燭薬近未来パロエア新刊の続き 

March 13 [Sun], 2016, 21:21
分野が違えば自分の知識はまるで役に立たなかった。一から勉強した人工知能。それは燭台切の想像をはるかに超えた複雑さだった。日々進化していく人工知能の最先端技術を追い、数々の研究データを調べ、それは永遠に続くのではないかと思われるほど。
きっと宇宙を解析する方が簡単だった。手を伸ばす薬研から逃げず、じっと彼を見つめる。薬研のあたたかい手は燭台切の頬を撫で、名残惜しそうに離れていった。
「どうしたの?」
「……俺のことを一番わかってるのはあんただろ?」
薬研は肩をすくめて笑う。ふっと視線を落とし、改めて燭台切を見た。どこか不安の滲む瞳が燭台切を映し、唇が震える。
映画を見せた。何十、何百と、共に古今東西の映画を見た。薬研を隣に、恋愛映画を。
薬研の手が燭台切の手を掴む。強すぎず、縋るような。
「あんたが好きなんだ」
どんな学会にだって、発表などしないだろう。燭台切はただ、恋を教えた。ロボットにではなく、ただ愛しい人と気持ちを重ねるために。
「僕もだよ」
燭台切に罪はないはずだ。人は神の領域など、とっくの昔に踏み入っているのだから。

あかいち 

March 13 [Sun], 2016, 21:20
向かい合って一礼。
しょうもない慣習だ。明石は慣れきったお決まりの行動からゆっくり顔を上げた瞬間、戦場に似た殺気を感じて飛び退いた。眼前を横切った切っ先に体が反応して刀を抜く。すかさず振り下ろされた次の攻撃を受け止め、その向こうで光る瞳に射抜かれる。知らず口角が上がると、対峙した相手はわずかに眉をひそめた。
「また、とんだタヌキやな」
「何のことですかな」
一期一振はその刃の鋭さと同じ冷たい声で明石を斬り捨てる。かみ合う刀身は嫌な音を立て、一瞬たりとも引く気を見せない一期を笑って力を緩めた。すかさず切りこんでくるのは想定済みで、引いた瞬間にしゃがんで足払いを仕掛けた。わずかによろけた一期はしかし気を抜かず、その爪先を迷わず明石の顎へ蹴り上げる。とっさに避けたつもりがかたい靴の先はわずかに肌をかすめ、バランスを崩して倒れ込んだ。
「ははっ」
思った通り明石の油断を見逃すはずもなく、「一期一振」が振り降ろされる。ぴたり、と目の前で止まった刀は美しく、その向こうで明石を見下ろす男もまた、人形さながら息どころか髪さえ乱していない。
「明石殿、真面目にお願い致します」
「真面目やってんけどなァ」
手合せ程度で殺気を放つのが真面目なら、明石には一生まねできない、倒れたまま笑うと一期はわずかに目を細めた。
欲しいものはきっと、手に入れると消えるだろう、それを伝える術もまた消えてしまった。

素股のさにやげ 

March 13 [Sun], 2016, 13:23
明日は早く起きなければならない。それはお互いわかっていたから早く寝ようといろいろ片づけていた。それが思いのほかてきぱきと片づいてしまったばっかりに、ちょっとぐらいいちゃいちゃしてもいいんじゃないかな、と思ったのが間違いだったわけで。膝の上でとろりと俺を見上げる薬研にのどを鳴らす。
「どーすんだ、コレ」
「うっ」
薬研の指先が服の上から立ち上がりかけたそれをなぞる。いや、さも俺が悪いみたいな言い方してますけど、煽ったの薬研さんですからね。えっちなのが悪いんです。ちょっとだけ、のキスをちょっとじゃなくしたのは薬研だ。
「何だよその顔。ちゅーぐらいでちんちんおったててるあんたがどうかと思うぜ」
「薬研さんは悪くないと」
「俺が何か悪いことしたか?」
どうしてそうも、誘惑してくるんでしょうか。じゃあ自分でどうにかする、と言うと薬研はぱちりと驚いて瞬きをし、少ししてやった、という気になる。すぐに薬研を掴まえてうつぶせにベッドに押さえつけ、尻をあげさせて太腿をぴたりと合わせた。その隙間に指を差し込むと、薬研の背が震える。
「自分でどうにかするからここ貸して」
「あ、ちょっと……何する気だ」
「ちんちん挟みます」
「ばかじゃねえの」
「本気ですよ」
はいたままでも素股ができる怪しからん短パンをはいている薬研くんが悪いのです。指を抜き差ししてやると薬研がシーツを握る。
「薬研は何もしなくていいよ」
拒絶の言葉はついぞ出なかった。

