叶わない約束を忘れない <前編>
お世辞にもおれは優等生とは言えない。
成績は常に中の下。友達と呼べるような間柄は皆無に等しく、まして恋人なんていた試しがない。作ろうとも思っていないが。
教師からも親しく思われず、むしろ避けられていると思えるほどに誰もよってこない。
それもそうだ。
おれは意図的に距離を、そして壁を置いているのだ。
自分だけがよければ、自分だけが無事なら、自分だけが、自分だけが。
自分で言うのも変な話だが、自分の世界は狭いのだ。
狭過ぎて、浅過ぎて、それでいて、自分からは動かない。
午前の授業は何気なく受けて、休み時間は誰も居ない校舎裏のベンチに座り昼食をとり、午後の授業はなんとなく受ける。
放課後は部活に入っていないので、いつもは真っ直ぐ帰るだけなのだが、この日はいつもと違った。
普段は立ち入り禁止のテープが貼られている屋上へ続く階段。しかし、今日に限ってそのテープは切れていたのだ。自然に切れたとは思えない切り口を見つめながら、おれはひとつ湧き上がる感情があった。
屋上に行けるのではないか、と。
このとき、誰かが居るとか考えず、ただ単に一度も行ったことのない屋上への憧れだけが心を動かしていった。
誰にも見つからないように駆け上がったおれの目の前には一枚の扉しかない。
鍵が掛かっているのかも、そう思ったがすんなりとドアノブは回った。
開け放つ扉の向こうは、なんてことは無いただの屋上だった。
風が少し強い以外はなかなかに快適な場所だった。
11月の初頭。
コートが欲しくなるような北風の中、ゆっくり歩を進めていく。
屋上の周りは取り囲む様に金具の網が設置されている。
その一角だけ網が壊されていた。
数年前・・・
「ぉゃ? 誰だい?」
回想シーンに入ろうかと思ったのだが、意外なところから意外な声が聞こえた。校舎内へ続く扉の上、給水塔のすぐ近くに人影が見えた。長い髪の女子だ。
「誰だ?」
「私が先に聞いたんだけど?」
おそらく初見だろう。ややつり目、透き通る声、リボンの色から学年は一つ上って事しか分からない。
「お」
「別にいいけどね」
名乗ろうとした途端、横槍を入れられた。プッツンと。まさかの聞いといて取りやめ。
給水塔の側は屋上から約3m程度の位置にある。凄く高いわけではないが結構見上げる形になる。だからだろうか。彼女がそこからストンと難なく降りてきた事に驚いたのは。
そして降りてきた彼女は一気におれとの距離を詰めてきて、自然な流れでおれの両肩に両手を置いた。そしてその状態でまじまじとおれの顔を見つめてきた。
「ふぅ〜ん、なかなか・・・」
なかなか・・・・何さ!?
「ねぇ、名前は?」
「・・・名前を聞くときは自分の名前を「いやよ」・・パクパクパクパク」
言葉が続かなくなった。会話をぶった切りやがった。容赦なく、さり気なく、躊躇なく。さてどうしよう。
「まぁ、そうね。ハルとだけ名乗っておきましょうか」
「ハル・・・」
結局名乗るんかい。
(だが、しかし・・・)
偽名か、はたまた本名の一部か。ハルカ、ハルナ、ハルヒ、あとはシンプルにハルか・・・ 何にしても偽名だったら考えようが無い。
「名乗ったわよ。じゃあ、あなたの名前は?」
「名乗ってないだろ」
正直面倒だった。
関わりたくないのが本音なのだが、しかし、どうやら俺はすでに関わってしまったようだ。その証拠に、
「カイだ。それ以上は名乗らないぞ」
一目惚れをしてしまった。
本名を名乗らなかったのは、対等になるためだ。
仇名同士。友人間では当然の立ち居地。もっとも、それ以外は何も知らない。
クラスも、趣味も、家も、そして本名も。
ただただ立ち入り禁止の屋上で偶然出会った二人。
似たもの同士でも、ましてや正反対でも無い。
なぜなら、お互いを何も知らないんだがら。
そんな非日常が始まった。
たった3日間と言う短い秋の物語。
≪あとがき代わりに≫
突発的短編。
全3話的な。
だが、たぶん。
今年で完結しない。
はぁ。。。