サンタと天使が笑う夜 

2005年12月25日(日) 17時14分
 あたしは、相沢命、小学校三年生。いのち、と書いて命。この名前をつけてくれたパパは、あたしが赤ちゃんのとき、病気で死んでしまった。ママは再婚することになり、クリスマスに結婚式が行われる。
そんなある日、ママにクリスマスプレゼントは何が欲しいか尋ねられた。意地悪をして「本当のパパに会わせて」と頼んだあたし。その晩、誰かがあたしを呼んでいる。眠い目をこすり起きてみると、ベッドのふちに羽の生えたサンタクロースが座っていた。
 サンタさんは、あたしに、パパはママの再婚を望んでいて、あたしとママの幸せを何より望んでいること、そしてパパからもらったいのちのバトンを、未来につないで生きてほしいと話し、少し早いプレゼントをくれた。

  あくる朝、目を覚ますと、不思議な感覚がした。なんだかとても、なつかしい何かに包まれている気持ち。心は穏やかで、自然に微笑んでしまう。にぎったてのひらを広げると、小さな光る石があった。
「夢じゃ、なかったんだ・・・。」

 今日はクリスマス。そして、ママと新しいパパの結婚式だ。髪を上げ、ベールに包まれたママの、透き通るような美しさ。冬の寒さの中で咲き誇る、バラのようだ。教会に響く賛美歌の、清らかなこと。りんとした空気の中で、厳かな結婚の儀が行われる。神父様のお祈りに続いて、みんなも祈る。私も祈る。
「ママが、いつまでも幸せでありますように。」
 その瞬間、私の首に下げたペンダント、サンタさんからもらったムーンストーンが光を放つ。ママとパパ、それからあたしを、光はやさしく包み込んだ。
「命、心をからっぽにして、誰かのために祈ること。それが、世界を変えるはずさ。」
天使の、そして、サンタの祝福。
あの羽の生えたサンタさんは、本当はパパだったんだ。
パパ、ありがとう。そして、世界中が幸せでありますように。
メリークリスマス!
 
(「サンタと天使が笑う夜」Dreams come true)

かかえきれないほどの愛 

2005年12月25日(日) 15時40分
「命、クリスマスプレゼントは、何が欲しい?サンタさんになんてお願いするの?」
ママにそう聞かれたので、意地悪モードのあたしは、こう答えた。
「サンタさんなんて、本当にいるの?みちるちゃんのおねえちゃんが、いないって言ってたよ。」
「サンタさんはね、信じている人にだけ、来てくれるのよ。」
ウインクしながら微笑むママに、つい意地悪したくなった。
「じゃあね、本当のパパに会わせて。そうしたら、他にはなんにもいらないから。」
ママは困った顔をして、だまりこんでしまった。ごめんね、ママ。命は悪い子です。
「うそ、うそ。あたし、アクセサリーメーカーがいいな。」
ママはほっとした表情で、こう言った。
「サンタさんに頼んでおくわね。」

 その晩、眠りについてしばらくすると、誰かがあたしを呼んでいる。
「命、命。」
「うーん、だあれ?」
眠い目をこすり起き上がると、ベッドのふちに、天使のような羽を生やしたサンタクロースが座っていた。
「命、起こしてごめんね。」
「サンタさん、来てくれたんだ。でも、ちょっと、早過ぎない?」
「はははは。そうだね。ちょっと早かったね。でも、今日はどうしても命と話がしたくてね。命は、ママが結婚することに反対なのかい?」
「ううん。渡辺さんはいい人だと思うし、ママも喜んでいる。でもね、本当のパパはどうなのかなあって。忘れられちゃうようで、寂しがっていないかな?」
「命はやさしい子だね。命のパパは、とても喜んでいるよ。」
「サンタさん、泣いているの?」
「いいや、パパはね、命がパパのいのちのバトンを持って、元気に生き続けてくれることが嬉しいんだ。そして、命は、かかえきれないほどの大きな愛で、いつも包まれていることを忘れないでいてほしい。」
「いのちの、バトン?」
「そうだよ、いのちのバトンさ。やがて、命も大人になり、素敵な人とめぐり合うだろう。そして、かわいい赤ちゃんが生まれる。そうして、いのちのバトンは次の世代に受け継がれていくのさ。さあ、そろそろ行かなくちゃ。ちょっと早いけれど、プレゼントだよ。命、その名のとおり、自分の命を生ききるんだ。いつも、見守っているからね。」
涙もろいサンタさんは、あたしのてのひらにプレゼントを乗せ、そっと右の頬にキスをした。

