+恋歌+ 3.俺と家族 

October 11 [Mon], 2004, 13:35
「今日も父さんの所行くの?」
「えぇ。 仕事終わったらちょっとだけ行ってくるわ」
「ふ〜ん…」
「アンタ今日仕事は?」
「コンビニの方は休み。 編集に行ってくる。伊崎さんから電話あったし」
「そう」

互いに母の作った朝食を食べ進めた。
途中で途切れた会話からぎこちない空気が流れた。

「あのさー…」
「何?」
「親父、如何なの?」
「如何なのって?」
「ほら、だから…あとどれ位なのかなって…」
「……母さんもよく解らないわ」
「そ、そっか」
「…良いから、早く食べなさい。 後片付けできないでしょ」
「あ、あぁー…」

そう言われ俺は急いで箸を進めた。


― 母さんは弱い人間だ…。

自分から親父の話はしようとしなかった。
親父が入院してから半年。
毎日こうやって朝早くから朝食を作ってくれるけど、夜遅くまで仕事をしているのだ。
朝早くから夜遅くまで母は働きっぱなし。
まるで親父の事を考える時間を自ら与えないようにと言い聞かせるように。

親父が入院してからも母は泣く事は無かった。
普段からあまり泣く人では無かったが、自分の愛した人が病気で入院したのだ。
涙の一つでも流していいものではないのか?俺はそう思ってた。

けど、それは母の強がりなだけだったんだ。
親父が居ない。その寂しさを堪える為の強がりだったんだ。
だから涙を見せない母が出来る事は毎日親父の顔を見ることだけだった。

でも、母のこの日課が終わるのも遠くは無い。
俺だけは知っているのだ。
親父の余命が残り1ヶ月だと言う事を…。

「ごちそうさま」
「流しに入れといて」
「うん」

朝食を食べ終え、食器を流しへ持って行く。
これで俺の今日1日は終わりだ。
俺の中ではこれから一眠りして明日だ。

「仕事、気をつけて行ってきてね」
「寝るの?」
「うん、おやすみ」
「はい、おやすみ」

食器を片付け荷物を取りに元居た場所へ戻ると母は食後の緑茶を飲んでいた。
俺はそんな母親を見て少し心が痛んだ。

少しは息子に迷惑かけてよ…と。

ま、コンビニアルバイトの俺に出来る事は限られてるけど。

+恋歌+ 2.俺と母親 

October 10 [Sun], 2004, 22:57
 早朝6時。今日の仕事を終え俺は家へと帰った。
6時とは言えまだ外は暗い。
家へ帰ってみると既に我が家から光が漏れていた。

俺は静かに家の中へと入っていった。
台所から漏れる明かり。その明かりと共に味噌汁の匂いが俺の鼻に着いた。

「ただいま」

そう言って台所へと顔を覗かせれば、

「お帰り」

そう言って此方へ微笑みを向ける母親の顔。
俺はその顔を見ただけで心が和んだ。

「ご飯食べてから寝る?」
「うん、そうするよ」

再び調理に戻る母親。
俺は返事をすると荷物を床に置き手と顔を洗いに洗面所へ向った。

こんな時間に帰ってくる息子を優しく迎えてくれる母。
コノ歳になれば母親が一番に心配するのは仕事と彼女だろう。
けど、俺はその両方を持ってはいなかった。
コンビニでの不安定なアルバイト。
彼女さえ何年も居ない。
なのに母親は俺に何一つ文句を言わなかった。

父親は現在入院中。
だからコノ家を支えるのは俺しかいないのだ。
なのに俺はコンビニでのアルバイト……。
本業は別にある。
けど、その本業で一生暮らしていく保証は俺には無かった。

「航、締め切りの方は大丈夫なの?」
「あぁー…今回は諦めようかなって」
「またそんな事言って」
「仕方ないだろ、書けないんだから」

食卓に並ぶ朝食。
母は毎日欠かさず朝食を作ってくれた。
白いご飯に味噌汁、黄色い卵焼きに季節の野菜のお浸し。
時には焼き魚、時にはハムやソーセージ。
毎日必ず作ってくれた。

俺はそんな優しい母親を何時まで心配させ続けているのだろうか。

+恋歌+ 1.僕と君 

October 09 [Sat], 2004, 22:27
― 深夜2時。 その時間になるといつもやってくる。

 入り口を入ってくると雑誌の並ぶ棚の前を素通りして飲み物の棚まで行くと立ち止まり、
扉を開けると必ず500mlウーロン茶を2本手に取る。
そして、入り口と反対側に置かれた棚まで行くとヨーグルトとシーチキンのおにぎりを手にする。

いつもと同じルート。
いつもと同じ商品。

あの人はいつもと何一つ変わらない。
俺は心の中でまただ…と呟くと此方へ向ってくる彼女から視線を外した。

何時もと変わらない不機嫌な表情で彼女はレジへ向ってくる。
乱暴に商品をレジの横へ置くとカバンから小さなガマ口のピンクの財布を取り出す。
コノ時間になると必ずやってくる不思議な人。
いつも女性物のスーツを着こなし、甘い香水をつけ、何を買うかと思えばウーロン茶にヨーグルト。そしてシーチキンのオニギリ。
…偏った食生活だな。
と、俺はそんな事ばかり何時も考えてる。
すると彼女は"早くしてよ"と言わんばかりの目で睨み付けて来た。

俺は慌てて会計を始めた。
客の少ない深夜のコンビニにバーコードを通すピッピッと言う音だけが響き渡った。

「147円が2点、105円が1点、120円が1点…519円になります」

そう言って俺は買い物袋へと商品を入れた。
小さな財布から1千円札を取り出しカウンターの上に叩き置いた。
商品を入れ終えた袋を渡し、おつりとレシートを返すと、おつりを財布に戻す事無くとっとと店から出て行った。

俺はそんな彼女の後姿を目だけで見送った。

…心が"コトン"と小さく動いた。


P R
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