荻野(2012)

2012年06月03日(日) 0時06分

荻野富士夫 『特高警察』(岩波新書1368,東京:岩波書店,2012)


版元情報はここを参照.


1911年から1945年までの35年間存続した特別高等警察(特高警察)の多種多様な側面を焦点を当てる一編.

 本書は,創設の経緯と組織構造を踏まえた上で,戦前日本の特高警察が「国体護持」を目的に,治安維持法に代表される法令を駆使し,極左から極右までの様々な運動組織にいかに対処してきたのかを論じる.加えて,植民地や満州国での外事警察の働きや,ドイツのゲシュタポ(秘密国家警察)の事例を比較の観点から説明していく.

「特高警察とはなんだったのか」(p.231).

 この問題は戦前日本に限定されず,他の様々な国々についても,過去形ではなく現在進行形で問うことができる問題であろう.もちろん,資料(史料)の渉猟が大変なことは重々承知の上,「特高警察」の体系的な比較分析も読んでみたくなる.



…………………

ここ最近,

何気に日本近現代史の新書ばかり購入しているような….

もしくは,

新書に日本近現代史ブーム??


千葉(2012)

2012年06月02日(土) 0時30分

千葉功 『桂太郎:外に帝国主義,内に立憲主義』(中公新書2162,東京:中央公論新社,2012)


版元情報はここを参照.


日本最長の首相在任期間を誇る桂太郎の評伝

 本書は,「ニコポン」,「十六方美人」,「言葉の催眠術師」,「言葉のクロロホルム」などの異名を持つ協調型・調整型の政治家が,外交において日露戦争や韓国の保護国化を断行し,内政において山形有朋らの元老と決別して独自の政党結成に踏み切ったのはなぜかという問いを,数々の資料を踏まえて追っていく.



茶谷(2012)

2012年05月18日(金) 23時41分

茶谷誠一 『宮中からみる日本近代史』(ちくま新書957,東京:筑摩書房,2012)


版元情報はここを参照.


国家機関の1つ,政治勢力の1つとしての「宮中」に着目する一冊.

 本書は,明治維新から日本国憲法成立までの日本近現代史を,「明治憲法体制」確立前の侍補グループとその後の宮中グループの政治的役割,内閣・議会・軍部などとの複雑な相互関係から論じていく.

 第1章では,明治憲法体制下における宮中の位置づけ,組織的な配置を示した上で明治から大正にかけての伊藤博文と山形有朋の宮中への関与を論じる. 第2章では,大正から昭和初期,恣意的な介入を排し,宮中を天皇と各国家機関の情報媒介役として機能させることを目指した西園寺公望と牧野伸顕の手法を説明する.

 第3章では,2.26事件までの流れとして,軍縮と統帥権干犯問題への対応,新世代の(軍部との妥協を容認する)「宮中革新派」の出現を論じる.第4章では,2.26事件以降の軍部との立ち位置をめぐる宮中内部の派閥争いを論じ,第5章では,西園寺公望死去後,太平洋戦争勃発後の木戸幸一内大臣の役割,とりわけ,ポツダム宣言受諾までの流れに宮中の輔弼機能の集中化がいかに寄与したのかを論じる.第6章では,敗戦後,新憲法下での宮中の政治的影響力の喪失を論じる.



 本書の内容は,宮中の政治的役割の叙述はもちろんのこと,「内大臣という地位は,三条実美が就任した設置当初からは予想もしなかったような職務をこなすようにな(った)」(p.190)という記述に見られるように,明治憲法体制下の宮中をめぐる一連の制度の長期的な発展を論じているという制度論的な観点からも,非常に意義のある内容である.


タキトゥス(2012)

2012年05月07日(月) 0時21分

タキトゥス 『同時代史』(翻訳:國原吉之助)(ちくま学芸文庫,東京:筑摩書房)


版元情報はここを参照.


ローマ帝政期の政治家にして歴史家のタキトゥスが鮮やかに描き出す古代ローマの「現代」.

 本書は,全12巻のうち現存する第1巻から第5巻第26節まで,内乱後の69年1月から70年秋のウェスパシアヌス帝治世の最初期を扱う.タキトゥスの生まれが紀元56年頃,執筆されたのが紀元100年頃であることを踏まえれば,執筆当時のおよそ30年前の状況を扱う本書は,歴史というよりもまさしく現代史,ひいては現代政治といった趣きである(例えとしては適切か分からないが,2012年現在で言えば,1982年の政治状況,日本の中曽根政権の樹立やエジプトのムバーラク大統領の権力継承を扱っているような趣きである).

すぐには読み進めなくても手元には置いておきたくなる,そんな一冊.



高橋(2012)

2012年04月27日(金) 1時34分

高橋昌一郎 『感性の限界:不合理性・不自由性・不条理性』(講談社現代新書2153,東京:講談社.2012)


版元情報はここを参照.


理性,知性と続いて,

今回の題材は「感性」.

 行為・意思・存在という感性にまつわる諸問題を様々な立場を借りて対話篇や座談会形式で綴っていく.その「出演者」は,大学生,会社員,運動選手に始まり,哲学史家,科学史家,カント主義者,急進的フェミニスト,方法論的虚無主義者,イタリア国粋主義者,ロマン主義者,映像評論家,行動主義者,イギリス文学者,イタリア文学者,実存主義者,社会心理学者,論理実証主義者,生理学者などなど….

行動経済学や進化論や実存哲学など,難解になりがちな様々な論点を極力平易に咀嚼してくれる本シリーズは,新書の鑑である.

『○○の限界』,

次回作は何の限界だろうか?