(「かかえきれないほどの愛」オフコース)

クリスマス・イブ 

2005年12月23日(金) 21時37分
街のショーウインドーが、クリスマスカラーに染まる。
一年で、一番わくわくする季節。
あたしは、相沢命、小学校三年生。いのち、と書いて命。この名前をつけてくれたパパは、
あたしが赤ちゃんのとき、病気で死んでしまった。
時々男子に、TIMのまねをされて「いのち!」なんてからかわれることもあるけど、あたしは
この名前、結構気に入っている。
写真でしか見たことのないパパだけど、この名前に込められた愛情をひしひしと感じるんだ。

「ただいま!」
ランドセルを勢い良く下ろすと、玄関に見慣れない大きな男物の靴。誰だろう。
「命、お帰り。紹介するね。この人、お前のパパになる、渡辺健二さん。」
「こんにちは。よろしくね。」
「・・・よ、よろしくお願いします。」

いつだって、ママはあたしに相談もなしに決めてしまうんだ。
渡辺さんが帰り、自分の部屋に戻ると、急に脱力した。
結婚式は、クリスマス、だって。
あんなママを見るのは初めてだった。うきうきと楽しそうにおしゃべりするママ。お化粧も濃い。
キムタクやヨン様にはまっているママなら、まあ許せる。ママって女なんだなと思うと、なんだかすごくいらいらした。いつまでも、あたしだけのママでいて欲しいのに。クマのぬいぐるみにパンチをおみまいすると、机の上にあるスノーボールが目に入った。手に取って、揺らしてみる。去年のクリスマスに、ママにもらったスノーボール。にこにこ笑うサンタクロースが、トナカイのひくソリに乗り、プレゼントを配っている。小さな世界に、ひらひらと雪が舞う。
あたしも、このスノーボールとおんなじだ。大人が揺らさなければ、雪も降らない。
振り回されるのは、いつも子ども。あたしも早く、大人になって、自分の力で生きてみたい。
窓の外のクリスマス・イルミネーションが、ぼんやりにじんだ。

(「クリスマス・イブ」 山下 達郎)

家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム) 

2005年12月02日(金) 15時30分
私は、高木鞠絵。35歳の平凡な専業主婦。銀行員の夫と、二人の子どもと四人暮らし。今日は、私たちの十回目の結婚記念日。いわゆる、スイート・テンてやつだ。だけど、夫の省吾は、いつもと変わらない様子で、食卓についた。
「いただきまーす。わーい、カレーだ!」
子どもたちは、サラダについているミニトマトの数が違うといってけんかをしはじめた。省吾は、ビールを飲みながら新聞を読んでいる。なんとなく、いらいらする私。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、省吾はカレーにおもむろにしょうゆをかけた。
「私、もう嫌!何もかもが嫌!」
気が付くと、夜の闇を駆け出していた。

たどり着いた公園で、ぼんやりブランコをこぐ。私、何してるんだろ。うるさい兄弟喧嘩はいつものこと。省吾が味も見ずにカレーにしょうゆをかけるのも、いつものこと。私が美容院にいったことにも気づかない、そして、記念日を忘れてしまうのも、いつものこと。なんだか、無性にむなしかった。

「鞠絵!」
「省吾・・・。」
「鞠絵、ごめん。今日、俺たちの結婚記念日だよな。夕飯食べ終わったら、言おうと思っていたんだけど、正月休みにハワイへ行こうと思うんだ。どう思う?」
「嬉しいよ。でも、今、私が欲しいのは、そんなものじゃない。なんだか、自分がとても不幸せに思える。」
「幸せってさ、自分で感じ取るものだと、オレは思う。状況じゃなく、受け止め方次第ってこと。そのことをオレに教えてくれたのは、鞠絵だよ。毎日の生活の中で、鞠絵がオレに話してくれる、ささやかだけど、幸せなこと。そんな積み重ねが、スイート・ホームを作っているんじゃないかな。鞠絵は、よくがんばっているよ。」
子どものように泣きじゃくる私をなでる、大きなあたたかい省吾の手。
この手が欲しかったんだ、私。
涙がかわいた時、省吾が言った。
「さあ、家に帰ろう。」

