「あ〜懐部」 

July 26 [Tue], 2016, 11:51
息子は友達と一緒に海辺の方へ駆けて行った。

久し振りの会話だった。
息子の顔を覗くと恥ずかしそうに背けた。
「元気か?」「うん」「そうか」「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい」彼女が続けた。

少し大きくなった背中は人混みに紛れて見えなくなった。
「ちょっと笑ってたな」
「嬉しいんじゃない?」
「そうか・・あっ・・渡しそびれた・・・」
小遣いに渡そうと握っていた千円をポケットから出して見つめた。

アナウンスが作品の紹介を終えた。
「もう友達と、だよな」「・・そうね・」

彼女は少しうつむいてから顔を上げた。
「おごってよ、それで!」「あ、ああ」

夜空に微かに光の線が上がって行くのが見えそれを目で追ったあと彼女の方を向いた。
「そこで、待ってて・・好き・・だった・来るよ」「え?」

花火の音にかき消されたようだったが構わず出店に並びに行った。
「・・じゃんけん負けた」
「あんず飴」
「何時ものこと、か」
「・ありがとう・・」

彼女にすももを渡し、みかんを食べた。
スッと静かになった夜空を見上げた。
「今度、いつ来るの?」
「わからない」
「・・そう・・・じゃあ来年も来る?」
「ああ」
彼女は、笑った。

会場の明るさが花火の後の煙を照らしている。
懐かしい風が季節の余韻をゆっくり横へ運んでくれていた。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:裏漉屋とろろ
読者になる
2016年07月
« 前の月  |  次の月 »
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
最新コメント
ヤプミー!一覧
読者になる