寒い日の夜に共寝するさにやげ 

March 13 [Sun], 2016, 10:47
少し寒さが緩んだので油断していた。湯たんぽの準備を忘れて布団に入ったが、やはり少し寒い。寝てしまえばきっとwからない、と思いながらも、どうも寝つけそうになかった。酒でも入れててっとり早く体を温めて寝ようか、と布団を出て、寒さにふるえ永田台所へ向かおうと部屋を出る。
「どうした?」
途中で出会った薬研はまだ起きていたらしい。風呂上りらしく、髪は乾かしているがまだ頬が赤く染まっている。
「寒くてなあ」
「ああ……湯たんぽ、してやろうか」
にやりと笑う薬研を断る理由は何もない。さあ、とうながされるまま早足で部屋へ戻り、そのまま薬研と布団にもぐりこむ。薬研の体はぽかぽかと温かく、しっかり腕の中に抱きしめるとこちらの体もあたたまるようだ。
「冷えてんなあ。寝れそうか?」
「うん」
薬研の手が背に回る。指先まであたたかい足がすりよせられ、足の甲がすねを撫でる。うつらうつらとするまで時間はかからず、ぎゅうと抱いていた力も緩む。薬研がもぞりと動いて、あたたかい手が首を覆うように撫でた。
「……アンタ、ほんとに寝ちまう気か」
あ、しまった、と思うのももう遅い。意識は吸い魔にのっとられ、思考は枕に溶けていく。
「……おやすみ、また明日」
また明日。今日はおやすみなさい。

くり薬♀ 

September 15 [Tue], 2015, 23:13
ひとり部屋を与えられている薬研の部屋に入ると、そこほ少しひやりとしていた。やはり人が多い部屋とは違うようだ。大倶利伽羅が入ってきたのを見留めて薬研は本から顔をあげ、肩からかけていた布団を落とす。そのままで、と言う間もなく、薬研のそば立ち上がり、代わりに大倶利伽羅に座るように促した。
「まだ布団を敷いてなかった。ちょっと待っててくれ」
口より先に体が動く薬研は言いながらもう押し入れを開けている。そして大倶利伽羅が座るまでもなく布団が延べられ、結局そのまま布団に座った。
「先に布団にもぐっときゃよかったな」
「どうした」
「大したことじゃないが、手足が冷えて」
触れるのがためらわれる、と言いたいのだろうか。向かいあって座った薬研は両手を擦り合わせて苦笑する。大倶利伽羅はその手をとって少し驚いた。確かに朝夕の気温が随分と下がり、次郎太刀もそろそろぬくい酒もいいねぇ、などと話している。しかし日中はまだ夏の名残を残しているかのごとく暑い日もあるのだ、冬とは違う。しかし薬研は風呂もすませた様子であるにも関わらず、指先が冷たく冷えている。
「具合でも悪いのか」
「いや、いつものことだ」
そんな女は多いのだ、と薬研はあっけらかんと言い放つ。薬研はなんらかの影響でこの本丸に女として現れた。なんの因果か大倶利伽羅を選んで隣を許している。
布団にいるうちにあたたまるからもうしばらく待ってくれ、と薬研は灯を落とし、共に布団に潜り込んだ。隣でほとんど頭まで潜るようになっている薬研はその中で小さく笑う。
「起きてるあんたとおとなしく並んでるなんざ初めてかもな」
それはなにかしてやれと言うことだろうか。手を伸ばしてまさぐり、両手を包み込む。大倶利伽羅の熱を移すように一回り小さな手を両手に挟んでやれば、やはりくふくふと薬研は笑った。
「あんたは俺を熱くするのが得意だな」
何を言っているのだろう。脚を寄せるとやはりひやりとした爪先が触れ、それも足の間に強引に挟み込む。薬研は息をはいて顔を出した。さっきまで笑っていたのが嘘のように神妙な顔をしている。
「そこそこでいいぜ。あんたが冷えちまう」
「……俺はこんなに冷たくなったことはない」
「ははっ、あんたが冷たいのは態度だけか」
再び笑い出した薬研に抗議するように大倶利伽羅は更に手を強く握った。子どもがするように薬研はわざといやがって身をよじり、布団が肩から落ちていく。それが一緒に着物をずらし、胸元の白い肉を覗かせる。柔らかな曲線が現れたことに薬研はまだ気づいていない。握った手を離さないようにしながら、大倶利伽羅はそこへ口を寄せた。ひく、と薬研は体をそらし、逃げようともがくが手も足もすっかり大倶利伽羅が拘束している。
「あっ」
歯を立てると小さく声が降ってくる。針でつくととろりと蜜が流れそうな柔らかさを唇と歯の先でもてあそび、ときに舌を這わせてときにすいつき、好き勝手にもてあそぶ。薬研は逃げることは諦めたようだが――そもそもこういうことをしにきたのだが――せめて手足を自由にしようともがいてた。当然大倶利伽羅には簡単に離してやる気はなかったので、結局薬研の抵抗は無駄だった。
薬研がようやく諦めた頃には着物から覗く範囲の胸元はすっかり触れてない場所がないほどで、舌先でその奥を探ろうとするが遊びを越えないその動きに、音を上げたのはやはり薬研の方だった。
「大倶利伽羅ッ……」
薬研の指先にはすっかり大倶利伽羅の熱が移って、それは元よりも熱くなっている。同時に火の点った瞳もらんらんと、すでに気温の低さなど忘れていた。

