次元が違うみたいだと言った。 

July 26 [Sat], 2008, 23:49
確かに、そこにある筈なのに

「まるで次元が違うみたいだ。」と言った。



俺も、まるで現実味がなくて思わず頷いた。
確かに感じているはずの匂いも感触もどこか遠くにあるみたいだ。
だから、体温なんて感じない。

匂いと感触だけがすべて。

貴方のすべて。
貴方の存在。

憧れていたこの場所で
広い肩を感じる。
想像していた体温はない。
もっと冷たいかと思った。
それどころじゃあない。

苦しいくらいに抱き締めてもらえない。
告白をしてもいないのに付き合うんじゃなくて、
さよならを言わずに今から終わるのだと直感した。

広い肩の分だけ離れている。
感じない分だけ、俺は遠くに来てしまった。

もう背中に手を添えてくれないんだね。
それでも良いんだ、想像できなくなってしまったんだ。
そうなったらもう終わりなんだろう?
思い出せなくなったら、恋は終わったものだと誰かが言っていたから。


確かにそこにあった筈なのに、
諦めたのも俺からで

こんなに現実味がなくなってしまったのも
そうしてしまったのも

死ねばいいのも
消えればいいのも

確かに俺だ。



ソシテ
最期ニ呟ク




「まるで次元が違うみたいだ。」

詩?の寄せ集め 

July 19 [Sat], 2008, 15:49
のろのろと
動かす一挙手一動が
僕にとっては
とても大切で
愛しむものでもあるのです。





花火が消えた空
残った虚しさと
消えた栄華





この作品は
無理矢理にでも
僕を奮い立たせるためのものであって、
甘え声を出して
擦り寄るためのものではないのである。





見てない人が発見し
慌ててゆっくり電話した
通報受けずにノロノロと
曲がった道を真っ直ぐに
前へ前へとバックした




迷いの森の眠り姫
キスで目覚める?
なら放っておきましょう
眠り姫が目覚めなくても
何ら、問題はない
と、本当はわかっているんだ。
シナリオ通りに進む物事ほど、つまらないものはないと、偶話を閉じて生きてきたのさ。





あとたった少し
何かが足りない
あの時、さよならと言った言葉に
もう少し何かがこもっていたら
ちゃんと足りたのかな?





点と点を結んで
線を消して
眺めていた。





貴方を追い掛ける度に
僕は壊れていって
貴方に追い付く頃には
塵となってキラキラ輝く筈です。
貴方は振り返らないで
僕がキラキラと輝く様子を見ないまま走って
ようやっと振り返った時には
僕はただの塵となっているのでしょうね。
貴方の軌跡で輝くのが、役目だったのだろうね。





愚かなリトルガール
「大人なんて、みんな汚い。」
大丈夫さ、安心してよ愚かなリトルガール!
ちゃんと君も、汚い大人の仲間入りを果たせるのだから!





踏んで
吊って
回って
狂って
口をパクパク
「ぼくはまだしにたくない」






賽の白浜で偲ぶ恋
終焉を待つ
だから正義をくれないか
守れぬ不義を呉れてやろう





一つの恋が終わったとき
彼はただ
泣いていた
僕は何もできず
何も言えず
ただ隣にいることしかできなかった
彼はただ泣いている
僕はただ黙っている
彼が鼻をすする音が減ってきたようだ
(それでも僕は彼を見ることさえできないまま)

雨とカエルと俺 

June 10 [Tue], 2008, 22:13
カエルの歌が
聞こえてくるよ
グワ グワ グワ グワ
ゲロゲロゲロゲログワッグワッグワッ




道端でカエルに出会った。


雨が降るこんな日に見ると、風流だなぁと思うのが普通だろう。
でもさ、都会のど真ん中にある茂みの中から出てきたら普通驚くだろ?
今、正にその状態なわけだ。

目の前で行儀よく座ってじっと穴が空きそうなくらいに(悪魔でもカエルだし俺のが比にならないくらいデカイはずなのに、今思えばそいつの眼力はカエルの域を超越していた)見つめられている。
アマガエルは尻尾の名残が見てとれるから、成体になったばかりなんだろう。
真ん丸な目をこっちに向けたまま、ピクリとも動かない。

