戦わせたくない



だが俺がどうこうできるわけじゃないのもよく解っているんだが…



「…ロマーリオ」

「はい?」

「…………悪かったな」

「……何がですか」

「いや、」



今 思えば

この時ボスは俺に何を謝りたかったのだろう
ハヤトが俺に泣きながら謝ってきたように、今までのことを
その、全てを俺に謝りたかったのだろうか

本当に

終わってしまうのか



それだけが頭を回り続けていて
それだけが俺の脳を支配していて



不甲斐なくも俺は、色んな形状で圧迫死しそうだった







並盛中についた時はピークに達した
ハヤトとボスが顔を合わせてしまったら
俺はどうしたらいいんだろう


恋だの愛だのそんな事で動揺するほど
生半可な気持ちでマフィアをやってるわけじゃない


だが
どんな敬称が付こうが
どんな地位があろうが
俺だってボスだって
人間で

ただの 男  なんだ


この二人だけは
違うんだ
俺にとっての生き甲斐であり
俺にとっての意味であるのだ











―――門を入っていくと主役のいない取り残された学校が
静かに佇んでいて 特に目的も無く先に進むボスの後ろへついていく


何か言葉を掛けるにも
俺の頭は賢く動いてはくれなかった



辿りついた先は屋上で



ヒバリキョウヤと戦っていた時も少し漏らしていたが
ボスの好きな場所
だが、何の用事があるんだここで





そう頭に疑問符を浮かべたその時だった




「ロマーリオ」


「?」


「しばらく一人になってもいいか」


「わかりました」





敢えて何も言わず、俺は見送った
俺は階段に腰掛ながら、ボスの言う「しばらく」な時間を待つ

ハヤトが禁煙祝いにこれやるよと祝いにも何にもなっていない
イタリアの甘い香りのするタバコがあった事を思い出した
学校でタバコを吸う  なんて不謹慎なのだろうが
日本に比べてイタリアはそう咎めたてられる事はない


「…懐かしく感じるなぁ」



タバコを吹かしながら、俺は意識を無空間に預けていた
何も考えたくない
この未来も
この過去も

現実逃避大歓迎だ





そうしている間にも
気付けば後1時間で時が変わるというところまで時計の針は進んでいた
ボスはいつ出てくるのか解らない



だが










その時に気付いた


意識を外に向けていなかったから今まで全く気付かなかったが




話し声が聞こえる










男二人
…ボスの声と―――――…誰だ?










少女漫画のような何とも言い難い期待感が生まれた
いや、期待じゃない、何だ…そう、泣きそうなほどの衝動だ
ハヤトであればいい  ひたすら願う


場所が遠い上にドア一枚隔てているのでハッキリとは
聞こえない
盗み聞きは悪いと思いつつも俺は 気になって仕方なくて
聞き耳を立てた



「……は、まぁ確定したわけじゃない」


「………どうして、だ」


「解ってんだろ?跳ね馬さんよ。アンタのせいだよ」






…誰だ?
何の話だ

相手はハヤトじゃないことだけは確かだ

その衝動に愕然とするよりも、内容が内容なだけに
違う意味で俺の中に衝動が走る
俺の知らないところで何かが動いている
ヒバリの言った事といい、今ボスが誰かと何かを会話している内容といい
何か が動き出している



誰、なんだ?






そう思った矢先、誰かが階段を登ってくる音がした


まずい  と思い俺は身を隠す
誰が来るんだ




静かに拳銃を構えながら俺はその足音の主を待つ











そして


俺の視界に入ったのは
俺の見慣れた
俺の大切な ハヤトだった










△月×日 

July 28 [Fri], 2006, 22:50





「ワオ、酷い顔だね」





開口一番に言われた言葉がそれ、だった。

そう、俺にではない
ボスに向けられた言葉だ

きっと頭の良いヒバリなら気付くだろう
ボスは何も答えなかった。
ただ、ただひたすら ヒバリからの攻撃を避けているだけで
心ここに無し  というのが嫌でも伝わってきた




だが、俺は昨日決めたんだ
俺のボスはボスで、それは何ら変わりは無いし変わりもいない
でも俺にとってハヤトは 息子同然の大切な存在であり
ボスがハヤトを守らないのであれば 俺が守ってやらないと