さにやげ(セーラー服) 

September 15 [Tue], 2015, 23:13
戦場から帰ってきた何人かを手入れ部屋にぶちこんで、男はようやく一息ついた。審神者なる職についてもう随分たち、血と土で汚れて帰ってくる男たちを見慣れてしまった。しかし歓迎したくないものであることに代わりはない。
一仕事終えたので薬研を誘って少し休憩にしようと仕事部屋に向かう。残してきた薬研は果たしてどれほど仕事を片づけてしまっただろうか。ここ最近の忙しさを理由に部屋が荒れており、ようやく切りのついた今日こそ掃除日和だと張り切っていたから、雑務などさっさと終わらせているかもしれない。
部屋のふすまを開ける。中では薬研が畳の上に横になり、すべらかな腿を惜しみ無くさらしていた。男は二度それを見て、たぢとふすまを閉める。周囲に誰の姿もないのを確認し、そこが間違いなく自分の仕事部屋であることも再度確認してから再び部屋を覗いた。
薬研はすっかり眠ってしまっているらしい。薄いまぶたが猫のような目を覆い、柔らかい髪が畳に散っている。一見華奢に見えるがその実しっかりと男の骨格である肩はセーラーカラーが隠し、胸元ではうまくいかなかったのかスカーフが無造作に結ばれている。白い生地のトップスの裾とスカートのウエストの間にかすかに肌色が覗くが、しかしそれよりも太ももの半ばほどの長さのプリーツスカートから覗くしなやかな脚の艶かしさに視線が釘付けになる。投げ出された紺ソックスもあいまって、さながらセーラー服の少女の無防備な寝姿だ。
しかし。
男が部屋を出る前は、薬研はいつも通り重たい装備をつけた一張羅を着ていたはずだった。そろりと部屋に入った男は静かにふすまを閉め、部屋のなかに視線を巡らせる。はたして薬研のそばに脱ぎ捨てられた薬研の衣服が落ちていて、彼がそれをさっきまで着ていたことは間違いないだろう。
寝ている薬研のそばに膝をつき、じっと顔を覗きこむ。少しも起きる気配はない。規則正しい、まるで赤子のような健やかな寝息とセーラー服とのギャップにうろたえる。それは触れてはならない美術品のようでありながら、触れろと誘ってくるようだ。
そろそろと男は薬研の足元の方へと体をずらす。スカートはいつものショートパンツよりよほど長いが、しかしいつも以上にいけないものを見ている気になるのはなぜだろうか。思わずじっと、スカートの中を覗きこむ。それは鉄壁とばかりにどの角度からも男が見ようとするものの影さえ見せない。それがまた男を必死にさせる。
するり、と腿が擦りあわされる様に息を飲んだ。スカートの襞が広がるように腿から落ちる。スカートと腿の隙間が作り出す陰影に男は取りつかれ、そのせいだ、薬研が起きていることに気づかなかった。
「うっ!」
男を襲う刺激に慌てて顔をあげると、薬研が首をかしげるように男を見て、うっそりと唇に笑みをのせている。その間も靴下が覆う足は器用に男の股間をまさぐり、足の裏が柔らかくそれを踏みつけた。