それにつられて俺も動けない。(カエルの眼力が凄かっただけであって、決して俺がヘタレな訳じゃない)
それにしても、カエルなんていつぶりに見たかと思案してみる。いや、そんなことを考えている暇はない。一刻も早くこの嫌な雨から解放されたい。

じりじり

熊じゃあるまいし、と思いながらも視線を外さないままカエルの横を通り過ぎようとする。
するとカエルはその足の動きも追い始めた。
カエルごときにビビッてんなと喝を入れた時点で俺の肝の座りようの無さに泣きたくなったが。

大の大人がカエルに脅える様は笑止千万だろう。

だが、カエルもタダでは引いてくれない。
横をすり抜けて喜んだのは良いけど、背中に突き刺さる視線視線視線。
カエルが熱視線を送ってるであろうことは感じとれたのが悲しい。

勢いよく振り返ると、やはりカエルはそこにいた。
気にせずに歩いて行こうとしても、何故かカエルが気になる。
喉を時折膨らませながら、ピクリとも動かずに鎮座してるだなんて。



(誰かに似てるんだよなぁ。)



柩が拾ってきて、今では傍若無人な態度で俺のベッドのド真ん中で寝るクレハかもしれない。
いや、違う。
構って欲しくて助けて欲しくてそれでも何も言わず、何もせずに…。


「…柩か。」


口に出したら笑ってしまった。誰に(柩に)咎められることもないのに、恐縮した俺は重症だ。

柩とカエルが重ねたら、カエルが愛しく思えてきたのはやはり重症だからか。
試しに捕まえてみたら、暴れも逃げようともせずにジッとしている。


「しょーがねーな…。」


カエルを掌に乗せたまま暫く歩いたところにある公園に行った。
そこは、そこそこ広くて池もある。ゆっくり静かにカエルを降ろすと、今度はさっさと茂みの中に消えていった。

俺はアッシーかよと思いつつ、今度こそ家に向かう。
今頃柩が夕飯も食わずに待っている。


(ああ、やべぇ。早く会いたいかも。)


ウズく衝動を抑えられなくて、傘を差したまま走った。






おまけ小話

「…ってことがあったんだ。カエルにしては可愛かったぜ。」

「馬鹿新弥。」

「何だよ柩ー。ヤキモチかー?んー?(ニヤニヤ)」

「違ぇよ変態馬鹿新弥。カエル連れて帰ってくるとか、そういうことはしないわけ?」

「え?」

「馬ー鹿、馬ー鹿。豆腐の角に頭ぶつけて死ね。」





END


久々更新で申し訳ないです。

電線の五線譜、何かを飾った 

April 27 [Sun], 2008, 16:15
告げた時の顔が引きつっているのに気付いた。

嘘吐き。

そう、罵った。




空を見上げた。
電線が五線譜みたいに見えて、空っぽの楽譜に無駄にしんみりする。
暮れかかった、よりは明け方のような、雨上がりの空気が肺胞から血液へ、そして全身に流れて、内から冷やしていく。

薄汚れた都会の空気が、唯一清められるのはこの時だけだと思う。

水溜まりを避けて、飛び越えて、靴を鳴らして、また顔を上げる。

携帯をいじって視線を下げる様も、綺麗だと思う。
男の俺から見ても、綺麗だ。

名前を呼ぶ前にこっちを向いて、微笑んで、傍らに置いてあったビニール傘を持って、おもむろに差し出された手を自然な動作で握って。

どこか寂しげな五線譜の空に、奏でるものが追加された、みたい。

呟いた言葉は、車の音に掻き消されてなくなったけれど。

この清められた空気も
咲人のこの温もりも
感触も
匂いも



(俺には、特に必要な必須科目らしい)




ということらしい。





「今日、虹出てたよね。見た?」


歩きながら水溜まりを避けて、たまに跳ねる水がたまに視界を霞めた。

「起きたの、さっき。」

たまの休みだもんね、と言う口調は穏やかで、笑う声もいつもの咲人。

「あ、そうだ。この間言ってたCDだけど…」

続く言葉よりも、おもむろに掴んだ腕が現実感を虚ろなものにしていく。
何故掴んだのかわからない。伸びた手が、躊躇いもなく掴んだだけであって。他意はない。

「あ、ごめん。」

謝って離して、また話に耳を傾ける。
他意はないんだ、本当に。
取り残されている感じがしたからとか、そんなんじゃ決してなくて。

「いいよ、別に。」

そう言って、

(ほら、また笑った)