そう、俺にとってハヤトはファミリー同等に大切なのだ



俺はずっと信じていた
ハヤトを幸せにできるのは ハヤトのそばにいるのは
俺の大切な、俺の尊敬するキャバッローネボス10代目ディーノ なんだと



だが それも
終わったのだ





きっと 終わったのだ







そう、思い込みでもしていないと
俺はボスを殴ってしまいそうな衝動になる








「ねぇ」


「……なんだ」


「もしかして、獄寺と別れたの?」


「……答える義理は無い」


「ビンゴ」






「これで心置きなく、彼を僕のものにできるね」


「………」





心にも無いこと を           そう、思ったのは
俺だけだろうか

この雲雀恭弥という男は
たとえハヤトが誰の物であろうときっと容赦はしないだろう
それは始めて雲雀から宣戦布告をボスが受け取ったときに
心底感じたことだ






「ねぇ」


「うるさいな」


「別れた記念に、良いこと教えてあげるよ」


「………」











俺が、ハヤトを見ていたのは生まれた時からずっと。
日本へ来た当初の事はよく知らない。
後はいなくなった一年間は俺の知らない空白の時間。

ボスとハヤトが出会ったのは、ハヤトがリボーンさんに呼ばれて
日本へ来てから。

俺の記憶に間違いが無ければ、それが正しい歴史なはずなのだ。







だが






「昔、誰かに撃たれたことない?」


「…………それが、何だ」


「可哀想だよね、獄寺は今も昔も」


「……?」


「のうのうと生きてる貴方を本当に咬み殺したくなる、よ」





そして 言葉は続く





「知りたいならイタリアに帰るべきだと思うよ。
あぁ、それかあのヤブ医者に問い詰めるのもいいかもね。」





雲雀の言っている事はよくわからなかった
反対に、その言葉に何の真意があるのかも伝わってはこなかった




だから大した事ではないと 俺の脳は捉えもせず
軽くその言葉を心に受け入れた状態だった








それが過去を全て変えるような出来事だとも知らずに












△月□日 

July 23 [Sun], 2006, 15:23



俺はホテルの前で待った
落ち着かないので外でずっと待っていた

二人で、このホテルを出てきて俺に笑顔を向けてくれれば 
それだけで俺は幸せだと考えながら







ずっと



待っていた











だが










出てきたのはハヤト一人だった


俺を見つけるなり
駆け寄ってきて、体当たりに近い抱きつき方で
俺に飛び込んできた




「……どうした?」




俺が動揺したらダメだ
取り合えずどんな言葉が出るのかが解らないから、俺は
ハヤトの言葉を待った

…泣いているのが




痛くて仕方なかったから












プライドの高いハヤトが
俺の前で泣いている
前に泣いたのを見たのはいつだったか
昔は、泣かない子供だった

そういう風に育てられていたからだ




だけど俺はそれは間違っていると、部下らしくないが
口答えのように先代に伝えたことがあった

子供なら、泣いて笑って感情という物を大切に育てるべきだ と






俺にしがみついているハヤトの頭を優しく撫でながら
どうしたものか と考えていた
この時の俺は なぜだが 心は落ち着いていた

だけど一向に顔を上げる様子もなければ、涙が止まる気配も
しなかった。




「っ…ごめん、ロマーリオ…ごめんっ…ごめんなさい………」




やっと言葉が発せられたかと思ったら
ハヤトの口から出てきたのは、俺への謝罪



…あぁ










この子は
どうして











「なんで謝るんだ?」


「……迷惑……か…けた……」


「何今更言ってんだ……お前の迷惑なんて、迷惑のうちに入るか」




ハヤトの悪い癖
それは必ず全てを自己犠牲にして考えてしまうその思考 だ
だが今は取り合えず、ハヤトの言葉への応対のみで
自分から聞き出そうという事は避けた







少しずつ
言葉が吐き出される








「………ちゃんと…話してきた」


「…そうか」


「……だ…だから、ロマーリオにもちゃんと話す」


「取り合えず、移動するか」


「えっ、ま…」


「…ボスがこない場所のがいいだろ?」



小さく頷いたハヤトを連れ、ハヤトの家の方向へゆっくりと歩き始めた


まるで何年か前に戻ったようだ
