死がふたりを分かつまで (2012年) 

2012年06月26日(火) 2時55分
大人シゲ水 シゲ視点


【死がふたりを分かつまで】



ありがちな、恋人が病気で死んでしまう結末の、お涙ちょうだいドラマがテレビから流れてくる。スポーツニュースを見た流れで、なんとなくチャンネルを変えないで、二人でだらだらしていたら、こんなことになっていた。

久々の重なった二人のオフ。俺が普段は一人暮らしをしているマンションで、静かに夜はふけようとしていた。

隣の竜也は途中からなんだか真剣にドラマを見始め、いよいよクライマックスに差し掛かる今に至っては、うっすら瞳に涙を浮かべてしまっている始末だ。

こんなの、どこがおもしろいんや、あほくさ。

と一人毒づくが、ふと、ああ、竜也は俺が死んだら泣くんやろな、と思ってしまえば胸は確かに軋んだ。

「たつぼん」

話しかければ「今いいところだから後で」なんて可愛げのかけらもない事を返される。ひどい。それが久々に会った恋人に対する態度なのか。

ちょっとムカついたので、そんな意見は聞き入れず、そのまま話しかけた。

「なぁ、ぼん。お前、俺より先に死んでな」

物騒な言葉に、さすがに竜也もテレビから視線を外しこちらを見た。

「シゲ、なんだよ急に。つーかなんで俺が先に死ななきゃいけないんだよ、お前のほうが年上のくせに」

いぶかしげにこちらを伺う、いつまでもどこかあどけない竜也の綺麗な顔。

過去二度も裏切った分際で、もう自分の不在によってお前のその綺麗な顔を涙で歪ませたくないのだ、と言っても信じてもらえないかもしれない。それともただただ呆れるだろうか。




恋人に自分より長生きしてほしいかどうか、は価値観や恋人の性格によるものだと思う。

竜也は、俺が死んでいなくなっても、生きていける人間だ、それはわかっている。後追い自殺などをするタマではない。

ただ、自分が死んでしまえば、こいつはいったい誰にくそめんどくさい人間関係の愚痴を話すのだ、と心配になる。失敗した時にそのプライドと高潔さゆえに、どこまでも自分を追い詰める竜也に、誰が大丈夫だ、と言ってやれるのだ、と。竜也の辛い時に自分が一番そばに居れないのが、嫌だった。怖かった。

だったら俺は、自分の方が一日でも長く生きたい。と願う。

それに。

「俺な、嫌やねん。俺のいない世界でお前が生きるのが、嫌や」

それはある種究極の独占欲なのかもしれない。

もう、出会ったからには、愛し愛されたからには、俺のいない世界なんてこれ以上知ることなく、死んで。息絶えて。逝ってくれ。看取るから。そうしてきっと俺はようやく安心できる。悲しみと同時に、これで俺は竜也をおいて逝かずにすんだのだと。

竜也は目を丸くして「お前って、病んでる…」と呟いた。

「うっさいわぼけ。お前がしっかりしてへんせいや」

「なんだよ、俺のせいかよ……まあでも、」

そうだな、俺ももうお前においていかれるよりは、おいてく側にまわりたいかもな。

なんて寂しげな眼をした。おもわず抱きしめる。

「しげ?」

「愛してんで、ぼん」

「俺も…だけど……いつまでたってもぼんっていうなよ、俺だってもうアラサー手前なんだぞ」

「はは、せやったな。時が過ぎるんは早いなぁ」

「死ぬまできっとあっという間だよ」

「せやな、今のうちにこういう話しといてよかったわ」

と言ってから、当たり前のようにお互いがお互い死ぬまで親しい関係であることを前提に話をしていたことに気付く。

ああ、もう、やんなっちゃうね。こんな、夫婦みたいになっちゃって。昔はもっといつ別れるかわかんないどころかいつ一生会わなくなるかわからないぐらいのノリだったのに。年食ったな、俺も。

なんて心の中で悪態つきながら、今日もアラサー間近の茶髪の王子様に歯の浮くようなセリフを言っちゃうのだ。しかたない、どうしようもなく愛しい、お前だから。


「ま、ともかく、死ぬまで一緒におればええだけや。簡単な話やな」


ばーか、キザなこと言いやがって、と笑った、この竜也の表情を、俺はきっと最期に思い出す。





end.