明晰な彼女は、口答えなどせず、二階へと移動する。襲撃者は、タイミングを誤っている。彼らの背後から、荒事に慣れている少年達が、五人ほど此方へ向かっているのだ。
未だ遠いが、五分もかからず来るだろう。そう、空を飛んででも。
「！」
正面玄関の扉を蹴破った者は、間髪置かずに報いを受けた。彬の弾いたビー玉が、鳩尾を撃ったのである。目を閉じ、配下の様子を覗き見ているナスティは、思わず眉を寄せた。
「あれは後が大変ね」
窓が、枠ごと壊されたのだ。ガラス屋の電話番号は・・・？
破損位は何ともない。だが、荒らされたままでは家が可哀相だ。
「絨毯もクリーニングしなきゃね」
相手が何人来ようと、今の彬にとって準備運動にもなるまい。
「あ、凄い・・・使い方を思い出したのね」
空から近付くのは、間違いなく“彼ら”
「流石ね、トルーパー」
あの方はどうしてこんな名を付けたのだろう？
「今度会ったら、訊いてみましょ」
何も知らぬ者が見れば“非常識”と彼女を罵るに違いない笑みで、呟いた。
「無謀・・・それとも無茶・・・かしら？」
最初に口にしたのは環だった。
「いや、何も知らないのだから・・・でも、命じられたからと言って、人を襲うのはやはり馬鹿かな？」
遼の問いに、四人は一斉に頷く。
「それが生業だから仕方がない、と言ったって許してはやらないよ」
「生身の人間でなければ、木端微塵にしてやれるのに」
「ＳＦの読みすぎだ。殺人ロボットは二十一世紀にならなければ無理だろう」
「征士が科学技術に関する話をするなんて、珍しいな」
「それより急ごう。大丈夫だと思うが、ナスティが悲鳴一つ上げれば、彬は襲撃者全員を塵に還してしまう」
遼が真実を口にしているので、一同は頷いた。
「当麻、空間を裂いて繋げて」
「え？」
環の言に、当麻は戸惑う。
「弓矢出せよ」
呆れ顔で秀が言う。
「無理だよ、“天空”は一度主を廃人にしたせいで、わざと、主の記憶だけは、蘇らせないんだ」
「伸、それは・・・」
「当麻、取り敢えず“天空”を呼べ」
言われた通りに鎧玉を呼ぶ。
「人目がありすぎるわ」
言い終わらぬうちに、遼が手首を返して“烈火”を放り投げる。一瞬にして、周囲の人間からの視線が消える。
「お見事、腕は落ちていないね」
「伸、これ位お前にだってできるだろ」
俺にはできない、当麻は心の中で呟いた。
「できないなんて思うな、さあ“天空”から弓矢だけ呼んでみろ」
どうやって？
「主はお前だ。心の底から願え、当麻」
来い、半ば自棄をおこしつつ、当麻が念じた瞬間、翔破弓と一矢が手の中に出現した。
「さあ、射って」
言われるままに矢を番える。狙いは頭上。思いは一つ。
「ナスティの処へっ！」
矢は空を裂いた。
ニックネーム：rainbe1460
