あまいくちづけ

March 06 [Sat], 2010, 1:01
来週の今日は広島でおデートの日。という時
いつものように何気ないメールをして
そこに、以前のような一言を添えた。

<早く会ってチュウしたいなあ(*´з`)んむー>

しおん、どんな顔でメール見てるかなあ。ひひひ。
にやにやするかなあ?
少しして、珍しく返信が来た。

<1週間待ったらチュウできますよ>

ぎゃ!
こんなどうでもいい一言メールに
勝手にドギマギする自分が恥ずかしい。
うれしい、というか
恥ずかしい…。
でも、うれしい…。

とかいうこともすっかり忘れた1週間後
いつものように、飛行機で広島へ向かう。
お迎えは午後8時。
少し時間があるので、空港の喫茶店でお茶をする。
ホットカフェオレをちびちび啜りながら
ふかふかとタバコを吸う。
あと1時間もなくしおんに会える。

いつもいつもお久しぶりから始まるのは
もう慣れたことだけど
やっぱり少し緊張もあったり、
やっぱり会えてうれしい気持ちが
むくむくと湧いてきてソワソワさせる。
本を読んでいても、
文字が意味になって頭に入らない。
到着の電話が待ち遠しい。

そんな時間丸ごとが
愛おしいと感じるよ。

ソワソワしていると、ケータイが震える。
お迎えに来たので、外に出て来いという。
はーいとご機嫌で返事をして
いそいそとお会計を済ませて外へ向かう。

到着ロビーを通って、
ガラスの自動扉を通ると
少し先に白の車が止まっている。
近づいて運転席を確認。
にやにやしているしおんが片手を上げた。

後部座席に荷物を置いて
助手席のドアを開けて乗り込んだ。

「おつかれさま」
「うん」
「お迎えありがとね」
「結構待った?」
「いや、大丈夫だよ」
「じゃ、行くか」
「はーい」

ぐんぐん車は福山を目指して進む。
その間もおしゃべりは途切れることもなく
他愛ない話で盛り上がる。

2時間ほどで尾道を通り過ぎて福山に到着。
ホテルにチェックイン。
カギを渡されて、部屋へ向かう。

部屋の隅に荷物を置いて
外出用の小さいバッグにお財布を入替える。
と、しおんが後ろにきて抱きしめた。

「お?」

特に何も言わないので
後ろへ向き直したら
ぎゅっとしてくれた。
珍しいな。
これってうれしいな。
会いたかったって気持ちが伝わる
優しい抱きしめ方。

「会いたかったよ」
恥ずかしいけどちゃんと言わなきゃね。
「うん(照」
しおんの精一杯だとわかるから
一言の返事でも瑞々しい気持ちになる。

言葉にすると恥ずかしいね。
恥ずかしいけど、うれしいね。
じわんと波紋みたいに、愛おしいが広がる。

しおんの右手が左のほっぺにさわった。

「やわらかい」
「えへへ(照」

あ。
と、思う間もなく
しおんの顔が近づいて、唇がそっと触った。
一瞬ふわっと唇同士がさわって離れる。
恥ずかしそうな、照れた目で笑っている。

「もう1回」
「ん」

今度はゆっくりとしおんの顔が近づく。
さっきより、ちょっとだけ長く唇が触る。
少し離れて、また触る。
音もなく、何度も唇が唇に触った。

しおんの右手は背中をそっと包んで
あたしの右手としおんに左手は指の間を握って
お互いの掌から愛おしい気持ちが混じって
お互いの体へまた戻っていくみたいに
甘い甘い水があたしを満たしていく。

その間にも、何度も触る唇が
ふかふかして夢見心地。
唇が離れた一瞬に、ため息が出る。
心も体もほぐれて気持ちいい。

「どうした?」
「ん、チュウ気持ちいい」
「そっか(照」
「もう1回」

今度は少し開いた唇から
しおんのやわらかい舌が、あたしの唇にさわった。
どきっとして、繋がった手に力が入る。
同じようにあたしもしおんの唇を舐めた。

舌と舌が触ると、背中がふわふわして
もっともっとしたくなる。
舌のやわらかい感触と
唇のふわんとした感触と
歯の固い感じ。
全部を使って気持ちいいと伝えたい。
全部を使って愛おしいと伝えたい。

