いっぽをふみだす。 

2006年10月25日(水) 0時01分
「レティ?」
「何だ、どうした…」
「…そうしてると、何だかお年寄りのようだわ」
「………そうか?」
「そうよ」
「そうか…」
「うん…」

場所は、現在二人が滞在している宿屋の屋根の上。
その屋根の上で茶金毛並み輝く大型犬と共に日向ぼっこをしていたレティ。
小さなお盆片手に、漆黒の毛並み麗しい大型犬と階段を上がってきたディア。
レティはぱちくりと目を瞬かせる。
「いい天気だったから。…な?金糸」
茶金の犬の背を撫でれば、金糸と呼ばれたその犬は猫が喉でも鳴らすかのようにその場でごろごろ転がって見せた。
その様子を見てディアはくすりと笑みを零す。
手にしたお盆をレティの傍らへ置き、自分もまたその脇へ腰かけた。
「すっかり懐いたわねぇ、金糸ったら。くすくす……気持ちいい?」
レティと一緒になって、ふわふわと金糸を撫でるディア。
金糸は大好きなご主人様にまで撫でてもらって、いよいよ嬉しくなったらしい。
尻尾をばしばし振って屋根を叩いた。
面白くないのは、亜黒…漆黒の犬である。

『…ディア、甘やかすな』
「あぁーら、亜黒ったら嫉妬かしら?」
『違う…!俺様が、んなことするか!!』
「じゃあ、その手は何かしら?」
にっこりと。
微笑むディアの膝の上には亜黒の手。
しっかと置かれたその手に、レティも僅かに口の端を緩めた。
「亜黒も金糸も…本当に、ディアが好きなんだな。そんなに妬かなくとも、ディアは二人とも…同じくらい愛していると思う、ぞ」
『だ、だから妬いていないと言っている…!!』
《俺の方が愛されてるのが悔しいんだろー♪亜黒ったら素直じゃないのー》
『黙れ、駄犬!』
《ひっどーい。俺、そんなんじゃないもんっ》

ぎゃんぎゃんと暴れ出す二頭の犬。
その傍ら、紅茶とクッキーで午後のひとときを満喫するレティとディア。

「いい天気だな」
「そうね、とっても。ちょっと休んだら買い物にでも出かけましょうか?」
「うむ。…そろそろ冬物が、欲しい」
「あら、それいいわねぇ。お茶の葉もそろそろなくなるわよ」
「インクもない。ペンも、新調したいな…」
「夕飯は外で食べてきましょうよ」

今日もいい天気。

ふたりと戯言 

2006年07月10日(月) 18時35分
はいーそんなわけで合併吸収しちゃいました。
吸収合併、よ(嘆息)
冷静な、ツッコミだな…。

しかし、どうして…記事数少ない、あたしの方が、吸収しているのだ?

うん、ディアははもぶろ使ってたんだけど、あれ使い勝手が悪くってさ、常々いつか退会してやると思っていたのさ。で、これもいい機会かと。
そもそもさ、お前たち自身まったく活動してないだろう?ブログも更新してないし。

……それは、ひとえに背後のせいだと…思わないでも、ない、が?
他の子ばかり動かしてねぇ?(極笑)よくもまぁ、さも他人事のように「活動してないだろう?」なんてのたまえるわねぇ…?
こわっ!ディア怖いし!
誰のせいだと……(杖を片手に)
助けてレティ!ディアが怖いよぅ!(レティアの背後に逃げ隠れしつつ)
そうやって逐一レティに助けてもらおうっていうその魂胆が、あたしは気に食わないのよ!
レティ、貴方も庇ってやる必要はないのよ?
…でもあたしたち、は…背後なしでは、存在しえない(後ろで小さくなっている背後を見やり困ったように)
確かにそうだけど、でも……―はぁ(嘆息)まったく…レティは本当に優しいんだから。
まぁそこが貴方のよいところなのだけれどね(口元を緩め)
ありがとう…(見る人にしか分からない極々僅かな微笑)
いいえ、どういたしまして(にっこり)

ところで…その、ブログが一緒になると…なにか、あたしたちの生活に変化が…あるのか?
うん。お前たちには、これからは一緒に放浪生活をしてもらおうかと。
お前たちも、前に言ってただろ。一緒に旅してみたら楽しいかもしれないって。