[関連記事]
高橋(2008)」(2008年6月21日)
高橋(2010)」(2010年4月20日)



青山(2012)

2012年04月26日(木) 0時25分

青山和夫 『マヤ文明:密林に栄えた石器文化』(岩波新書1364,東京:岩波書店,2012)


版元情報はここを参照.

マヤ歴の区切りの年(2012年)にマヤ文明に思いを馳せる一冊.

 著者は,ホンジュラスとグアテマラでの豊富な遺跡発掘の経験を踏まえて,マヤ文明の様々な側面を描き出していく.第1章では,マヤ文明の地勢や時期区分に始まり,宗教.数字,暦(マヤ文明の暦は「循環暦」につき2012年は「世界の終り」を含意していないとのこと)の基本事項を紹介し,第2章では,コパン遺跡を事例に石器の交換(交易)に着目する.第3章では,「国」家・都市の支配者の位置づけと都市間のネットワークを論じ,第4章と第5章では農民と宮廷の生活を紹介する.第6章ではマヤ文明の衰退の原因を探っていく.


何から何まで興味深い.



和田(2012)

2012年04月25日(水) 0時13分

和田春樹 『北朝鮮現代史』(岩波新書1361,東京:岩波書店,2012)


版元情報はここを参照.

 これまであまり垣間見ることのできなかった1930年代の抗日武装闘争から2012年の現在に至るまでの北朝鮮の歴史を平易に追っていく一冊.

 とはいえ,北朝鮮のように,一次資料や体制の内部資料がなかなか表に出てこない事例の歴史的経緯を紐解いていくのは非常に大変である.このような状況では,研究者の間で限られた資料の解釈をめぐって論争や賛否両論が激しくなるのかもしれない(というのも,本書に散見される著者の他の研究者への評価がなかなか手厳しい…).



有田(2012)

2012年04月14日(土) 0時14分

有田隆也 『生物から生命へ:共進化から読みとく』(ちくま新書954,東京:筑摩書房,2012)


版元情報はここを参照.


要素還元論的手法では十分に理解できない生命,進化,共進化の過程を複雑系科学の立場から読み解く一冊.

 本書では,初めに共進化(coevolution)過程の基本的論理を説明し,その過程が「生命のあらゆる階層レベルにおいて,同時並行的に働いている」(p.24)ことを強調する.これを踏まえて,以下の各章では,ヒトと病原体,ヒト同士の協力行動,ヒトと自然環境,ヒトとそのヒトによって作り出された文化と,このそれぞれの共進化の過程を描き出していく.

 「相互作用」を重視し,「構成論的手法」に依拠する本書.その内容は,要素還元論の代替的見解として相互作用よりももっとマクロな「構造」を重視し過ぎるきらいのある福岡伸一の「全体論的な発想」とはまた一味違った視点を与えてくれる.もちろん直接的な類推や応用は難しいだろうが,このような相互作用への視点はある種の着想の種として社会科学の分野にも活用できるかもしれない(ex. 比較政治学における構成主義アプローチや,長期の制度進化を重視する歴史的制度論).



[関連記事]
福岡(2009)」(2009年7月18日)
 :「世界は分けても分からない」というある種の全体論的発想.
小野・編著(2009)」(2010年2月20日)
 :比較政治学における「構成主義」アプローチ.
Mahoney & Thelen eds. (2010)」(2009年12月4日)
 :「制度進化」という視点.
ソーカル&ブリクモン(2012)」(2012年2月19日)
 :しかし,科学用語の活用には慎重さも必要.



坂野(2012)

2012年03月17日(土) 0時07分

坂野潤治 『日本近代史』(ちくま新書948,東京:筑摩書房,2012)


版元情報はここを参照.


タイトルで銘打っているとおり,

「日本近代史」の決定版としての一冊.

 本書は,1857年から1937年までの80年間を,6つの時期に区分し,それぞれ,@改革期(公武合体:1857−1863年),A革命期(尊王倒幕:1863−1871年),B建設期(殖産興業:1871−1880年),C運用期(明治立憲制:1880−1893年),D再編期(大正デモクラシー:1894−1924年),E危機期(明治ファシズム:1925−1937年)として読み解いていく.

 新書としては,『新書アフリカ史』(講談社)以来とも言える分量の多さではあるが,だからこそ,学生だけではなく,政治学の他の分野の研究者にとっても役立つかもしれない.というのも,政治エリートの対立,国家建設,君主制,議会の開設,政党の成立と合従連衡,軍部の政治介入,議会政治の急進化など,本書の幅広い洞察や知見は,他の事例や文脈にも一般化できるかもしれない「着想の種」を与えてくれるからである(…とはいえ,政治史研究者からすれば,日本固有の文脈を剥ぎ取ったような,こうした読み方は好まれないかもしれないが).


井田(2012)

2012年03月16日(金) 0時49分

井田茂 『系外惑星:宇宙と生命のナゾを解く』(ちくまプリマー新書175,東京:筑摩書房,2012)


版元情報はここを参照.


太陽系以外の惑星,すなわち,「系外惑星」に関する平易な読み物.

 本書は,宇宙の構成や成り立ち,惑星の構成や成り立ちを経て,地球に触れつつ,多様な系外惑星の姿を描いていく.

 系外惑星の形成過程のとそれに伴う多様性に嬉々として着目する著者の姿は,生物の進化の過程とそれに伴う種の多様性に着目する生物学者や,ひいては,制度の変化の過程とそれに伴う国家の多様性に着目する政治学者にも通じるものがある(言い過ぎ?).要するに,「興味津々」という研究者としての一義的要件が,本書を通じてつぶさに垣間見えるのである.


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