長い時間、ただキスをした。
深く、浅く、やわらかく、
愛しているよ、と伝わるキス。
背中をやさしく撫でてくれる手も
髪を撫でる手も
少し漏れるため息も
言葉も交わさずにただ絡める舌も
しあわせの証。

長い時間そうして、やっと離れた唇を見ると
赤く濡れていてドキドキする。
目が合って笑う。

もう一度そっと抱きしめられて
またしあわせが膨らむ。

「飯行って帰ったらまたしよう」
「うん」

いちいちが溶けそうな気持ちを運んできて
しあわせ以外を感じなくなる。
ただしあわせのカタマリになる。

以前より優しくなったしおんにも
あたしにも
空白だった時間が創ったものがある。
言葉ではうまく説明できないけど
それは、愛と呼んでも、もういいよね。

届いた言葉

March 05 [Fri], 2010, 22:22
ずっとずっとガマンしてた。
潜在意識を知って、広島へひとり旅をして
もう自分から表面的に追いかけないと決めて
電話もメールもガマンした。

もう2年ほど。

あたしからのメールや電話は
時々感情が暴走してしてしまう、年に2〜3回くらいで
最近に至ってはもっと少なくなっている。

少し前にも、しおん関連の雑誌をたまたま見かけて
うれしくてうれしくて、メールをしたくなった。
でも、ガマンした。
見かけたよ!と言いたかったけど、ガマンしたんだ。
それまでそうしてきたように。

表面的に追いかけないこと、
しおんに迷惑をかけないこと、
そこで一喜一憂をしないこと、
そんなことを考えての決断だった。
一度始めてしまえば、そのうちにメールしないことが日常になった。
好きになってからずっと2-3日置きには出していたメールを
しないことにした頃は、変な気持ちだった。

あたしにとって、そこがひとつのつながりだったからだ。
それがなくなったら、命綱が切れるようにも思えていた。
そのうちそんな気持ちもなくなって
メールしない記録更新に満足してる感じにもなってきた。
それでも、それでよかった。
きっと現実は動くのだから。
そう、思えていたから。

今日は、そう思えなかった。
いつものようにガマンすればいいことなのに
それをしたくなかった。
かと言って、何気ない軽いメールを書く気にもなれなかった。
重くするつもりもないけど、
なんとなく、ぼやきメールを出したくなったんだ。
少しだけ言葉に気をつけて、メールを書いた。

<雑誌を見かけたよ。うれしかったなあ。
 広島行きたいなあ。あのお好み焼き、食べたいなあ。
 困らせたいわけじゃないけど、変わらないんだよねえ。
 そうそう、引越ししました。
 今はフリーで仕事をしているんだよ。
 しおんがいつも元気だといいな>

できるだけ通り過ぎる誰かのつぶやき程度の
簡単な響きになるように。

本当は、「どうしてこんなふうになっちゃったんだろうね」
と、言いたかったんだ。

最初にメールを送ろうと思った時に
その言葉が浮かんでいたんだ。
「どうしてこうなってるんだろう」
なぜ、今あなたは隣にいないのだろう。
なぜ、あたしはあなたの隣にいないのだろう。
現状が今も理解できない。
そういう意味だ。

それはあまりにも身も蓋もなく
あまりにもダダ漏れなので、やめた。
代わりに、先の内容を書いた。

少しは躊躇した。
いいのかな。
出して。
でも、出したいと思ったのはあたしだ。

ガマンしたくないと思ったのもあたしだ。

メールをガマンすることに
意味を見つけられなくなってしまったからだ。
何故ガマンする必要があるのかが、わからない。

あたしは痛い子なのかもしれないけど、
今、この現状がどうしても理解できない。
なぜ、あなたは隣にいないの。
なぜ、あたしは隣にいてはいけないの。
なぜ、好きじゃいけないの。

好きじゃいけないの?

好きじゃ、いけないの?

周りの人は、諦めろという。
どうして、好きをやめなきゃいけないの?

