それから

October 11 [Thu], 2012, 21:18
「お母
っか
さん、お願いしますよ。」
 と彼が声をかけて行こうとすると、おまんはあたりに気を配って、堅く帯を締め直したり、短刀をその帯の間にはさんだりしていた。
 もはや、太鼓の音だ。おのおの抜き身の鎗
やり
を手にした六人の騎馬武者と二十人ばかりの歩行
かち
武者とを先頭にして、各部隊が東の方角から順に街道を踏んで来た。
 この一行の中には、浪士らのために人質に取られて、腰繩
こしなわ
で連れられて来た一人の飯田の商人もあった。浪士らは、椀屋文七
わんやぶんしち
と聞こえたこの飯田の商人がロシア 結婚横浜貿易で一万両からの金をもうけたことを聞き出し、すくなくも二、三百両の利得を吐き出させるために、二人の番士付きで伊那から護送して来た。きびしく軍の掠奪
りゃくだつ
を戒め、それを犯すものは味方でも許すまいとしている浪士らにも一方にはこのお灸
きゅう
の術があった。ヨーロッパに向かって、この国を開くか開かないかはまだ解決のつかない多年の懸案であって、幕府に許されても朝廷から許されない貿易は売国であるとさえ考えるものは、排外熱の高い水戸浪士中に少なくなかったのである。
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