手は繋がないくせに、ハヤトは俺の服の裾を掴んで
離そうとしなかった
その癖は今でもなおってないんだな


「…ロメオは……今となってはわかんねーけど、俺が
初めて好きになった男だ。って言っても好きっていうのは
恋愛とかのそういう好きじゃなくって、」


「あぁ」


「信頼してた、凄く。家族みたいで…」


「…お前が一年居なくなったときあったな、あの時か?」


「…うん、どうしても…どうしても一緒に来て欲しいっていわれて」


「……」


「俺、人から頼りにされたことなんて無かったしさ。嬉しくて…」




少しずつ浮き彫りにされてくる過去
俺の知らない過去、ハヤトの顔
でも聞いたところで、ハヤトがなぜ泣いて出てきたのか検討が
付かない。だがボスの名前を出すのは今のところは厳禁だろう。
そう片一方の脳で考えながら言葉を追った




だが、その理由の検討も
すぐ付くことになる




「……それで、さ」


「うん?」


「一回だけ、」


「……」













「一度だけ抱かれた、んだ」












あぁ


やっぱりか



ボスがきっと察していたことが現実となる
だが、それは合意の上なのか  なんて
聞けるわけもなく


ハヤトは今でもロメオという男の事を信じているのだろう
だからきっとそれが合意の上でなかったにしろ
犯された とはきっと口が裂けても言わないだろう


お前が口を開かなかったのは、そのためか





「…ボスに話したんだろ?」


「………はなした」






なら、なぜ…







「俺、」


「……?」


「別れることにした」


「…え」


「別れるっていうか、そもそもさ男同士とか有り得ないだろ?
それにそれ以前にあいつはキャバッローネボスだし、俺はボンゴレで…
いくら同盟組んでるっつっても、いつ裏切りが出て、いつ抗争があるかわかんねーし」


「それもボスに言ったのか…?」


「…とりあえず、あの家はあのまま置いといて。あ、ロマーリオ使いたかったら
使っていいし、それに…」


「ハヤト」


「毎回日本に来て、その度にスイートとか泊まってたら金も掛かるだろー…だから、さ」


「ハヤト、聞け」





聞いていられなかった
笑いながら、「俺はどうってことない」と話すハヤトを





「………俺が昔からずっと言ってきた言葉を忘れたか」


「……」


「……ボスになんて言われた?」


「……何も?俺が全部話して別れようって言ったんだ」





嘘が下手なのも昔から変わってない
俺が見抜けないとでも思っているのか





「……自分に嘘をつくな。そうずっと俺はお前に言い聞かせてきたな?」


「う…嘘なんてついてねーし」


「……それでいいのか?」


「別に、いい」


「……なら………なんで泣いてんだ」






素直じゃないのもここまでくればもう表彰もんだ
昔から何一つ変わっちゃいない
頑固で我侭で自我が強くて、先代にそっくりだ






「…もう、いいんだロマーリオ」



そしてそういう事態になっても、抱きしめてやる事しかできない俺も
何一つ昔から変わっちゃいない



「もう、疲れた」



俺も恋愛経験が多いほうではないが
だが、ボスとハヤトを一番身近で見てきたのは俺だ

俺しかいない



なのにどうして








言葉がひとつも浮かんでこないんだ









ハヤトが泣いて出てきたのは
きっとボスに何か言われたからだ

なのに、自分が悪いからと
そう言って別れると 俺には言ったが
事実はきっと違うに違いない





「…明日、俺戦うから……もう、帰るな」


「……」


「ロマーリオ、」


「……なんだ」


「ありがとう」









どうして
手放すんだ








どうして
誰も分かってやれない?








なぁ、ボス




ハヤトは




ハヤトはな、こういう人間なんだ




解ってるだろう?
なのになぜ自ら




ハヤトを手放そうとするんだ





生まれて初めて自分を受け入れてくれて
信じて          愛したのは





ボスなのに




ボスだけ  なのに






なぜ受け入れて愛してやらないんだ





ハヤトは




ハヤトだけは




あんたじゃなきゃ だめなんだよ






それを俺は解っていたから
だからずっと側で見てきたんだ







それは、あんたも同じだろう?








