弾む風船 

2006年11月23日(木) 22時04分
*祖父が亡くなり、一晩だけ姉の家にお世話になることになった。
 一人暮らしも経験した25の成人女子が、お世話になるもないのだが、
 両親がそれで安心するならと、了承した。

 もうじき8歳になる姪がいる。
 桃色の空気のいっぱい詰まった風船を持ってはしゃいでいる。
 しきりに一緒に遊ぼうというので、少しの間相手をすることにした。

 バレーの真似をしながら「弾丸サーブ」「ミラクルレシーブ」などと言いながら
 結局二人ではしゃぎまわってしまった。
 しばらくすると飽きたのか、今度はたくさんの風船に空気を入れ、
 パンパンになったところで手を放して飛ばすという訳のわからない遊びに
 夢中になっていた。
 子供は遊びの天才だなとつくづく思う。

 色とりどりの風船を見ながら思い出していた。
 祖父と過ごした短い時間。
 上手に語れなかった思い。
 祖父は最後の最後まで「痛い」とか「辛い」とは言わなかった。

 彼に病名が告知されることはなかったが、きっとどこかで分かっていただろう
 と思う。
 1年で祖母も祖父も失った。
 悲しみよりもぽっかりとした喪失感だけが残っている。

 「タバコ、いるか?」と笑顔で差し出し、
 「これは軽いからなぁ」と何度も繰り返し差し出す祖父を思い出す。
 ささやかだけど、言葉がいらない、ふたりで過ごす大切なときだった。

 ドラマのような衝撃はなく、事務的な作業の時間が続き、
 涙が流れるまでに時間がかかった。

 姪が視界の端でカラフルな風船を思い切り飛ばしてはしゃいでいた。

*『陰日向に咲く』(劇団ひとり/幻冬舎)
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