(「家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)」by竹内まりや)

ターナーの汽罐車 

2005年12月01日(木) 14時57分
「お待たせ」
「美紗子、遅い!」
私は高木鞠絵、35歳。銀行員の夫と二人の子どもを持つ、平凡な専業主婦。
今日は、高校時代からの友人、関川美紗子と、久々に飲んでいる。
美紗子は、都内の四年制大学を卒業してから、大手出版社へ入社。敏腕編集者として活躍している。結婚と離婚を体験している。

「うらやましいな、憧れの職業よね、出版社は。」
「実際は、地味な仕事よ。みかけよりずっと。やりがいはあるけれど。」
美紗子は長い前髪をかきあげる。磨き上げた、ネイルが光る。私はそっと、切りすぎた爪を隠す。
「いいな。私なんか、朝から晩まで、“おかあさん”、でさ。そうでなけりゃ、“高木さんの奥さん”だもの。一人称の高木鞠絵は、どこへ行ったの?って感じ。」
「いいじゃない。かわいい子どもたちと、やさしいだんな様がいて、あったかい家庭があって。私には手に入れられなかったもの、鞠絵は全部持っているんだよ。風邪引いて、寝込んでいるときなんか、“私、こうして一人で、誰にも知られず死んでいくのかなー”って思うよ。」
「私は無性に一人になりたいって思う。主婦の仕事ってさ、誰も点数つけてくれないし、ほめてくれない。食事作って、お掃除して、洗濯して、買い物して、お風呂わかして、片付けして。毎日毎日エンドレス。」
「でもさ、ありがとうっていってくれる人がいるじゃない。仕事はさ、できてあたりまえ。十年選手ともなると、甘えてもいられないし、部下もできるし。」
「私、来年下の子が小学校に上がるから、働きたいんだけど、この年じゃ働き口ないだろうな。」
「どうして働きたいの?時間ができるから?」
「それもあるけど、今のままじゃ退屈で。自由になるお金も欲しいし。」
「退屈、か。私には贅沢な悩みに聞こえるけど。私ね、猫を飼い始めたの。誰かを守って、そして守られる、そんな存在が欲しくてね。仕事だけを生きがいにしたくないっていうのが本音かな。」

生きがいと聞いて、子どもたちや夫の顔が浮かぶ。でも、自分以外の誰かにそれを託すのは、重すぎるような気がする。
私のほしいものは、何だろう。
「やすらぎか、やりがいか。ないものねだりなんだろうね、私たち。」
シャンパンの酔いが、まぶたの上をわたってゆく。
なんだか二人して、迷路に迷い込んでしまったような、そんな夜だ。

(「ターナーの汽罐車」山下達郎)

ピックアップヤプログ掲載希望 

2005年11月29日(火) 6時52分
ピックアップヤプログに掲載希望します。

「pocket music」管理人のきりにゃんです。
このブログは、日本の音楽シーンを彩る楽曲からインスピレーションを
受け、書いた短編小説です。
ふと聞こえてきた音楽に、すべての動きを止めて聞き入ってしまうことは
ありませんか?
ひとつの音楽には、その人なりのいくつものドラマがあります。
いろいろな思いを、音楽と共に楽しめる、そんなブログにしていきたいと
思っています。
よろしくお願いします。

口笛 

2005年11月27日(日) 21時10分
「申し訳ありません。息子が怪我をさせてしまって・・・。ほら、和樹、お前も謝って!」
「・・・・・ごめんなさい。」

私は、高木鞠絵。35才の専業主婦。銀行員の夫と、小学校三年生の男の子、保育園年長の女の子と暮らしている。
息子の和樹が上級生とけんかをして、怪我をおわせたため、家まで謝りにきたところだ。