心と反対を強要するのはなぜなの。

本当に待っているだけでいいの?
潜在意識は待つだけをしていろとは言っていない。
あたしの直感に従うのならば、
もうガマンはしなくてもいいってことだ。
ただし、一々一喜一憂はしないこと。

あたしにできることをしよう。
好きなら好きでいよう。
何より、こんな気持ちになったのは久しぶりだ。

内容の軽重はあたしなりの配慮しかできないから
そのままに送信ボタンを押した。

その日は返信がもちろんあるはずもなく
少しはドキドキざわざわしていたけど
それもすっかり忘れて数日が経った。

夜中にメール着信があった。
寝る前の一服をしていた時だ。
何気なくケータイを開いて、全身に一瞬電気が走る。
ビリッとしながら表示された文字を理解する。
しおんの名前があった。
違和感。
表示されるはずもない名前じゃないか。

ああ、こんな名前だったっけ。
漢字で書くとこんな字面だったっけな。
頭の中はそんなつぶやきが漏れた。

<久しぶり>

ただ一言だった。

返信をためらう。
今すぐ返信して、返事がなかったら凹む。
大体その確率の方が断然高いだろうと予測がつく。

明日、お昼休みにでも返信しよう。

ていうか。

ドキドキしすぎる。

ていうか。

何でメール。

ていうか!

何でひとことだけ!!

4年ぶりなんですけど!!

じわじわくる。
動揺と一緒に、どうしようもないしあわせの感じ。
じわじわと染みて、少しずつ現実感を増して
これは夢や嘘でないと理解する。
同時に、冷静に!と自分のどこかが言っている。

もっと飛び跳ねたいドラマチックな事だと思ってた。
メールが来るなんて、嘘みたいで
うれしくて、感動して、涙が出て、跳ねてしまって、
楽しくて、信じられなくて、感謝しかなくて、
そんなドラマチックな自分の心を想像してたけど、
とんでもなく違ってた。

明らかに動揺していたし、
悪い事さえ瞬時に考えてしまった程。
それだけ疑い深くなっていたのか、何なのか。

もちろんうれしいんだよ。
なのに、それよりも、冷静にこの事態に対処するべし。
なんて言葉が浮かんでいる。

だから、即答はしなかった。

次の日、お昼休みになるまでソワソワして
落ち着かなくて、うれしくて。
何て返そう、そればかり考えてた。

<メールありがとう。また何かあったらメールするね>

それだけを返した。

返事はなかった。

また1週間ほど経った夜中。
メールがきた。
しおんからだった。

<1週間ぶり>

ひとこと、書かれている。

ていうか。

悪戯ですか。

今回は、<そうだね>とだけ返した。

少しして、返信があった。
着信音にびくっとなる。

<飲みすぎた>

あ、そうですか…。

<飲み会?>
<うん>
<ほどほどにね>
<これから3次会>
<楽しんでおいでね>

返事はない。

メール越しだと、何もわからない。
感情が伝わって来なくて、
今どんな顔でこれを打ってるんだろう、とか
電話なら声色で量れるような機微な部分が
確実に消されてしまっていて
あたしは単純によろこんでいいのか何なのか
少しだけ分からなくなっている。

ああ、でもたぶん
これはうれしい変化、と言っていいんだろう。

これまでの4年を考えたら
今起こっていることは、間違いなく奇跡だ。
よろこんでいい。

じわじわと染みるしあわせが
現実味を増してきてるけど
浮き足立たないでいられるのはいいことかも。

しおんの中の変化が何なのかわからないけど
ひとことのメールでも、うれしい。

今わかることは、
電話もきっとそのうちあるだろうってこと。
そうして、そんなに未来でもなく
また会える日がくるということ。

「ガマンなんてするな」

ずっと昔しおんが言った言葉を
今さら思い出していた。

しおんからの電話

March 02 [Tue], 2010, 23:43
会えなくなって、どれくらい経っただろう。
泣かなくなって、どれくらい経っただろう。
日々の中で、いちいち思い出すことは変わらず
それはもう癖のように、趣味のようになっているけど
あの頃のような、しおんの一挙手一投足に
バカみたいに一喜一憂するような
幼稚な子供ではなくなった。
あの頃みたいに、何度も自分を責めて
事ある毎に思い出して悲しくなって
泣いているだけの日々もとうに過ぎた。