見損なったよ







あぁ、何もかも








「ロマーリオ?」


「……明日、頑張れよ」


「…誰に向かって言ってんだよ。俺は負けねー」


「そう、だな。」





これが最後に見た
ハヤトの本当の笑顔だった












△月◎日 

July 18 [Tue], 2006, 0:22



時間が無い



ボスはこれからヒバリとの修行がある。
本当は、そっちを放ってでもハヤトのところへ駆けつけて欲しいが、今のボスを説得している時間は
俺には無いし言葉も早急に用意はできない。



どうしたら、いいんだ

なぜ、こうなったんだ
また振り出しに戻るのか?
ボスに捨てセリフを吐いたはいいものの、どこへ行く訳でもなく道を歩く 


俺はビアンキにロメオという名前の男の話を聞いてから、何かがずっと引っかかっていた。
そう、俺は昔…にハヤトからその男の名前を聞いた事があったのだ。


そのときもハッキリと聞いたわけではない。
だがそれは確かにロメオという名前の男だった


ビアンキが俺に言った言葉
『私から隼人を奪った』
これが俺の忘れていた記憶(と言っても微々たる程度の記憶だが)
を取り戻す切っ掛けとなった

だがそれをどうしろと言うんだ
過去に捕らわれていたって、前には進めない
それをどう説得したらいいんだ

そのロメオという男が 初めてハヤトが愛した相手だったとしても
初めて寝た男だったとしても、事実は空に浮いたままで
何が真実だかは解らない
そう、推測でしかないのだ


ならば


やはり無理矢理にでもここへハヤトを連れてきて話させるべきか。
それともボスを無理矢理連れて行くべきか。

ったくどうしろってんだ、



俺はこの日何度目かのため息をついた




気付けばハヤトの自宅前に来ていて、上を見上げると
電気はついていなかった
(・・・まだ帰ってない、のか?)
そう思った矢先、ふいに声をかけられた



「何だ新手のストーカーか」


「…あ、あんたは」



俺が振り返ったそこに居た男は、Dr.シャマルだった



「なんだ、懐かしい顔だな」


俺は過去、何度かシャマルに会った事はあるが、直接的に関わった事は無い。
イタリアにいた頃、城に住んでたこともあったがそれでも何度か顔を見合わせた事が
ある程度だ。


「ハヤトか?」

「………あ、あぁ」

「あいつなら、俺んちにいるんじゃねぇか?」

「………は」

「俺もここに住んでんだよ」

「……」

(ちょっと待て…これ以上俺の胃を……)

「ハヤトは6階、俺は7階。用があるなら呼んできてやるから、来いよ」

「………」


俺は何も言えずに、言うがままシャマルに案内され玄関を通された。
上がれと言われたが、悠長に上がって話してる場合でもない。
それは丁重に断りハヤトだけを呼んできてもらう事にした。
(ボスとハヤトのこと以外考えないように、脳を作用するのがいかに大変かを
わかって頂きたい)


「あれ、ロマーリオ…」


ポカンとしていたハヤト小脇に抱え、急いでシャマル邸を出た。
あぁ、もう何だってんだ!
どうして俺ばっかり気使って気回して…全く、世話のやけるボスと息子を
持ったもんだ。ハヤトに直接聞き出す前に、取り合えず
「ハヤト、一人でシャマルのところへ行くな」
と言っておくべきか。


「ちょっ、ロマーリオ!何だよ、降ろせって…!」
「ダメだこのまま来い」


だんだんと腹が立ってきた。
もう知るものか。

途中でタクシーを拾い、俺たちが泊まっているホテルへ直行した。
その道中ハヤトは降ろせだの帰るだの喚いていたが俺の知ったこっちゃない。



ホテルに着いて、逃げようとしたハヤトを壁に打ち付けた


「って…!……な、何すんだよ!」

「ハヤト」

「……な…んだよ」

「ちゃんと話して来い」

「ロ、ロマーリオがこっちにディーノ……を」

「自分で歩け、俺はもう疲れた。お前らのママゴトには飽きたんだよ」

「………ロ…、ロマーリオ?」

「別れるなら別れればいい。俺には関係の無いことだ」

「ちょ、なに…」

「ボスは俺のボスであって、お前は俺の前のボスの息子なだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
 ただ、それだけの存在なんだよ。」