「おかあさん、びっくりしたよ。グーで殴ったんだって?鼻血ぐらいですんだからまだよかったけど。暴力はいけないよ。」
「・・・ごめんなさい。でも、ぼく、許せなかったんだ。あいつ、光一くんのこと、からかったんだよ。」

光一くんは、和樹のクラスメイトで、障害を持つ子だ。家が近所なので、昔からよく遊んだり、家族ぐるみのおつきあいをしている。

「あいつが、光一くんのまねをして、みんな笑ったんだ。
ぼくは、そんなことで笑うのはおかしいよって言った。
そしたら、あいつが生意気だって言うから、ぼく、夢中で殴りかかったんだ。
年上も、年下もない。人間は、みんな同じだよね!」

日の暮れかかる、秋のあぜ道を二人並んで歩く。
「お前も、いつの間にか、自分以外の誰かを守ろうと思えるようになっていたんだね。」
枯れた稲の香ばしいかおりに、鼻の奥がツンとなる。

「和樹。おかあさん、いつまでもお前の、一番の応援団だからね。」
つないだ手に、ぎゅっと力を込めたら、思いがけなく大きな力で握り返してくる。
もう、三年もたてば、私とは手もつながなくなるだろう。そして、十年たてば、私のかわりにかわいい人が、この手をそっと包むだろう。それでも、いつも、いつのときも、愛しさに満ちた世界がお前を包み込んでいますように。

「おかあさん、ぼく、口笛が吹けるようになったんだ。」
なんて、優しい音楽なんだろう。世の中の、嫌なことを浄化してくれそうな、そんな音。
「きれいな夕焼け!明日もきっと、晴れるよね。」

(「口笛」Mr.children)

オータム・パーク 

2005年11月26日(土) 21時05分
「私ー。来たよ。」
私は高木鞠絵、35歳。平凡な専業主婦。
今日は、実家である北信濃の紙漉き工房を訪れている。
結婚して十年。今更「ただいま。」でもないし、「こんにちは。」ではよそよそしすぎる。
というわけで、「来たよ」の挨拶をする私。

「いらっしゃい。一人か。」
父の、明らかに落胆した声。
「一人じゃ悪い?子どもたちは学校と保育園よ。」
すっかりいい「じじ」になった父は、孫たちとの再会を心待ちにしているようだ。私には、厳しかった父が、孫のために本やおもちゃや服を自分で選んでくれるようになった。そんな父が微笑ましくもあり、意外でもある。
紙を漉く手は休めず、父は続ける。
「おかあさんは、病院へいっておる。お前も、久しぶりに漉いてみるか?」
「遠慮しとく。見ているわ。」
幼い頃から、仕事をする父の姿を見るのが好きだった。和紙の原料をなるコウゾと、つなぎの役目を果たすトロロアオイという植物の根の繊維で白く濁った水の中に、紙を作るすげたを落とし、両手で前後左右に小刻みに揺らす。均一な紙を作り出すには、微妙な手先の感覚と、研ぎ澄まされた精神の集中が要求される。
父の開いた胸元に、きらりと汗が光る。痩せた首まわりに、ふと年をとったな、と寂しく感じてしまう。それでも、凛とした表情や、あざやかな手さばきは相変わらずで、私は無言で父を見つめていた。
「省吾さんとは、うまくいっているか。」
「まあまあ、ね。」
工房を一人娘の私に継がせたかった父は、一番弟子との結婚を望んでいたが、私にまったくその気がないことから、あきらめたらしい。
最近では、私の息子の和樹を後継者にと目論んでいるようだ。
伝統とか、後継ぎとか、そんなしがらみが嫌で、家から逃げるように嫁いだ私だが、最近は、年老いた両親を見るにつけ、そうしたものと向き合う人生のすごさを思うようになった。
父は、ずうっと何かと戦い続けている。伝統となのか、自分自身となのか、一枚の紙となのか。
そんな父を、傍らで見つめていたい。
「お父さん、来年真歩が小学校に入学したら、手伝いに来てもいい?」
「ああ、いいさ。省吾さんとよく相談して、子どもたちのことを最優先にな。」
真っ白で、何もかも包み込む、この紙のやさしさは、まるで父そのものだ。