それでもしおんを想う気持ちは大した変化もなく
あるとするなら、
愛おしい気持ちがより深くなったこと。
自分を責めることがなくなったこと。
新しい強い絆を作りたいと思うようになったこと。

立冬をすぎて冬が始まったばかりのその日は
朝から街行く人を凍えさせようとする
冷たくて細かな雨だった。

こんな日に朝から出かけなくてはならないのは
会社勤めの方々には申し訳ないけども
本当にげんなりとしてしまう。
まあ仕方ないので、いつも通り仕度をして出かけた。

もうだいぶ慣れたルーチンワークを
順番にこなして、今日も少し時間が余るくらいの
余裕なお仕事だ。
相変わらず暑い部屋で、冬が始まっているというのに
夏場とほぼ変わらぬ格好でカチカチとマウスを鳴らす。
定時になって、残業もなく失礼して
お気に入りの警備員さんに帰りの挨拶をしてビルを出た。

いつもと同じ帰り道。
帰ってからやらねばならない仕事の事を考えながら
丁度良くやって来た三鷹行きの電車に乗り込む。
こんな生活もなんだかんだと続けていられるのは
みんなが気遣ってくれるおかげ。

好きなパスタを食べたくなって
今日は吉祥寺で降りることにした。
自転車などの束縛がないと
こういう自由がきいて好きなんだ。

何度も食べているオリーブとアンチョビのトマトパスタ。
真っ赤な色とオリーブのにおいが
いつもしあわせな気持ちにさせてくれる。
おいしいものはいいね。
食べ終えて、アイスコーヒーを飲んで、
本を読みながら少しの間のんびりする。
こんな時間がとても好きだ。

お店を出て、家までの道をてくてくと歩く。
雨はいつのまにか止んでいた。
所々水溜りのある道を家に向かう。

と、ケータイがブルブルと震えた。
振動で電話だとわかる。

誰だ?
と、思いつつ開いて
その瞬間、心臓が止まりそうになった。



しおん。



しおんの名前が表示されている。
どうしよう。
電話を取ったら何を話せばいい?
何の用でかけてきた?
改めてしおんからなんて、
どうしよう。

どうしよう。

どうしよう。

と、思っている間に留守電に切り替わってしまったんだろう。
電話が切れてしまった。

どうしよう。

すぐにかけなおすことができず
ドキドキと早い心臓を落ち着けることで精一杯だった。
今かけ直せばしおんが出るだろう。

声を聞きたい。

でも、何を話そう。

でも、声を聞きたい。

もやもやと考えながら
ケータイを握ったまま帰り道を歩く。
部屋について、その場で立ち止まったまま考える。
久しぶり!と言えばいい?
元気な声で話せばいい?
用は何?と言えばいい?
もし聞きたくない話だったら。

どうしよう。

と、いきなりケータイが震えた。

しおんだ。

覚悟を決めて、一呼吸おいて通話ボタンを押した。

「もしもし?」
「あ…もしもし、しおんです」
「久しぶり!」
「おお、久しぶり。最近どう?」

いきなりだな。
しおんが少し緊張しているのがわかる。
でも、この声。
ずっとずっと、ずっと、聞きたかった声だ。
あの声だ。
やわらかい輪郭の、耳触りのいい、しおんの声。
おなかの中がポップコーンみたいにはじける。
うれしくて、うれしくて。
声を聞けただけでもうれしくて。

「うん、まあぼちぼち元気にやってるよ」
「そっか」
「そっちはどう?」
「んー、まあぼちぼち」
「そっかw」
「うん」
「珍しいね、電話してくるなんて」
「どうしとるかなと思ってな」
「そっか、ありがとね」
「今もフリーで仕事しとんの?」
「うん」
「そっかー」
「そろそろ2年目かな」
「頑張っとるなあ」

そうだった。
そうだったなあ。
しおんとはいつまでも話せるくらい会話のテンポが自然で。
話しながらそんなことを思い出していた。

「しおんはまだ仕事中なの?」
「うん、今日もまだ帰れん」
「そっか、頑張ってるんだね」
「まあ前よりラクになっとるけどな」
「そうなんだ。でも忙しいんでしょ?」
「相変わらずですよ」
「元気ならよかったよ」
「まあな。じゃあ戻らないかんから」
「あ、うん」
「また連絡する」
「うん!」