…確かにそんなことを言った記憶もあるわね(くす)
レティはそれでよいの?あたしは連れが増えるのは歓迎よ。
ああ(頷きつつ)…もちろん、あたしも嬉しい。…一人旅の楽しさは満喫した、し…(にこ…)
では決まり、ね(にっこり)

カラ 

2006年04月04日(火) 2時55分
不意に呼ばれた気がして振り返った。
ざわざわと落ち着きの無い街の雑踏の中、そんな声を判別できるわけもなく。
ただ、振り返った。

「…?」
「どうしたディア。」
「…分からない。ねぇ、今、誰かに呼ばれた気がしたの。」
「幻聴か?お前最近寝てないだろ。夜遅くまで何してるか知らないが、それが原因だ。…で?何してんだ?」
「内緒。変ねぇ…確かに呼ばれたのに。」
立ち止まり振り返って。
全く動く気配の無いディアに溜め息をついて、先を歩いていた男は左右に広がる森に耳を澄ませた。
「…気のせいだろう。」
「そう思う?」
「思う。…名を呼ばれたのか?」
「というより…話しかけられたのよ。」
「よしてくれ、気味悪い。ここには今、俺とお前だけだぜ?」
「……そう、よね?」
それでも釈然としない様子でじっと道の先を見つめるディア。
男は、空を仰いでから、手を打った。
「魂ってな?生まれた時が一番大きいんだそうだ。」
「は?」
よく、意味の分からないことを言い出す男である。
ディアは男を凝視した。
「生まれた瞬間から、どんどん削られていくんだそうだ。削られた欠片は、その魂の持ち主が出会ったあらゆるもの、石ころや草花にさえ、分け与えられていく。持ち主がそれを想う強さによって、分け与えられる魂の大きさも変わるみたいだが。それでな?最期にはその魂がなくなるときが必ず来る。」
「それが死だと言いたいの?自分も他から貰うのに?」
何を言い出すのか、とディアは笑って返した。
すると、男もまた笑って頷いた。
「元々持って生まれた分がなくなったら終わりなんだ。貰い物はあげられない。…で、魂には色んなカタチがあって、それが似通っているモノとはどこかで繋がってるんだ。」
「…それで?」
「誰か、お前の魂に良く似たカタチの魂を持つ奴に、何かあったのかもしれねぇな、と。良い事か、悪い事か…それは分からないが。」
そう言って男は笑った。相変わらず、妙なことを言う男である。

ディアは微笑んだ。
街の雑踏の中、昔を懐かしんで。
それから、声無き呼びかけに小さく頷き、また歩き出す。
今の呼びかけは、何だかとても明るいものだった。
誰かに、良い事があったみたい。

夢見たもの 

2006年01月22日(日) 22時17分
暖炉の火がはぜる、暖かな部屋。
開いた本を懐に抱き、こと切れたようにしてベッドに横たわっていたレティはぼんやりと目を開けた。
…ほのかに冷えた風が頬を撫でたからだ。

窓は勿論扉もきちんと閉まっているはず…とレティは横になったままほけっと考える。
一人旅のレティは、宿を点々とする身で、だからこそ当然客人はない。時折…といっても本当に極稀に訪ねてくる人間がいないこともなかったが、それはあくまでもレティが居場所を伝えた人間だけだ。そうでなければレティの寝泊りしている宿を知るすべは、誰にもなかった。
レティは依然起き上がる気配もなく、ことりと伏したまま。

「……んー…?」

もう一度ひやりとした風が前髪を撫で、そこでようやくレティは起き上がった。
ほつれたみつ編みをほどき、手櫛で整えながら周囲を見回す。レティは、櫛を持っていない。これといった装飾品はおろか、化粧道具さえ持っていない。レティはそういったものを必要としていなかったし、なにより、他のもので代用できれば買わなくてもいいと思っていた。
だから、手櫛。それでも髪の毛はふわりと苦もなくまとまって、肩に降りた。

「あぁ、建て付けが、悪いみたいだな…どうりで安くしてくれたわけだ。」
レティは窓際によって、見ても分からないくらいの苦笑をこぼした。
気を害したわけではない。安上がりで済んだだけ、このくらいは我慢できる。