「あっ……あのっ……これは、ですね、その」
「俺のじゃなかったか?」
「いや、その、着ていただけるなどとおこがましいことは微塵も考えておらず、ただ」
「俺が着てるのを想像するだけで満足してたってか?本当に?それならわざわざ手に入れる必要はなかったんじゃねえか?」
「いや、それは、その、生地の感じ、とか?」
「じゃあ俺は着ない方がよかったか?俺はてっきり大将のお望みだと思って袖を通したんだが、余計なお世話だったみてえだなぁ」
「いやそんな、あのですね」
「妄想だけで満足なんだろ?」
「薬研に着せてあわよくばそのままセックスになだれ込むイメトレを日夜繰り返してました、させてください」
男は一息に言い切って、土下座をしようと背を丸めた。しかし薬研の足は変わらず股間を陣取っているので、体をかがめるに至らない。恐る恐る薬研の様子をうかがえばしばらく睨むように男を見ていたが、やがて口角をあげて唇が弧を描く。
「苦心して着たんだ、簡単に脱がしてくれるなよ?」
「薬研っ!」
勢いまかせに薬研に飛びかかるように覆い被さる。否、覆い被さろうとした。しかし薬研は腕を張って男を拒む。
「えっと」
「仕事と部屋が片付いたらな」
「えっ」
「ちゃんと手伝ってやるからな」
「えっ、その格好で?」
「やる気でるだろ?」
「ヤる気はね……?」
かつてない早さで男が仕事を片付けたのはいうまでもない。

#つるいち版深夜のお絵描き60分一本勝負 「おねだり」 

June 20 [Sat], 2015, 23:03
「随分賑やかだな、どうした?」
通りかかった部屋をのぞけば、粟田口の短刀たちが折り重なってじゃれている。その声の中には呻き声も混ざっていたのでひとりずつ短刀をはがしていくと、その一番下にいたのは薬研であった。かけていた眼鏡は頭の方へ上がってしまい、少し疲れた顔で鶴丸に礼を言う。
「だってー、薬研ずるいんだよ!」
「ひとりだけ大将から褒美もらったんだぜ!」
「だから、話聞けって」
体を起こした薬研は溜息をつき、乱れた髪を直す。ふてくされた様子の弟たちが薬研を襲った原因は、彼の手の中にある小さな包みであるらしい。それは、と問えば、饅頭だと返ってきた。
「大将がたくさん抱え込んでてな、ちょっとおねだりしてみたらいつも頑張ってるからってくれたんだ」
「ずるいですー!」
「僕たちだって薬研と同じように日々の仕事に勤めております!」
「ははぁ、それで薬研が饅頭にされていたのか」
面倒見のいい薬研でも、自分の得た戦利品を手放すつもりはないらしい。この隙にとばかりにポケットに隠している。
「おねだりなら、主に直接してくればいいんじゃないか?」
鶴丸の言葉に行儀のいい短刀たちはそれぞれ顔を見合わせた。どうも子どもらしい素直さは憎めない。こらえきれずに頬を緩めて、お茶を入れて待っていなさい、と声をかける。首を傾げた短刀たちを残した、鶴丸は審神者の部屋へ向かった。

