*1 金平糖【カノキド】

June 16 [Sun], 2013, 17:41
初投稿・・・!ちょっと未来の、遠距離恋愛カノキドちゃんです。なんかすっごく雰囲気小説。金平糖みたいに淡い関係でいたいねっていうお話です。もしよければどうぞーっ。






【 金平糖 】




雲の合間から覗く三日月が、とても綺麗な夜だった。

もう何年の付き合いだかもわからない草臥れた小さなソファーに座って、ずっと肩に重たくのしかかっていた鞄を投げるように床に置いた。どすっ、という鈍い音が薄暗い1DKの空間に響いて消える。

今は一体何時なんだろう。まだ9時くらいのような気もするし、12時を過ぎていると言われても違和感はない気がする。時計を見ればすぐにわかることだけれど、今はあまり時間を気にしたい気分じゃなかった。今日だって昨日だって散々時間に追われていたんだ、今くらいはあの煩い秒針の音を忘れていたい。
もやもやする気持ちを遮断するようにぐっと蹲ると、ずっと羽織っていた薄手のニットのカーディガンからアルバイト先のカフェのコーヒーの匂いがした。嫌ではないけど、あまり嗅ぎたいとも思わない身体に染み込んだこの匂い。いったいいつまで、俺はこの匂いの中で生きるつもりなんだろう。

立ち上がって、すぐ側にあったカーテンに手を伸ばした。てろりとした素材感に指を絡ませてクリーム色の向こうに広がる夜空を見る。街の高層ビルの明かりがぼわりと濃紺の空を包んでいた。人工の光にかき消されてしまうそうな一等星達と、微かに浮かんでいる灰色の雲の間からゆらゆらと揺らいで見える三日月形の黄金のボート。視線を戻すと、すぐ目の前の通りを人や車が流れるように行きかっている。

きっとみんなそれぞれに何かを想って、何かを背負って生きているのだ。すれ違った笑顔の少女が裏ではいつも泣いているかも知れない。でも、そんなことには誰も気がつきはしないし、考えもしない。他人に無関心なこの街で生きるのはとても気が楽で、そして時々、とてつもなく寂しいのだ。だから、夜になると無性にあいつの存在を感じたくなる。

立ち上がったまま、テーブルの上の小さなガラスの小鉢に入った金平糖を手にとって夜の光にかざしてみた。半透明な光の粒はぼんやり空色に光る。口に含むと淡い甘みと微かなソーダの風味。初夏のようなその味わいは案外今の季節にあっているかもしれない。もう一粒適当に手にとって口に含むと今度は甘酸っぱいストロベリーの味がやんわりと舌に伝わってきて、俺は日常のなかに忘れたまま過ぎてしまったであろう穏やかで優しい春を思い描いた。

時間があれば、なかなか行きたくても行けていない隣町の小さなパン屋で美味しそうなパンを買って、そのまま近くにある公園で食べたりしたらきっととても楽しかっただろう。柔らかい芝生の上を子供達が駆け回って、腰掛けたベンチの上に大きく枝を広げた桜の木から時々薄紅の花びらが舞い落ちてきて、水筒の中に入っちゃったら困るなぁなんてあいつと笑うんだ。パンを食べた後は二人でのんびり散歩をしたい。普段目にも留めないような小さなものを見つけて、それからいろんな話をしたい。


もう一粒金平糖を口に含んで、カーテンを閉めて部屋の電気をつけた。外の光よりもずいぶんと活気のないその光にため息をつきながら、部屋を片付けてキッチンに立つ。まだ口に残っている甘さはとても控えめで、でも確かに俺を包んでいた。
きっと俺が望んでいる二人の関係も、この金平糖みたいに淡いものなのだと思う。離れて暮らすことになった2年前から俺たちを結んでいるのは恋人という関係だけれど、それは決してベタベタとした甘ったるいものではない。アジトで共に時間を過ごした皆からは本当に付き合っているのかとたまに心配されるくらい、俺たちは会う頻度も交わす言葉も少ない。

それでも、2年間、この関係は途絶えることなく続いている。忙しくてなかなか会えないと電話の回数が減るのは、けして互いのことを後回しにしているからじゃない。忙しい中でもちゃんと互いを気遣っているからだ。少しゆとりが出てきたらどちらともなく電話をかけて夜中まで話しをする。この人に溢れた都会で、俺とあいつのささやかな会話を気に留める人は誰もいない。その時だけは、それがとても心地いいのだ。

そう、俺はあいつと、そうやってずっと繋がっていたい。手を繋がなきゃ、触れ合わなきゃ愛されてると思えないような関係より、言葉を交わしただけで満たされるような関係のほうが、ずっとやさしくて心地いいと俺はおもう。いつかあいつと同じ場所で生きていける日が来たらその時は沢山甘えてしまおうとは思っているけれど、今はまだ、金平糖のようなほろりとした寄り添うような甘さの中にいたい。