心臓が跳ねた。
「また連絡する」
しおんがそう言った。

「ほんじゃ、また」
「うん、お疲れさま。またね」

5分もないくらい短い電話だったけど
夢みたいだ。
夢じゃないけど、夢みたいだよ。

今までの事を何も言わなかったし
あたしも問い正したりしなかったし
さらりと流れてしまったけど
何かもう、これでいいんだと思えた。

4年ぶりに話したのが嘘のよう。

現実は変わる。
変わるんだ。
声や会話を思い出しただけで
今もまだドキドキと心臓が早くなる。

しあわせのまあるい気持ちが
一気に蘇って、あたしの中を満タンにしたよ。
また聞けるんだね。
また話せるんだね。
そうして、また会えるんだね。
あたしたちは、つながっていたんだね。

ああ、もう、しあわせが
体中に満ち満ちて、あたしを今生かしているよ。

映画を観た日

March 01 [Mon], 2010, 23:23
しおんと映画。
実は初めてだったりする。

今回は新宿の映画館に行くことになった。
お互いの観たいものをリストアップして
どちらもまあ納得できる作品を選んだ。
仕度をして、電車に乗って映画館へ。
映画館はキレイで新しくて
場内も思ったほど混んではいなくてよかった。

本編が始まるまでの予告時間が好きだ。
予告編だけを集めた映画があればいいのに
なんて思うくらい。
大抵本編の中の本当にいい場面を切り取って
より印象深く仕上がっているし
映画を観るより予告編集の方がテンポがあって好きだったりする。
映像として楽しめるような気がする。

一通り見終えて、
お互い映画に集中しているから
特に意識はしなかったけど
こうやって映画館で並んでいると改めて思うだけで
くつくつとこみ上げる幸福感。
エンドロールを眺めていると
しおんが動く気配があって腕が肩に回された。
そっと左へ顔を向けると
気づいたしおんがこちらを向いてにやりと笑う。
つられてこちらもにやりと笑い返す。
何気ない数秒でもこれはしあわせだ。
調子に乗ってチュウをせがんでみたけど、軽くスルーされる。
照れたような口元が緩んでいたのは見逃していない。
代わりにエンドロールが終わるまで
肩に回した手を外して、右手があたしの左手をきゅっと握った。
きゅっきゅっと握ると、同じように返ってくる。

スクリーンの光を反射して薄青に縁取られる黙ったままの横顔を
時々ちらりと伺っていたけど
こちらに反応する素振りはないので手に意識を集中した。
それだけでもしあわせだよ。

エンドロールが終わって、場内がほわっと薄暗いオレンジに包まれる。
んーっと伸びをして座席を立つ。
同じ仕草でしおんも伸びをして席を立った。

「ちょっと一服せん?」
「うん」

喫煙コーナーに立ち寄って、時々体を伸ばしつつ
煙を吸い込んで吐き出す。
簡単な感想めいたことを言い合う。

映画館を出ながらしおんが言う。
「飯どうする?」
「何食べたい?」
「新宿わからんからなあ。とりあえず歌舞伎町あたり行く?」
「ん、行けば何かしらあるよね」
「とにかく飲めればいい」
「はいはいw」
「じゃあ行こか」
と同時に右手はしおんの左手の中に。

「えと、、」
「なに?」
「手…」
「ん?」
「手つないでいいの?」
「腕組むより手をつなぐ方がいいんだろ?」
「うん、ありがとう(照」

本当に小さなことまで覚えていてくれて
その度あたしは感動すら覚えてしまう。
数年前のたった一言。
その時には聞いているのかいないのか、そ知らぬふりだったのに。
実はちゃんと留めていてくれていた。
ずっと忘れずにいてくれていた。

誰かを大事に思ったり、好きでいたり。
それはやっぱり、こんなふうに小さなことを
大切にする積み重ねなんだなと思う。
歴史は重なり、空白だったと思っていた数年ですら
本当は層になって刻まれていた。
切らなければわからない年輪のように
本当はちゃんとそこにあったのだ。

右手のあたたかい感じ。
これが、今のすべて。
これがあれば、あたしは強くなれるよ。
大好きだよ。
2010年03月
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