January 14 [Sat], 2012, 13:06
(5)
……盗んで、犯し、火を放て。
僕たちは、盗んで、犯して、火を放った。
食べものもガソリンも力づくで調達した。
女の子をさらった。
さらってはまわして捨てていたのだけれど、あるとき、そんな女の子のひとりを好きになってしまった。
僕はその子と結婚した。
翌年息子が生れたが、すぐに死んでしまった。
一晩かけて燃やし、灰を川に流した。
……互いを裏切れ。裏切りを知れば真理に近づく。
僕らは互いに裏切りあい、騙しあい、ときに殺しあった。
ある日のことだ。
ちょっと離れていた隙に、妻が殺されてしまった。
からだには棒っ杭が突っ込まれて、豚女と血で書かれていた。
その夜の内に僕はみんなを殺した。
翌年、ひとりで悦楽の神殿にたどり着いた。
出発から三年の月日が経っていた。
(続く)
January 14 [Sat], 2012, 11:10
(4)
暴力と破壊と殺戮の最中にあって初めて、生命は全的に開かれる。
日常の微睡から醒め、ただこの一瞬の生殺の前に剥き出しにされる。
生きるな。
ただ燃えろ。
炎の中で踊り果てよ。
盗んで、犯し、火を放て。
ガイドブックにはそう書かれていた。
(続く)
January 03 [Tue], 2012, 15:37
(3)
びしょ濡れになりながら車に荷物を詰めこんだ。
さあ、行こう。
悦楽の神殿をめざして!
「待って」
「どうしたの」
「今、どちらの足から踏み出したかしら」
「どちらだろう、僕らには分からないな」
「右足からだったかもしれない」
「右足からじゃいけないのかい。本にそう書いてあるのかい」
「そうじゃないの。でも、右足からじゃダメなの」
「僕らは別に構わないけど」
「私はダメなの」
やり直さなきゃ。
今度は間違いなく左足から踏み出さなくっちゃ。
「どうして自分の足を蹴ってるの」
「戻るとき、右足のつま先が左足の踝に当ったの。だから、逆をしなきゃならないの」
「逆ってどういうこと」
「左足のつま先も右足の踝に当てておくの」
「なるほど、おあいこにするんだね」
「でも、だめだわ。強く蹴りすぎた。これじゃ均等にならない」
ああ、ダメだ。
これでは全部始めからやり直さなければ!
「どこから」
「一番初めから」
「もう行こうよ。夜が明け切ってしまうよ」
「わかったわ。先に行って」
「どうして」
「私はここから動けないもの」
「そんな悲しいことを言わないでよ」
「ごめんね。でも、これも私には大切なことなの。本はあなたが持っていって」
「分かった。本は僕が持っていくよ」
「気をつけてね」
「うん。気をつけるよ。あとから追いかけてこられるかい」
「分からない。でも、ここから出て行けないような気もする」
「さびしいな」
「私もさびしいわ」
「それじゃ、行くね」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
僕らは彼女を置いて出発した。
西へ向かって。
悦楽の神殿をめざして。
(続く)
January 02 [Mon], 2012, 12:21
(2)
「字の読めない人は私が読むのを聞いて」
黒い革表紙の彩飾手稿本が開かれ、羊皮紙のページがめくられた。
「なんて美しい本なのだろう」
「どこの国の言葉で書かれているのかな」
「いつの時代のものなの」
「本屋のおじさんが黙って渡してくれたんだもの、詳しいことは分からないわ。
さあ、黙って聞いて頂戴」
……君たちは西へ向かわなければならない。神殿は常に西にあるのだから……秋草の茂る門をくぐった先に……息子たち、娘たちよ、日々の祈りを忘れるな……備えを怠るな
「それだけなの」
「読めないところは多少飛ばしたけれど、そんなところよ」
「地図はないの」
「地図はないわ。でも綺麗な挿絵が入っている」
示されたページには、熱帯の樹木が絡みつく石造りの壮麗な伽藍が描かれていた。
「これは本当にガイドブックなのかい」
「間違いないわ。私たちは西へ向かって出発するのよ」
(続く)
January 02 [Mon], 2012, 5:47
ええ、あなたのおっしゃるとおりに
(1)
「息子たち、娘たちよ。悦楽の神殿へ!」
旅立ちの朝は雨が降っていた。
アスファルトに跳ね上がる水の飛沫で膝下まで白く煙るほどの激しい雨だった。
午前五時。
緑がかった紫の雨雲が奇妙に明るく東の空に光る七月の朝だった。
海をめざして。
「どうして海へ?」
「旅立ちは海からって決まっているもの。七月の輝く海。もう梅雨が明けるわ」
賛成。
賛成。
「反対」
「どうして反対なのさ」
「だって西へ行かなきゃならないから」
「そうして西へ向かうのさ」
「ガイドブックに書いてあるから」
「ガイドブック?」
「ほら、ここに」
(続く)