なんでも許している気がして、そんなの嘘だと思う。
「ね、ひつ。むしろ掴んでてよ。」

差し出された腕を掴まないわけにはいかず(でもそれはやっぱり俺の中の甘えだったりエゴだったりするのだろう)、掴みながら歩いた。


虚実であろう、ひたかくしにされる安心感を汲み取って、罵声のような五線譜が鳴く声(名もわからない鳥の声)を頭上で響くのを聞きながら、背中を見つめた。



いつまでも、咲人のことがよく理解できなくて


「ごめんなさい」








END

あとがき

拍手用にしようと思ったのですが、内容が随分集約されたのでこちらにアップしますた。
そろそろ拍手も変えたいですなぁ…。

連続咲柩とか珍しいですよね(笑)

メーデー for xxx 

April 24 [Thu], 2008, 8:59
ロール
ロール

ロール


メーデー
メーデー


こちら電波で繋がれたあやふやな世界に生きている者です。


メーデー
メーデー


今すぐ水を抜いてくれないか。
溺れて溺れて苦しいんだ!




深い味がした。




トロリと飲み込まれる液体

舌に残る苦味

スプーンで作った渦が、白い模様を未だに作っている。


飲み込んだ茶色が、食道を焼き、焦がしていく感覚にゾクゾクしてしまって、もう終わってる、と思った。

電波が届かない。
デジタルで繋がれた先に見えるのは液晶の向こうにある文字の羅列だけ。
今はそんな、不確かなものでしか繋がれていない。

暫く会わないと、途端に冷えていく。
久しぶりに会ったのに、キスもしたのに、


こんなの違う


って、嫌な気持ちになった。デジタルでしか繋がっていなかったからこそ、気持ちが良かったんだ。
今は大変、気分が悪い。
生温いコーヒーを飲み干したからかもしれない。気持ちが悪い。
こみあげてくるものはあっても、吐き出すほど体に毒ではないみたいだ。

やめてくれ。


画面に映し出された名前が愛しい。
それ以外は好きじゃないんだと思う。
これは好きな訳じゃない。ただ、名前に恋してるだけだ。好きな訳じゃない。



文字の羅列には、必ず、自分を想う言葉がある。
それに生返事をして応え続ける。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。


イライラ。


また会うのか。
それさえも苦しい。


イライラ。




その優しさが痛い。
名前を呼ばないで。



抱き締められた腕の中は、瑠樺さんが一番で、次が新弥で、次が黄泉で、次が咲人。

優しい微笑みが大嫌い。
優しい言葉が大嫌い。
それから、その声も大嫌い。

好きなのは、デジタルな無機質な「咲人」。


優しいね、咲人は。


俺はそう言って、また笑う。
残酷でしょう。酷いでしょう。
きっと、咲人も、「柩」が好きなんだろ。







「おはよう。」







「おはよう、柩。今日も好きだよ。」






その言葉が自己暗示なんだと気付いてから、一ヶ月経ちました。






END

あとがき

久々更新。ウザイよね、咲人。的な(笑)
愛はありますからぁぁ!!

現実と真実は作為的に異なる。 

April 07 [Mon], 2008, 9:47
桜の木の下には、死体が埋まってるんだよ。

その桜は、どの桜よりも大きくて

どの桜よりもたくさんの花を咲かせて

どの桜よりもたくさんの花びらを散らせるんだ。

そして、どの桜よりも赤みがかった色をしているんだよ。

桜が、死体の養分を血を吸い上げるから

ほら、だから、桜の周りには

雑草が生えてないでしょう?