「………」


ハヤト



お前にならわかるだろう




お前は、俺の敬愛していたボスのたった一人の息子なんだ
俺が最初で最後につく嘘くらい


許してくれ





なぁ、ハヤト




覚えているか




お前が眠れなくて一緒に寝てやった日のこと
お前が9代目の跡を継ぎたくないと俺に打ち明けてくれた日のこと
お前がボムを使うようになって、強くなったと俺に自慢しに来た日のこと
お前が日本へ行くとき、俺に一緒に来て欲しいと願ってくれた日のこと



お前がボスを好きかもしれないと俺に告白してきた日のことを




俺は何ひとつ忘れずに覚えている




お前が生まれてから
お前が歩けるようになってから

ずっとずっと

息子同然に見守ってきたんだ





本当はな?
きっと、ボスより俺の方がお前のことを愛してるんだぜ




まぁ、恋人同士とかそういう類の愛じゃない
それよりももっと不動なもんだ



一年間お前がいなくなった時があったな
多分、その時にロメオという男と何かがあったんだろう
俺は今まで聞かずにいた
俺もきっと現実から逃げていたんだ

いつか、それが浮き彫りになる日まで俺は黙っておこうと思った


俺に打ち明けなくていい




その事を



お前の最愛の男に打ち明ければいいんだ





わかるな、ハヤト





人を愛するという事は
己に嘘をつかないことだ





いつもと同じように、背中を押してやったらお前はきっと前には進めない





だから
許してくれ





最初で最後の俺の嘘くらい 可愛いものだろう?

△月■日 

July 15 [Sat], 2006, 1:02



「ボス、なぜ…」 


 
行かないのですか、と続ける前に言葉が途切れてしまった。
ボスの表情が見えなくて俺は立ち竦む事しかできなくて。
だがその頭で、ハヤトにどう説明しよう、俺はどう動いたら良いのだろう、明日の戦いはどうなるんだ、と
心配事がくるくると頭の中で動き回っていた。


ハヤトをこっちに来させるのが一番良いのか
素直に言って来るだろうか。
試合前で動揺させるよりも、何かいい訳を付けて試合が終わった後に告げた方が良いのだろうか。



―――――――――――だが



だが、もし
ハヤトが負けたら



有り得ないと自分の中で思っていても、やはりマイナス方向の思考という物は常に自分の中で
存在するのは否定できない。
ここはやはりボスを説得して………と思った矢先に、ボスから言葉を掛けられた



「悪いな、ロマーリオ」



「どうして謝るんですか、」



「…今までずっと何か突っ走ってきたけど、さ」



「所詮、男同士とかってうまくなんて行きっこねーんだよな。どんだけ愛してるだの好きだの叫んでも
 どんだけ抱いてもキスしても      不安が消える事なんてねぇんだよ」



「……ハヤトから直接聞いてないのに、どうし…」



「たとえ」



「……例え、その理由が何だとしても。俺は今真実を受け止める余裕がねぇんだよ……」



ここまで言われて、初めてその言葉に棘がある事に気が付いた
ボスがそう、どこかで確信に変えているその「棘」の部分


「……もしかして」







例え俺の思考回路が間違った方向へ走っていたとしても、それは限りなく淡い疑念が生まれたのと
刻々と迫るハヤトの戦闘開始時刻が近付いているという現実しかなかった。




「……何があったにしろ、ボスが行かないなら俺がハヤトのところへ行きます」





青い青い
そうだ、これが青いというんだ




「過去なんてどうでもいいでしょう」




そう一言俺が告げたところで、青い人間に理解できるはずも無いのだ














△月△日 

July 10 [Mon], 2006, 23:38


あれから、何日が経過しただろう。


ハヤトの対戦相手が決まり、それが最悪な相手であると同時にハヤトの
気持ちもボスの気持ちも晴れないまま、進展もないままその日を迎える事となった。
ボスとハヤトは一言も口は聞いていない。
せっかく買った家にもハヤトは戻ってこない。

