時計 

2005年12月15日(木) 22時54分
僕は新しい時計を探していた。
母が貰い物の時計が入った箱を3個出して「好きなのを選んでいい」と言ってくれた。
箱の中には色んな時計が入っているけれど、僕が欲しい銀色でフレームの大きな時計は見つからない。
3つ目の箱にイメージに近いのが入っていたけれどよく見るとデザインが変だしかなり使い古されていて傷が沢山ついている。

真相 

2005年12月14日(水) 1時25分
僕が坂の上から海を見ていたら、坂下に建ち並ぶ黄土色の建物の間を深緑色の飛行機がジグザグに飛んでいるのが見えました。
『変な飛び方をしているな』と思った次の瞬間、飛行機は音もなく海に墜ちました。
飛行機は墜ちるモノだから僕は別段驚きません。
隣りにいたノロさんも「墜ちましたね」と笑いながら無感動に言いました。
どうしてかはわからないけれど、僕は墜落現場に行かなければという思いにつき動かされ「僕行きますね」とノロさんの反応も見ずに走り出しました。

海には自衛隊員が沢山いたので墜落したのは自衛隊機のようです。
一人の隊員が「本当のことを知っている」とこっそりと教えてくれました。
屈強そうな男は僕に腕を見せていたずらっぽく笑い「僕はこういう人なんだ」と。
腕には浅いリストカットの痕がいっぱいありました。
親近感から?礼儀から?張り合って?
兎に角彼に同類であることを示す為に僕も左腕を出して「僕もこういう人です」と見せたけれど彼はろくに見ていませんでした。
彼は「今は仕事に戻らないといけないからまた夜来るように」と言って僕に白い塊を手渡して海に(或いは地下に)潜って行きました。

白い塊を持った僕は病院の待合室にこっそりといました。
僕は彼のことを全然信用してなかったしそれ以前に大嫌いだと思っていたのです。
恐らく生理的嫌悪感のようなものでしょう。
僕は彼とは別の『本当のこと』を知っている人から情報を盗みだそうとしていたのでした。

白い塊は手で触れているだけでも崩れていきます。
よく見るとそれは下半分は昔の化粧品の容器で白い塊は飛び出していました。

何者かに見つかりそうになり僕は咄嗟に長椅子の後ろに身を隠すと同じようにしている男(靴さん?)がいました。


・サンダーバード
・複合されたACLイメージ?
・買ったばかりのトリートメント
・小太りな人:靴さんは敵なのか味方なのか?

 

2005年11月15日(火) 21時13分
絶対的な眠気は決まって火曜日にやってくる。
それは10時過ぎに始まり15時少し前に終わる。
誰が決めた訳ではないし勿論僕が決めたのではないけれどそうなっているのだ。

大体において僕は眠り過ぎる傾向にあると思う。
放って置かれれば平気で27時間は眠ってしまうのだから、僕にとって毎晩布団に入り横になることはわずかとは言い難い緊張感を伴う。
寝付くまでにCDは最低2回半回るし、朝は目覚ましをセットした時間の2時間前に目が覚め、15分起きに時計を確認することになる。

安眠に程遠いのは確かだ。
しかしその結果が火曜日の眠気となるのは不可解だった。
何故火曜日でしかも決まった時間でなければならないのだろうか。

「逃げている」とKは言った。

「特待生になれなかったのも彼女にフラれたのも火曜日の眠気のせいなんかじゃない」
その特徴的な乾いた声はいつだって断定的で僕をいたたまれなくさせる。
「でもそれは事実だ。火曜日でさえなければいつだって完璧にできるはずなんだ」
僕が少し怒って言うとKはニヤリとした。

「君は成功を恐れているんだ」

僕は笑うKの横顔を眺めた。
Kはさっきまで僕が見ていた窓に視線を向けてはいるけれどきっと何も見ていない。
Kが見ているのはいつだって全く別なんだ。

「ねぇ、それって…」

けれど僕が言い終わる前にKはいなくなる。
行き場を失った言葉を僕はゆっくりと飲み下す。

成功を恐れている?
そんな馬鹿な話があるのだろうか。

勿論答えは返ってこない。
もう一度窓に視線を向けてから小さく溜息をつき、そして欠伸をしてみた。

 

2005年10月27日(木) 11時37分
先週の木曜日、雨が降っていたから散歩に出かけたんだ。
君もよく知っていると思うけれど僕は傘を持っていない。
木曜日の雨はだんだん大粒になって目を開けているのもやっとの時に運良くファミマを見つけたんだ。
でも入ってみると壁も床も天井も真っ白で先生の部屋みたいだった。
実際はコンビニでも病院でもなくて古本屋だったんだけどね。

読むべき本が一冊もない古本屋。

彼等は出版された瞬間に価値も役割も目的も意味も永遠に失われていた。
本来ならば焚書にすべきだよ。
でもこの店はそれを許さないで彼等を安っぽいパイプ棚に押し込めて一晩中真っ白い光を浴びせ続けていた。