これは夢なんだと思う。
だって、水面には一面、桜の花弁が浮いている。
ボートで割って進むと少し水が覗くけれど、すぐに花弁で覆われてしまう。
散っても散っても桜の木から薄紅色の景色は消えなくて、無限にあるかのように変わらない。

毎年毎年、限りなく咲かせるのだなこの花を。
そしたら、毎年毎年、この木の下に死体を埋めているに違いない。
自然と進むボートが接岸した。少しの衝撃もない。いぶかしむ前に岸へと降り立った。



ザクザクと掘り進めていく


前にもこんなことがあったような気がする。
アレはいつだったか。
春ではなかったようだ。
こんなふうに掘った。
必死に
血眼になって
ひたすら掘っていた気がする。
布で包まれた大きな物を傍らに置いて。
気が付けば、そこにはまた大きな物があった。
掘っていた場所は人が入れるくらいに深く大きい。

…いつの間に。
しかしそれは俺が掘ったらしい。
服も手も泥だらけで爪が割れて血が滲んでいる。
間違いない。
俺が掘ったんだ。


大きな物をそこに横たえる。重さからしてニンゲンだったものだろう。
何故か俺はその重みがニンゲンのソレだと知っていた。
きっと前にもこんなことがあったのだろう。
それに土をかけていく。


ザッザッ


きっと俺はこれを毎年繰り返しているのだろう。
慣れた手付きで土を被せていく。

埋めなくちゃ。
埋めなくちゃ。
また来年も、立派な葉をたわわに茂らせ、無限の花を咲かせるために。



「俺が死んだら桜の木の下に埋めてくれ。」



埋めたよ。埋めたよ。
でもあんただけじゃきっと綺麗な花は咲かせられないから、俺はこうやって毎年毎年違うニンゲンを埋めるんだ。



「二人でここに眠ろうな。」



ロマンチシズムなんて似合わないから俺はまだ眠れないよ。
だから毎年毎年、同じことを繰り返す。



「体は幹に、血は色付けに。」



自然に帰るんだ、究極のエコじゃないか。



「なぁ、柩。毎年、会いに来てくれよ。」



だから、毎年、こうやって。









「枯れた桜の夢を見るんじゃないか。」









死体で汚れた桜は、その年に枯れた。
目一杯の花を咲かせ、葉を茂らせ、その桜は枯れた。
一言も無く突然枯れた桜が許せなくて、今はもう切り倒された切株。
俺は毎年ニンゲンだったものを埋める。
許して欲しいわけじゃない。
それでもまだ諦められない。
またたわわに茂った葉で、無限に咲く花で、俺を見ていてはくれないものかと。

愚かな俺を、嘲笑う桜


「好きだなんて、言うから。」


冷たい桜
温もりは皆無


「見守ってるから、なんて言うから。」


もう葉も花も見ることができないのに。


「今はどこから見守ってるっつーんだよ。」


それでも、それでも
信じてすがるしか救われる道がないと信じているんだ。







俺は来年も、これを繰り返す夢を見て目が覚める。










END
あとがき

特に意味もなく書きました。更新停滞気味にもかかわらず、毎日覗きに来て下さる方々に申し訳なくなり繋ぎの駄文になってしまいましたがアップさせていただきました。
?×ひちゅ。ということで、よくわからないあるてなワールドを全面に出せたかと(笑)

戦場カメラマンと最期 

March 17 [Mon], 2008, 23:39
戦場カメラマンと最期の解説を基に、増幅・捏造したオリジナル小説です。
BLではないので御注意ください。











私は、戦場カメラマンとして、従軍していた。
妻と子供もいる。
遠い異国の地にも、本土への激しい空襲の話は伝わって来ていた。
私の仕事は、日本軍の優勢をいかにフイルムに収めるか、というところにある。しかし、この現状はどうだ。
凛々しい顔の兵士など、一人もいない。
皆、疲れ果てた顔で歩き続けている。
軍服は汚れ、銃剣を重たげにブラ下げ、髭も剃らず、ゲートルは血や泥で白かったことがわからないぐらいに変色していた。
私は、今までどうやってそこにいるのかわからない。必死で逃げ、必死にシャッターを切ったのだろう。
そうでなければ、歩いている筈はない。

