『きよしこ』読みました
2008.03.03 [Mon] 12:04

言葉の最初の音がつっかえてしまう、吃音(きつおん)症の少年のきよし。きよし少年は、父親の仕事の都合で、小学生の頃から何度も転校を繰り返しています。せっかく友達ができたと思ったら転校。自己紹介で失敗したけど、ようやく周りと馴染めたかなと思ったら、また転校。それにしても、言葉がつっかえてしまうこの吃音、なんとかならんのか。  そんなきよし少年の小学一年生から高校三年生までの思い出の出来事が、アルバムの中の写真を見るような感じで描かれていきます。「きよしこ」「乗り換え案内」「どんぐりのココロ」「北風ぴゅう太」「ゲルマ」「交差点」「東京」の七つの話。さびしかったり、いらついたりする少年の気持ちがカーンと胸に響くみたいな、しんみりとしてしまう話の味わい。涙腺にじわじわーっとくる話が多かったですね。  それと、それだけ取り出してみればなんてことなくても、その話では不思議にあたたかな光を放っている描写がとても上手いなあと思いました。母親が、フライパンの中の卵を菜箸で手早くかき回すところ。机の上に、飴色に透き通った蝉の抜け殻が置いてあるところ。両手を広げて走る少年のほっぺたに、冷たいしずくが飛んできて触れるところ。そういう文章の味わいが実にいいんだなあ。あたたかいんだなあ。  それと、話の最初に置かれた木内達朗の挿絵がいいですね。話にすっと入っていける挿絵であり、話にぴったりの挿絵に◎を。
 

『イン・ザ・プール』読みました
2008.03.03 [Mon] 11:59

主人公は伊良部という精神科医。そこに訪れる患者も"プール依存症"等おかしな人なのだが、医者の伊良部はそれに輪をかけて破天荒な人物で、とんでもない治療法を考え出す。あるいは"治療"と考えていないのかもしれない。患者は当然指示に従うつもりはないのだが、何となく伊良部のペースにはまり、いつのまにか治癒してる...。伊良部は現代の名医なのか ? 一般には深刻になりがちな精神的症状を扱っていながら、本作は非常に明るい。伊良部の性格に依る所も大きいが、作者の持ち味でもあろう。患者の症状は一見突飛なものに設定しているようで、"ケイタイ依存症"等、現代ではありがちなものも多い。これに対する作者の回答が本書なのかもしれない。人物造詣では、やる気のなさを前面に出しながらクールに仕事をこなす看護婦のマユミが光る。現代社会の病巣を笑い飛ばす怪作。
 

『ゴールデンスランバー』読みました
2008.03.03 [Mon] 11:56

杜の都・仙台を舞台に、仕組まれた首相暗殺事件の犯人に仕立てられた男が、必死の逃亡者として逃げ切り、生き抜こうとするストーリー。  謀略者や警察、マスコミによって作り出された男のにせの姿が、男をよく知る親友たちと主人公が関わっていくなかで、真実の姿へと変わっていく。最初のうちは、虚像として映っていた絵をばらばらにして、あるべき場所にパズルのピースをはめこんでいくと、最初の像とは全く違う青柳雅春の実像が浮かび上がってくる、そんな感じ。ぱたり、ぱたりと、主人公・青柳雅春の虚像が引っくり返されていく展開が小気味よく、絶妙でしたね。  暗殺事件の真相は、事件当時のものとは違っていたことを明らかにした上で(事件から20年後の話を描いた後に)、黒い霧の中に葬られた事件を、カットバックを巧く使いながら描き出していく話の展開、伏線の生かし方も見事だったな。殊に、青柳雅春の必死の逃避行を描いていく中に、彼と親友、恋人との思い出の光景が差し挟まれるところがよかった。容赦のない、冷酷無惨な謀略事件と比べると一層、彼らの脳裏に浮かぶ思い出の風景が、あたたかく輝いているように見えました。  久しぶりに読んだ伊坂ミステリー。これは面白かった!
 

『オーデュボンの祈り』読みました
2008.03.03 [Mon] 11:52

誰も知らない不思議な島の話. 小川洋子「密やかな結晶」を思い出した. 現実には有り得ない,それなのに違和感なく入り込める世界観. 非常にわかりやすい,すっきりとした作品. これがデビュー作だから驚き. ちなみに作品に登場する男性は姓のみ,女性は名前のみで呼ばれている. このように,細かい点に気をつけていると,不思議な世界に読者を入り込ませるための者の工夫を見つけることができる. 伊坂幸太郎の作品は初めてだが,他のものが読みたくなった.
 

『砂漠』読みました
2008.03.03 [Mon] 11:50

前半は登場人物紹介みたいな感じややまったりと進行します。 が、ここで時間をかけた分、 その後の進行の際にそれぞれのキャラクターが生かされ、 それぞれのが自然に動いているように見えます。 ちゃんと、それぞれが、それぞれに。 今までの伊坂作品には絶対的なキャラがいて、 その人の都合のよいように、 作者の都合のよいように偶然がおきたりして 強引な展開だなぁ、と感じさせる部分が多かったのですが、 今回はそういうことも少なかった感じです。 あと、最後になってある仕掛けが判明します。 が、それもそれで途中に複線がはられているんですが。。。 大きなヤマを越える物語ではなく、 学生時代に起こる少しずつの小さな出来事を積み重ねるお話なのですが、 それでいて、それぞれが関連づけられていて、 最後にそれら張られた複線がキチンと心地よくスッキリと整理される。 だからキモチ良く読み終えることができる。 ほんと、読み手に読ませる手法が上手いなぁと思います。この作家さん。