『満開に咲いた野桜の話』 本編【1】 

January 01 [Sun], 2012, 21:11
 ―俺が生まれたのは遠い昔。いや、俺にとってはついこの間のことのように思える。人々が未だ戦争というものを嫌わなかった時代、その瞬間、俺は生まれた。
俺を生まれさせた奴は言った。
「君は無限の可能性を秘めている。なにせ、私と彼女の子なのだから。だからこの戦況を変えることだって簡単なはずだ」
笑って言った。俺には意味がわからなかったが手にはナイフが一本、これだけあれば十分だろうと握らされた。そしていつの間にか連れてこられたのは異国。港。丘の向こうに大砲が見える。
目の前には踏みつけられた土と銃弾と死体と、それ以上はなにもなかった。
「君の仕事は単純明快だ。あそこに大砲がある丘が見えるだろう?あそこにいる異国の人間を全員追い払うんだ。殺したって構わない。簡単だろう?」
『・・・・・』
言っていることはわかるが、生まれたばかりの俺になにをさせるというのだ。しかし俺にはまだ死体の意味も追い払うという意味さえわからない。わからない。
「成功したら、私は彼女とともに君をほめよう、ご褒美をあげよう、頭を撫でてあげよう!それが家族というものだ!」
白衣を風になびかせながら奴は言った。とても綺麗な顔だ。
『・・・・家族?』
「そうっ世界で一番あったかいものだ!・・・なに、恐れるものは何もない。さあ、行っておいで」
トンと背中を押され踏みつけられた土の上に立った。
降り注ぐ銃弾。さっきまで動いていたものがすべて止まる。
『・・・不思議だ』
あの丘まで行けばもっとよく見えるのだろうか?
俺は銃弾を無数にあび動かなくなったものを踏みつけながら無我夢中で走り出した。


※※※

西暦1998年。春。50年ほど前の大戦で世界でも少ない勝戦国となれた大日本帝国。都は人でにぎわい人々は平和で幸せな日々を過ごしていた。そんななかで都ではある都市伝説が流れた。

『都から伸びる小さな通りを進むと現れる九番地。そして横にある十番地。ここには人は住んでいない。何故なら建物もなにもないからだ。しかし、交差点の真ん中で『願い事』を持ち祈ったのち、目を凝らすと丁度二つの番地の境目にある建物が見えてくる。『相談屋』そこの家主は戦前から生きている人物でなんでも『願い』を叶えてくれる』



 「・・・やっぱあのアイドルはプロデューサーとデキていたのかあ。結構好きだったんだけどなあ・・・。年の差14って僕は絶対無理だな〜」
朝刊を片手にココアを飲み少年は言った。
ダボダボのYシャツにジーパン、夕日のように輝く髪に一束だけ黒いエクステをつけている。顔は整っており、黙って座っていれば絵画のモデルに余裕で抜擢されるほどであろう。
「なんなんだ、このおっさんは若い子が好きなのか、それともロリコンなのか・・・・。・・・・あれ?同じ?・・・・あれ!?」
しかし口を開くとましなことが無い。言わない。
こんなにいろいろ喋っているが返答をしてくれる人はおろかまわりに人の気配すらない。
彼がいるのは周りに人気すら感じないボロ屋敷。はたから見たら絶対人がいるだなんて思わないだろう。
そんななかで彼は喋り続けているのだ。・・・・悲しい。
少年のいる部屋には今座っている机と回転いす。そして中心には大きなテーブルとそれをはさむように左右にソファーが置かれている。あとは部屋の壁際には本棚が続き、今座っている机の後ろに大きな窓があるということだけだろう。
窓からは風にのって桜の花びらが舞い落ちてくる。花びらが一枚、そっと少年の手の甲に舞い降りてきた。
「・・・・・・・」
少年はそっと花びらを取ると風に乗せて外へ出してやった。なにかを思いながら。
「今日は、久しぶりにお客さんが来そうな気がするぞ〜!」
意気込みをすると、
「あ、あの〜!すみません〜!『都市伝説』を聞いてきたんですけれども〜!店主さんはいらっしゃいませんか〜?」
玄関のほうから少女の声が聞こえた。
「・・・・え?」
少年は少女が訪ねてきたことよりも声に驚いたようで思わず声を出した。理由は簡単、昔の知り合いに似ているからだ。遠い昔の。
「・・・・・・」
パチンと指をカッコよく鳴らすと風が吹き、玄関の扉が開いた。
「!?」
少女が戸惑いながらも玄関をくぐった。
「お、お邪魔しま〜す」
靴を脱ぎ玄関から進んでいくとある一室に辿り着いた。少女の目的もここだったようで意を決してドアをノックし入った。
「し、失礼いたします」
少女が深々とお辞儀をしているからお互い顔は見えていない。
「いらっしゃい。どうぞ、こちらへ」
少年が目の前のソファーを示した。にこりと笑って、とても美しい。さっきまで独り言を連発していた人物と同一とは思えない。
「はい。失礼します」
顔をあげると少年はなお驚いた。
「っ・・・・・こさくら?」
「・・・・?え?」
聞き覚えのない名前に少女は首をかしげた。その仕草はとても可愛らしい。
都内の有名高校の制服を正しく着こなし、長い髪を腰まで流し、頭の後ろに大きな桜のかたちの髪飾りをつけている華奢な少女だ。大きな目が特徴的な美少女である。
「???あの?」
そんな少女は目を丸くしながら困惑している。少年も我に返って座るように勧めた。
「お疲れ様〜。ここまで来るの大変だったでしょ?なにか飲む?コーヒーと紅茶どっちがいい?あ、この前ケーキ貰ったんだけど食べない?ショートとチョコどっちがいいかな?」
少年のいきなりの質問にも早く対応し、紅茶とショートケーキを所望した彼女は少年が部屋から出ていきそうなのを見てあわてて呼びとめた。
「あ、あのっここって、『相談屋』でよろしかったですか・・・?」
呼びとめられた少年は笑顔で答えた。
「ああ、そうさ。ようこそ、『相談屋』へ」

ボロ屋敷の外には大きく『相談屋』と看板が掲げられている。そして今二人のいる部屋には『相談室』と書かれた紙が乱暴に貼られている。
ここが冒頭にでてきた都市伝説の舞台なのだ。
「君、名前は?」
「へ?」
そして彼女は今日のお客様
「あ、ま、・・・『満開 野桜(まんかい のざくら)』です!」
野桜だ。咲き誇る桜のような笑顔はとても眩しい。
「!・・・これは、運命なのかな?」
「?なにがですか?」
「え?あ、・・・あ〜、君と出会えた運命のことさっあはは〜」
と寒いことを言って回避した。しょうがない。その昔の知り合いに声、容姿、名前がそっくりなのだから。
「じゃ、用意してくるから待ってて」
「お、お願いします」
ドアを閉める前に
「あ、僕はここの家主、」
風が吹いた。
「風見 燈夜(かざみ とうや)だ。よろしくね、野桜ちゃん。・・・・まあ」

「偽名だけどね」
ドアが閉まった。


※※※
枯れた桜は言った。
「今年も桜は咲くのね。満開に咲くのね。あなたは私を忘れて他の桜を咲かせるのかしら。・・・ねえ?燈夜?」
と。
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