生き延びたからこそ、この話ができる。


その日は、いつにも増して激しい戦いが繰り広げられていた。無論、日本が劣勢である。
私は物陰に隠れながら、震える手でカメラを構えた。兵士達は泣きながら敵陣に突っ込み、手留弾のピンを抜く。
途中で射殺された者は、その爆破によって肉片を辺りに巻き散らし、肉体を絶命させていった。
私の仕事はそのようなことよりも、死んだ敵兵の写真を撮ることだ。
見るも無惨に砕け散った我が国の勇兵ではない。

爆発の音
叫び声
発砲音
砂埃
火薬と鉄の臭い

逃げ惑う人々

いつの間にか、一小隊が全滅しかけていた。
私の背後には応援部隊が駆け付けてきたようで、怒鳴り声と天皇陛下への忠誠をうたう声が聞こえてきた。

これを撮るしかない。
私の震えが一瞬止まり、その様子を何枚もフイルムに焼き付けた。

その時、こちらに気付いた一人の年若い兵士が駆け寄って来た。
20代後半だろうか。
薄汚れた顔では年齢を判断し兼ねる。
彼は、ポケットからところどころが茶色く変色しているもの、綺麗に折り畳まれた紙を差し出して来た。
私がそれを見つめたままでいると、彼は何も言わずに私にそれを押し付けた。
胸に押し当てられた紙越しに、彼の震えが伝わって、戦場で衰弱した私の精神が、その紙を受け取るに至った。

すると彼は、私の目を真っ直ぐに見つめたまま大きく頷いた。
まるで、頼んだ、と言ったかのように。


銃剣を構えた彼は、雄叫びとも悲鳴とも云えない声を上げて弾の飛び交う戦場へと飛び出して行った。
私は渡された紙を握り締めたまま、とっさに彼のその後ろ姿を撮った。
あまりにも凛々しかったからかもしれないが、今になってみれば不思議である。本当に、とっさにシャッターを切ったのだから。


カシャッ


シャッターの音の後に響く銃声を、今でも覚えている。
彼は、あっけなく死んだ。


今度は、私が雄叫びとも悲鳴ともつかぬ声を上げる番だった。
そして、私は走った。
手渡された紙を握り締めたまま走った。
ここに居ては危険だ。
敵兵に捕えられたら確実に死んでしまう!



気が付けば、私は他の兵士達と共に駐屯地にいた。
どうやって逃げ出したかは覚えていない。
周りの兵士達は、皆虚ろな目をして頭を垂れている。

撤退、と聞かされた。

日本に帰ることができる喜びと、あの青年のように無駄死にをした兵士達の死顔が頭を支配した。
そして、自分も虚ろな目をした国から勇ましき男達として送り出された者達の顔と同じような顔をしているのだろうと気付いて、精神喪失に陥った。

発狂してもおかしくない。こんな地獄で、平気でいられるはずがない。
嗚呼、妻や子供達、両親がこんなに愛しくなるなんて、このような体験をしなければ思わなかったに違いない。


ずっと握り続けていた拳を開いてみて、やっと何か握っていることに気付いた。紙だ。
力強く握り続けていたせいでクシャクシャになってしまっている。
私は、破らないように気を付けることができた。そしてそれを開く。



