連載小説「罠」H

November 05 [Mon], 2012, 18:30
アルファロメオは、また僕が運転席に座った。
才谷屋の屋敷を出ると、勢いよく、朝の街を駆け抜け始めた。
朝のルート66も気持ちが良い。
真夏の日差しに照らし出されて、海が輝いている。
潮風も心地よかった。
だが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
市街地を目指して、一気にクルマを走らせた。
ユキの指示通りにクルマを進め、やがて繁華街の外れにある、古びた雑居ビルの前に着いた。
ここよ。
では、行きましょう。
小さな、古いエレベーターに乗り、4階へ上がった。
フロアの一角の小部屋が、その悪徳プロクションだった。
失礼しますな、なんだ、てめぇドアをックもせずにいきなり入ってきた僕たちに、中にいた男は、一瞬動揺した様子だった。
眼つきが鋭い大柄な男だ。
この娘、知ってますよねんっしらねぇなしらばっくれるな騙しておいて何が言いたいサキさんの指令で来た僕が、大声で嘘を言うと、男の顔色が変わった。
サキさんのそうだあんた、サキさんの一味かい当然証拠は僕は、黙って自分の人民登録カードを男に差し出した。
男は机から、USBメモリーを取り出すと、パソコンに差し込んだ。
僕の人民登録カードのナンバーをしきりに見ている。
思った通りだ。
サキは、自分の手下の人間の人民登録カードのコピーを全て取る。
そのリストがデータになっている。
照合すれば、サキの一味、つまり仲間かどうか分かる。
そう考えた僕の推理は間違ってなかった。
ねぇなあリストを見ながら、男が呟いた。
眼つきが益々鋭い。
ネットに繋いで、リストを更新してみな。
あるぜ分かった。
今度は、男が僕の言うとおりにした。
あったお前さん、新参者だなその通り。
で、ご用件はサキさん、組織を使って、歌い手としてデビューするそうじゃないかお前、何でそれを知ってるまたも僕の大嘘に男は乗っかった。
どうやら、これも僕の推理が当たっていたようだ。
これだけ分かればもういい。
用件は、これだ僕は、鞄に入れていた南部89式拳銃を男に突きつけた。
何しやがるそのUSBメモリーをよこせ従わないと撃つて、てめぇ男は仕方なく、USBメモリーを僕に手渡した。
どういうつもりだサキさんが黙っちゃいないぞ黙ってろそれとも、その身体に弾丸、打ち込まれたいか僕は男に拳銃を向けたまま、ユキの手を取り、その小部屋を出た。
あとは一気にその雑居ビルを出ると、クルマに飛び乗り、発進させた。
どういう事さすがに今の出来事は、ユキには理解出来なかったらしい。
クルマを走らせると、聞いてきた。
詳しい事は、後で話しますよ。
それよりユキさん、今、手元にお金はたいして持ってないけど、銀行に行けば、才谷屋からの小遣いがあるわ。
どのくらい5000米ドルくらい。
凄いでは、大至急、そのお金、全ておろしてください。
いいけど、どうして逃走資金ですよ僕は微笑みながら言った。
逃走ユキは一瞬、不安げな顔をした。
逃げましょう、ユキさん。
才谷屋の下から逃げるユキさんを自由にする為ですよ。
暫く、沈黙があった。
やがて、よく分からないけど、先生の言う通りにする。
信じていいユキが少し瞳を潤ませながら言った。
勿ナす僕は、精一杯、自信を込めて答えた。
そのまま、共和国の人民銀行へ行くと、ユキは指示通り、才谷屋からの小遣い全てをおろした。
5000米ドルと言えば、途方も無い大金だ。
この国の中産階級の年収以上にもなる大金だ。
資金は揃った。
これからどうするのとりあえず、港にでもいきますか。
港僕は黙ってクルマを進め、再びルート66へ出ると、港へ向かった。
やがて、日差しが強くなり始めた港の埠頭に着いた。
そこでクルマを止めた。
晴れた日の海と、このアルファロメオスパイーはよく似合う。
埠頭の一角に二人は座った。
ふぅユキはようやく、落ち着きを取り戻したようだ。
マルボロを吹かし始めた。
ユキさん、はめられていたんですよ。
誰にサキさん。
サキ彼女はもうすぐデビューするでしょう。
歌姫として。
どうして分かるのあの悪徳プロクションの男が僕の口車に乗って、口を滑らせた。
思った通りです。