「もう、夕方か。いつの間にか寝てしまっていたらしい、な。…夕飯でも、食べに行くか。」
慣れた手つきで髪を編みなおしながら一人ごちると、レティは外に出かける支度を始めた。今日の夕飯は、騒がしい店よりも小さな落ち着きのある店で食べたい。
宿の主人に聞いてみよう。

「……いってきます。」

誰もいない部屋に一言告げて。
コートの襟を立てて、扉を閉めて。
レティは部屋を後にした。

真白 

2006年01月09日(月) 3時18分
数日前からずっと降り続いている雪は、未だやむ気配をみせない。
街中真っ白で、何処まで行っても真っ白で、出歩いている人々も、真っ白で。

雪は嫌いじゃない。
嫌いじゃないが、好きとも言えない。

春を迎える喜びがより大きくなるのは、冬があるからこそ。
凍てつく厳しい冬を乗り越えた者にだけ与えられる、暖かな日差しと穏やかな風。
土の下でじっと春を待つ植物たちが、冬の寒さに負けて死んでしまわないために、雪は降る。雪はとても冷たいが、土の中の生き物たちにとっては暖かな布団の役割を果たすのだ。
表面を硬く凍らせた川も、その真下には轟々と水が流れている。

冬があるから春がある。
春があるから冬を生きてゆける。
春は生まれ。
夏は栄え。
秋は枯れ果て。
冬は眠る。
春に生まれて、やがて死んでゆく生き物たち。

ディアは通りのど真ん中で、後ろを振り返ってみる。
何もない。
あるのは一面の雪景色と、人の波。それからざわめきと、賑やかしい街灯。

「悪くないわよね…。」
冬は割りと好きだ。
雪は嫌いじゃない。
ディアは人知れず楽しげに微笑むと、また歩き始めた。今日の夕飯は何にしようか、なんてことを考えながら。

ふりつづけるゆき 

2006年01月08日(日) 3時01分
あと数日は、止む様子はない。
レティはぼんやりと窓の外を眺め、小さな溜め息をついた。

「…ここは、平和だな…」

不満などはひとつもない。
憂うことなどひとつもない。
けれど、レティは静かに溜め息を吐き出すのだ。

降りしきる雪は、街を覆うことはない。人々の手で払われ、通りのあちこちにうず高く積み上げられる。

森では見なかった光景だ。
森に降る雪は、とても静かで…とても穏やかで、けれどあらゆる狂気を孕んでいた。気を抜けば足を取られて谷に落ちてしまう者も少なくなかった。
けれど…。
雪は、春の温かさを教えてくれる。
冷たい冬を生き延びれば、やがて迎える春はとても優しかった。凍えて過ごした日々を振り返れば、その苦痛もまた幸せに変える事が出来た。
暖かな洞窟の中や、小さな庵や小屋で過ごす冬は、温かいとはいえ、決して楽なものではなかった。それでも春を待ち焦がれて過ごす日々は、苦痛ではなかった。

街はどこも平穏な空気に包まれていた。
日々、何事もなく穏やかに時は流れ、待たずとも過ぎて行ゆく。こんなにも静かな気持ちで日々を過ごせるなど、レティにはそう経験が無かった。そう、これを幸せといえるのだろう。

けれど。

「一人きり、というわけではなかったからな…」

だから溜め息が出るのかと思えば、何とも不思議と滑稽だった。
レティは微笑み、机に向かう。

こんな寒い雪の日は、遠く離れた森の友人たちに手紙を書こう。

あたしは元気でやっている。
今日は、森を出てはじめてお前たちを想いだした。いや、思い出すことは数あったけれど、こうして想い返したのははじめてだ。…お前たちは、元気でやっているだろうか?
暖かな春が来たら、遊びに行こうと思う。
川面が輝き、新しい緑が芽吹き、それから獣たちに新しい命が生まれる頃に。
…待ち遠しいな。

これは世に言うホームシックというやつか?
それにしては、やけに穏やかな気持ちだ。

永久の眠りに就いている君の前で語る 

2005年11月16日(水) 3時11分
墓はいらないって言われた。
でも、焼いて骨になったら連れて来てあげようかとも思ってた。
でも…やめた。
あれはもう、レティの知るクライではなかったから、やめた。
かわりに、時計を持ってきた。クライは、ずっと肌身離さず身に付けてた。レティからのプレゼント。ちょっと壊れてるけど、でもまだ動いてるわよ。
……これ…置いていくね。