誰かが囁いていた。
「もう一度必要とされることも愛されることも望んでいないから連れてって」
ただ眠りたいんだね。

いつの間にか雨が止んでいたから僕は店を出た。
そして僕は今家で君に手紙を書いている。
彼等の悲鳴にも似た哀願する囁きを君に伝えたくて手紙を書いている。

古本屋の名前は確か第一書房といった。

 

2005年09月26日(月) 20時40分
この世界は変えたがる人間と変えられたがる人間が多過ぎる。

「この服を着て」
「こんな髪型にして」
「こういうのを好きになって」

『交際』というのは束縛だけではなく、改造も許可しなければいけないのだろうか。

「ねぇ、私のこと好き?」
「どうして何も言ってくれないの?」
「君の言うことなら何でも叶えてあげたいんだよ」

五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い

僕は誰にも変えられたくないし、誰のことも変えたくなんかない。
僕は君の邪魔をしないから、君も僕の邪魔をしないで。

 

2005年09月12日(月) 16時02分
1096日前の木曜日、偽者の教祖様が溺れて死にました。

その前日の水曜日。夜から降り始めた雨は、年度末の予算消化の為に意味なく掘り返されたり埋め戻されたりした継ぎ接ぎだらけの道路にいくつもの大きな水溜りを作りました。
その一つである直径60cm、深さ3cmの水溜りが犯行現場であり、凶器となったのです。

僕は火事を見ていました。
子供の頃に住んでいたのはやたらと坂道の多い路地裏で、家は密集していて一度火が出ると次々と燃え広がります。
案の定延焼は止まりません。
ふと見ると僕の左足に火が点いていました。みるみる足首を膝を腿を焼いていきます。
不思議な事に熱さも痛みも何も感じません。他人の家が燃えるのをうっとりと眺めていたのですから、僕が燃えたからと言って騒ぐのは間違いのように想います。
そして左足が全て燃え尽きると、焦げた骨がトンっと澄んだ音を立てて落ちて今度は左手に燃え移りました。
左手が落ちるのも時間の問題のようです。左手の次は右足でしょうか?火は上へ上へと燃えると聞きますから次は頭かもしれません。

遠くから消防車のサイレンが聞こえてきました。

5時15分。
いつもよりも15分早く眼が醒めたのは、部屋に漂う煙草の煙のせいです。僕は昔から呼吸器系が弱いのです。
この家で煙草を吸うのはひとりしかいません。
リビングには蜜さんがいました。

「おはようございます」と僕は蜜さんに言いました。「お久し振りですね」
蜜さんは僕の朝の挨拶を無視しました。
「今日は降伏さんの3回忌だから迎えに来たの」

 

2005年09月07日(水) 12時53分
その人はまるで回遊魚のように、細長い廊下を音もなく流れるように通り過ぎて行きました。

「あぁ、それ小林景だよ。なんていうか・・・・あれは一種の病気。初等部ん時から授業中とか関係なしでフラフラし始めんの。で、理由聞いても本人『わからない』しか言わなかったらしいし先生も諦めてんじゃない?問題起こす訳でもないし暫く歩いてくると帰ってくるし、もう誰も気にしてないよ」

彼の『徘徊』は学校公認であり、ごく自然なことだと友人は言った。

僕の眼から見た君は、仲間から自らはぐれた一匹で漂う回遊魚。
君の眼に僕はどう映るのだろう。

窓に映った僕は、なんだか頭蓋骨を取り外された犬のようだった。

 

2005年09月06日(火) 0時02分
宵の口。
部活なんかも終わって閑散とした校内。
暗い廊下を照らすのは非常口の緑色の光。

今朝の悪夢みたいな静けさをひとり歩いていると、何故か口笛で「恋のフーガ」とか吹いてみちゃって嫌でも愉快な気分になってくる。
そんな風に誰もいないと思い込んでいる時に螢みたいに赤い光が動いていたら、足を止めても不思議じゃないだろ?

ま、赤い光の瞬き方と漂うヤニの臭いで螢じゃなくてそれが煙草だとはすぐにわかったけど。

煙草なんて別に珍しかない。外では皆慣れた手つきで吸っているし、まぁ俺も吸ってる(薄荷は邪道とか意味わかんねーこと言われるけど)。
でも校内での喫煙は入学以来お目にかかったことがなかった。ウチの学校は特別厳しいとかお上品だという訳じゃない。強いて言えばマトモで知恵があるのだ。中途半端な校則違反や法律違反で自己主張するよりも、もっとやり方を心得ているってこと。あと金もあるし。

だから足を止めたのは不可抗力。
近付いたのはくすぐられる好奇心。
どんなお馬鹿ちゃんなのか顔を確かめてみたくなるのも当然だよな?