それは、手紙だった。
そして、その手紙の間には私によってクシャクシャにされてしまった一枚の写真が挟まっていた。



愛する妻へ



という言葉から始まる、手紙だった。



この手紙が届く頃には、私はもう生きていないだろう。
私は、お前を守ることができるならば、この命など惜しくはないよ。
できることなら、お前にもう一度触れたかった。

一度も言ってやれなかったが、
誰よりもお前を愛しているよ。
何よりもお前を愛しているよ。

死んでからでもお前の側で、お前を守るよ。


愛しているよ。



手紙に綴られた文字は、全てが震えていた。
滲んだ文字が、読みづらい文字があまりにも多くて、私は手紙を持つ手が震えるのがわかった。

彼は、遺書を私に託したのだ。

彼の一生を綴ったこの遺書を、私に託したのだ。

写真には、微笑みを浮かべた女性が写っていた。
彼女が、彼の妻なのだろう。
その微笑みを見ていられなくなって、その写真を懐にしまった。

そして、一見支離滅裂な手紙を何度も読み返した。
何度も、何度も。
手紙の裏に彼の名前と住所を見つけたのは、東京の下町に向かう道中であった。




後日である。
肌が焼けるような暑さの中、私は、歩いた。
目印になっていた建物や標識は面影だけを残して鎮座している。
モノクロに彩られた空間は永遠と続き、視界を遮る建物は多く見られない。
途中で見た学校の校庭から、いくつもの煙が上がっていた。
木で組まれた簡易の火葬場で、積み上げられた死体が焼かれていたらしい。
脂の焼ける匂いが辺りに充満し、焼け跡から運び出される骨は積み上げられた死体の数から、量が少なく感じられる。
戦場から帰還し、疲れ果てた私の頭では当たり前のように焼かれている人々は既に幾分か焼かれていたのだろうと考える。
空襲で死んだのだろう。
これから焼かれようとしている死体は、蝿がたかり蛆に蝕まれ異臭を放ち、誰かれであったことも、人間でさえあったものかと疑わしきものもあった。
手の中にあるカメラで、その様子を一枚だけフイルムに焼き付けた所でゾクリとした。

その中に妻や子供も混じっているのかと考えたら、自然と足は速まり、学校から遠ざかる。

私が戦場から持ち帰った、最後の仕事。
クシャクシャになった手紙と写真をできるだけ元に伸ばし戻して、私は瓦礫の街をさ迷い歩いた。
人に道を尋ね、やっとたどり着いた街で、

「ここが〇〇〇だった場所だ」

と、道に座り込む老人に教えられた。
だった、か。
無理もない。
何もない。
焼き尽くされていた。
聞けば、この辺りは炎の風が吹いた場所らしい。
一瞬にして、避難していた人々を死なせた、悲惨な場所。
空襲から日が経っているとはいえ、未だにくすぶ煙と、何かが燃えている臭いが充満していて、私は非現実的な感覚に陥った。

現実に引き戻したのは、瓦礫を片付ける乾いた音だった。
私は、そこにいた夫婦にこの住所に住むこの人を知りませんか、と尋ねた。
夫婦は、短く、ああ、と言うと三軒先の長屋であっただろう場所を指差しながら言った。

「あそこの奥さんなら、死んだよ。」

「え…いつ…いつですか?!本当に死んだのですか?!何故…」

私は動揺した。
まるで彼が乗り移っているかのように混乱した。
それではこの手紙は誰に届ければ良いのだ!

「物凄い空襲があった後の空襲で、爆弾が長屋の人達の避難場所に直撃したんだ。そこにいたみぃーんな、焼け死んじまったのさ。」

話の終わりを待たず、私はフラフラと夫婦の住まいに歩いた。
懐にしまった手紙と奥さんの写真、それから、自分で現像した彼の最期。
瓦礫の山で確認できた表札には、偶然にも彼等夫婦の姓が刻まれていた。
私は、立ち尽すしかなかった。


彼女を守るためにと戦地に向かい、あっけなく命を断たれた彼の想いは、再びあっけなく踏みにじられたのだ。
命掛けの、必死の想いが、こんなにも、あっさりと、跡形もなく、こんなにも、あっさりと…!


「…彼の最期は、英霊となるにふさわしい最期でしたよ。」


私は、写真の中で微笑み続ける奥さんの写真に語りかけた。
そして、勇ましき彼の姿を焼き付けた写真と彼女の写真を重ね合わせ、それを手紙に包んだ。
彼等夫婦の家であったであろう場所の前にしゃがみ、マッチを擦った。
手紙に火を灯したのだ。


誰よりも貴方を愛しています。
何よりも貴方を愛しています。
貴方を守ることができるのならば、
貴方を守ることができるのならば、
この命など惜しくはない。


私は手紙に綴られた震えた文字を思い出しながら、震えた声で何度も反復した。何度も何度も。
何度も何度も何度も。
黒く変色していく写真と手紙。
煙が空に昇っていく。


私は、叫びたい衝動をとうとう抑えることができなくなって、その場に泣き崩れた。
容赦ない陽射しが、私の肌を焦がし、涙の水分でさえも奪い尽していく。

どうか、どうか、二人が、二人一緒に天国へと向かえますよう。

どうか、どうか、二人が、今度こそ幸せになれますよう。

彼の最期を見届けた、私にできる、精一杯の餞です。どうか、どうか、幸せに。

「私が死ぬまで、貴方達のことを覚えています。貴方達が、生きていたことを私が覚えています。誰も覚えていなくても…私は、忘れません…。忘れられるものか…!」


彼の最期を浮かべながら、私は灰になり風に飛ばされていく手紙や写真だったものを握り締めた。
ますます細かく砕けたそれらは、一瞬吹いた風で、あっけなく掌から消えていった。



