Steinmo (2010)

2010年08月08日(日) 0時26分

Sven Steinmo, The Evolution of Modern States: Sweden, Japan and the United States (Cambridge: Cambridge University Press, 2010)


版元情報はここを参照.


比較政治学において「進化」という論点を大々的に俎上に載せた一冊.


 豊かな先進民主主義国が21世紀初頭に同じような圧力を受けたにもかかわらず異なる対応を取ったのはなぜか? あるいは,「グローバル化」という政治経済的な圧力を一様に受けたにもかかわらず,「グローバル・スタンダード」へと収斂するどころか,むしろ,各国の違いが浮き彫りになったのはなぜなのか? この問いに取り組むために,著者はスウェーデン.日本.アメリカという3つの事例に着目し,政治・経済・福祉システムの制度配置の違いが「グローバル化」への各国の適応の仕方に違いを生じさせたと説明する.こうした議論を展開するために著者が引き合いに出したのが,「進化」という着想である.

 第1章では,これまでLewis, Orion & Sven Steinmo, "Taking Evolution Seriously" (ARENA Working Paper no.19, Center for European Studies, University of Oslo, 2007) や,Sven Steinmo, "Historical Institutionalism" in Donatella Della Porta & Michael Keating eds., Approaches and Methodologies in the Social Sciences: A Pluralist Perspective (Cambridge: Cambridge University Press, 2008) などで発表されてきた「進化論」と歴史的制度論と政治科学の関係に関する著者の見解を体系的に提示し,その中で,@事例を個々の「システム」として認識することの意味合いと,A政治科学が対象とする事象の過程や変化を進化過程として位置づける意義を強調している.
 
 また,各事例の説明を踏まえた第5章では,「理念」やヒューマン・エージェンシー(アクター)の重要性を進化論の着想と絡めて考察するとともに,制度変化や適応による変化という歴史的制度論全体に共通する論点にも触れている.

 本書の内容や研究設計は,「再現可能性がない」,「過去の説明に過ぎない」,「予測ができない」などと比較政治学の一般的(だが無意識に物理学の世界観や存在論を反映している)方法論を傘に批判されてしまう向きがあるかもしれないが,著者はそのようなことなど百も承知でこのような研究戦略を採用しているように思える.「本書は進化論の本ではない.3ヶ国の政治経済の違いに関する本なのである」(p.21)と留保しつつも,比較政治学の「存在論的基礎」を相対化しようとする意欲を随所に感じられるのである.このような試みを,「一般的な研究戦略ではなく単なる政治史と経済史の羅列に過ぎない」として一蹴(一笑)に付すか,「そのような存在論的基礎の可能性もあり,生物学の着想を引き合いに出したほうが現実を正確に把握できるのではないか」として沈思黙考してみるか,それは読者に委ねられている.

 ちなみに,巻末の紹介文の人選も印象的.ノーベル経済学賞受賞者のElinor Ostromや,東大の加藤淳子先生と並んで,Mark Blyth と Geoffrey Hodgson が並んでいるのが非常に印象的.同書が,前者について「理念が重要である」ということ,後者について「進化経済学だけではなく進化政治学も」ということで貢献したいと考えていることが,その2人の名前を見るだけで如実に見て取ることができるのである.


[関連記事]
Porta & Keating eds. (2008)」(2008年7月12日)
Hodgson (2004)」(2009年2月11日)
Blyth (2002)」(2009年2月22日)
Steinmo (2010 forthcoming)」(2010年3月9日)

……………

1990年代前半,歴史的制度論の画期となった"Historical Institutionalism and Comparative Politics"を執筆したのは,Sven SteinmoとKathleen Thelenでした.


どちらも「進化」という論点に引き寄せられながらも,

前者が「理念の淘汰」に傾斜し,

後者が「組織や公式制度の変化」に着目するというこの構図.

なんだか,比較政治学の藤子不二雄みたいな関係に見えしまう….


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