さよならの意味 

July 24 [Sat], 2010, 2:21
「……別れてほしいの」
「……へ?」
「……雪って昔から鈍感で危機感皆無よね……、そこが人を惹き付ける原因なんだろうけど。……さよなら」

最後まで目線を合わす事なく、由里子は俺の前から去って行った。残された俺はというと、突然の出来事に頭がついてゆけず、ぽかんと間抜け面のまま固まるしかなかった。

「……俺、何かしたっけ……?」

否、三年も付き合ってナニもしなかったのが原因かもしれない。お互い社会人だから会う回数は限られていたし、一緒にいられるだけで楽しかった。


「……いや、明らかにそれが原因でしょ。三年も付き合っててナニもないなんて……由里子さんかわいそー」
「……やかましい……!」

相談したら後輩二人に一笑された。何故だ。
「あのねぇ、先輩。あなた達おいくつですかって話ですよ」
「……29だけど?」
「三十路前だってのに、そんな中学生みたいなお付き合いで満足できる方がおかしいッスよ」
「……三十路前の女となると、結婚とか色々ギリギリですからねぇ……」
「うぅ……!」

そうだったのか……すまん、由里子。俺全然気づいてやれなかったんだな。

「……これで先輩は晴れてフリーってやつッスか」
「うぅ……晴れてとか言うな……由里子ぉーカムバァック〜!」
「……先輩、見苦しいッス」
「やかましい! 好きなんだからしょうがねぇだろ―!」

うわーんと年甲斐もなく机に突っ伏す。きっと慰めを込めた辛辣な言葉を投げ掛けてくるだろうと身構えたのだが、言葉はなく、どこか冷たく刺々しい空気が漂いはじめていた。

「……やっぱ、振られたぐらいじゃ『さよなら』できない、か」
「……は?」

突っ伏していた顔を上げ、二人を見上げる。どっちだ、今わけのわからん事を言ったのは。

「今日は呑みましょ、先輩」
「……付き合いますよ、とことん」

しかし二人ともニコニコしたままで、『犯人』はわからなかった。

「おぅ、とことん付き合いやがれ!」

俺の言葉に二人はにやっと笑った。
この時の俺は何一つ気づいていなかった。
『さよなら』とはどういう意味をなし、由里子の言葉が小さな小さなシグナルを発していた事に。

「由里子ぉ……」

目の前しか見えないこんな俺が、少し先の落とし穴に気づけるわけがなかった。
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