舌先三寸で言いくるめるのは何も狐の特技ばかりではない。今日の戦で鶴丸が誉を取ったこともあり、鶴丸は饅頭を人数分手に入れた。そもそも審神者は短刀がかわいくて仕方がないのだから、彼らが自らおねだりに来た方が本当は喜んだだろう。あるいは、鶴丸が来た経緯も説明しておいたら伝聞だけでかわいさのあまり突っ伏していたので、これでよかったのかもしれない。
戦利品を抱えて部屋に戻ると、彼らは行儀よくそれぞれの茶の前に並んで座っている。あまりにもぴしりと並んでいるのでどこかの展示会場のようだ。そんなにかしこまった場ではないが、真面目な彼らの前に鶴丸も真剣な顔で座り、ひとつずつ饅頭を配ってやる。ぱっと目を輝かせた彼らだが、鶴丸が黙り込んでいるので手も出せずにいた。
「これは俺が主からいただいてきた饅頭だ」
緊張を見せた彼らを見て、鶴丸は笑う。
「あとでお礼を言いに行けよ」
「あっ、ありがとうございます!」
「悪いな鶴丸、手間かけさせた」
「何、薬研も潰れる前にポケットのそれを食べてしまえ」
賑やかな声を上げて饅頭に手を伸ばす短刀たちを見届けて、鶴丸は立ち上がった。
「あっ」
「ん?」
「あの……鶴丸さまの分は」
「ああ、もらってあるさ。鶯丸に茶を分けてもらって堪能してくる」
優しい子たちに笑いかけ、鶴丸は懐を叩いた。薬研辺りにはばれたかもしれないと思いながらも、茶ぐらいはつき合わせようと鶯丸を探そうとする。しかし部屋を出ると、隠れるように一期が立っていて足を止めた。その顔では完全にばれている。しい、と口を閉じさせ、一期の肩を押して場を離れた。
「すみません、ご迷惑をおかけいたしました」
「何、かわいいものだ。粟田口はみんなおねだりが下手だな?」
歩きながら一期を見ると困った顔で鶴丸を見る。兄がこの様子では兄弟たちのあの様子も納得できた。笑って肩を叩くと一期は足を止め、つられて鶴丸も立ち止まった。
「一期?」
「……おねだりをしたら、聞いていただけますか」
「お、おお」
そう返されるとは思わなかった。一期にじっと見つめられ、少しどきりとする。何を言うつもりだろう。この男の求めるものが何も思いつかない。
「触れても」
「……は?」
「あなたに触れても、いいですか」
「か……構わんが」
それは、おねだりというのだろうか。
一期の手が伸びて身構える。思わず背を正したが、手袋が覆った彼の手が触れたのは、鶴丸の羽織の飾り鎖だった。ちゃり、と軽い音が廊下に落ちる。
ふっと、一期の表情が緩んだ。
そして一期は手を離し、鎖はまたとろりと垂れる。
「ありがとうございます」
それは――それはおねだりか?
硬直した鶴丸に構わずに、一期は弟たちの部屋へと歩き出した。鶴丸はゆっくり頭を抱え、ただ深く、溜息をついた。

相合傘(お茶組ワンライ) 

June 16 [Tue], 2015, 22:54
ばたばたっ。

空から落ちる雨が傘を叩く。今日の雨は昨日より強く、地面に落ちたものが跳ね返るほどだった。雨は傘にとどまることなく流れ落ち、先ほど降り始めたばかりだというのに庭へ出た平野の足をあっという間に濡らす。
雨の音を聞きながら、平野はずっと鶯丸を見ていた。みんなの暮らす屋敷から少し離れた茶室の中で、鶯丸は、眠っていた。
眠っているように見えた。座ったまま少しも身動きを取らない背中しか、平野には見えていない。
雨は少しもやむ気配を見せなかった。ここのところ多い雨は庭のあじさいを鮮やかにし、それを喜ぶ刀剣もいた。あじさいは場所によって色を変え、主が土が違うのだといった。土は土だろうと誰かが言ったが、主は焼き物もそれぞれ土が違うだろうと言った。刀が作られるときに使う土も。ふるさとが違うと違うものになるのだ、と主は言った。
それは土のことだろうか、この身を打ったおとこの手だろうか。平野はもう、土も炎も覚えていない。人が赤子であって頃を覚えていないように。
鶯丸は動かない。平野は起こそうかと考えて、やっと、迎えにきたはずなのに自分の傘しか持っていないことに気がついた。

