金髪悪魔と願い事 

March 14 [Sat], 2009, 21:39

世界は、美しい。
沢山の生き物の、そのなかでもちっぽけな人間が一人悩んでいたって、世界は変わらず時を巡らせる。
綺麗な夜空をぼんやりそんな事を思いながら、あたしは夜風に髪を揺らしていた。

「お前またそんなとこに上ってんのか」

「え?」

ここは屋根の上だ。家の人にも内緒で、こっそり上るあたしだけの秘密の場所。
そんな場所に、他の人物の声が聞こえてあたしはぎょっとした。

「…誰、あんた」


声の主は、宙に浮いていた。

日の光のように眩しい金髪の、青年。赤いジャケットに黒いパンツをはいている。
彼は一瞬眩しそうに目を細めた後、口を開いた。

「予想は付いてるだろ?悪魔さ」

「…通りすがりのマジシャンとかなら笑えたんだけど」

「いや、笑えないだろ」

「冗談よ」

肩を竦めて立ち上がる。
悪魔なんてモノは間に合っている。というか、いらないからホント引き取ってくんないかな、マジで。

「うへえ、クールだな」

すると、金髪の自称悪魔も付いてきた。何よ?と聞くと彼はなぜかあたしの頭を撫でてくる。

「お前。悩んでるだろ」

突然何を言うのだろう。
それに最初の一言。また、とは何。あたしはこの悪魔と会ったことがある?…そんなまさか。

「あなたには関係のないことだわ」

「そうだな。関係ないかもしれない。だけど話を聞くくらいはできるだろ」

「そんな必要があなたにあるとは思えない。あたしにもね」

塀を伝って屋根を降り、家のベランダへ着地する。がらり、窓を開けて部屋に入る。
おい、と声が聞こえたけれど振り返りはしない。これ以上厄介事が増えるのはぜひとも遠慮願いたいところだ。

あの悪魔は、あたしが家に入ってしまうと肩を落として去って行った。
あたしの願いが、通じたのだろうか。


 

願い事をどうぞ 

March 08 [Sun], 2009, 22:11

「そうそう、透子さん。僕の願いを聞いてくださったのですから、ひとつ、お望みをどうぞ」

「は?だから願いは一つだっての。でも、ダメなんでしょ?」

あんたが言ったんじゃないの。そう答えるとアルは困った顔をした。

「そう言う訳にも。願いは対等にかなえられねばなりません」

妙に律義なんだなあ、あたしは少し感心した。ぬるくなり始めた紅茶を飲み干し、あたしは首を傾げる。

「そんなもん?」

「ええ。悪魔はそういうものなのです」

一方、アルの紅茶は全く減る様子を見せなかった。猫舌なのだろうか。奴の笑顔をぼんやりと見ながらそんな事を思った。

「なにか、ありませんか?」

「そうねえ…」

「例えば、仕込み刀とか」

「なんでやねん」

なぜそこでそんな物騒なものが出る。
あたしがそんな物騒な人間に見えるとでも言うつもりか。

「…そうですね、この世界には魔物はいないんでした。僕のうっかりサン★

「ホント貴様を殴りたいんだが」

駄目だ。
こいつの考えていることが全く分からない。

「ふふ、透子さん。願い事はいつでもいいですよ。ゆっくり考えてくださいね」

アルはそう言ってカタンと立ち上がった。残ったままの紅茶がゆらりと揺れる。あたしがそれに気を取られているうちに、奴は部屋から出て行ってしまった。

陽はもうすっかり姿を消していた。
窓から見える空は、奴と同じ藍色に染まる。

「願い事、ねえ…」

金色の月は、薄く笑って見下ろすだけだった。

 

自称悪魔のその名前 

February 28 [Sat], 2009, 14:50
「そう言えば、透子さんは僕の名を呼んではくれませんよね」

「…誰が呼ぶかっての」

母さんが席を外すと、それまで和やかに母さんと話していた悪魔がこちらに話しかけてきた。

「悲しいなあ。僕の名前、覚えてくれてないんですね」

わざとらしくよよよ、と泣き崩れる奴に、あたしはこっくり頷く。

「ご明答。というかあたしの名前も気軽に呼ぶなてめえこの野郎」

「では御主人様と?マニアックですねえ

「こいつマジムカつく殴りてえ

あほな事を抜かす野郎にあたしは笑顔でそう答えた。すると悪びれもせず冗談ですよ、と返された。

「もう一度言います。僕の名はアルトエルト。さあ、今度は忘れないで。僕の名を呼んでください」

「…」

なんだろう。
今一瞬だけ、奴の表情が曇ったように見えた。あたしの見間違いかもしれないけど。
それに、やけに真剣な声に聞こえた。名前、ってそんな大事なことなんだろうか?

「ね、」

「……。嫌よ」

あたしはそうはっきりと拒絶した。
奴の表情に浮かぶのは落胆したような笑顔。

「では、アルと。それならば構わないでしょう?」

いったい何が構わないのか。
あたしが拒否したのは、奴の事を口に出す行為そのものだ。名前の呼び方なんてどうでもいい。

「嫌」

「お願いです」

「……は?」

今、奴は何を言った。お願い?