ソイツは咥え煙草で窓の手摺に頭をのっけて暗い空を眺めていた。
俺の気配を感じ取ってか顔をあげたので結果的に見つめ合う。
何か予想に反してちっこい。頭もちっさくて眼ばっかデカくて変な顔だけど、大人しそうなお子様に見える。

「じろじろ見んなよ、小林景」

結構凄味のある低音の声。

うわッ。見られるようなことわざわざやってんのにこの言い草。前言撤回だな。イヤ、ある意味予想通りか?キレる若者は大体見た目普通っていうしね。どっちにしても馬鹿で餓鬼でついでに気狂い決定。しかも何こいつ。何で俺の名前フルネームで知ってんの?クラスだって50人もいるんだ。関係ないヤツの名前なんかいちいち覚えてられねぇ。まして違かったら、そんなのいないのと同じだ。

「邪魔して悪かったな」

無関係(馬鹿で餓鬼で気狂いなら尚更)なのは無視するのが一番だと言い聞かせて、でも一応負けてらんねーと掃き捨ててつつ教室から踵を返す。
こんな時間まで部室で寝てたんだから腹が減ってもいいのにムカムカする。
何かスゲー損した気分。

もう一度「恋のフーガ」を吹いてみようとする。
だけどもうそれがどんな曲だったのか思い出せない。
なんか呆然として、俺は緑色の廊下を歩いた。

 

2005年08月19日(金) 4時46分
僕はやわらかな陽の光の下にいた。風の音と鳥の声が「くわわわわわん」と響き、空には雲はなくどこまでも青かった。
真っ白に輝く太陽を眺めていると、耳元で「ひう」と音がして膝が折れてその場に崩れ落ちた。白かった視界が赤く染まった。綺麗に刈られたばかりの芝生は気持ちがよく、今さっき斬られたばかりの喉から溢れる血は暖かい。
春…なんだと思った。

目を開けた時の方がずっとずっと暗いなんて、まるで夢のようだと思った。けれどさっきまで僕を包んでいた幸福な血の匂いは消えていて、此処は消せようのない現実だとわかった。
唇がジンジンと熱を持っていた。
終わった後はいつも唇が痛い。
舐めても錆びた鉄の味はしないし、ただ歯の痕が少し残ってるくらいだろう。唇を指でそっと触り、その指を眺めてみる。暗闇に浮かぶ指の輪郭には勿論血はついていない。

もう血は流れないのだ。

「もう血は流れないのだ」と、声に出してみる。
それがどうしたと言うのだろう?
そう。どうもしない。
事実・客観的事象。

僕は慣れていっている。

「僕は慣れていっている」と、また声に出してみる。
選びようがなかったのだから。僕にはどうしようもなかったのだから。
でも、それすらもいつの間にか空気を吸うことのように自然なことになるのだから、わざと吐き出す為に、僕は溜息をついてみた。

 

2005年08月12日(金) 0時06分
真昼の一番暑い時間。太陽をさえぎる雲は一つもなくて、焼けたアスファルトからはゆらゆらと陽炎が立ち昇っていた。兄さんはベランダのカウチに横たわって眠っていた。薄い胸は規則正しく上下に動き、額から首筋へ幾筋も汗が流れていて、白い肌が時折キラキラと光っていた。目を閉じていても眩しいのか、目を覆うように左手が置かれていた。
兄さんの左手の薬指は第一間接から先がない。
17歳の夏までは確かにあったけれど、秋が始る前に何処かでなくしてしまった。
普段はとても自然に隠しているから、僕も兄さんの指がないことを忘れているし、多分他人は気付きもしないと思う。その薬指は先端にいくほどずんぐりと丸くなっていて、兄さんの指ではなくて別の生物のように見えた。
「工場では事故なんて日常茶飯事なんだ」ぽつりと兄さんが呟いた。
「工場では機械も人間も同じタイミングで24時間動いているのに、時々タイミングがずれてしまう。でも遅いんだ。気付いた時にはもう血だまりは出来上がっている。日常的だからその後の対応も早いものだよ。救急車を呼んで、掃除をして、人が一人いなくなって、金がこっちからあっちへ動く。それで全部なんだ。その間一度も機械は止まらないよ。人間よりも機械を止める方がずっと効率が悪いってことだね。」
一息でそう話して、目を瞑った。そしてまた目を開いて、左手をひらひらと目の上にかざす。
「指は五本あるけど、値段が違うんだ。例えば親指なら掛け金の20%、人差し指は8%、それ以外は10%ってね。つまり薬指は10%になる。小指は意外とバランスをとるのに必要だけど、左手の薬指なんてあんまり役に立たないからあってもなくても構わないよ。結婚指輪が出来ないくらいかな。」
兄さんは笑っていたから、僕も笑おうとしたけどうまく笑えなかった。口はからからに乾いて、息が苦しかった。
「でもいつだって事故なんだよ。だって手に入る掛け金はたった10%で、弾き飛んだ指は二度と戻らない」
兄さんはにっこりと笑って、左手で僕の唇をそっとなぞり、薬指を口の中へ入れてきた。
蝉の声がやけに五月蝿かった。そういえば帰る途中、逃げ水の中に蝉の抜け殻と潰れた蝉が仲良く並んでいた。あの時も蝉は鳴いていたのだろうか?確か蝉は僕の手の中で…
『兄さんはたったそれだけの為に、自分の指を機械に飛ばさせたんだ』呑み込めない唾液が僕の口から溢れ出し、零れ落ちた。
P R
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