ばたばたっ。

屋根から落ちた滴がひときわ強く傘を叩く。ふっと鶯丸が動いた気配がしてどきりとした。音を探して鶯丸が振りかえる。
ふるさとが違っても、共にいられるのだ、となぜかこのとき思った。

「平野」

ああ、やはり寝ていたのだ、と思わせる声だった。起こしたことを謝ると、何、と軽く笑う。
「雨か。しばらく多いな」
「梅雨ですから」
「ああ……そうか」
静かに、しかし深々と鶯丸は息を吐いた。それから入っておいで、と平野を手招きする。慌てて首を振った。平野の足はここへ来るまでの間に汚れている。茶室へは上がれない。鶯丸はそうか、ととりわけ残念がるでもなく応え、では少し待つようにと平野に言った。その手は淀みなく動き、用意していた茶器で茶を入れる。茶室にいたので抹茶かと思いきや、ポットと急須だ。一杯分待てばいいのかと思っていると、鶯丸がずいと近づいてきた。平野の前に今しがた入れたばかりの茶が差し出される。
「えっ」
「もうしばらく付き合え」
慌てて例を言って、傘を肩にかけて手を伸ばした。知らぬ間に冷えていた指先は、茶であたたまった焼き物に触れるとじんと痺れるようだ。
鶯丸は元いたところに戻っていき、自分の分の茶も入れる。

ばたばたっ。

雨は世界を閉じ込めた。その中にあって
茶は雨にも負けず甘く香る。透き通る緑はもう過ぎようとする春にも似て、しかしこれから来る夏でもあった。
とてつもなく贅沢な、相合傘をしていることに気がついた。

うぐ+ひら(ワンライ) 