そうで、ユキさんが邪魔だったんでしょうね、同じ年頃、同じ美貌、同じ歌の巧さ。
全て嫉妬していた。
そして、あなたをはめた。
自分の組織のプロクションを使って借金まみれにして、自分の組織の人間、才谷屋に引き取らせ、半ば幽閉させた。
そんなサキさんには、なにか強力な組織がある。
それを駆使して、他にも色々とやっている筈です。
そうだったのユキは悲しげに瞳を潤ませた。
これからどうするのひとまず、潜伏しましょう。
66地区に。
66地区僕も長く住んでいた場所。
ユキさんも暮らしていた場所。
治安は悪いが、居心地は悪くない。
何より、雑多な人々が暮らすから、身を隠すには好都合な場所です。
分かった。
暫く、沈黙が続いた。
日差しは強いが、潮風が心地よい。
沖をゆく貨物船がゆっくり近づいてくる。
カモメが鳴いている。
静かな昼下がりだった。
ブォーンそんな、片時の静寂を破るように、突然、背後にクルマの音がした。
あの、ークグリーンの10式だ。
僕は、今度は逃げるのではなく、自分からその10式国民車に近づいていった。
SSさん、やはり現れましたね。
ちょっとお話を伺いたい10式から降りてきたSS共和国国家公安委員の制服姿の二人組みは表情ひとつ変えずに言った。
何で僕らを付回すお前に用は無い。
話を聞きたいのは、そこにいるユキ、お前だあたしちょっと待て、もう一度言う。
何で僕らを付回すだから、お前に用は無い僕は、すかさず南部89式拳銃をエロまんが構えた。
SSの二人も拳銃を構えた。
睨み合いになった。
僕はユキさんのボディーガード。
いくらSSとはいえ、質問に答えないと、ユキさんは渡せないお前、公務執行妨害になるぞ構わん。
とにかく付回していた訳を話せでは話そう。
最近、才谷屋の行動が怪しい。
それも、そこにいるユキが嫁入りしてからだ。
事情を調べる為、ユキの身辺調査をしていた。
なるほど。
分かった。
僕は、構えていた拳銃を下ろした。
SS達も拳銃を下ろす。
ではSSさん、取引をしよう。
取引僕は、鞄から、先ほど悪徳プロクションの男から奪ったUSBメモリーを取り出した。
この中に、お前さん達が知りたくてしょうがない情報が詰まっている。
これを渡すから、ユキをこのまま連行するのはやめろ。
情報だと一体何の組織だよ、組織。
それが分かれば才谷屋の行動が妙だったのもおのずと分かる。
組織だとでは調べさせてもらおう。
SSにUSBメモリーを渡すと、SS達は、10式からiPad8を取り出し、メモリーを差し込んだ。
こ、これはSSさんなら、このデータの持つ意味が分かるだろ。
も、勿Iさぁ、これで、この組織を壊滅させることだな。
お前さんたちも出世するぜ分かった取引に応じよう。
ユキはこのまま見逃す。
その代わり、このUSBメモリーはもらっていく物分りの良いSSさんだ。
では、さっさとこの場から消えてくれ僕がそう言うと、SS達は10式に戻り、去って行った。
サキを売ったのSSの10式が去ると、ユキが言った。
USBメモリーの中身は薄々感づいていたらしい。
聡明な娘だ。
そうしなければ、ユキさんは自由になれません。
それにそれにサキさんの組織を潰すのは、僕一人ではとても無理です。
共和国政府のお上にやって貰わないと。
サキ、一体何をやっていたのそれは僕にも分かりません。
まぁ、いずれ共和国政府が暴いてくれるでしょう。
そう気が付けば、昼を過ぎていた。
腹が減った。
やるべき事は、これで全て済みました。
あとは、本格的な逃亡生活ですよ、ユキさん分かったわ。
まずは、昼飯でも食いますかうん。
ユキは何だか嬉しそうだった。
アルファロメオに駆け寄っていく。
駄目、駄目、ユキさん。
残念ながら、このクルマとは、ここでお別れしないと。
何で逃亡生活をするには、このクルマは目立ちすぎる。
いつ、どんな追っ手に見つかるか分からない。
そう歩いていきましょううん、わかったユキと僕は埠頭を歩き始めた。
アルファロメオは、名残惜しいが、その場に放置した。
真夏の日差しと潮風に包まれながら、二人は港の倉庫街をゆっくり歩いていった。
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