1話完結 

2005年11月23日(水) 0時54分
「さっき蝿を殺して見せたじゃないか。」
「あいつはもう寿命が僅かだったからな。明日の朝にはこの部屋の端のほうで死ぬ予定だったんだ。それを少し早めただけだ。このくらいなら規則に反さないよ」
規則って、死神にも規則があるというのか?僕が少し訝しむと、その表情を見てなぜだか死神は嬉しそうに口元の笑い皺を深めた。前のめりになっていた体を後ろに反らせ、椅子の前足を浮かせ後ろ足だけで体を支えながら前後に揺れだす。
「死神は人間が思っているような残酷な神じゃないんだよ。あんたらからすると、いわばイエスに仕える農夫なんだ。俺たちは寿命がくる人間たちの前に現れ、時間通りに魂を刈り、報告に従い天国や地獄に連れていく。ただそれだけだ。何も町を歩いていて気に入らない人間を好き勝手に殺しているわけじゃない。」
「・・・じゃあ、その死神が非番の日にどうして僕のところへ?」
「もちろんプライベートな用事でさ。ルイス・ド・アルメイダ」
椅子から勢いよく立ち上がると、僕の視界からふっと消えた。目を見開くとその視界の端に今までなかった影を捉えてそちらを見た。死神はいつの間にか僕の横に来ていて、僕の肩に手を置いていた。
「俺はあんたの名付け親だからな。」

無題 

2005年11月23日(水) 0時49分
僕は固まったままで、一歩も動けない。
「・・・トリックだ。」
「少年探偵か、お前は。そう思うのは勝手だけどな、あんまり俺をいらつかせると厄介だぞ」
淡々と話す声色には、いらつきなんて微塵も感じられない。それよりいらついているのは僕のほうだ。いや、怖くて震えているのかもしれない。目の前の存在を憎んでいるのかもしれない。全身で否定しているのかもしれない。
僕は混乱していて、何が何だか分からなくなっている。この後どうしたらいいのか分からないなどと思うなんて、この孤児院に入ってから初めてのことだ。
「まあ、とにかく座れよ。ちなみにこれは誘いじゃなくて命令だからな。」
死神の目が鈍く光った。蛇のような鋭い三白眼が目蓋の下でぐるりと動く。僕は蛙そのものだった。
 手にした箒を放さないまま死神から最も離れた椅子にゆっくりと座ると、死神は満足したようににんまりとして机の上で前のめりになって頬杖を突いた。
「お前には余裕がないようだし、結論からいこうか。どうせお前は俺がこの孤児院の誰かを殺すと考えているなら見当外れだ。もしそうなら、わざわざお前の前に姿を現したりしないでさっさと仕事を済ませて帰ってるさ。今日は非番なんだ。俺は自分が勤務中のときに決まった寿命のものの魂しか刈れない。だから今日は誰かを迎えたりは出来ないんだよ。」
淡々と話す彼の表情はにやにやと笑ったままだが、全く感情が感じられない。本当にこの世の者ではないのかも知れない。生き物と会話をしているという気がせず、背筋がひやりとした。

無題 

2005年11月23日(水) 0時31分
それを聞いて僕は飛び上がった。この孤児院で僕をファミリーネームで呼ぶ奴なんていない。覚えているかどうかも疑わしいのだ。聞きなれない声に僕が振り返ると椅子にどっかりと腰掛けて僕を見上げている「死神」の姿があった。一体どこから入ったんだ?それより、奥から来たということは子どもたちが・・・
「お前、子どもたちに何をした!?」
「何にもしてねえよ。お前に用事があるって言ってるだろ、アルメイダ。」
僕は身を硬くして叫ぶ。奴は面倒くさそうに大きく出した額を掻いている。
「どうして僕の名前を知ってる!」
「煩い奴だな、来るなり挨拶もなしに質問攻めかよ。死神だって神だ。神様がお前より物知らなきゃ赤っ恥だろう。それともひとつ仕事をしないと信用しないか?」
それを聞いて僕はぐっと息を呑んだ。こいつが死神だろうと殺し屋だろうと変態だろうと、子どもや僕が死んでは困る。
「お前が真摯な態度で俺を迎えるなら、会話の一端として質問に答えてやってもいい。ということは、お前はまず俺に失礼しました、と謝って挨拶し、茶を出すべきだな。だろう?」
「不法侵入者をどうして迎え入れなきゃならないんだ!?」
僕の問いかけに死神は大げさなため息で答える。そして空を彷徨っている蝿を見上げて、掌が上になるように裏返す。中指だけをぐいと自分のほうに向けると、蝿はぽとりと床に落ちた。
「これで満足か?それとも人間を殺さないと満足できないか?」