(「オータム・パーク」松任谷由実)

栞のテーマ 

2005年11月25日(金) 6時24分
「高木さーん、郵便でーす。」
「はーい。」

私は高木鞠絵、35歳。銀行員の夫と、九歳の男の子、六歳の女の子と暮らす専業主婦。判子と引き換えに渡された、クレジットカードの他の郵便物の中に往復はがきがあった。
「同級会のお知らせ、か。」
差出人の名を目で追って、一瞬ドキッとした。
「岡村くん・・・。」
岡村秀樹君は、中学時代、初めてつきあった男の子だった。
岡村君は、バスケット部のキャプテンで、クラスのルーム長。私は副ルーム長。
岡村君は、頭も良く、人柄もやさしくて、とても人気があった。
部活動の後一緒に帰ったり、お休みの日には時々映画を見たりした。
高校へ入学してからは、彼は進学校、私は女子高に入ったため、なんとなく自然消滅。地元の成人式で会ったのが最後だから、もう15年も経つんだ。

彼の好きだったサザンのCDをかけながら、キッチンでハーブティーを飲む。あの頃はまだCDもMDもなくて、レコードからカセットテープに好きな曲を録音しては、ラジカセで聞いていた。彼の好きなサザンオールスターも、最初は早口で何を言っているのかわからず、あまり好きではなかったけれど、「いとしのエリー」で大ファンになった。キャンパスライフに憧れて、早く大人になりたかった。サザンの音楽を聴きながら、いつも岡村君との未来を想像していたっけ。

ふと、鏡の前に立ってみる。私、変わったかな?
子どもを二人産んで、体型はややぽっちゃり。いや、このところかなりぽっちゃり。
白髪はまだほとんどないが、シミ・そばかすが気になる。
目じりの笑い皺は、隠しようもない。
「おかあさん、ただいま」
「あ、お帰りなさい。」
今、私のライフスタイルは、ほとんどおかあさん。一人の「女」であることを、ときどきは
思いださなくちゃ。
とりあえず、ダイエットでもはじめてみますか。
とびきりの笑顔で、彼に会えるように。

(「栞のテーマ」サザン・オールスターズ)

アトムの子 

2005年11月23日(水) 2時30分
ボクは、山口疾風。体育と給食と休み時間が好きな、普通の小学校五年生。
ひとりで、木曽福島町に住むおばあちゃんを訪ねるため、電車に乗っている。
赤や緑のトタン屋根が、いくつも見え、懐かしい山並みが近づいてくる。

「いらっしゃい、疾風。待っていたよ。」
おばあちゃんは、お母さんのおかあさん。
たった一人で、この町に住んでいる。

「一人で来るっていうから、びっくりしたよ。何かあったのかい?」
「別に。」
実は昨日、お母さんとけんかをした。
理由は、おかあさんが勉強しろってうるさいから。
ボクがやろうと思っているのに、「早くして」だの、「集中して」だの。
お決まりの文句は、「将来なりたいものになれなくていいの!」だ。
誰にも話していないけれど、僕はこの間まで、プロ野球の選手になるのが
夢だった。だけど、リトルに入って、自分の力がそれほどでもないことに気づいて
しまった。そうしたら、なんだかすべてやる気になれなくなったんだ。

おばあちゃんは、それ以上は聞かずに、僕の大好物のほうば巻きを出してくれた。
ボクは、二階へ上がり、おもしろそうな漫画でも探そうと押入れをのぞいた。
「あれ、これ、なんだろう。」
そこには、今まで見たことのなかった古いクッキーの缶があった。
「ひみつのたからばこ。絶対にあけるな」と、大きな字で書いてある。
ボクはゆっくりと蓋を開けた。

「アトムの弟。設計者 文香。しょうらいの夢 ロボットをつくって、友達になること」
鉛筆で描かれたロボットは、今にも動き出しそうだった。

ボクは、胸が熱くなった。
そうか、おかあさんは、文香ちゃんだったんだ。
一人の普通の女の子で、いろんな夢があったんだ。

(「アトムの子」山下達郎)
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