「好きだよ、キド」
二年前、まだあいつが俺より背が低かった頃、あいつが珍しく赤い顔で言ってくれたその言葉をそっと唱える。あれはきっと、俺と付き合って彼氏彼女の関係になりたかったというより、もっともっと真っ直ぐで必死な言葉なんだろうと今は思う。あいつは何度も大切な人を失ってきた。失う怖さを知っているのはお互い様だけれど、あいつは人一倍そういうことに怯えている一面があった。だからきっと、不安だったんだ。俺もどこかに行ってしまうんじゃないかって、また一人ぼっちになるんじゃないかって。だからもう失いたくなかったんだろう。
いつになく真剣で必死な瞳が恥ずかしくてあの時ははいと返事をすることしか出来なかったけれど、今はあの震える肩を抱き締めてあげればよかったなと思う。


俺はあいつから精一杯の気持ちを受け取ったんだ。大事にしたい、大事にされたい。無駄にしたくないんだ、あの真剣な声を。


洗い終わった食器を斜めにケースに立てかけて、シトラスの洗剤が香る手を、シンクの横の棚に掛けておいたタオルで拭いた。また一口金平糖を口に含んで、広がるレモンの味を目を閉じて味わってからスマートフォンを手に取った。さっきと同じようにソファーに腰掛けて連絡先からもう見慣れてしまったその名前を選び、通話のボタンをそっと押す。

5回くらいのコールのあと、カチャリという音と共に声が耳に流れ込んだ。確か、3日ぶりくらいに聴くその声。
今日は少し疲れているのだろうか、なんだかトーンが低い気がする。まぁ、俺も案外今日は疲れているから声に出てしまっているかもしれない。あまり長く話しこまないほうがいいかな、でも、話していると時間を忘れてしまうのがいつものパターンだから、今日も気付いたから夜が明けてしまったりするのかもしれない。

優しく笑う電話越しの声の主の名をふと呼ぶと、どうしたのと柔らかい声がした。いくつもの街を越えて、目に見えない信号になって、それでも俺を満たすその声。コップに注いだ水を少し飲んで、からりとガラスと触れ合って音を立てる透き通ったキューブを電気にすかしながら見た。まだ口に残る淡いレモンの味。

「・・・・キド?」

なにも言葉を発さなかった俺を心配したのだろうか、少し不安そうな声がまた電波に乗って俺の耳へ飛び込んできた。そうやって次に言う言葉を待たれてしまうとどうもこちらとしては恥ずかしい。まぁ、その一言を言うのにも躊躇してしまう意気地なしの俺が悪いのだけれど。最近全然会えていなくて、俺だって沢山伝えたいことやしたいことがあって、それを少しでもわかって欲しいんだ。でも、あまり簡単にこの言葉を使いたくない。使うなら、ちょっとだけ寂しいときに、ほんのりと甘く。

「・・・ああ、すまん。うん、なんていうかさ・・・カノのこと、すきだなぁって、思ってた」

らしくない言葉も口から零してしまえば一瞬で電波にのって空を飛んでいく。好きと伝えるのは初めてじゃないけれど、まだまだ全然なれないんだ。カノはどうなんだろう。あいつは時々大胆なところがあるから、電話越しでも突拍子もなくさらりと「すきだよ」ということもあるし、たまにはかみ締めるように静かにすきだという言うこともある。俺には見えない遠い街の小さなカノの部屋で、カノはどんな顔をしてその言葉を言うんだろう。恥ずかしくなったりするのだろうか。俺はいつだって恥ずかしいのだけれど。

そんなことを考えているうちに返ってきた声は予想よりもずっと余裕が無さそうな声で、「いやぁ・・・まさかキドに急にいわれちゃうとはね・・・ははは」とかそんなんで、困ったように頬を赤らめて笑う顔が思い浮かんだ。ああもう、これだから困るんだ。普段は余裕ぶってばかりなのに、少し本音を伝えただけで途端に嬉しそうに戸惑われるから、もうそれが嬉しくて恥ずかしくて、癖になる。

「・・・うん、僕もだいすきだよ。そろそろ会いたいねぇ」

「そうだな、お前はいつまで忙しいんだ?」

「うーん・・・ちゃんと休日に一日休みが取れるのは来月の初めくらいかな」

「その頃なら俺も多分大丈夫だと思う」

「そっか、よかった。一日たっぷり一緒にいようね。美味しいお店とか公園とか沢山いってさ」

「そうだな、楽しみだな」


なに着て行こうかなーっ、そう言いながらカノは小さくあくびをした。時計を見たらもう夜中の一時半だ。きるか?ときいたら、まだ話してたいなと返ってきたから、それが少し嬉しくて、俺はずっとカノの話を聴きながら寝る支度だけしてベッドにもぐりこんだ。ふわりと包まれる感触と、優しい音楽のように耳から染み込んでくるカノの声。もういっそ、このままどちらかが眠ってしまうまでずっとずっと話していよう。

目を覚ましたら待っているのは忙しい朝だけれど、先にある幸せな一日を思い浮かべればきっとがんばれる。きっと次に会う頃は今よりも色濃く花が咲いている時期だろう。手を繋いで、色んなものを見て、それからこれからの話をしたい。ゆっくりと流れていく時間を感じながら、バッグにしのばせた金平糖を分け合って、ずっと一緒にいようねって、二人だけの約束をしたい。

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