神の癒し手の息子3(ウルエ) 

April 09 [Wed], 2014, 21:27
名を、つけたくはなかった。

私は知っていた。
それの命が長くはないことを。

だから私は、名をつけたくなどなかった。

「サイヒ、サイヒにしよう」

王はそれをやさしく抱き、
嬉しくてたまらない、というように
笑って言った。

「サイヒ、神の癒し手の息子。お前の将来が楽しみだなあ」

ああ、名を、つけてはいけないのに。

死にゆくものに。


2014/4/9

神の癒し手の息子2(ウルエ) 

April 09 [Wed], 2014, 21:04
これは私の枷なのだと、神はのたもうた。

私の腹の中に宿ったものは、私への罰なのだと。

埒外の、枠外の、見逃されていた力への代償。

私は力を使いすぎた。
私は人を救いすぎた。

そのツケが回ってきた、それだけのことだ。

私が与えるたび、それは奪われる。
それでも私は、救い続けるだろう。
力を使い続けるだろう。

私は、止めない。
止めることはできない。

どれほどそれが失うことになっても。

私はその犠牲を選ぶ。
千の命を助け、それを殺すことを。

これから生まれ育ちゆく、私の罪。


2014/4/9

月の人10 

March 30 [Sun], 2014, 22:23
「言っていいんじゃないですか」

空を見上げ、メイは呆れたように口を開く。

「弱音吐いて、恰好悪いところ見せて、我儘言って、甘えて」

うんとうんと、だめな自分をさらけ出して。

「だってそれ、家族じゃなきゃできないことでしょう」

あなたがそうしてあげないと、
彼もそうできないんじゃないですか?

「だから、帰りたいって喚いてくださいよ。
お前のせいだって罵ってください。
思いの丈ぶちまけて、喧嘩して、」

メイの手が、やさしく頭を撫でた。

「仲直りして、キスして、
そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたって、
物語はいつもそうだって、私に教えてください」



2014/03/30

月の人9 

March 30 [Sun], 2014, 22:13
「帰りたいわけねーじゃん、そんなの」

13年も、待っていたのだ。
13歳の子どもが、一途に、バカみたいに、ハチ公みたいに。
誰一人いない、真っ暗闇のような世界に残されて、それでもずっと、
俺に向かって、手を伸ばし続けていてくれた。
だから。

「帰りたいなんて、言えるわけないだろ!」

13夜、夜毎に大きくなっていく子どもを見るのが、
うれしくて、つらくて、こわかった。
いつか自分のことを待たなくなるんじゃないかとか。
異なる時の流れの中で、いつか自分より先にこの世を去ってしまうことが。
耐えられない、と思った。

「俺はリイのためにここに来たんだ。もう帰らない。帰れねぇよ。
だから俺は、帰りたいなんて、言っちゃいけないんだ…」

あいつが悲しむから。
そんな思いをもう、させたくない。
自分がそばにいる限りはもう。


2014/03/30

月の人8 

March 30 [Sun], 2014, 22:02
「これを、お前に見せたかった」

これも。
あれも。
それも。

お前がこちらに来た時のために。
13年の間、ずっと。

「ばかみたいだ」

ああ、その言葉をいくつ数えて。
お前はどれだけひとりでいたんだろう。

「俺も、同じだったから」

うまいものを食べれば食わせてやりたいと思って、
きれいなものを見れば見せてやりたいと思って、
いつも。
どの瞬間も。

「ずっと、想ってたよ」


「あいしてるよ、リイアン」


2014/03/30

月の人7 

March 30 [Sun], 2014, 21:58
「アキラ」

お前に、見せたいものがある。
話したいことがある。

年に一度の逢瀬。
その間に降り積もった想い。
毎日思う。
ここに、お前がいれば。

「リイ」

お前に、見せたいものがある。
話したいことがある。

夜毎の逢瀬。
その度に変わっていく子ども。
毎晩思う。
そこに、俺がいれば。


2014/03/30

月の人6 

March 30 [Sun], 2014, 21:56
「私は―――酷い事を、しているのだろう」

天秤にかけろと、言っている。
己と、彼の世界を。
どちらかを選べと、強いている。
アキラが、耐えられないのを知っていて。
彼が苦しむのを、知っていて。
それでも、構わない。
自分には、彼しかいない。
アキラしか。
その為なら。


2014/03/30

月の人5 

March 30 [Sun], 2014, 21:52
「13夜って、お前…13年だぞ…」

とんだ織姫と彦星だ。

「待ってるなんて、そんなの」

そんなの。

「そんなの、耐えられるわけ、ねぇだろ…っ!」

傍に、いたい。
いつでも、傍に、いてやりたい。
でも、それは。
それは。

『私を選べ、アキラ』

「忘れろよ、俺のことなんて」

『愛している』

「なんで…っ」

なんで、俺に、選ばせるんだ。


2014/03/30

月の人4 

March 30 [Sun], 2014, 21:44
「13夜」

13夜。
そちらの月が一巡するまで。

「お前を、待っている」

子どもは言った。
相変わらずの、強いまなざしで。

「愛している」

ああ、駄々をこねる子どもよりも、たちがわるい。

「だから私を選べ、アキラ」


2014/03/30

月の人3 

March 30 [Sun], 2014, 21:42
「俺の名前は、アキラだ」

「日と月で明―――2倍明るいってことだ」

「だから」

「俺の名前を呼べよ、リイアン」



2014/03/30