June 09 [Tue], 2015, 22:56
鶯丸がこの本丸へやって来たのはずいぶん遅かったように思う。現在確認されている刀剣男士の中で一期一振を始めとする粟田口の刀がみんな集まっても、あまり人の前に現れることがないと言われる三日月宗近や小狐丸がやってきても、鶯丸はやってこなかった。この本丸の主は新しい刀にはあまり興味がなくて、それよりもそれまで関係を深めてきた刀剣たちを大切にしていた。もちろん、新しい仲間がないがしろにされるわけではない。一番新しくやってきた三日月も、これまでの仲間と同様に一から始まり、同じように経験を重ねて日々戦っている。
だから、鶯丸がやってきたときも、主はいつも通りだった。出陣していた舞台が連れて帰った鶯丸にいつも通りの挨拶をして、自ら我々の役目と本丸の案内をかってでた。
平野は長い間、鶯丸が来たと耳にはしたが、その姿を見ることがなかった。当時新しく敵の出現が確認された時代と場所が見つかり、そこは今までの戦場と違いひとの暮らす町中だった。その場所に詳しい新選組の刀たちや、町中で小回りの利く短刀たちが中心となってその洗浄を日々制している最中で、比較的早くからこの本丸へやってきた平野はときに隊長を勤めるほどには経験を重ねていたので、ほとんど出ずっぱりであった。
そうしながらも刀たちはみな本丸の中でも仕事かあった。馬の世話や畑仕事、手合わせも立派な仕事だった。それらの仕事も平野は嫌いではなく、無理をしない程度に、と言われながらきちんとこなしていた。
鶯丸に初めて、この本丸で姿を得た鶯丸に出会ったのは、共に馬小屋の仕事を任されたときだった。どう挨拶をしたものかと緊張して作業用の服に着替え、何もまとまらないまま馬小屋へ向かったが、結果として平野の緊張は無駄だった。
鶯丸は先にやってきて馬の世話を始めていて、平野に気がついてもとりわけ意識することもなく、先に始めている、と言ったきり、あとはひとりで仕事をしていた。
平野は己の緊張が無駄であったことを知ると、すうと胸が軽くなるのと同時に、ひどく冷たくなったのを感じた。
鶯丸は太刀である。太刀はみな大人の男の体つきをしている。短刀である平野はそれと比べるとずっと幼い少年の姿で、他の短刀たちほどではないと自分では思っているが、姿に合わせたように思考や態度が子どものそれと近かった。
だからだろうか。こんなにつまらない気持ちになるのは。
「平野藤四郎」は現在皇室御物として人の手で管理されている。そこには現在この本丸で肩を並べている「一期一振」と「鶴丸国永」があり、「鶯丸」もまた、そこにあった。
刀剣男士は付喪神だが、それは本来このような人形を成すものではない。現在のこの姿は敵と戦うために主に与えられたものだ。だから、知らないといえば知らない。しかし平野は、鶯丸の気配があの静かな場所にあったことを知っている。初めて見る鶯丸をひとめで鶯丸であると思ったのも、それが知っているものだったからだ。
一期一振も鶴丸国永も、この肉の体を得て、平野に会って、親しげに、懐かしげに接してくれた。姿を知らなかった兄弟刀も、全く縁もゆかりもなかった刀も。
期待を、したのは自分だ。しかし平野は腑に落ちないということ感情をうまく消化できずに、むっつりと仕事をこなした。どんな仕事もこんなに静かにしたことがないというぐらい黙りこんでいたのに、鶯丸は時おり馬に声をかけるだけだった。
人の体というものは、刀を振るうのに最適な形をしている。それは当然で、人が先にあったからだ。だから平野は己が戦うために得た肉体が人の形をしていることは当然であると思っている。しかし、この人の体というものは、感情や気分が体に直結するのだけが非常に不便だ。
平野は戦いで傷を負った。出会い頭に素早い動きの槍に身を守るための刀装の隙をついて貫かれ、そこからの戦いは無様でもあった。最後まで刀は離さなかったが、これが最期かもしれないとよぎるような負傷に、部隊は平野を囲んで撤退した。
手入れ部屋で目を覚ました平野は自分が折れなかったことに少なからず驚いたが、それ以上に鶯丸が平野のそばに控えていたことに驚いた。背を正して座り、平野ではないどこかを見ている。平野の傷は寝ている間に半ば癒えたのか、痛みこそあるが倒れるようなものでもない。平野が体を起こそうとしたことに鶯丸はすぐに気がついて、平野を止めて布団を直した。
なぜここに、という問いも口へのぼらなかった。鶯丸が何か話してくれることを期待したが、彼は平野の額や頬を撫でたり、布団から出た指先をつまんだりしたあと、また姿勢を正した。
「あの」
「面白いものだな」
鶯丸の言葉に平野はただ絶句した。短刀ごときと侮られただろうか。無様な姿をさらしたとしても、平野はまだ自分が肉体を持ったままであることを後悔する気持ちはない。折れてしまえば、そこで終わりだ。平野が顔をこわばらせたことには気がついたのか、鶯丸は小さく笑う。
「お前はあの倉庫にいても、馬小屋にいても、そうしていても、少しも変わらないな」
鶯丸が、平野を知っていたことにひどく安堵した。同時に情けなくもあった。
初めましてをやり直したい。歴史を変えたいという気持ちは、こんな些細なものから生まれるのかもしれなかった。

#薬研受け版深夜の真剣創作60分一本(寝間着/燭薬) 