「なら…。交換条件は」

「呑みましょう」

――即答だ。
あたしはなんでそんなに拘るのだろうと疑問に思いながら口を開く。
こんなに早く好機が現れるなんて。

「なら、契約を破棄し「それはできません」

早い。
思わず奴の顔を見るとあの胡散臭い笑顔が消えていた。
…ほんとに、何なんだ。

奴も…あたしも。

なんでこんなに、あたしは罪悪感を感じているんだ。

「…なんかあんた、本当にムカつくわ…。


…アル」

なんで、こんなに調子が狂うんだろう。
なんで、名前を呼ぶくらいでこいつはこんなに嬉しそうにするんだろう。

わからない。
あたしの胸はもやもやとしたものにあふれていた。

自称悪魔に、固める決意 

February 28 [Sat], 2009, 14:16
「さて、戻りましょうか、透子さん」

奴が手を差し出した。
あたしはそれを無視してリビングに戻る。母さんがティーカップを片手にクッキーを食べていた。

「あら、お話は終わったの?」

「………」

「ええ、まあ。イエルの手下を見た、ということでしたので後で始末してきます」

何て言ったら判らなくて黙っていると後ろからあいつが口を挟んできた。て言うかその設定続けるんだ…。

「そう、じゃあ紅茶が冷める前に食べて頂戴ね」

「はい、いただきます。さ、透子さんも」

言われてようやく口にしたクッキーは、いつもの半分もおいしくない。
思わず眉間にしわを寄せると母さんは首をかしげた。

「どうしたの、透子」

「なんでもない」

なんだってあたしがこんな思いをしなけりゃならない。
静かな憤りがふつふつと湧き上がっていた。

(悪魔って何が嫌いなんだろう)

訳のわからないまま振り回されるなんて御免だ。ましてや人生までかかってるんだから。
なんとしても奴を撃退しなくては。

あいつはにこにことしたまま、そんなあたしを眺めていた。

自称悪魔と死刑宣告 

February 22 [Sun], 2009, 15:33
玄関を勢いよく閉めて、ついでに鍵も掛けておく。
ドアスコープをのぞいてみたが、誰一人見えはしなかった。

「よかった…」

付いてきては、いない様だった。安堵の息が漏れる。

「透子ー?どうしたのー?」

リビングのほうから、母さんがあたしを呼ぶのが聞こえた。加納透子。それがあたしの本名である。
なんでもなーい、と叫び返して靴を脱ぐ。明日からあの道を通るのはやめよう。

「なら早くいらっしゃい、クッキーがあるわよ」

「!やった!」

その一言でさっきまでの微妙な出来事が一瞬で消えた。
急いでリビングに向かう。ドアを開けると、テーブルの上にはお皿に盛られたたくさんのクッキーと…

「なんでいるの・・・」

さっきの、電波男がいた。

「あらなあに、アル君がどうかしたの?」

「母さん、そいつと知り合いなの?!」

母さんはおっとりと首をかしげる。

「何言ってるの。アル君は天使イエルに対抗するため闇の魔王エグノポレス様から遣わされた騎士様じゃない

「それこそ何の話だ」

なんだその妙な設定。というか天使に対抗しちゃうのか。ていうかイエルて。エグノポレスて。

「ちょっと来い!」

我関せずとテーブルでもぐもぐクッキーを食べている男の胸倉をつかんで廊下に引きずり出す。あらあら仲がいいのねえ、なんて母さんののんきなセリフはスルーだ、スルー。

「なんなのあんた母さんに何したの何で人の家でクッキー食ってんのよこの野郎」

「だから言ったじゃないですか。縁はすでに結ばれた。家を割り出すなんて造作もないことですよ。『透子』さん?」

「ぐ…!」

赤い瞳は、相変わらずに楽しげに歪められていた。

「あなたの家族には、ちょっと僕が生活できる程度に暗示をかけさせていただきました。僕はこの家で居候として前々から同居しています」

「あの与太話もやっぱりてめえの仕業か」

なんだかこいつと話しているとどんどん口が悪くなっていく気がする。

「あなたが願い事をさっさと言えばいい話です。願いをかなえ、魂さえ手に入れてしまえば僕はすぐに消えましょう」

「魂、って…」

とん、と胸のあたりを指差して、男は笑う。

「あなたの心です。悪魔を呼び出したのですから、それくらいはご存じでしょう」

よくあるオカルトの類だ。だけど、通学路の時のように笑い飛ばすことなんて、もうできなかった。冷たいものが、背を走る。

「呼び出した、なんていうけどほんとにあたしは何もしてないし…。大体悪魔なんて…」

「自覚のあるなしは、もはや関係ありませんよ。あなたは僕を呼び出した。これは事実です。そして、それが事実である以上僕は仕事を果たさなければならない」

そう言うと、奴はあたしの頬に触れた。酷く冷たい指先。あたしはまた金縛りにあったように身動きできなくなっていた。

「願いを叶えるまで、僕はあなたの傍にいますよ」

耳元でささやかれるその言葉は、―――まるで死刑宣告のように響いた。

P R
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ファンタジーものトリップものの小説が好きなあまり、うっかり自分でも書き始めてしまいました。
楽しんで貰えればうれしいなー、と思います。
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