アカイツキ(blood of sweet the last kiss) 

May 14 [Sat], 2005, 23:54
アカイツキ(blood of sweet the last kiss)


満月の夜は、酷く喉が渇く。
飲んでも飲んでも、満たされない。
口の中に、慣れない鉄の味が広がるだけだ。

渇望と空虚感が食道を通り抜け、胃をも破壊する。
もう、どれくらい食べていないんだろう。
生きていくためには、食事をしなければならない。
だが、俺は拒んでいる。
食べるくらいなら、死んだほうがマシだ。
彼を食べるくらいなら…
俺は。
生きる意味などない。

水分で辛うじて意識が、戻される。
ミネラルウオーターの空瓶が、床中を満たしている。
最初の満月から数えて、今日はちょうど13日。
月齢13。
新月は、闇の眷属だ。
29日は、まだ遠い。

打ちっぱなしのコンクリートの床。
冷たい床に転がるは、痩せた男。
流れるクラシック、刻む懐古時計の秒針。

「…渇く」

首をかきむしる。
白い首筋に流れる赤い線が、床にこぼれる。
髪が散っている。まるで、闇に咲く夜光花。
閉じられた目が開くのは、そう満月の夜。

一夜限りの狂気の宴。
窓の外に見えるのは、赤い月。

飢えた欲望を押さえ込み、司法の知識を振りかざす。
自慢の話術も、既に奪われた。

渇望の行く先は、絶望だ。
デスクに座る男の目には、なにもうつらない。
硝子のチェス盤に広がる、鮮血の痕。
首筋から伝う真っ赤な血が。白いシャツを染めあげた。
「ッ…」

赤い、寂寥の月が白亜の白を真っ赤に染めてゆく。
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