無題 

2005年11月23日(水) 0時30分
鍵を全部閉めてカーテンが閉まりきっているのを確認する。孤児院にはたまにこういった類のよっぱらいや変人やその手の業者が来て、安い金やガラクタを差し出して泊めろだの子どもを売れだのお前らはクズだのというつまらない文句や商売をふっかけてくるのだ。この孤児院ではその全てを厳禁としているので僕も厳戒の体制を取る。何か武器になりそうなものはないか、と辺りを見回し、手近にあった箒を手に取った。そのまま体制を低くして自分なりに身構えながら相手が踵を返し、足音が遠のくのを待つ。だが一向にそのような音はしない。それどころか気配もない。僕は手に汗を握ってドアを睨むが、5分経っても10分経ってもそれは変わらない。もしかしたらもう帰ったのかも知れない、と思ってそろそろとドアに近づくと、後ろの廊下から誰かが歩いてくる足音がした。振り向かずにこっそりと声を掛ける。
「誰だ?もう遅いんだから早く寝ろ」

「遅いのか?俺にしたらこの時間は活動範囲内だぜ、アルメイダ」

無題 

2005年11月21日(月) 23時19分
 そんな1日を10年間、一切の変化もなく過ごしてきた。そしてこれからもそんな日々が続くのだろう、と思っていた。とは言え、僕も好き好んでこんな生活をしているわけではない。これからは少しずついいようになっていくかもしれない、と希望を抱いていた時期もあった。こんな僕でも大人になればここを出て、自由に働き、遊び、学び、恋だってできるはずだと信じていたのだ。
だが、それは幻想だった。孤児であり、学校もまともに出ていない僕が普通の人と同じ生活ができる給料は稼げない。蓄えもない。そんな人間がどうやって自由になれるのだろう、と葛藤もした。
いや、それは言い訳だ。本当に僕が必要としていてなおかつ持っていないものは、度胸だ。
 今まで一緒に育ってきた兄弟たちは、巣立っていく者のほうが明らかに多い。仕事を孤児院から紹介されそれを忠実にこなして生きていく者や、自分で仕事を探すと言って出ていく者もいる。また何も言わず、何も残さずに去っていった者もいる。けれど彼らの生活を羨ましいと思った例はひとつもない。事故、失業、自殺・・・僕らが与えられるような仕事は危険であり、人権がなく、安月給だ。なにより、ここを出てしまうと誰もかれもがひとりぼっちになってしまう。言葉も知らず、単純な仕事をすることしか学んでいない僕らはまともな知り合いも友人も出来ず、結局ひとり朽ちていく者もいる。ごくまれに幸福に暮らしている者たちもいるが、僕がそうなるという保障はどこにもない。だから、十分大人になった今でもここを出ず、薄汚れた孤児院で新たな孤児たちと寝食を共にしている。仕事をしているからと言っても給料は全額孤児院に回してしまうので僕は常に無一文の状態だった。僕が望んでそうしているのではなくある年齢を超えた孤児はそうしなければ滞在してはならないという規則があったからだ。それでも僕はここを離れられなかった。自由に憧れ、渇望したこともあったが今では生への渇望の方が強いのだ。屋根とベッドのある部屋を与えられ、捨て去られている本を読めるだけで十分だ。それ以上を望んで得られるのはまともな人間であって、僕はまともではないのだから仕方ない。そう思っていた。
 この「死神」が現れる日までは。

1話 

2005年11月21日(月) 23時13分
 僕はその日暮しのしがない村人だ。家族はいるが家庭はない。僕は幼い頃に両親を亡くし、親戚をたらい回しにされてから結局現在住んでいる孤児院に引き取られた。それから10年ほどの歳月が流れたが、僕の生活は変わらない。強いて言うなら僕が成長した分仕事が僅かに増えたくらいだろうか。
早朝から庭の畑で野良仕事を済ませると、大勢の子どもの食事を作る。次にぐったりとくたびれた服に渇を入れる気でごしごしと洗う。それが終わると昼は町まで1時間弱歩き、工場で働く。ブリキという硬く火に強い鉄製の板をを休みなく叩き、伸ばす。夕日が落ち、夜が暮れたころにその作業がやっと終わる。来た道のりをまたとぼとぼと歩いて帰り、町で買ったり譲ってもらったりした僅かな食材を子どもたちと分け合って夕食を摂る。そして僅かに増えた、縄結いの内職を終えてからベッドで本を読んでやっと就寝する。

序章 

2005年11月21日(月) 22時28分
「こんばんは〜」
ドアを開けると強面の男が立っている。髪は明るい金髪で総立ち。ピアスを両耳、眉の上や鼻にまでいくつも開けている。綿で出来ただぼだぼの上着を着ている。それには見たこともない刺繍のようなものが描いてある。下は4インチ以上は大きいだろうと思えるデニムを穿いており、唯一フォーマルで高級そうなブーツはつま先しか見えない。
怪しい、怪しすぎる。開け放ったドアを僅かに手前に持ってきて問う。
「どなた様でしょうか・・・?」
「死神です。」
ドアを一気に閉めたのは言うまでもない。

諸注意と紹介 

2005年11月20日(日) 23時16分
初めまして、こんにちわ
このブログはブログではありません。
当日を除いて全て創作小説となる予定です。
ファンタジーであり、フィクションです。
各団体名称等には関係がなく、
何者かの思想、権利を侵害する意図は一切ありません。
毎日更新していけるかどうかはわかりませんが、
やり遂げるのを目標に日々少しずつ書いていきます。

内容に関して
ファンタジー創作もの、とだけ。
予定だけを書き連ねても、書ける自信がないので
まったりゆっくり書くようにします。
P R
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