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July 03 [Thu], 2008, 21:58
電車の、カタンコトンという揺れとともに、私の瞼が少しだけ重くなってゆく。


外の景色はどんどん移り変わってゆくし、たぶんものすごい風をきりながら駆け抜けているのだろう。
立ち向かってくる向かい風を感じることもなく、私はただ、人の群れに閉じ込められた小さな空間にいた。





隣に座った女子高校生たちが、「今日のテストはここが出ると思う」だなんて、さっきから山かけしている。
屈託ない笑い声と混じって、時節お互いのテキストを覗きこんでみたり、蛍光ペンでマーカーを塗りなおしている。

目の前のつり革を持ったまま立っているサラリーマンは、少しゆがんでいたネクタイを直すと、さっきまで開いていた新聞に目を戻した。
ふと、バランスを崩して、隣りの老人に「すみません」といったとき、
彼の手にある、紙面の記事が目に入った。


朝、いつもと変わらない朝。

いつもと変わらない一日を繰り返すはずだった朝。


同じように、朝食を摂りながら読んでいた記事だった。
あのとき、ふとテレビから流れる、あなたの住む街の名前を聞いて、それから、あの記事の続きが何であったかは覚えていない。



今日がどんな日で、これから何が起こるのかは分からない。
ただ、本当のことをいえば、私は今日もこの電車を30分ほど乗って、たどり着いたプラットホームの改札を横切るはずだったんだろう。
そうしていることが、日課であったし、そんなふうにしてもう2年の月日が過ぎた。


ふと、鞄の中の携帯に目をやると、着信のランプが灯ってはまた消えた。
桂子からだった。
数分おきに、着信が3回。
それから、最後にメールで
「今どこにいるの?」
たった一言だけ、そう打たれていた。

返信を打つのもためらったまま、送りっぱなしでそのままにしておいたことを心の中で詫びた。

次桂子に会うのはいつになるのかな。
会ったら何を話すだろう。


小さく笑う彼女の顔をゆっくり思い浮かべた。柔らかく揺れる長い髪も。そして、いつもおっとりとした口調で話していたことも。

桂子と私は、二年間こうしてずっと、一緒に働いてきた仲間だ。
プラットホームを降りて、改札をぬけて、そうして少し歩くと商店街がある。
一番街をただひたすらまっすぐ行くと、信用金庫や市役所が立ち並ぶ小さな通りに出て、私たちの職場は、その真向かいのビルにあった。

なにか事が起こったとき、私は何でも彼女に話していた。

飼い犬が死んだときも、昨日見た映画がものすごく陽気だったことも、それから、良介と別れたときも。


彼女は決まって、小さなテントウムシが並んだ赤いマグカップに、ひたひたになるまでココアを注いだ。
そうして、ゆっくりした仕草で私に手渡すと
「あなた、いつも早口でしょう。これ飲んで落ちついて、ゆっくり話してみて。」
というのだった。





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