51歳の王子? 漫画「娚の一生」 

January 08 [Fri], 2010, 18:20
"幸せウツ"に怯える女子に、新たな王子様像を示した『娚の一生』 [連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第5回 ――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が"正しき女子まんが道"を指南します! <今回紹介する女子まんが> 西炯子『娚の一生』1〜2巻 小学館/各420円  いつか王子様が――。それは少女まんがにとって永遠のテーマであります。たとえば『のだめカンタービレ』における千秋真一。たとえば『君に届け』における風早翔太。彼らは決まって若く、容姿端麗で、才能豊かであったり、はたまた超人的な人格者であったりします。でもそれがもし、関西弁を操る51歳のオッサンだとしたら? 『娚の一生』は、そんな加齢臭漂う「王子様」が登場する、異色のラブストーリー。ワタクシ的2009年ベスト女子まんがであります。  主人公・堂薗つぐみは30代も半ばを過ぎたキャリア系女子。すでに大手電機メーカーの管理職にあり、ビシバシと仕事をこなす一方、恋愛面ではどこか抜けたところがあって、長年既婚男性との不倫関係に悩んでいました。主人公の造形を「働きまんが」の文脈から考えると、典型的な「仕事上手の恋愛下手」です。『働きマン』の松方然り、『REAL CLOTHES』の天野然り、『モンキー・パトロール』の花枝香然り......。  転機が訪れたのは祖母の死。そのまま祖母の家に居着いて、在宅勤務に切り替えたつぐみの前に現れたのは、かつて祖母に横恋慕していたという51歳の大学教授・海江田でした。海江田の、適当ながらも積極的なアプローチに、当初は警戒心満々だったつぐみも、次第に心を開いて行きます。 ■女として、受け身であることの喜び  ここには確かに切り崩されていくことの快感があります。無我夢中で働き続ける間、つぐみが無意識裡に身にまとっていた心の角質を、シンプルな情熱と、ユーモアと、知性とで削ぎ落としていく海江田。「いつか王子様が」という願望と通底するのは、受け身の姿勢にほかなりません。  しかし「ぼくには君ほどたくさん時間はない」と言う海江田もまた、「人生」という圧倒的な有限性の前には受け身の存在であります。残された人生はかなりの確率でつぐみよりも少なく、その眼差しは既に死を射程に捉えていることでしょう。受け身であることの可能性と現実を、本作は提示します。  東電OL後 の世界に生まれ、バブルの恩恵を受けることもなく、新自由主義の荒波にもまれてきた主人公・つぐみの世代は、攻めること、努力すること、積極的であることをよしとする風潮の中で育ってきました。仕事という合理性重視の世界では、確かにそれもよいでしょう。が、「人生」や「恋愛」という局面で見たときに、それって正直どうなんでしょう?  海江田の言葉は、人間がそもそも受け身の存在であることを思い知らせます。大切なのは、努力や積極性で以て自己実現しようとするカツマー的な欲望でもなく、ままならぬ日々を憂う'90年代おしゃれまんが的な感傷でもなく、受け身であることの認識から始まる「現実」ではないでしょうか。  世界は常に私たちの思うようには動いてくれませんが、でもその中にある一縷の、だけど確かな希望を、西炯子先生は描きます。かつての王子様たちのように、夢に溢れた生活や、華やかな日々も約束してはくれませんが、51歳の王子様は、仕事だけがすべてではない現実へとつぐみを引き戻します。それは51歳だからこそできる力業。「君のその『幸せウツ』にぼくはつきあう気はない」「ぼくは『結婚しよ』と言うてるだけや 『幸せになろ』なんか言うてへん」という海江田のセリフは、私たちに「夢の終わり」を思い知らせる残酷な言葉ではありますが、同時に最大級の赦しの言葉 でもあるのです。 ***王子様に憧れていた時期から20数年、王子様も歳とりますよね。自身は言わずもがなだけれど、王子さまと言えど時の流れには逆らえなくて。其れに因って、王子さまは幻想だけではなく現実も知っていてくれるある意味安心感。己も同時に夢だけでは生きてゆけないと知ってからの、最後の砦を壊しているようで居て、まるで現実と夢の境目。歳を重ねる毎に、重みも増す少女漫画って珍しいと思いつつ「どうしてどこにも置いてないのかしら」と不思議で仕方がなかった二巻発売時を思い出して合点がいく。もう最終回なのね。加齢臭漂う王子さま。苦笑夢見るおばさんってことでしょうか。いいじゃない、いつまでも夢見るくらい。まあ、少女漫画と言えど全て「ぽわぽわぽわーん」ではないということ。
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