今日はね、ちょっとした報告。
実はね、一緒に旅をする友人が出来たの。
…いえ、友人じゃおかしいのかしら…友犬と言うべき?金糸というの。金色の毛並みが綺麗でしょう?とても人懐こくてね、可愛い子なの。
旅は楽しいわよ。…本当よ?放浪してると、色んな人に出会えるわ。


こんばんは。月が、綺麗ね。
…少し前、またあいつに会ったの。クライもレティも覚えてる?ほら、あたしと生まれの同じ…。それでね、あいつ盗賊やめたんですって。
今は、あちこち放浪しているみたいだけど…楽しそう…だったわ。
…盗賊団は、壊滅したんですって。唯一の生き残りだって…言ってた。みんないい人たちだったのに…残念だわ。


おはよう、今日はとてもいい天気ね。
…見て、亜黒というの。新しい友達。漆黒の狼。無愛想だけれど、賢くて頼りになるの。
え?…あぁ、ごめんね金糸。何もお前が頼りにならないと言ってるんじゃなくて…えぇと、今日の夕飯は何がいい?くすくす…おーけー、シチューね?はいはい、分かったわよ。


こういう偶然もあるのねー…。
あのね、暫らく前に「レティ」って子に会ったのよ。びっくりでしょう?
いえ、正確にはレティっていうのは愛称なんだけれどね。レティも同じ愛称でしょう?だから、驚いちゃった。少し口ベタなところがあるけれど、とても理知的で優しくて…それでちょっと天然な子なの。
ふふっ…うちのレティとは大違いってね。


久しぶり。
今日は報告だけ。あたし、冒険者になったの。…くすっ、驚いた?
放浪ばかりしてないで、少しだけ足を止めてみようと思ったのよ。立ち止まってみないと見つからない、何か、新しい出会いがあったらいいなぁって…。
あたし、きっと上手くやれるわ。
だから、暫らく此処へは来られなくなるけれど…クライもレティも、どーせ心配してないでしょ?ぇぇ、また、暇が出来たら…新しい出会いがあったら、ここに来て報告するかも。
じゃあ、クライン、レティシア…しばらくさよなら。

次は女 

2005年11月13日(日) 1時09分
男が森を抜けて、早数ヶ月。
手紙のやり取りをしている。「外」のことを知りたいと言ったら、申し出てくれた。男は現在、冒険者となったらしい。先日も依頼なるものを受けてきたとか。

色々な話を聞くと、正直羨ましくもなってくる。
森で閉鎖的な生活をしているあたしには、「外」のことなど想像もつかない。


「ねぇ?貴方、ここの番人さん?」
封書を片手に木の上で空を仰いでいたら、声を掛けられた。
不覚にも、声を掛けられるまで気配に気付かなかった。

内心慌て、しかし無表情を装って木から飛び降りた。
「そうだ。…なによう、だ?」

「通ってもいいかしら?って。後で因縁付けられるのは嫌だもの。貴方が番人だというのなら、了承が欲しいの。」
随分ざっくりとモノを言う女だと思った。
女は笑み、さぁ了承して頂戴と半ば命令口調で言い放った。

「…あたしの一存では、決めかねる。」
いつかもこんなことを言った気がする…。
封書を懐に仕舞いこみながら言えば、女はことりと首を傾げた。

「誰の一存ならOK?」
「戦士の…あたしより上位の者、だ。」
女は「ふむ」と唸って腕を組む。その脇、毛艶のよい茶金の犬と黒い犬とが行儀よく腰を下ろしている。

女の背には羽が生えていた。いつか見たそれと同じ。

「…勝手に通しちゃ貴方が怒られるのよね。呼びに行くにしても…貴方一人きりじゃ、あたしが逃げるものねぇ…。」
この会話にも、何となく似たような感じを受ける。

ぼんやりとそんな事を思っていたら、女は微笑んだ。

「では、上司の所へ連れて行って頂戴。それならあたしは逃げられないし、事は早く済むわ。あたしが害のないものだと分かってもらえるはず。あぁ、それとも、貴方は持ち場を離れられない、かしら?」
「……そう、だな。」
「…しょうがない。待たせてもらうわね。」
やはり、同じ会話の流れ。

「寝る、のか?」

思わず聞いていた。女はあたしを凝視する。

「ええ、そうよ?数日歩きっぱなしで疲れているの。…どうして分かったの?」
あの男と同じ羽、同じ色の瞳と髪を持つ女は、至極不思議そうに…あの男と同じように微笑みかけてくれた。