俺はハヤトの家へ何度か足を運んだが、ボスの話、そしてロメオという男の話には
触れないように精一杯振舞ってるのが伝わってくるのが嫌に痛々しくて見ていられ
なかった。

さて、どうしたものか。



いつもなら俺もさっさと動いたりするのだが考えて考え抜いて、ただただ
その方向はネガティブな方向へしか動かない。
ここはいっその事、二人を対面させて殴りあいでも何でもさせた方が良いのかも
しれない。

ハヤトは明日、ベルフェゴールという男と戦うのに。



もしかしたら――――――



いや、やめておこう。
こんな事を書いて事実になんかなったりすれば、俺はこの日記を燃やして
命を絶たないといけない事態になるかもしれん。

どうにかして、
どうにかしてボスとハヤトをせめて会話ができる状態くらいには修繕したい。


そう思っていたその夜。
ハヤトから一本の電話があった。


俺はなるべく、そういう動きは見せないよう悟られないようハヤトに接した。


「どうした、ハヤト」
『……あ、あのさ』
「ん」
『明日、俺…』
「…あぁ、知ってる。ちゃんと俺もボスも行くから、精一杯頑張れよ」
『…………ロマーリオ』
「うん?」
『俺は別に、その…』
「……」
『ロ…ロメオと何がどうあったって訳じゃなくって、さ』


淡々と少しずつ話すハヤトの言葉をひとつずつ拾い、耳と頭に入れていく。


全く、素直じゃない。
ボスもハヤトも、俺を仲介にしてしか成長できないなんてなぁ。。。
俺にとっちゃ冥利に尽きるってもんだが、そうも言ってられない

俺が明日死んだらどうすんだ


まぁ、まだボスとハヤトの恋愛のいろはを説教するのは早いだろうが、な。


「ハヤト」
『…な、なに?』
「今からそっちにボスを行かせるから。ちゃんとお前の口から話せ」
『なっ、何言ってんだよ!俺は別にっっ…!』
「だめだ、ちゃんと話すんだ。」
『んだよ!ディーノなんて関係ねぇだろ?!だいたいっ…』
「ハヤト!」
『っ…!』
「自分に嘘をつくな」
『………』
「不安で仕方ないなら、ちゃんとそう言えばいい。格好悪いとかそんなのボスが
思うわけねぇだろ?どれだけ愛されてると思ってんだお前は」
『……し、知らねぇよ、そんなの……』
「お前がロメオとかいう男の存在を隠してたとか、そういうつもりも何もねぇんだろ?」
『…隠してた、わけ…じゃない』
「なら、そう言えばいい。今、こんな気持ちの状態で戦ってもお前は苦戦するだけだ。
それ以上、自分の心を痛め付けるな」
『………デ…ディーノ…は…』
「今からそっちへ行かせる」
『……』
「ちゃんと話せよ?」
『…わ、わかったよ……』



そう言って電話を切った後、俺はボスに知らせた。



なのに



ボスはホテルから出ようとしなかった。
今までには無い、何かが




そう、何かが邪魔をしている気がした




△月○日 

July 02 [Sun], 2006, 13:12


「本当は、嫉妬で狂いそうなんだ」

夕涼みをしながら縁側で麦茶を飲んでいるときだった。
庭にある、三人で一緒に植えた朝顔は、竹で出来た柵に絡まり始めている。
俺はそろそろ花が咲くのではないかと毎日楽しみにしている。
夕暮れではあるが、まだ蒸し暑く、だけれど三人から二人に減ったこの家はなんとも淋しい寒々しい空気が漂っている。
そんな時、そんな時だった。
ボスが俺の隣に座り、手を組み深刻な顔でそう言ったのだ。
眉間に皺を寄せ、ひどく辛そうな顔をしていた。

「どうしていいか分からないんだ。本当は、ハヤトにその男は誰なのか、どのくらいの期間を過ごしていたのか、どんな関係だったのか、全てを聞きたいんだ。感情をむき出しにして、問い詰めたいくらいに」

俺は、相槌を打つことはなく、ボスのその独白を聞いていた。

「だけど、ハヤトは子供でいることをひどく嫌っている。だから俺が大人にならなくては、と思うんだ。だからここで怒ったら、取り乱したりなんてしたら幻滅される。そう思うと感情とは別の表情を作って、笑って許そうとしてしまうんだ」

