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【肥田美佐子のNYリポート】オバマ流医療保険制度改革は在米日本人を救えるか / 2010年04月05日(月)
 米東部時間3月30日、米国が、ついに歴史的な医療保険制度改革に向けてスタートを切った。23日の医療保険制度改革法誕生に続き、改革の予算に関する修正法案も成立の運びに至ったのだ。先進国中唯一国民皆保険制度がなかった米国が、「文明国の仲間入りを果たした」(ニューヨークの看護教育関係者)のである。

 改革のコストは、10年間で9380億ドル(約88兆円)。2020年までに、補助金などを通して無保険者約4500万人のうち3200万人を保険に加入させ、保険加入率を83%から95%に引き上げるのが主なねらいだ。全米に「保険取引所」を創設し、安価な民間保険会社の保険プランを供給することで、業界の競争を促し、野放し状態の保険料高騰を抑える目的もある。成功のカギは、「米経済の6分の1の規模に匹敵する一大成長産業と化した保険業界が、規模に見合う結果を出せるよう改革する」(3月25日付『タイム』誌電子版)ことにある。

 また、富裕層への増税や治療の効率化などにより、2兆2000億ドルという、先進国のなかでも突出した年間医療費を抑え、10年間で1240億ドルの財政赤字削減を目指すという。

 共和党などの猛反発を受け、政府運営の「公的保険」制度の創設が盛り込まれなかった今回の改革を「市場原理」に基づくものだとし、「フランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策などとはほど遠い、非常にコンサバなものだ」(ライシュ元労働長官)と批判する向きもある。とはいえ、事実上の皆保険制度への一歩を踏み出した「オバマケア」(オバマ大統領のヘルスケア<医療保険制度改革>)を評価する専門家は多い。

 医療保険制度に詳しい、あるニューヨークのベテラン経営コンサルタントは、「これだけ多くの国民が医療へのアクセスを絶たれている状況は『犯罪』だ」とまで言い切る。仮に無保険者が伝染病にかかり、治療をしなければ、伝染病が蔓延する。こと医療となると、市場の「需要と供給の原理」は当てはまらないというわけだ。

 「今回の改革は、わたしたちの世代が経験した社会政策上のチェンジのなかで最大のものである。勤め先を通して加入している人には直接的な変化は現れないかもしれないが、失職したり転職したりしたときに違いが出る。既往症のせいで加入を拒否されたり、苦情を申請したことで保障を打ち切られたりすることがなくなるだけでも、非常に大きな差だ」

 医療制度の向上を目指す民間団体「コモンウェルス・ファンド」のワシントンオフィスで働く上級政策担当部長、レイチェル・ナザム氏は言う。

 だが、共和党はもちろん、改革支持者の間からも聞こえてくるのが、コストへの懸念だ。1240億ドルの財政赤字削減という米連邦議会予算事務局(CBO)の試算については、民主党議員でさえも懐疑的な人が少なくない。無保険者が州民の25%を超えるテキサス州やカリフォルニア州は、予算捻出に四苦八苦だ。

 米国を屈指の「医療費大国」にしている主な原因の一つが、「全医療費の3割に相当する不必要な検査や治療」(前出タイム誌)である。

 「(訴訟大国)米国には、医療過誤事件を求めて絶えず患者を探している弁護士がいる。『アンビュランス・チェーサー』(救急車を追いかける人)と呼ばれる弁護士たちだ。米国の医師たちは、常に患者から訴えられるかもしれないという不安と共存しながら診察に当たっている。万一に備え、(患者を最初に診察する家庭医は)独断で診断を下すのではなく、他の専門医複数に診せることでリスク分散をせざるをえない」

 ニューヨークのベスイスラエル・メディカルセンター内東京海上記念診療所院長であり、アルバート・アインシュタイン医科大学内科助教授でもある桑間雄一郎氏は言う。東京海上記念診療所の年間診療数は約2万人。桑間医師は主に日本人患者を担当しているが、英語を母国語とする医師や米国育ちの医師たちは、米国人患者を診察することも多い。

 改革で保険加入者が増加し、訴訟の確率が高まれば、むしろ検査や治療が増え、医療費がかさむ可能性もある。医者たちは、過度の訴訟を制限する「不法行為(民事訴訟)改革」制度の導入をオバマケアに望んでいたが、実現しなかった。一部メディアが、今回の改革から恩恵を得られない「負け組」のグループの一つに「ドクター」を挙げているゆえんだ。

 一方、「勝ち組」として羨望のまなざしを一身に受けているのが、大幅な売り上げ増が見込まれる製薬会社である。同業界は、一貫して改革を支持してきた。今年、戦力となってきた薬剤の特許が次々と失効し、売り上げ減が予想される米製薬会社にとっては、願ってもないタイミングである。

 「特に(特許が切れた)後発医薬品の売り上げが伸びるだろう。また、改革で、特許期間が3年延長されるとも聞いている。研究開発には莫大なコストがかかるため、朗報だ」(米製薬大手関係者)

 そして、勝ち組の筆頭格は、言わずもがな救済の手を差し伸べられる未加入者である。無保険者の55%が35歳以下であることを考えても、「中流の若年層をはじめ、働く人たちが改革によって守られるようになるのは、とてもいいことだ」と、ニューヨークで働く日本人看護師は言う。

 ニューヨークに住む推定5万人余りの日本人(07月10月現在、在ニューヨーク日本国総領事館調べ)も改革と無縁ではない。長期滞在者や永住者のうち、経済的理由などから保険に入っていない人は1割を超えるともいわれるが、そもそも、保険加入率すら分からないのが実状だ。同時テロの際にも、日本の主要メディアが駐在員の安否しか報じなかったことに対し、現地に根を下ろしている日本人の間から落胆と怒りの声が上がった。

 海を越えて日本企業と仕事をし、長年にわたって母国の繁栄に貢献しながら、医療へのアクセスすら持てない在米日本人の自営業者や非正規労働者は少なくない。今回の大改革は、そうした日本の統計上では「見えない」邦人たちにも光を当ててくれるのか。米国に住む日本人のすべてが、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(日本国憲法第25条)を手にする日はくるのか。

 治療のために一時帰国する「医療難民」、ER(救急治療室)に駆け込む人、保険が利かない高価な薬の代金を数年がかりのローンで返済する人――。次回のコラムでは、そんな日本人と米国医療保険制度の実態に迫る。

【4月2日16時10分配信 ウォール・ストリート・ジャーナル
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100402-00000308-wsj-bus_all

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