私が、フラフラと立ち上がると、先程まで作業していた夫婦がラジオに向かって体を伏せ地面に頭を付けている姿が目に入った。
ラジオからは、敗戦を知らせる天皇の御声紋が流れ出ている。
私は、カメラを握り締めたまま、戦争の終わりを聞き、またフラフラと歩き始めた。最後の仕事が終わり、私は戦争カメラマンとしての役割を終えたのだ。

両国の野菜市場は戦災を免れたと聞く。妻や子供を探しに行かねばならない、と思いながらも私はひどい空虚に襲われていた。
最後の仕事をやり終えたからだ、と納得しようとしたが、無理だった。途端に、妻や子供を抱き締めて、そしてこの枯れた声を更に枯らすくらいに歓喜の声を上げたいと思った。
沸々と確実に着実に大きくなる想いに、私の歩みは速くなっていったものだ。
戦争が終わったのだ。

また新たな生活が待っているのかと、理不尽な死に直面しなくても良いのかと、家族と手を取り合い生きていけるのかと考えただけで、私は泣いていた。
泣きながら、歩いたのです。



幸いにも、家族は両国の野菜市場へと逃げ込むことができ、全員と再会することができた。
そして、妻に、彼らの話をして、二人で泣いた。今、この幸せは、彼女を守るはずだった彼の死によって守られたのではないかと考えると申し訳なくて仕方がない。私と妻は、彼等の骨も遺品もない墓を建てた。
没年を調べたところ、私たちは唖然とせざるをえなかった。


なにせ、彼が死んだ日と彼女が死んだ日が一緒だったのですから。







END
あとがき
ずっと構想してたものを文にすることができました。僕は、戦争の加害者であり戦争の被害者であるこの国が憎くもあり愛しくもある。
被害者ぶるな。
そんなに責めるな、亡くなった方々を責めているようではないか。
忘れてはいけないのです。亡くなっていった方々の、一人一人を。
何万人と一区切りにしないで、一人一人を、覚えていなくてはならないのだよ。それが生きていた証で、死んでしまった証にもなるから。
少しでも、何か伝えられたら良いなと思います。