そうして、女は結局一週間森へ滞在した。
それが初対面。

行く末 

2005年10月20日(木) 3時08分
最初からはじめるつもりなのだと、彼女は言った。
とても清々しい顔つきをしていて、けれど、何だか少し寂しそうで。
あたしは何も言わずに、カップを口元へ運んだ。

彼女とはじめて会ったのは、地上へ降りてきたその日。
はじめて見る、羽の無い種族。
深緑の髪の毛には深紅の花が咲いていて、それも身体の一部なのだと聞いた時にはとても驚いた。そしてとても羨ましく思ったものだ。

「…で、まずは何からはじめるの?」
「暫らくは…あちこちを放浪してみようかと…思っている。」
「旅団放浪?」
「…いや、違う。ただ…あちこちの街を、渡り歩いてみようかと思っているんだ。それで…あたしがやっていけそうな…以前のように楽しくやっていけそうな、そんな、旅団を探したい。」
「貴方、本当に前の旅団の人のこと好きだったものねぇ。素敵な笑顔の優しくて暖かな人たち…だったんでしょう?…で、その間お金はどうするの?」
「これでも冒険者、だ。己の食い扶持くらいはどうにか出来る…と思う。」
「……心配だわ。」
「大丈夫、だ。またどこかで会ったら…こうやって、お茶をしよう。」

彼女の柔らかい微笑が、あたしは好きだ。
彼女が楽しそうに微笑むから、あたしもつられて微笑んだ。

あたしたちは根無し草で、だからお互いの連絡先を知らない。
偶然出会うことでしかお互いの無事を知ることはない。

そんな関係だけれど、それでもお互い満足していて。
そんな関係だからこそ、僅かな出会いを大切に出来る。

最初からはじめるつもりなのだと、彼女は言った。
とても清々しい顔つきをしていて、そして、あたしは彼女を誇らしく思った。
大切な友人。

最初は男 

2005年10月02日(日) 13時03分
「…通しては、やれない。」
「何故?」
「一族の決まり、だ。」
「…どうすっかな…どうしたら通してもらえる?」
「知らん。」

へらりと気が抜けたように笑う男だった。
背中には一対の翼。
見たことのない地方の装束を羽織っている。男はひらりと手を振ると、さして困ってもいないように苦笑した。こういう人間には出会ったことが無いので、対処に困った。
殺気も素っ気もない。
飄々として、そこに立っていた。
武器を抜く気配も無い。対する自分が武器をちらつかせても、だ。

「…何故武器を取らない?」

「戦う理由が無い。敵意の無い人間に武器を向けるような種族ではないんだろう?」
「一歩でも森に入れば…敵意云々、関係なく…飛び掛るが。」
「宣言したら意味ねぇし…じゃなくて…意味無いだろ?」

男は、初対面からこうやって何度か口調を直している。
意味でもあるのだろうか。


「武器は全部預ける。森を通してくれねぇか?…じゃなくて通してくれないか?んで、君が始終俺に付く。森を抜けたら武器は返して欲しいんだけれど。…どう?」
「どうと言われても…あたしの、一存では…。」
「誰の一存ならいいの?」
「……同じ戦士に、聞かねばならない…が。」
「じゃあ、」
「聞きに行っている間に、入られては…困る。」

男は黙り込んで頬を掻いた。
あたしはもう一度剣を握り直す。いつ飛び掛ってくるとも知れないと思ったから。
男は長いこと黙り込んでから、ぽむと手を打った。

「交代の人間、来るんだろう?その人に聞いてみてくれないか?待ってるから。」
「……は?」
「俺は休息を摂る。数日間歩きっぱなしで疲れているんだ。それくらいは構わないだろう?じゃ、宜しくな。」
「え、ぁ…おい…。」

男は傍の木に寄りかかると、そのまま落ちるように眠り始めた。呼びかけても起きる気配が無い。死んだように、ことんと頭を下げて…動かない。
流石に心配になって木の棒で突いてみるも、動かない。
剣を握り締めたまま、慎重に屈みこんで男の顔を覗き込んでみた。すると、僅かに寝息が聞えて安心した。

そうして、男は結局三日間眠り込んだ。
それが初対面。
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