June 06 [Sat], 2015, 23:56
「俺の寝間着がない」
洗濯物の山を畳みきって、薬研は腕を組んで首を傾げる。本丸の洗濯物は大量で、洗って干してとしているうちはわからなかった。畳みながら各部屋ごとに分けていき、そこでようやく気がついた。
「ほんとだ。飛んでいっちゃったのかな」
ちょっと見てくる、と一緒に洗濯物を畳んでいた燭台切が部屋を出ていく。どこかに紛れてしまったのだろうか、と薬研がもう一度見返すのを、やはり一緒に作業をしていた前田と今剣も手伝って順に見てくれるが見つからない。一枚しかないのはこういうときに不便だと気づくが今更どうしようもない。
「やっぱりわかる範囲にはないなぁ」
戻ってきた燭台切に礼を言う。ないものはしょうがないな、と薬研があっさり言うと周りは少々呆れたようだ。寝間着一枚、と言って目を凝らさなければ見つからないようなものではない。薬研の形は小さくともそれほど面積が小さい寝間着でもなし、見つかるときはすぐに見つかるだろう。そのうち出てこなければまた大将にもらうさ、と答えて、洗濯物をそれぞれの部屋へ運んだ。
「そういえば、薬研はまいばんおへやにいませんね」
「薬研くん、ここ最近ずっと次郎さんの晩酌につき合ってるから……」
「僕たちの部屋ではもう薬研は戻ってこないものとして厚がふたり分の布団を使って寝てますよ」
「あいつそんなことしてんのか。俺の布団もうあの酒飲み部屋に運んじまうかな」
くつくつ笑う薬研を前田が小突く。ときどきはちゃんと帰ってきてください、などと言われて、薬研も悪い気はしない。
「そういえばぼく、薬研のねまきすがたをみたことがありません」
「そうかぁ?」
「いっつもおそくまでおきているから、おふろでもみたことありませんよ」
「俺は宵っ張りでな」
今剣の指摘に薬研はただ笑って返す。幼く見えても、しっかりと周りを見ている。少しひやりとした気がして、薬研はこっそり燭台切を見上げた。そして、思い出す。
「あ」
「どうしました?」
「俺今日、寝間着洗濯に出してねえや」
「なんだ、人騒がせですね」
「ははっ、すまねえな」
あぁ、とどこかぼんやりとした燭台切の反応に薬研は睨んでやりたくなる。薬研がひとまとめに洗濯に出せなかったのは、他でもないこの男のせいだった。

夜。
猫のように薬研は燭台切の部屋に滑り込んだ。部屋の主はまだ戻ってきていなかったがお構いなしに灯を入れる。今日出せなかった洗濯物の回収に来ただけだ。昨日の夜、まんまと汚された寝間着は、少々手間だが他のものと一緒に出すわけにはいかない。見る人が見れば、情事の気配をすぐに察してしまうだろう。そして薬研自身も、他のものと一緒に洗うのは少々気が咎めるのだ。
「だから脱がせろっつったんだ……」
押入れにこっそり隠されたそれを取り出すと、そんなはずはないのにまだ心なしか湿っているような気がしてならない。汗や涙やなんやかんやの体液で汚れて皺の寄ったそれを、さっさと洗ってしまいたかった。薬研は部屋を出ようと立ち上がる。それは燭台切が入ってくるのと同時だった。
「あ、寝間着あった?」
「ああ。とりあえずざっと洗って、明日また潜り込ませとく」
「今日はどうするの?」
「適当に何か着るさ……燭台切?」
ぴしゃりと障子が閉じられる。小さな炎ひとつで部屋の明かりは十分だと思っていたが、今は燭台切の表情が読み切れない。
「あー……燭台切」
「僕が抱いててあげるから、もう裸でいいんじゃない?」
「……あんたは悪趣味だな」
「そう?いいもの選んだと思うんだけどな」
ついと顎の下に指が添えられ、燭台切を見上げると笑っている。人当たりのいい笑顔を誰にでも向けて、こんな時でも変わらないくせに、薬研に断らせる気は少しもない。
「折角だが、こんな上等な布団じゃうまく寝られないんでな」
「ちゃんと寝かしつけてあげるから大丈夫だよ」
「ありゃ気絶してんだよ」
「まぁまぁ」
「あのなぁ……」
するりと腰を抱かれて引き寄せられる。特に抵抗もしないのは、諦めているからだ。決して期待していたわけではないと、言い聞かせる。何度抱かれてもこの男の熱には慣れない。薬研の体には熱すぎて、いつもどろどろに溶かされる。それこそ寝間着のことなど考えられないほどに。
「わかった。でもまたあとでだ」
「まだ何か?」
「次郎のところに行くって言っちまった」
燭台切の腕を抜け出すと溜息をつかれてしまった。溜息をつきたいのはこちらの方だ。
「ほどほどにね」
「そっくり返すぜ」
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2016年03月
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