彩冷えるの戦場カメラマンと最期という曲に出会えて、良かった。

むせび鳴く、泣き漏斗 

March 05 [Wed], 2008, 21:15


むせびなく、

なきろうと




それは、斗漏するというよりは、吐き出し、呟き、溢れるという表現の方がぴったりだった。




彼は、また、一つ歳を重ねた。
積み上げ、祝われ、祝福される中で、不安を感じてもいた。

重ねられた唇も、食い千切ってやりたいくらいに、焦りと不安を抱いている。

もう子供ではない。
それなのに、と思う。
何が変わったのだろう、と疑問に思い、自問自答もできないままに今日という日は瞬く間に過ぎていく。

そのことに疑問と憂鬱を抱えて彼はまた笑う。

ありがとうを繰り返して笑う

そして俺からもささやかなおめでとうを与えて

彼はさも当然かのようにありがとうと言う。


「遅い誕生日、おめでとう。」


それでもやっぱり彼は嬉しそうに笑う。
プレゼントが、祝言が嬉しいのだろうかわからないが、彼は終始笑っていた。

とまどう心と、自問自答。疑いも答えも全てをしまいこんで、疲れないのと思わず尋ねた。

彼のことをどこまでも理解しているという自信はなかったけれど、どれだけ彼がいつでも自分を偽っていると言おうが、それさえも嘘だという確信があったから。




「その答えを、皆が少しずつ教えてくれるから。勿論、咲人にも。」




とまどいや不安を、皆が少しずつ一蹴していくという彼は、やはり心から笑っていた。
頭を撫でたらポカンとして、またくすぐったそうに笑う。

卑屈になっていたのは、きっと柩が振り撒く笑顔が自分だけに向けられていなかったからだ。
嫉妬だなんて、醜いよね。

「綺麗ではないけど、悪いことじゃない。それでも、ごめんね、ありがとう。」



ごめんねとありがとう。




繰り返してまた俺は、俺たちは成長しているらしい。





むせび鳴く
吐き出す管

手弱女のようにしずしずと


体温
差し出された手
握り返した手


むせび泣いて


彼は笑う。






「ハッピーバースデイ」






君の命が顔を出した日







君の命よ










happy birthday, HITSUGI








End


あとがき

柩さんハピバ☆
意味わからんプーですが祝ってるんですYO☆

お知らせ 

March 02 [Sun], 2008, 20:02

どうも、管理人あるてなです。
本日、パソコン限定ですが、カウンタを設置いたしました。
キリ番だと思う番号を踏んだら、掲示板にてご報告くだされば、リクを受けさせていただきます!



ジャンルは

悪夢…柩受け(NH、SH、YH、RH)

美人形…R受け(JR、SR)

バロ…A受け(BA、RA、KA)

でしたら、OKです。

S.T. day 

February 15 [Fri], 2008, 15:18



温かすぎて気持ち悪い





ひんやりとした外気に触れたくて布団から足をはみ出させた。
何でこんなに熱いんだ、まだ冬だろう。と責める視線を部屋の中に送ると、着けっぱなしの暖房が唸っていた。
どうりで喉が渇くはずだ、と起き上がって電源を切った。

ガサリと足元に何かの感触が当たって、視線を落とすと紙袋と中に入ったチョコレート。そういえば、こんなに貰ったんだっけ、とぼんやり考える。
会社やら、取引先の女性から貰ったものだ。お返しが面倒くさい。柩に手伝って貰うか、と考えたところで、そういえば、と思う。


(柩から貰ってねーな)


一応恋人だし、と呟いてみる。嬉しくないわけがない。何よりも重いチョコになる。
ベッドに戻り未だ眠る寝顔を眺めようかとスプリングを軋ませた時、柩が起きていることに気付いた。


「…ん?ごめん。起こしたか?」


「チョコ、欲しいの?」


柩はこちらを見ないまま言う。目が慣れた闇で、白眼の部分がうっすらとわかる。


「別に欲しいってわけじゃねーけど…なんか貰えたらそりゃ嬉しいって。」


その言葉を聞いて暫く黙った何様俺様柩様はこっちに背を向けて、喉が渇いたから水持ってきて、と言った。自分で持って来いとは言えない優しい俺(決してヘタレではない)は、渋々と従うことにした。実際、俺も喉が渇いていたから。


寝室から冷蔵庫にたどり着くまで、明かりはいらなかった。闇に慣れた目は案外使える。
冷蔵庫を開いて、サイドポケットに置かれたペットボトルを見つけたついでに、とんでもないものも見付けてしまった。

丸い形をした可愛らしいケーキ…に見せた、ちらし寿司のようなもの。
桜でんぷや金糸たまごで綺麗にデコレーションしてあるそれは、どうやら柩が作ったものらしい。
鈍いと罵られる俺でも、これはわかる。これは、柩が作ってくれたものだと。
ハート型じゃないのは、柩のプライドと羞恥心からだろうと容易に想像がつく。
暫くそれを眺めていたら、これを作る柩の様子を想像して、とてつもなく嬉しくなった。
胸の奥から沸き上がる嬉しさに、鼓動が速まる。
顔が赤くなって、口元が緩んで……ああ、とてつもなくあの体を抱き締めたい。



ペットボトルをひっ掴んで、慌ただしく寝室へ戻った。
キモイと罵られても良い。ただ、俺のために、作ってくれたことに意味がある。






飛込んだベッドで、柩の体を抱き締めたら、柩の顔は笑えるぐらいに赤くなってて、笑ってキスをした。








END

あとがき
便乗してバレンタイン話。チョコじゃないものをあげたほうが、現実みがあって良いんじゃないかと。
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