ボスの今の顔は、感情が思い切り出たもので、先日ヒバリに向けた顔に似ていた。
似ているけれど、違う。
切り裂かれそうなほど辛く、淋しい、そんな顔だった。大切なものを失った痛みだ。
この感情を、俺はよく知っている。

「本当は、許せない。なぜ黙るんだとか、なんで本当の気持ちを隠すんだとか。もっと自分の感情に素直になってもいいのに、といつも思う。だけど、それは俺も同じだ。俺も、自分の感情を偽っている。だけど、これだけはいえるんだ。俺は、ハヤトを世界で一番、誰よりも愛しているということを」

全てを話し終えると、ボスは「つまらない話を聞かせちまったな」と言い、部屋に戻っていった。
そういえば、ボスからの弱音はもしかしたら、はじめてかもしれない。
ボスのこの気持ちも痛い程分かる。だからこそ、俺も辛いのだ。
ハヤトはもしかしたら、怒られることを待っているのかもしれない。
あの男は誰だ、と。お前はずっと俺のものだ、とそんなことを言われたいのかもしれない。
ずっと、誰かから必要とされていなかったハヤトは、行動ではまだ信じられないのだ。
言葉にも表さなくては。
その表情と、言葉と、行動で、はじめてハヤトは安心出来るのだ。


「それを全部、ハヤトに言えば、楽になれるのになァ」

でも、それは上手くいかないのが、恋愛なのだろう。
ロメオ、この存在は、ボスがハヤトに聞けばきっと答えてくれるだろう。
二人が、素直な気持ちになって、向き合えば。




○月$日 

June 27 [Tue], 2006, 23:53

あの日、あれからどうなったのか。
それを綴ろうと思う。

だが正直、こんな日記を書いている場合じゃない状況なのは間違いない。
あの日ヒバリが屋上から去ってから、残された俺たちは沈黙が続いて
どうしようもない空気が流れていた。
あれだけ張り詰めた緊張感を味わったのは久しぶりだ。

何分黙ってたか解らない。

時計の音すらしない、見上げれば憎らしいほどの青空しかない場所で
誰も目線を合わさないまま静かに秒針だけが進む



「何が聞きてぇんだよ」



そんな中、痺れを切らしたのか言葉を発したのはハヤトで。
その一言からは、怒っているのか怒っていないのか表情からは読み取れなかった。
だが、俺たちが影で過去のハヤトを探っていたのは少なからずとも気に食わないのは
間違いないだろうと思いつつ、ハヤトの質問の返答をボスがするのをじっと待つ。

きっとボスも迷っていたんだろう。
別に俺たちは探っていたわけじゃない(実質、軽く探っていたのは俺だけだ)
その時ボスが言葉に出したのは、ただ手を差し伸べて
「帰ろう、」
と言っただけだった。

だが、それに対して返ってきたのは


「お前はいつも、こーいう時だけ逃げるんだな」


そう言ってハヤトはその場を立ち去ったのだ。
それから、1週間。
ハヤトは家には帰ってこなかった。
それと同時にランボもここには来なくなった。


とにかく、この現状は打破しなければならない。
こんな環境を引きずったまま、ハヤトを戦闘に行かせる訳にも行かない。
こうなると影で動けるのは俺だけである。


だが少し




こんな状況なのに
ほんの少し微笑ましいと思ってしまう俺は不謹慎なんだろう



ボスは今まで嫉妬をしたことがあったとしても
それを表立って表現した事は一度も無い

それが今、どうしようもないくらいにそれが俺にまで伝わってくる
という事は、本当に愛しているんだなと俺ですら再確認をしてしまう


ボスは昔の男がどうとかで怒っているわけじゃない
気になって仕方が無いが、それをヒステリックな女のように聞き出す
訳にはいかないからこそ悩んでいるのだろう。

本当はそんな事はどうだって良いのかもしれない
ハヤトが自分から話してくれるならばと思っているのかもしれない


それが吉とでるか凶とでるか


俺には解らないが、その謎の男の招待が明らかになるまでは
じっと見守ろうと思う




P R
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